「名もなきなきなき泣きくれて さいの目ごとくさいなまれ 人を恨んで恨み抜く
名もなき者に名前なし 名無し名無しと人の言う
食らう夢 食らうクロウクロー 真黒きカラスの爪の先 お前を食らうがわが快楽」
概要
第6期『ゲゲゲの鬼太郎』に登場する謎の怪人。不気味な黒いオーラを漂わせ、全身黒ずくめの衣装を纏った死神の様な出で立ち。不気味な面を被っているために素顔は窺えず、掛詞を多用する独特の台詞も相まって得体のしれない不気味な雰囲気を醸し出している。
第25話では冒頭のシーンで仮面を一時的に外しているシーンがあるが、その顔はどこか人間離れした印象を与えた。
OPの描写から、背丈が人間と比べ異様に高い事が分かる。また、第12話で覗かせた腕は干からびた老人の様な感じとなっていた。第19話では人間とは思えない細長い舌を覗かせ、SNSに悪意ある言葉を書き込む少年達立ち上る悪意をなめとる様な仕草を行っていた。
作中の動向
のびあがりを始め見上げ入道等々、かつて人間達に対して悪行三昧をした為に封印された邪悪な妖怪達の活動に大なり小なり関わっている節がある。更に、その様な妖怪達の中でもたんたん坊率いる妖怪城の一派や刑部狸を頂点とする八百八狸達と、特に強力な妖怪達を怪しげな術(陰陽道?)を用いて自ら直接封印を解くなど、物語の裏で暗躍する。
その目的及び正体は謎に包まれており、一切が不明。佇まいや行動・能力からして、正体が人間である可能性は薄い様に思えるが、かと言って妖怪ともつかない。いかにも邪悪な雰囲気をまとっている事から、この世の怨念の集合体か、悪魔・悪霊などの化身の様にも見える。
少なくとも、戦いが終わって気が緩んでいた鬼太郎を『逆五芒星』が刻まれた矢で放って射殺しようとした事から、悪党である存在である事には間違いがない様だ。
また、刑部狸達やくびれ鬼の事件の様に多数の人間を巻き込んだ事件にて、人間達から発せられた邪気(黒いオーラの様なものとして表現されている)らしきものを大量に集め利用し、まなに第12話では右腕に『木』、25話では額に『火』と読める何かの呪いをかけていた様だが、それが何を意味するのかは全く分かっていない。少なくとも第25話の台詞や『木』『火』と五行に通じると思われる呪いの内容から、今後彼女に更に呪いを刻もうとしているのだけは間違いない。
なお、まなと何か繋がりがある事(第12話の最後に数秒、彼女と似てる女性が、鎌や刀を振りかざした侍風の男に切り殺される場面が挿入される)が示唆されている。さらに彼女を傍観している中で「うつろなうつわ、うつろなうつわ…」と不気味に呟いていた。
第19話では見上げ入道やたんたん坊達を再生させて『おばけの学校』騒動を引き起こし、まなや鬼太郎達の前にも初めて明確に姿を現している。
まなに対しては物語冒頭で『木』の印を確認する様な挙動を見せた後、彼女の身体を通り抜けて姿を消した。
鬼太郎達はたんたん坊を倒した際、彼の今わの際の言葉により、『名無し』こそが彼等を蘇らせた人物である事を知る。
鬼太郎父子は、鬼太郎が矢を背中に射られた事件以降、妖怪が人間に悪事を働く事が増えた事を思い返す。名無しはその直後鬼太郎の背後に音もなく出現し、その存在と目的について問うた鬼太郎に、記事冒頭の台詞を詠う様に呟いた後、空気に溶ける様にして消え去った。
第25話では物語の冒頭、周りからの誹謗中傷に追い詰められた末に自ら命を絶った者の傍へと、何処からともなく現れるというショッキングな演出で出現。更に、残されたスマートフォンから立ち込める悪意に引き寄せられる様に近づくと、おもむろに仮面を外し立ち込める悪意を貪るかの様に啜っていた。
また首吊り自殺の現場らしき場所に出現していた事や、“ネット世界”へと侵入していた事、『呪のアプリ』のマークが逆五芒星だった事からも分かる様に、くびれ鬼の事件にも深く関与している様子が窺えた。
『呪のアプリ』は、くびれ鬼が鬼太郎に退治されると同時に消滅した。しかしそれも彼(?)の計画の内であったらしく、今回の事件で大発生した悪意を吸収すると、『木』に続きまなの額に『火』の刻印を彼女が眠っている間に刻んでいる。
目玉おやじは「“逆五芒星”が刻まれた矢で鬼太郎を射殺そうとした者」と半ば見抜いているが、妖怪について詳しい彼も「名無し」を見た事はなく、何者なのかも知らず「本当に名前が無いのかもしれん」と解釈している。
