概要
かつては将軍家光月家に仕え、霜月家と肩を並べるほどの大きな力を持つ大名であった。だが、零落した今となってはその面影を探すことさえ難しい。このような姿になってしまったのは、当時の光月家において跡継ぎが中々産まれなかったことが始まりであった。
各地の大名たちは次々と後継者とならんとしていたが、オロチの祖父は孫のオロチを将軍とすべく対抗馬となる大名達を事故や病気に見せかけて密かに暗殺していった。光月家に後継ぎが生まれなかったのもオロチの祖父の謀略の一つである。
こうして目論見が成就するかと思われた矢先、光月家に待望の世継ぎ、光月スキヤキ(モモの助の祖父)が産まれたことで陰謀は頓挫。
更に暗殺の謀略が明るみに出たことでオロチの祖父は切腹に処され、黒炭家は城や領土など全てを失いお家取り潰しとなる。その結果として、一族関係者は軒並み露頭に迷う羽目になってしまう。
しかしこれは終わりではなく、本当の地獄はここからであった。
生き残りたちは「大罪を犯した黒炭家の人間」と言うだけの理由で民衆たち(オロチ曰く「見ず知らずの正義の味方」)の迫害を受けることとなり、たとえ無実の人間であろうともある者は殴られ、ある者は川へ投げ落とされ、またある者に至っては舞台上で凶刃に伏し、1人また1人と命を奪われていった。
実はこれらの迫害は将軍家や他の大名が意図したものではなく、水面下で行われた一種の集団ヒステリーやヘイトクライムにも近い、ある種の私刑行為と呼べるものであった。
もっとも、度が過ぎていたには違いないにせよ、迫害した民衆からすれば黒炭家の生き残りは「再びワノ国を乗っ取るかもしれない恐怖の象徴」であり、ましてそれが下野したとあっては怒りや憎しみを爆発させるものが出たとしても不思議ではないと言える(実際、似た経緯で苛烈な迫害を受けた存在は以前にも登場している)。
しかし、将軍家や大名達はこうした民衆の行いを全く把握していなかった。あるいは当時の大名たちは隠蔽に動き、子や孫に事の詳細を伝えなかったようでもある。
いずれにせよ把握していなかった理由は不明だが、黒炭家の者達には「自分達の当主が私欲のために他の大名を謀殺した」という負い目があり、お上に訴えようにもできなかったのかもしれない(あるいは訴えたが「『黒炭の者』の言うこと」といった理由から、奉行所あたりでその訴えは捻り潰された可能性も有り得る)。
事実オロチですら謀略を罪として認識していた当時は「お家は転落、そこまではいい」と認めていた。
一方で将軍家や大名家でも黒炭家生き残りへの迫害をよく思わなかった良識者もおり、光月おでんは黒炭家迫害に関しては思い悩む表情を見せ、霜月康イエは黒炭家であることを隠して自身の小間使いとなった経緯のあるオロチに対して「何故隠した」と言うほど、迫害から保護しようと考えていたくらいだった。
本編においては迫害から生き残った一族の残党勢力が暗躍、遠大な策略を駆使してワノ国を簒奪し、百獣海賊団と結託することで国内を地獄絵図に変え暴虐の限りを尽くしていく。
いずれの者たちも直接的な戦闘力よりも、搦め手を使って相手を苦しめる手段に長けており、迫害を受けてきた影響からか人格が歪み破綻してしまったものが多い。
そして長年の暴虐の末に、金色神楽での麦わらの一味&対黒炭オロチ反乱軍vs百獣海賊団の一大決戦の末に百獣海賊団トップのカイドウがモンキー・D・ルフィに敗れ死亡。
生き残っていたオロチとカン十郎の2人は黒炭の名にふさわしく、業火に焼かれてその血脈を絶った。トップに君臨していたオロチの死に伴い『勢力』としての黒炭一族は完全に滅亡した。
燃えてなんぼの 黒炭に候
該当人物
- 黒炭オロチ (故人)
黒炭家の当主にして、ワノ国元将軍。
作中では能力によって二度も甦ったが、最期は傳ジローによって首を切り落とされて絶命する。
- 黒炭ひぐらし (故人)
黒炭家と関係が深いと思われる老婆。肩書はババア。
超人系 マネマネの実の能力者(先代)。
ワノ国編における諸悪の権化の一人だったが、20年前に光月おでんとカイドウの一騎打ちに横槍を入れたことがカイドウの逆鱗に触れ、殺害される。
- 黒炭せみ丸 (故人)
黒炭家の家臣を務める老人。肩書は琵琶法師。
超人系 バリバリの実の能力者(先代)。
黒炭ひぐらしと並ぶワノ国編における諸悪の権化の一人。経緯こそ不明だが、故人であることはほぼ確定している。
- 黒炭カン十郎 (故人)
黒炭家(分家)の末裔。黒炭家により光月おでん側に派遣されたスパイ。
超人系 フデフデの実の能力者。
ワノ国編第三幕で錦えもんと対峙し、致命傷を負う。終盤ではオロチの命令で鬼ヶ島自体を吹き飛ばすことを画策するも力を使い果たしたことで肉体的には死亡したうえに作戦自体も失敗、その後に魂も消滅(?)したことで完全に死亡した。
黒炭家(分家)の末裔。ただし、分家と言ってもオロチやカン十郎とは別の家系だと思われる。
詳細はリンク先参照。
余談
- 上述した「燃えてなんぼの 黒炭に候」の件が「血統による差別を肯定している」「差別村八分族滅肯定エンド」「アイツの暴言を肯定している」と解釈されて日本国内の読者はもちろん海外の読者勢により(文字通りの意味で)炎上しているという(特に『黒=BLACKというので引っ掛かったのでは』とも言われている。日本以上にデリケート故に、仕方がないと言える)。
