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スターズオンアースの編集履歴

2023-12-01 11:08:27 バージョン

スターズオンアース

すたーずおんあーす

2019年生まれの日本の現役競走馬。主な勝ち鞍は2022年の牝馬二冠(桜花賞・優駿牝馬(オークス))。2022年度JRA賞最優秀3歳牝馬。

(イントロ)

  地上にある星を

  誰も覚えていない

  人は空ばかり見てる


  つばめよ 高い空から

  教えてよ 地上の星


プロフィール ~地上に咲いた『燕麦の唄』~

名前スターズオンアース
欧字表記Stars on Earth
性別
毛色黒鹿毛
誕生日2019年2月27日
ドゥラメンテ
サザンスターズ
母父スマートストライク
産地北海道千歳市
生産社台ファーム
馬主社台レースホース
管理・調教高柳瑞樹厩舎(美浦)

  空よ 風よ 聞かせてよ

  私は『だれ』に似てるだろう


馬名は「地球上の星」から。

ドイツの名門牝系(通称「ドイツSライン」)の血を継いでおり、ドイツ産の競走馬は「馬名の最初の文字」を母馬を通じて代々子孫に受け継がせるルールとなっているためか、この馬のイニシャルもSになっている。


父ドゥラメンテは2015年に皐月賞日本ダービーを制したクラシック2冠馬で、父キングカメハメハ、母アドマイヤグルーヴ、祖母エアグルーヴ、曽祖母ダイナカールという社台グループが誇る超良血馬である。ドゥラメンテは2021年に9歳という若さで世を去ってしまったものの、種牡馬としても初年度から菊花賞馬タイトルホルダーを輩出するなど活躍し始めていた。本馬は2年目の産駒である。

母サザンスターズはフランスの名牝スタセリタがイギリスで生産した初年度産駒。スタセリタがフランケルとの仔を受胎したまま日本へ渡って産んだのがスターズオンアースにとっては叔母にあたるソウルスターリングである。彼女が阪神JF優駿牝馬を勝利したことにより、半姉サザンスターズも社台ファームによって輸入され、その2番仔としてスターズオンアースが生まれた。

父から子へ、母から娘へ、人々の様々な思いと様々な期待を乗せて運ばれてきた種はやがて夜空の星々を目指して真っ直ぐに穂を伸ばし、やがて花咲く日を夢見た…


  私たちは出会い 私たちは惑い

  いつか信じる日を経て 一本のになる


クラシックまで ~今日は倒れた旅人の『時代』~

  そんな時代もあったねと いつか話せる日が来るわ


2021年8月1日の新馬戦で石橋脩を鞍上にデビュー。やはりこのころはまだレース自体に慣れておらず、道中でフラフラとコース取りに手間取りながらも抜群のスタミナを見せて最後の直線で後の実力の片鱗を見せた。ここを2着とすると、続く未勝利戦で初勝利を飾る。

その後は赤松賞(1勝クラス)、フェアリーS(G3)、クイーンC(G3)を3着、2着、2着と勝ち切れなかったものの順調に賞金を積み、牝馬クラシック一冠目となる桜花賞に出走した。

出遅れ癖、道中の伸びしろ、多くの課題を残しながらも多くの期待を背負った一番人気を裏切らぬよう、馬券内は維持し続けて来た。下積み時期のこのことから善戦ウーマンの印象で語られることもあるが、よくよく見返せば少しずつ改善しながらの競馬をしており、巡り巡って時代は進むのである。


  だから今日はくよくよしないで 今日の風に吹かれましょう


桜花賞 ~巡り逢わせた運命の『糸』~

  なぜ 巡り逢うのかを 私たちは何も知らない

  いつ 巡り逢うのかを 私たちはいつも知らない


2022年4月10日、阪神競馬場で行われた桜花賞。鞍上を横山武史から川田将雅へと乗り換えての出走だった。7番人気とさほど期待されてはいなかったが、直線で馬群の間を割って伸びると、2番手追走から抜け出したウォーターナビレラをゴール寸前で捉えハナ差で優勝した。