ゲゲゲの森の図書館にも記録のある文献は見当たらず、鬼太郎親子も調査に難渋している。
第27話から始まった『西洋妖怪編』でも登場。西洋妖怪の秘宝『アルカナの指輪』を持ち去って逃亡中の魔女アニエスの前に現れて、彼女を日本に逃げ込む様に仕向ける。そして日本妖怪と西洋妖怪による妖怪大戦争を引き起こそうと暗躍する。
そして第35話でアルカナの指輪を自らの能力で引きずり出し、続く36話では、偶然見つけた指輪をついはめてしまい、抜けなくなって困惑するまなに「魔女なら抜ける」と囁いた。
その後、ブリガドーン計画は鬼太郎達によって阻止されるが、その陰で妖怪にされた人間たちの邪気を吸収。
第37話のラストシーンで、アニエスとの別れを惜しむ彼女の左脚に『土』の刻印を刻んだ。
第41話では、百々爺を「鬼太郎を陥れれば妖怪界のナンバーワンにしてやる」と唆し、百々爺を鬼太郎に変身させて一つ目小僧を抹殺させた他、鬼太郎の妖怪大裁判を傍聴していた妖怪達から出た邪念の様なものを口で吸い込んでいた。
そしてラストシーンにて、まなの左額に『金』の刻印を刻んだ。この際、自分の事を「あやかしものでもなし人でなし」「命あるものでもなし死者でなし」と語っている。
この発言が事実なら、彼は妖怪でも人間でもなく、生者でも死者でもない、鬼太郎シリーズでも極めて異質な存在であるという事になる。
第38話以降は『名無し最終決戦編』と表記されている事から、いよいよ物語の核心に迫る、いわゆるラスボスとして登場する事が明らかとなる。
第47話では、表社会にまで入り込んで人間と妖怪の全面抗争を実現し、近年急速に膨れ上がっていた双方の「悪意・邪念・利己心」を取り返しのつかないレベルにまでエスカレートさせてしまう。
まなの母・純子も「妖怪じみた姿」にして暴走させて猫娘にけしかけ、そうとは知らない猫娘が爪で純子を斬り倒し術が解けたところを誘い出したまなに目撃させる。
誤解を解こうと近づいた猫娘に怯えて思わずまなが右手を突き出すと、そこから麻桶毛を消滅させた時の五芒星の光がねこ娘に放たれてしまい、直撃を受けたねこ娘は消滅。間接的ではあるが、鬼太郎ファミリー初の犠牲を出すという最悪の事態を引き起こした。
続く第48話では、前述の件で決裂した鬼太郎とまなを中心についに爆発した日本中の膨大な邪念を吸い込み、まなの右額に『水』の刻印を刻んで逆五芒星を完成させる。
そのまま仮面を外して彼女の体を取り込み、正体と思われる「四つ目の巨大な赤ん坊」の姿を現して、戦う理由を見失った鬼太郎を一蹴しつつ世界終焉の大破壊を開始した。
真相と結末
第49話で、人間と妖怪が一緒に暮らしていた遥か昔、結婚を拒絶された人間の母親と妖怪の父親の間に生まれる筈だった子供が正体である事が判明した。つまり、半妖怪(現世に生まれずして死んだため、厳密にはそのカテゴリーにすら入れない)である。
そのため、人間にも妖怪にも厄介者扱いされて来た半妖怪たるねずみ男には名無しの心境が理解出来たのである。
『名無し』の父(CV:置鮎龍太郎)と母・ふく(CV:桑島法子)は、種族の壁を越えて深く愛し合っていた。更にふくは子供(=産まれるはずだった『名無し』)を身籠っていたのだが、異種族同士の婚姻を良しとしない双方の一族によって2人は殺されてしまい、子供はこの世に生を受ける事も叶わず死んでしまった。
そして後に山頂に磔にされた両親の遺体から垂れた血溜まりから、稲妻の轟音と共に黒い物体が赤子の様な産声を上げて生まれた。
これが『名無し』が誕生した瞬間であり、それから長い時間をかけ、『名無し』は自らを生み出す基となった人間と妖怪の悪意と呪詛を吸収して大きくなっていったのである。
そして『名無し』は自らの誕生を罪と断じた人間と妖怪の両方を強く憎み、いずれ双方を消滅させるべく、母親の血縁の一族から自らが吸収した悪意と呪詛を解放する為の器にふさわしい者の誕生を待った。
そんな時、その一族から『真』の『名』を冠する者が生を受けた。それが『真名』━━━つまり、犬山まなだったのである。
『名無し』の体内で鬼太郎と共に全てを知ったまなに、「人間と妖怪の両方を憎んでいるのは、裏を返せばどちらからも愛されたいから(意訳)」だという己の本心を見抜かれ、最期は彼女に名前を与えられ、この世に生まれた事を祝福されると喜びながら成仏した(どういった名前を付けられたのかは不明だが、まなの口の動きから「きたろう」と言っている様にも見える)。
