用語
この記事では、2.について解説します。
その他の「火車」については、以下の個別記事を参照してください。
概要
閻魔大王の特命を受け、成仏の道を外れて現世を彷徨う穢れた魂を迎えに来る地獄の使者。
邪に染まった不浄の魂を専門に扱う死神、あるいは死者の遺体を略奪する化け猫の一種。
特徴
火車の伝承は日本全国に存在するが、先述のように「地獄の死神」と「死体を貪る妖猫」の2系統に大別される。
- 図解
左図:死神・火車、右図:妖猫・火車
前者は、僧侶が仏教の死生観を民衆にわかりやすく伝えるために生まれた法話『地獄縁起』(じごくえんぎ)に源を発しており、「生前に重い罪を犯した亡者が地獄へ送られる際に押し込められる獄卒が曳く獄炎の車」という本来の意味が時代と共に「悪人の魂を地獄に送る死神」へ形を変えたものである。
火車には美しい女鬼が数匹乗っているという。火車から逃げ出そうとする魂を弓矢で射貫く。矢が刺さってぽとりと落ちる魂を見て、秘部に手を当て自慰をする女鬼もいるそうだ。
なお、貧窮に喘ぐ様子を表す例えの1つ「火の車」はこの獄炎の曳車が語源であり、車に入れられた亡者が地獄に着くまで業火に焼かれながら責められ続ける苦況を余裕の無い台所事情に置き換えたものである。また、別説によると「火車は死んだ悪人を、火の車は生きたままの悪人を地獄へ連れ去る別個の存在である」とされている。
後者は、人間の死没と猫の因果関係について怖れを抱く日本特有の怨霊信仰と密接に結び付いた慣習から生まれた民話に源を発しており、「悪人が死ぬと葬列を襲って死体を奪い去り、五臓を引きずり出して食い荒らす」という悪鬼の類として描かれている。
どれも内容にこそ若干の相違はあるものの「火車に魅入られた悪人には現世よりも悲惨な末路が待っている」とする共通点があり、かつては「身内の葬儀に火車が現れる事は、即ちその者が火車を招くほどの大罪を犯した悪人である」として扱われ、残された縁者にもその累が及ぶ耐え難い恥辱とされたため、生前に善行を積む理由を示す教訓の意味で手習いを講じる武士や僧侶が道徳教材に用いていた。
創作での扱い
『ゲゲゲの鬼太郎』
第2期
声優:富田耕生
紫色の体毛に覆われた姿で、有無を言わさず死体を強奪する悪辣な妖怪として登場する。
奪われた母親の遺体を取り戻すべく助けを求めた少年が待つ開拓村へ向かった鬼太郎に戦いを挑まれるが、目玉おやじ曰く「あの世でも五本の指に入る強敵」であり、自身と相手の魂を入れ替える地獄の秘術『霊電気』で鬼太郎の体を奪い取る。
鬼太郎の身を案じて現場へ駆け付けた目玉おやじをもう1つの秘術『モチ殺し』を使って好物の餅に練り込んで食おうとした矢先、目玉おやじが放った秘術『逆モチ殺し』で餅に練り込み返された影響で魂を体を分離させてしまい、体を取り戻した鬼太郎に退治された。
第3期
苔色の体毛に覆われた朱色の地肌を持つ姿となり、老いて衰えた体を取り替えるために葬列から遺体を奪い去る凶暴な妖怪として登場する。
物語の大筋は第2期同様に原作版に沿ったものだが、鬼太郎の体を奪った後は地元の暴力団を掌握して『鬼太郎組』を興し、悪行と遊興三昧の日々を送る。あまりに変わり果てた鬼太郎を静止しようと駆け付けた目玉おやじに容赦無い暴力で応えた様子に疑念を抱き、砂かけ婆の霊視で鬼太郎の体に火車の魂が宿っている事、ひいては謎に満ちた火車の能力の正体が魂を入れ替える秘術『魂取り替えばやの術』であった事を知った仲間たちは火車の体に縛られた鬼太郎を助け出し、本体を取り戻すべく火車の餅好きを逆手に取って一手先に秘技『モチ封じ』をかけようと計画を立てた。
しかし、砂かけ婆一同が予想していた以上の実力で軽々と秘技を破り、逆に妖怪を餅に練り込む秘技『モチ殺し』で鬼太郎を火車の体ごと食おうとした矢先に目玉おやじが割って入り、まずは目玉おやじから始末するためにモチ殺しをかけた。ところが、火車の裏を読んでいた目玉おやじの秘技『逆モチ殺し』で魂を追い出され、元の体に戻った所を鬼太郎のちゃんちゃんことオカリナ鞭で拘束されて『体内電気』を浴びて消滅した。