ドゥラメンテ産駒としては2頭目のGI勝利、初の産駒牝馬によるGI勝利で、管理する高柳調教師にとっても初のGI制覇となった。なお鞍上の川田も翌年同父産駒のリバティアイランド牝馬三冠を取っていることからも、ルメールに乗り換えないまま乗り続けていたらスターズオンアースが三冠を取っていたのではないかという声もあがる。運命とはわずかなボタンの掛け違い、糸の掛かり違いで全てが変わるのかもしれない。


  縦の糸はあなた 横の糸はわたし

  逢うべきに 出逢えることを

  人は 仕合わせ(幸せ)と呼びます


オークス ~命の砂漠につばめは飛んだ~

  綿埃みたいな翼でも 木の芽みたいな頼りない爪でも

  明日 僕はの足元へ

  崖を登り呼ぶよ 「さあ行こうぜ」


5月22日のオークスでは、桜花賞で騎乗した川田将雅騎手が忘れな草賞勝ち馬のアートハウスへの騎乗を選択したため、クリストフ・ルメール騎手が騎乗することとなった。クラシックの勝ち馬が負傷や騎乗停止などの理由なく騎手変更というのは珍しいケースである。

(これは、川田騎手がかつて自身のお手馬だったアートハウスの母・パールコードに重賞を勝たせられなかったこと、またアートハウスを管理している厩舎が彼の幼なじみでもある中内田厩舎であることからそのリベンジを企図したものだった)

しかし乗り替わったルメール騎手、言わずと知れたトップジョッキーなのは間違いないのだが、何故かこの年は未だJRA重賞未勝利(海外重賞ではサウジカップデーで重賞4勝)。この乗り替わりが心配されたか、あるいは大外8枠18番という枠順を引いてしまったせいか(過去40年間で8枠18番でオークスを勝ったのは、2010年オークスをアパパネと同着優勝したサンテミリオン一頭のみ)、桜花賞勝ち馬でありながら3番人気に甘んじることとなる。1番人気は2歳女王のサークルオブライフ、2番人気にアートハウスと続いていた。


迎えたオークス当日、出走直前に同じドゥラメンテ産駒のサウンドビバーチェが放馬(のち競走除外)、10分以上発走が遅れ、各馬は観衆の戻ったメインスタンド前で輪乗りの状態で待つという、体力・メンタル的にも難しいレースになった。

スターズオンアースは道中は馬群の中ほどでレースを進め、東京競馬場の長い直線で外から進出すると上がり最速の脚で駆け上がった。亡き父ドゥラメンテを経てダイナカールやエアグルーヴたちから脈々と受け継ぐ根性強さを、父たちが見せた東京直線で発揮し美事差し切り勝ちをおさめた。


  銀の龍の背に乗って 届けに行こう 命の砂漠へ

  銀の龍の背に乗って 運んで行こう 雨雲の渦を

「残り200を通過して、スターズオンアース先頭!スターズオンアース先頭!内、2番のスタニングローズ!スタニングローズ!外から18番、スターズオンアース!スターズオンアース、二冠達成!吠えたクリストフ・ルメール、スターズオンアース!」(フジテレビ・立本信吾アナウンサー)


下馬評を覆して見事牝馬二冠を達成し、これが今年JRA重賞初制覇となった鞍上のルメール騎手はガッツポーズを決めて歓喜の咆哮を挙げた。(なお桜花賞を勝利に導いた立役者である川田が、自身の熱意を込めてアートハウスに乗ったオークスは、最後の直線で伸びず7着と惨敗した)


父ドゥラメンテとの父娘二冠であり、桜花賞勝ちから乗り替わりでオークスを制したのは2012年のジェンティルドンナ以来10年ぶり。それ以前を振り返っても1952年のスウヰイスーしかいないという極めて珍しいものだった。ちなみにジェンティルドンナのオークスの時も3番人気であり、その時騎乗していたのはまだ若手の川田騎手であった。