余談
- 初登場は第1話の終盤だが、その名(あるいは仮称)が判明したのは第11話と結構遅かったりする。
- OPでは駅のホームに佇むまなの背後に現れるという不吉な登場をした(『名無し最終決戦編』以降は、複数の妖怪達に差し替えられている)。
- 鬼太郎に対して使われた逆五芒星は「地獄」や「悪魔」との繋がりがあるとされるが、シリーズを通してみれば鬼太郎一行は閻魔大王を始めとする日本の地獄とは信頼関係を築いているし、有力な魔神と仲間でもある(とはいえ、地獄関係者ではアニメ3期では奪衣婆と戦っており、悪魔に関しては原作やアニメにてブエルやベリアル、果てには『妖怪千物語』でデビル・プルートーとも戦っている)。陰陽五行とも関連ありそうな術ながら、詳細は一切謎なままである。
- 6期恒例のアイキャッチでは何故かLINEスタンプになっていた。第12話では名無しのスタンプが3つ並ぶという、不気味ながらもどこかシュールな光景になっていた。
- 第47話では姿を見せないまま犬山純子を秘書に雇い、『オメガ』の社長“ジョン・童”を名乗る。“ジョン・ドゥ”とは「名無し」「身元不明の男性の死体」を表すものであり、純子や社員が会話していた相手は「名無し」であり「身元不明」である。なお、この時の話し方が中の人も相まって完全にこいつだった。企業の口が上手い営業者という点でも共通している。
- 上述の通り同じ半妖怪であり、『名無し』同様どちらからも爪弾きにされてきたねずみ男には『名無し』の心情と目的が理解出来たのだが、彼には鬼太郎の様に何だかんだと言って自分を顧みてくれる良き理解者がいたが、『名無し』は当然そういう存在との出会いに恵まれる事は無かった。そういう意味では、『名無し』はねずみ男が誰1人として理解者に恵まれず孤独のままだったらこうなってしまっていたかもしれないという、IFを体現しているとも言える。
- 「母親が自身を身籠ったまま、出産前に死亡する」という境遇は鬼太郎と似通っている(ただし鬼太郎は凄まじい生命力で母親の遺体から自力で這い出る事が出来たのに対し、名無しはそれも叶わず母親の胎内で死んでしまったという違いがある)。更に両者が誕生したのは嵐の日だというのも共通している。
- まなの漢字表記『真名』と名無しで対になる他、名無しの父親は鬼に似た姿であったが、奇しくも名無しの野望を打ち砕いた鬼太郎の名前に『鬼』の字が入っている。なお母親のふくがまなに瓜二つだったのは、まなの遠い祖先である事が示唆されている。
- 名無しがまなの一族を監視していた理由は現界する為の『器』を探していたからであるが、この『器』とは言い換えると母親とも解釈出来る。『母親に似た外見(その上血が繋がっていて)で、自分と対になる名前を持ち、妖怪と親しい女性』が器になる為の条件(いわば誕生の再現)だったと思われる。
- 第49話のアイキャッチで紹介された妖怪は『ノツゴ』と『赤ん坊時代の鬼太郎』。前者は地に埋められた水子が正体とされる妖怪である。二者とも赤ん坊に関する妖怪であるが、鬼太郎は媒体によっては人間の母親と目玉おやじとの間に生まれた子(名無しとは似た境遇にある)とするものもある。ちなみに前者のノツゴは、名無しの正体をさり気なく暗示したものとなっているとも考えられる(実際に名無しの本体の姿もそれに近いものであった)。
- 体内にある大量の「手」は、地獄編での「手」や「手足の怪」に登場した“手足の神”にも似ている。
- 第53話ではチャラトミのイメージで、出勤途上のサラリーマンから出て来る何かを吸収する謎の手が登場する。正体は不明だが手の形状から名無しの手だと思われる。
関連項目
「負の感情の集合体」はこちらを参照。
アニメ4期に登場した陰陽師(京極堂とも関連が示唆されるが、その点の詳細は不明)。五芳星を鬼太郎側に対して使ったという共通点がある。
最終章におけるラスボス。名無しとは異なりこちらは人間のみの廃絶を目論んでいた(ただし、そのためなら同じ妖怪であろうと何の躊躇いも無く手駒として利用する)が人間の醜さ・愚かさを熟知しているが故の人心掌握術に長けており、その計略で鬼太郎を翻弄し続け、終盤では名無しの時と同じく鬼太郎を人間に失望する所まで追い込んでいる。