この『物語』はぼくが歩き出す物語だ
肉体が……という意味ではなく
青春から大人という意味で……
概要
荒木飛呂彦による漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の第7部の副題。
集英社の青年向け漫画雑誌『ウルトラジャンプ』に、2005年から2011年4月号まで連載された(当初は『週刊少年ジャンプ』で2004年からの連載)。
「スティール・ボール・ラン」とカタカナでも表記される。ローマ字の頭文字をとってSBRと略されることが多く、pixivでのタグ付けもSBRの方が多く見られる。
テーマは「西部劇」で、19世紀末に行われたアメリカ大陸横断レース『スティール・ボール・ラン』を舞台に、それに纏わる陰謀と戦いを描く。
世界観的には、第1部から第6部までの世界とは直接的な繋がりは無く、そのパラレルワールドとなっている。
この点について作者の荒木飛呂彦は、2004年2月26日に発売された『青マルジャンプ』にて、「SBRは、第6部のメイド・イン・ヘブンによって一巡した世界が舞台」である旨を語っている。
ただし、メイド・イン・ヘブンによって一巡が完遂されていたとすれば第8部を含めて矛盾する表現も多く存在しており、「第6部を読んでいた人ならわかると思うけど~」といった前置きがある関係上、第6部ラストにおいて世界の一巡が阻止されたことで再構築された世界が舞台とも取れる解説にもなっており、未だ考察の余地を残している。
続章である第8部『ジョジョリオン』と第9部『The JOJOLands』はこの第7部と世界観を共有しており、本作の登場人物の子孫が登場しているほか、一部の重要な設定が引き継がれている。
第6部までで複雑化してきたスタンド能力がこの第7部でいったんシンプルになり、この章においてスタンドはそれまでの「傍に立つもの(stand by me)」から、「立ち向かうもの(stand up to)」に再定義された。
テーマが「西部劇」だけに銃が強く、スタンドは武装の一つとして扱われ、ヴィジョンの無いスタンドも多い。ジャイロはあくまで鉄球の技術で戦うし、ジョニィは立つことができないので近距離パワー型のラッシュも(最終盤まで)ない。スタンドのパラメータ表示も廃止された。
あらすじ
1890年、アメリカで人類史上最大の大陸横断レース、『スティール・ボール・ラン』が開催された。このレースの優勝賞金と名声を求め、世界各地から大勢の参加者が集う。
その参加者の中に2人の男がいた……。ジョニィ・ジョースターとジャイロ・ツェペリ……。彼らは其々の目的を果たすため、共に力を合わせ困難を乗り越えていく。
だが、このレースの裏にはある巨大な陰謀が隠されていた……。
評価
「人間讃歌」が全面に打ち出された重厚なストーリー展開や、シリーズを通し問われ続けた「人間とは何か?」、「悪とは何か?」の追求から更に踏み込み、「敵=絶対悪とも言い切れない」という善悪の定義や価値の「曖昧さ」を最後までブレることなく描いたプロットが肯定的に評価されている。
週刊誌から月刊誌へと移籍したことで週刊連載のコンパクトな起承転結の繰り返しを脱し、今まで以上に壮大なボリュームとスケールで物語が紡がれたことも、本作の評価を押し上げている。また、荒木飛呂彦の画力の成熟期に発表された本作は、雄大な北米大陸を背景としたダイナミックな画面表現が溢れており、それも大きな魅力の一つとなっている。
その結果、完成度は極めて高く、「シリーズ最高傑作」との呼び声も高い。特に舞台となった北米では、翻訳版がそこまで出回っていないにもかかわらずジョジョシリーズでもぶっちぎりで人気がある。
故にアニメ化を望む声も多いものの、ジョジョは第6部までで一区切りであることが第6部で改めて全面的にピックアップされていることや、今までの起承転結からは離れた作風(逆に言えば週刊誌でのコンパクトな起承転結がTVアニメと相性が良かった)、何よりも馬の作画の過酷さから「アニメ化されないのでは」とまで言われている。
同じジャンプ作品でアニメ化が決まった『逃げ上手の若君』は騎乗シーンも多く存在しており、読者からはこのアニメの完成度次第でSBRのアニメ化の可能性が上がるのではないかと言われている。
作者による総評
- 『スティール・ボール・ラン』ではページ数の制限によるストレスがなくなって、物語のリズムもよくなったと思う。
- ページ数を多くしたのは海外ドラマ『24』や、三部作の映画『ロード・オブ・ザ・リング』といった、壮大なボリュームの物語が増えてきた影響がある。