こうして二冠を達成したスターズオンアースだったが、二冠達成後に骨折した父ドゥメランテの血は争えなかったのか、5月28日、右前肢第1指骨の剥離骨折が判明したと報じられた。宮城県の山元トレセンで放牧中に球節のむくみが見つかり、レントゲン検査の結果判明したとのことで、オークスのレース中に骨折した可能性が高いと見られている。

これを受け、6月1日にも栗東トレセンに帰厩して再検査を実施。結果右前肢第1指骨に加えて左前肢第1指骨の剥離骨折も判明し、両前脚の骨片摘出手術を受けることとなった。

この後のスターズオンアースは距離適性と脚部不安、ライバルや屋根の乗り替わりに振り回されることとなる。


  柔らかな皮膚しかないわけは 人が人の痛みを聴くためだ

  急げ悲しみ 翼に変われ 急げ傷跡 羅針盤になれ

  まだ飛べないヒナたちみたいにに 僕はこの非力を嘆いている


秋華賞 ~『荒野より』届く君の声~

  朝日の昇らぬ日は来ても 君の声を疑う日はないだろう

  誓いは嵐にちぎれても 君の声を忘れる日はないだろう


幸い術後の経過は順調で、10月16日に行われた牝馬三冠最後の一冠・秋華賞に直行。父ドゥラメンテは秋を全休になって三冠達成ができなかったが、その娘スターズオンアースには怪我を乗り越え牝馬三冠を達成することが期待された。


当日は単勝3.0倍の1番人気。鞍上はオークスに続きルメールが務めた。

ところが、5枠9番からスタートしたスターズオンアースはスタートのタイミングが合わず出遅れ、後方からのレースを余儀なくされてしまった。最終直線を向いても最後尾付近の苦しい展開となった。

だが二冠牝馬の意地、内から馬群の間を割って次々と抜き去り先頭に迫る。しかし、先に抜け出したスタニングローズナミュールの2頭に届かず3着まで。

直線では前の馬群に突っ込みかき分けるかのように猛進する勝負根性と、他馬をかわしながらでも上がり最速33秒5の末脚を見せて能力の確かさを示したものの、惜しくも三冠達成はならなかった。


三冠を逃したといえ見事な追い込みを披露して二冠馬としての実力を見せつけたスターズオンアースだったが、秋華賞後の放牧中に左前脚がむくむ異常が発生。検査を行ったところ、繋靭帯炎を発症していることが発覚し、年内は休養に充てる事となった。

それでも牝馬二冠という実績が評価され、2023年1月10日に発表された2022年度JRA賞において最優秀3歳牝馬に選出された。


父ドゥラメンテは、古馬一年目の宝塚を最後に競走馬生涯を終えた。そして短い種牡馬生活の中で歴史に名を刻む有力馬たちを残してこの時代を去って行った。現役時代、永久欠番とならず無事にキタサンブラックらと覇を競い合っていたら、もしもあの時の怪我が軽傷で済んでいたら、回復して現役復帰できていたら。だれもが『もしも』を胸に描きその別れを悲しみ、そしてその『もしもの向こう側』を産駒たちに夢見た。

この前年、タイトルホルダー菊花賞を制して、皐月とダービーに続く『もしもの向こう側』の扉は開かれた。ここから先は、父がたどり着けなかった『それぞれの物語』となる。


  荒野より君に告ぐ 僕のために立ち停まるな

  荒野より君を呼ぶ 後悔など何もない


大阪杯 ~惜敗に呟く『わかれうた』~

  道に倒れて誰かの名を 呼び続けたことがありますか

  ひと事に言うほど たそがれは 優しい人好しじゃありません


未勝利戦以来の牡馬との対決だったが一番人気に押される。

出遅れもなくスタートは出来たが他馬に揉まれる形でまたもや後方からの競馬となるも、直線で加速をはじめてしっかりと2着までこぎつけた。末脚自体は悪くないのだが、どうやら加速度最高点に至った瞬間にゴール版を迎えてしまうクセがあるのか、今一歩のところで勝ちきれない。