- 作中において、確かに黒炭家はワノ国を蹂躙し悪逆の限りを尽くしたが、元は前述のとおり罪もなかった黒炭一族への迫害が遠因でもあり、それらはその迫害に対し何の手も打たず一族を事実上見殺しにしたワノ国そのものが元凶と言えるものでもあったため、無理もないことではある。自分ではとても解決しようのない理不尽をもたらした世の中へ壊れた心を以て牙を剥く形でしか抗えなかった一部の者たちに対し、悪とはいえ同情的な見方をする読者も少なくない。
- 他方、生き延びた黒炭家の主な者たちの行動目的はいずれも「復讐心や権力欲」「与えられた役柄の『演技』」といった自分のためのものであり、「黒炭家一族を再興し死した者たちを供養する」「悲劇を繰り返さぬよう知恵を絞る」といった利他的な描写がまるで見られないことから、哀しいことだが本質的には私欲の果てに一族を没落させ全ての元凶となったオロチの祖父と何も変わらないようにも見える。黒炭家の名を名乗りながら自分のためにしか生きられず因果応報の形で最期を迎えてしまった彼らへのこの言葉は、光月家としては奔放すぎる行動をとり続けながら他者のために尽くしその命を散らしていったおでんに贈られた言葉「煮えてなんぼのおでんに候」との、やるせないまでに痛烈な対比と捉えて良いかもしれない。
- もしオロチの祖父の謀略、そしてそれに伴うワノ国の民からの迫害が無かった場合、オロチらは光月家を支える真っ当な大名としてワノ国に存在できたのか、それともやはりいずれは私利私欲に溺れ道を踏み外していたのか…。また、オロチの祖父の謀略が明るみに出た際、光月家や他の大名たちが一族への民衆の迫害を防げていたなら、オロチらはたとえ下野しようともワノ国で平和に暮らせたか、それとも内憂外患の存在となってしまったか…。その答えは誰にもわからない。
- ある人物の両親の小さな墓に「炭」の文字が確認でき、このことからその人物(とその両親)が実は黒炭家の生き残りではないのか?と考察がなされており、その人物も自身を武士と名乗っている。
- 仮にそれに該当した場合、一族の中にはオロチが国を乗っ取ってなお黒炭の名を捨てて静かに生きることを選んだ者、さらにはオロチが国を乗っ取ったばかりに民衆から怒りの矛先を向けられ、とばっちりも同然の形で殺害されてしまった者などもいた可能性が出てくる。
- それを踏まえたとして、もしその人物が黒炭家の生き残りだと周囲に発覚した場合、燃えてなんぼとばかりにワノ国の住人一同から一転して迫害を受けるのではないのか、他の生き残りがいるとしてどうなるのか、光月家内部でも彼らの扱いに対する温度差があるのではないか、あるいはルフィ達が旅立った後のワノ国で黒炭家の生き残りや傘下の者が虐遇されているのではないか、など不安視・考察する読者も多い。あとはその人物の親代わりとなった者や将軍の尽力しだいとなろうか。
- そしてのちに、これらの考察はまさかの的中する事態となってしまった…!
- SBSでの原作者の発言を纏めると、「現国民の黒炭家への恨みは、オロチが死んだ時点でもう終わったも同然であり、『燃えてなんぼの黒炭で候』というのは発言時点で完了形である」ということになっているので、これ以上の残党狩りが行われる可能性は今の所低いと見てよかろう。「今の所」。
- そもそも他の大名家(将軍家である光月家は勿論、霜月家や雨月家、風月家)と異なり月の字が苗字についていない異質な点にも何かあるのだろうか、という点でも考察をする読者が多い。なお、仮に月と関わる場合、黒=光が無い=新月を暗に意味するのでは、という考察もある。
関連項目
- 黒炭と同じく、先祖の罪により、見ず知らずの人々から迫害を受けてきた一族。細かく挙げると黒炭との違いもあるが、共通する重要なことは、実害を受けていない全く無関係の赤の他人からの激しい迫害があった、ということである。
- 違いとしては、例えばモンブラン一族は国を追われはしたが、一族殺しなどが行われた事はない様子。
- 迫害の原因となった先祖モンブラン・ノーランドの罪はでっち上げ・槍玉に挙げられたと言ってもよく、ノーランド本人に全く罪は無く、己の陰謀によって失墜した黒炭とは真逆である。ノーランド自身も数々の偉業を成し遂げた誇り高く誠実な冒険家であり、モンブラン一族もその偉業が事実であることを継承し続け、一族の名誉を挽回すべく危険な"偉大なる航路"へ航海に出た者もいる程。
- モンブラン一族の"呪い"は未だに世界には残っているが、その子孫たるクリケットと麦わらの一味の手によって、先祖の罪が事実無根であったことが証明され、一族の中では因縁に終止符が打たれた。先祖の因縁に決着を付けたクリケットは「先祖を憎み、呪縛から逃れるために海賊になった」という経緯があり、先祖からの呪いを復讐という形で返そうとしたオロチとも大きく異なる。
- 一方で、モンブラン一族は400年前のノーランドから長きにわたり迫害を受け続けており、その迫害は「うそつきノーランド」という形で絵本となり、北の海中に広まっているため、およそ100年・ワノ国のみの話である黒炭よりも規模が大きく年月が長い。