- 作品自体が古典的な方向へと向かっているため、登場するキャラクターも当然、古典的な価値観に向かう。物語の展開上、どこかで主人公がレースに参加する意味を見つめなおす必要があり、「男の美学」という古典的な価値観との戦いは正にうってつけだった。古典的だが、公正な果し合いで精神の成長を目指すという価値観は、むしろ今の読者にとっては新しいだろうと考えた。
- 戦いのシンプルさと拳銃のリアリティを追求するため、派手な撃ち合いではなく、居合い切りの様な、侍の静かな決闘を拳銃で表現しようと思った。故に能力はシンプルにしようと心がけた。その意味でうまく描けたのではないか。
- 本作は、描く側もアメリカ大陸横断レースをしているような錯覚におちいる作品(笑)。特に、馬を走らせるシーンを描くのがすごく疲れる。馬を描くことはきっと、馬に乗っているのと同じくらい体力を取られるのではないか。
主要な登場人物
※CVはASB・EOH版
- ジョニィ・ジョースター / スタンド:タスク
声 - 梶裕貴
主人公の一人。19歳の元一流ジョッキー。ケンタッキー州生まれで、幼い頃にイギリスに住んでいたことがある。
ジョニィは競馬界で有名になっていくうちに高慢な性格になっていったが、その性格のせいで起きたトラブルで、下半身不随となる。その後は後悔と失意に満ちた人生を送っていたが、『スティール・ボール・ラン』レースでジャイロ・ツェペリと出会ってから生きる希望を見出し、レースに参加する。
声 - 三木眞一郎
主人公の一人。24歳の鉄球使い。前歯に“GO! GO! ZEPPELI”と彫られた金歯を挿しており、「ニョホ」と笑う癖がある。
法治国家ネアポリス王国の法務官で、父グレゴリオの後継ぎとして処刑人となる。しかし、処刑人としての最初の任務が、密会の現場に勤めていただけで「国家叛逆罪」として裁かれた靴磨きの少年マルコの処刑であった事が、彼の人生を大きく変えてしまう。
マルコに科された刑罰にどうしても納得がいかず日々不満を募らせていたところ、スティール・ボール・ランとそれによる「国王の恩赦」を知り、マルコを救う為にレース参加を決意する。
声 - 小形満
『スティール・ボール・ラン』レースの主催者。ニューヨーク生まれ。ルーシー・スティールを妻として娶っている。
声 - 桑島法子
スティーブンの妻。年齢は14歳と、夫とはただの親娘以上に年の差がある。旧姓は第1部ヒロインのエリナと同じペンドルトン。
- マウンテン・ティム / スタンド:オー!ロンサム・ミー
ワイオミング州のカウボーイ。31歳。毎年3000頭の牛を連れて4000kmの旅をしている、通称「伝説のカウボーイ」。優勝候補の紹介で「ルックスもイケメンだ」と紹介されていた。
- サンドマン / スタンド:イン・ア・サイレント・ウェイ
声 - 野島裕史
インディアン(ネイティブアメリカン)。通称「大地の俊足」。思い込んだら他人と協調しない性格。
自分の部族の考え方は白人には通用しないことを悟り、白人の知識を習得するなど柔軟な頭脳を持っているが、仲間のインディアンからは受け入れられなかった。白人移住者たちに奪い取られた土地を買い戻すために、レースに参加したが……。
- ホット・パンツ / スタンド:クリーム・スターター
声 - 豊口めぐみ
第1、第2ステージ共に上位にランクインし、第3ステージで後続に1時間の差をつけてトップ通過した人物。年齢・略歴も不明で、名前も偽名であるが、実は女性(それに気づいているのはジョニィとノリスケ・ヒガシカタだけ)。
- ディエゴ・ブランドー / スタンド:スケアリー・モンスターズ
声 - 子安武人
ジャイロとジョニィのライバル的な立ち位置の人物。もとは下層階級の出身だが、「イギリス競馬界の貴公子」と呼ばれるほどの実力を持つ天才騎手で、優勝候補の1人。
それぞれの馬が持つ「走るクセ」すら見抜く才能があり、目的のためには手段を選ばない最低な男との噂もある。
声 - 加瀬康之
第23代アメリカ合衆国大統領。1847年9月20日生まれ。アメリカ各地に散らばっている『遺体』を集めるためにSBRレースを利用する。
集めた『遺体』をマンハッタン島のシェルターに埋葬・保管する事により、アメリカを「世界の全ての中心」にしようとしている。そのためには手段を選ばず、『遺体』を手に入れたジャイロたちに抹殺を目的とした刺客を送り込む。
その他の登場人物はスティール・ボール・ランの登場キャラクター一覧を参照。