鞍上のルメールは「もともと2400mの馬」「長い直線があれば勝てる」とコメントした。東京直線コースで魅せたトニービンの系譜として納得の分析である。


最も、この後の彼女は実力を示しながらもコースや鞍上、出走するライバルたちなど様々な要因で勝ちきれない勝負を重ねていくこととなり、二冠ながら地味な戦績という身もふたもない評価が流布するようになった(古馬戦線で牡馬と走れて掲示板にいる時点で地味ではないのだが)。

特にルメールと川田は以前より多方面から有望視されており、出ようものなら出走馬たちによる争奪戦が繰り広げられる有様で、G1タイトルに出ればまず乗り替わりを危惧するような事態になってしまっていた。


  わかれはいつもついてくる 仕合わせの後をついてくる

  それが私のクセなのか いつも目覚めればひとり…


ヴィクトリアマイル ~見届ける『最後の女神』は~

  一番最後に見た夢だけを 人は覚えているのだろう

  幼い日に見た夢を 思い出してみないか


2023年は、アイドルの年でもあった。

そして競馬界のアイドルと言えば、魅惑の白毛馬、マイルの女王ソダシであった。

前年度牝馬クラシックをアカイトリノムスメユーバーレーベンと分かち合いその後のマイル路線を引っ張ってきた誰もが目を奪われてく完璧で究極のマイラーと目されていたが、前者二頭の引退が決定するなか現役を続投し続けても次第に勝ち星にも恵まれなくなり、誰の目にもソダシ衰えが見え始めていた。


折しもゴールドシップの現役時代も須貝厩舎を支えてくれていた厩務員今浪隆利さんの現役引退が決定し、競馬関係者として関わる最後のG1レースがこのソダシのヴィクトリアマイルとなった。多くのファンはソダシが今浪さんの引退に錦を渡す晴れ姿を夢見て応援馬券を買ったが、それにも負けずスターズオンアースは安定の人気を抱えてソングラインナミュールも抑えて一番人気となる。前走でマイルは不向きという分析をしたルメールではあった物の、得意と目される東京直線で内枠から実力を測るためにも前向きな姿勢で挑んだ。


しかし、空と地上との間に今日も降りしきる小雨の東京競馬場、ゴール板の前に現れた最後の女神は、ソダシでもスターズオンアースでもなく真の歌姫ソングラインであり、両者はそれぞれ二着と三着に敗れた。特にソダシとソングラインの争いは首の上げ下げだった。

…一番最後に見た夢だけを人は覚えているのだろう、その夢の舞台のセンターで輝く、金輪際現れない一番星の生まれ変わりとは、一体誰の事だったのだろうか。


この後ソングラインは安田記念を連破、毎日王冠を経てBCマイルへと挑戦、結果は振るわなかったものの輝かしい戦績を土産に引退から繁殖へと次のステップを進める。対して同じく安田記念にも出走したソダシだが着外とあって繁殖行きが決まり、このヴィクトリアマイルが結果的に競争生涯最後の掲示板となる。ルメールをしてこの両者は生粋のマイラーだとされ、中長距離に適性を見出したスターズオンアースでは届かない旨を述べた。

そして両者はいまだ輝き続ける地上の星たちにわかれうたを告げてターフを去って行った。


  ああ あれは最後の女神 天使たちが歌い止めても

  ああ あれは最後の女神 まぎれもなく君を待ってる


秋天回避からのJC ~にじんだ文字 東京行き~

  ああ小魚たちの群れ きらきらと 海のなか国境越えてゆく

  諦めという名の鎖を 身をよじってほどいてゆく


エイシンフラッシュの勝利とミルコ・デムーロの最敬礼から年月を経て、12年ぶりの天観競馬となる天皇賞秋。父ドゥラメンテと同じデムーロを鞍上にスターズオンアースも参戦する予定だったが、蹄の不安から回避。結果は天才イクイノックスがトーセンジョーダンのレコードタイムを塗り替え、全ての歴史を過去のものにした。