第4期
声優:梁田清之
小豆色の頭髪に真紅の体毛で覆われた姿となり、ある死者の魂を通じて知ったその家族の非情な仕打ちに憤る妖怪として登場する。
法子という少女の祖母が亡くなって以降、その兄や姉が次々と謎の失踪を遂げる不可解な事件に遭い、法子の依頼を受けた鬼太郎と目玉おやじは怪異の正体が火車であると目星を付け、やはり法子の祖母の魂が火車の手中にあると知って救出に向かったものの、普段とは違って死者の魂ではなく生者そのものを連れ去るという奇妙な行動にだけはどうしても答えが出せなかった。
一方、とある山中では檻に入れられた法子の兄弟一同が視線を送る中、今まさに火車が餅をつこうとしていたが、取り出した1つの魂を兄弟に見せつけるとそれが母親の魂である事、さらに自身の都合を理由に葬儀への参列を断るだけでなく兄弟同士で責任のなすり合いに及んだ実の親の死に対する冒涜に涙を浮かべて憤慨し、見捨てられた母親の魂に成り代わってその無念の声を聞かせるべく兄弟たちの眼前で餅に魂を練り込んで食うと明かした。
しかし、間一髪で駆け付けた鬼太郎の説得、何よりも母親の魂が「忙しいという事は人様に頼りにされているのだから誰一人として恨んでいない」と語った一言に心を打たれ、火車自身も既に亡くなった己の母親への思慕の念を胸に山を去った。
第5期
声優:岸尾だいすけ
紫色の頭髪、眉毛、髭、尻尾に珊瑚色の体毛と灰白色の地肌、猫を強調した顔相、風変わりな抑揚を持つ姿となり、輪入道が経営する妖怪横丁の運送屋『ひのわや』の社員として登場する。
その昔は数多の人間に害を成し、悪行を止めさせるべく立ち向かった鬼太郎をも完膚なきまでに叩き伏せた手の付けられない乱暴者であったが、鬼太郎をして思い起こすだけで心底震え上がる「世にも恐ろしい方法」を使った目玉おやじに散々に懲らしめられて以降は、悪の道から抜けさせようと本気で対峙した目玉おやじに畏敬の念を、更生のために目玉おやじの紹介で雇ってもらった輪入道に恩義を抱きつつ真面目に仕事に打ち込む日々を送っていた。
ところが、正月で賑わう人間界で起こった餅泥棒事件の手口が妖怪のものであると睨んだ横丁の面々から最有力容疑者として疑いをかけられてしまった上、折悪しく店内の戸棚から大量の餅が見つかった事で「これは給料を貯めて自分で買ったものだ」とする弁明も虚しく、その場に現れた目玉おやじにすら信じてもらえない状況に愕然として行方を眩ませた。程なく帰路に着く鬼太郎の前に姿を現したが、不注意が招いた鬼太郎の冷ややかな一言が決定打となって禁術『魂入れ替えの術』で鬼太郎にすり替わった。
後に、鬼太郎の姿で犯人探しに奮闘する火車の前に現れた本物の鬼太郎に「誰にも信じてもらえないなら禁を破ってでも自分の手で無実を証明したかった」と真意を打ち明けて和解し、餅泥棒の正体である悪霊はたおんりょうを退治するべく共闘して事件を解決に導き、ようやく禁術が解けてお互いの体を取り戻した頃に輪入道、白坊主と共に出身県を守護する『妖怪四十七士』に覚醒した。
第6期
声優:チョー
人間の死体を食う妖怪となっているが、実際に死体を食うシーンはカットされている。魂入れ替えの術は遠隔攻撃だった原作やアニメ過去作と違って、相手の手に触れることで入れ替えるようになった。
その昔、葬式の行列を襲撃して死体を奪って喰らう凶悪妖怪として恐れられていた……のだったが、寄る年波には勝てず現在ではヨボヨボの姿となっている。妖力も衰えており魂入れ替えの術も使えなくなっている。
かつては軽々と死体を担いで屋根の上を飛び跳ねていたが、老いてしまった現在は病院の霊安室に安置されていた死体を盗み出して引きずるのがやっとの有様で、その現場を犬山まなに目撃されると、死体をほっぽりだして慌てて逃げ出す程にまで落ちぶれていた。