大歓声の東京競馬場…そこに地上の星は、なかった。


そして陣営が次走に定めたジャパンカップは、それ以上に強力なメンツが揃っていた。


このうち、タイトルホルダーとリバティアイランドは同じドゥラメンテ産駒でもあり、なおのこと同コース同条件下でスターズオンアースがどれだけの勝負ができるのか、かかるプレッシャーは増すばかりであった。

こともあろうに最有力候補のイクイノックスとリバティアイランドが最内枠となったのに対して、スターズオンアースは大外枠の17番。出遅れ癖は治りつつあるとはいえ、18頭立ての大外枠は完全に不利と見られた。鞍上はコロナ禍を経て久しぶりに短期免許で来日したウィリアム・ビュイックのテン乗りで、ゴドルフィンジョッキーでもある彼自身の戦績は輝かしいがそれが日本の芝でどれだけ活かせるかは未知数でもあった。

結果的に休み明け初戦も重なり、様々な要因から不安視する声も多くスターズオンアースの馬券も五番人気に落ち着いた。果たしてこれが妥当だったのか、それとも過大だったのかかは結局のところ答えが出ない。

そのレースは、余りの豪華すぎるメンバー故に怪獣大決戦とまで評された

世界を相手取る強豪たちを前に、地上の星は小さく、か弱くさえ見えた

だが勝つか負けるか それはわからない

  それでもとにかく闘いの 出場通知を抱きしめて

  彼女(アイツ)は海に漕ぎ出して行った


今日の府中は曇り空、輝く星は私だけでいい

17番スターズオンアース!! (ラジオNIKKEI山本直アナ)


  ファイト! 闘う君の歌を 闘わない奴らが笑うだろう

  ファイト! 冷たい水の中を ふるえながら登ってゆけ


第43回ジャパンカップ ~沿海に『宙船』描く地上の星~

  その船はいまどこに フラフラと浮かんでいるのか

  その船はいまどこで ボロボロで進んでいるのか


出走してコーナーを曲がる手前からおおかたの大勢は定まった。スタートの時点ではタイトルホルダーが先手を切ったが、同年の天皇賞春で垣間見た半姉にも繋がる大馬鹿野郎どもの末裔に泣かされたあの苦い悪夢の再来か、自分の型である大逃げを令和のツインターボことパンサラッサに先越された。春天の傷がうずくのか、ここであえてタイトルホルダーは抑えパンサラッサを見送った。

既に後ろにはイクイノックスが控えていたからだ。


スターズオンアースは、リバティアイランドと倶にそれを見る形で競馬を進める。後ろにはドウデュースとディープボンドが控え、さらに後続は長く伸びている。

ある者には希望、ある者には興奮、そしてある者には絶望が待ち受けていた。


パンサラッサもタイトルホルダーもイクイノックスを警戒していた。ある者は逃げある者は抑え、仕上がったこのペースの基準はこれら時代のリードホースたちの駆け引きから生まれている。世界最高峰のレースに参加した彼らのペースは言ってみればこの時代の日本競馬最高レベル。下手に踏み込んでしまえば自分のペースを壊して潰れてしまうことは目に見えていた。無敵の三歳三冠牝馬のリバティアイランドですら道中その領海には足を踏み出せず、結局は最後の直線までこの大勢は変わらなかった。

第四コーナーを抜けて、タイトルホルダー、パンサラッサが次々イクイノックスに抜かされていく。三番人気のドウデュースも迫ってくる。この時点で上位馬には自身を含む五番人気までの実力者たちは残っていた。

大外枠から出走したスターズオンアースには分が悪い。誰もがそれを予想していた。

春秋分岐点≪Equinox≫が天を分かち海を割り、本初之海≪Panthalassa≫を抜かしてゆく。

自由島≪Liberty Island≫がそれを追い、地図を描き海図を引き、世界の起点を定めてゆく。

まだ見ぬ陸を信じて飛ぶ鳥たちが、指針として見てきた水面の星々を、線で切り分けて行く。

誰もが夢見た景色、誰もが諦めた景色がそこに広がった。


競馬に絶対はないと誰もが掲げたシュプレヒコールの波、通り過ぎてゆく。はじめからどうせこんなことじゃないかと思っていた。せめて永遠の嘘をついて、いつまでも種明かしをしないでくれ。地上の星に夢を託した誰もが明かりを消して黙り込みかけていたそのときを、有謬の者共、彼女とビュイックは決して見逃さなかった…


  流されまいと 逆らいながら 船は挑み 船は傷み…

  すべての水夫が 恐れをなして逃げ去っても

  その船を漕いでゆけ お前の手で漕いでゆけ

  お前が消えて喜ぶ者に お前の櫂(オール)を任せるな


一着 イクイノックス

二着 リバティアイランド

たかが三着、されど三着。

絶対視された最強牡馬と最強牝馬相手に、運命の悪趣味としか言いようのない大外枠も不確実視されたテン乗りもすべて己の意地と根性で跳ね返して、地平の果て水平の果て、宙船の離陸地点に地上の星は輝いた。たとえ王者には届かずとも、女王気取りにひとり上手を決めると見込まれたリバティには斤量を背負いながら少なくとも一馬身差まで食らいついた。


このレースを最後に、イクイノックスパンサラッサ引退を表明した。同父産駒のリバティアイランドは来年も走るが、距離の適正から再戦を見送ることになるかもしれない。有馬出走を掲げたタイトルホルダーは他方で引退がささやかれている。

結局このレースでもスターズオンアースは主役として大勢から注目されることはなかった。

だが、歌が世につれ世が歌につれるように、彼女もまた命の別名として受けた地上の星として、草原の天馬や街角の女神、崖の上の巨星や水底の一等星、数えきれぬ星々を見送りつづけるのかもしれない…


  語り継ぐ ひともなく 吹きすさぶ 風の中へ

  まぎれ散らばる 星の名は 忘れられても

  ヘッドライト/テールライト

  旅は まだ 終わらない



余談

  • 桜花賞開催日の2022年4月10日は、プロ野球・千葉ロッテマリーンズ佐々木朗希完全試合を達成したが、この試合を実況していたのは、父のドゥラメンテの皐月賞勝利を実況していた吉田伸男アナウンサーだった。
  • スターズオンアースの祖母・スタセリタはディアヌ賞(仏オークス)などG1を6勝した名牝だが、そのディアヌ賞で騎乗していたのはルメール騎手。また叔母・ソウルスターリングがオークスを勝利した時に騎乗していたのもルメール騎手である。どうも彼とこの一族のオークスには何かと縁があるらしい。
  • この記事の冒頭から最後に至るまで、ありとあらゆるところに中島みゆきの歌詞が仕込まれているが、それもそのはず名前の由来は地上の星。…一応権利関係に触れるせいなのか表向きは「S系の命名ルールに則り母系から連想した地球上の星」と誤魔化しているような建前をしているが、競馬新聞や実況をはじめちらほらと中島みゆきネタを仕込んでくる。
  • なお、一部で楽曲『地上の星』の英訳はEarthly Starsと紹介されたりもする…また中島みゆきの楽曲は多くのアーティストによってカバーされているが、聖飢魔Ⅱデーモン小暮閣下のカバーではしっかりと「Stars on Earth」と仰られている。

流石です閣下


関連イラスト

オークス2022


関連タグ

競走馬 22世代

ドゥラメンテ …父

リバティアイランド …同父で一つ下の三冠牝馬

川田将雅 クリストフ・ルメール …代表的な鞍上

地上の星 中島みゆき …(ある意味)母

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