そのせいで大好物の死体を食うことができず、山奥にある一軒家のアジトに隠れ住み、もう一つの好物である餅(自分で餅をつく体力が残っていないのか、市販品の餅)を食う事でなんとか生き長らえていた。
その話を聞きつけたねずみ男が、火車に食わせる事で死体を密かに処理する商売を思いつき、母が死亡した事を隠して年金不正受給しようと目論む中年男性や、夫婦喧嘩で旦那を殺した妻、通行人をひき殺した会社社長、さらには暴力団組長などの依頼を受けて、死体処理業でボロ儲け。
火車も久々に腹いっぱい死体を食う事ができたが、老いた体ではねずみ男が持ってくる大量の死体を全て食う事はできず、さらに死体を奪われた遺族の悲しみという最高のスパイスが利いていないと愚痴をこぼしたところ、ねずみ男から老いぼれ妖怪と罵られて逆上する。
死体を大量に食った事で妖力が回復していた火車は、魂入れ替えの術でねずみ男の身体と自分の身体を入れ替えた。
だがねずみ男の身体は臭くて痒いからと、次はねこ娘の身体と入れ替える。戦闘力が高くてしなやかな身体だと喜ぶが、足がスースーするからやっぱり男の身体の方がいいと思い立ち、今度は鬼太郎の身体と入れ替えた。
鬼太郎と入れ替わった後は、葬式会場に乱入して死体を棺桶ごと奪いアジトに持ち帰ろうとするが、我慢できず公園で死体を食おうとして、通りすがった犬山まなに見つかってしまう。そこに駆け付けた鬼太郎(ねこ娘の身体)とねこ娘(ねずみ男の身体)からそいつは火車だと言われ、自分は本物の鬼太郎だと誤魔化そうとしたが、まなのひっかけ問題にかかってしまい嘘がバレて、まなのストレートパンチを受けて昏倒した。
その後どうにかアジトまで逃げ延び、愛用の臼と杵を持ち出してずらかろうとするが、カラスヘリコプターに乗って駆け付けた鬼太郎(ねこ娘の身体)と対決する。体内電気で鬼太郎を気絶させ、さらに目玉おやじを握りつぶして臼に放り込み、必殺技の「餅殺し」で餅と一緒につき砕いて食おうとしたが、目玉親父の肉を切らせて骨を断つ秘策「逆餅殺し」を受けて返り討ちにされた。
目玉親父が鬼太郎の体の中にあった火車の魂を取り出した事で、魂が入れ替えられていた者たち(鬼太郎、ねこ娘、ねずみ男)は元に戻った。
しかし火車本人はその騒ぎに乗じて逃走。目玉親父は「もし人間と入れ替わって人間社会に潜り込まれたらワシらではどうにもならない」と不安を口にした。
そして火車は、年金不正受給していた中年男性と入れ替わって人間社会にまんまと潜り込んでいたのだった……。
関連イラスト
- 恋のお手伝い
「なぁ猫娘ぇ。恥じらう暇があるならチチを、重点的にチチを揉ませんしゃい。」
- 火車オールスターズ
「もーちーがーなーいーぞー!!」
「けっ!!貧乏臭くてヘドが出らぁ!!」
「うう…、モチぃー…。」
「泣くのはおよし仔猫ちゃん。俺っちが給料前借りで買ってくるからしてぇ。」
関連タグ
その他の創作での扱い
- 『忍者戦隊カクレンジャー』:妖怪軍団のカシャ。炎をまとった消防士、消防車がモチーフで大きな車輪を持っている。人間花火を作ろうとする外道。
- 『侍戦隊シンケンジャー』:火車の伝承の元になったという設定の、腹部に騙し絵のような猫顔があるアヤカシ・アベコンベとして登場。手にした針で人間と器物の魂を入れ替えてしまう。デザイン当初は枕返しがモチーフだったが、上記鬼太郎の魂の入れ替えを思い出し変更となったという。
- 『手裏剣戦隊ニンニンジャー』
:インラインスケートを素体とした妖怪カシャが登場。ネコ科の複乳をスケートの車輪で表現している。
- 『ドロねこ9』:奥瀬サキ作の妖怪漫画。現代社会に潜伏する猫の蠱族(妖怪)がたくさん登場し、「火車」は「名前付き」といわれる伝説的な存在である。
- 『喰霊-零-』:カテゴリーBに分類される妖怪。出現する際に怨霊を伴う。
第1話にて、特戦四課の働きにより倒された。
- 『鬼灯の冷徹』
:かつては亡者の死体を食う妖怪だったが、鬼灯にスカウトされ獄卒になった。裁判を経ずとも地獄行きになった亡者を連れ去る仕事を担当。サイドカーを乗りこなす走り屋である。