演:池田努
概要
既婚者であり、生まれたばかりの一児の父親。
リンは高校生の頃、大学在籍時代の彼の講義によく参加しており、関係も良好。
嘘を吐く際に顎を触る癖があり、当時リンの勉強を見るため一緒に居たことで婚約者との結婚の打ち合わせをすっぽかしてしまった時も、電話越しに顎に手を当てながら誤魔化していた。
…そんな彼だが、実は怪獣の細胞を横流ししている疑惑があった(海外の金持ちのコレクターに需要があるらしく、闇取引されているらしい)。
そこでネロンガ討伐後の細胞採集の現場にて、指示を受けた彼女が探りを入れる極秘任務に就くことになった。
昔を振り返りながら談笑していたのだが、採集作業の完了後、リンがSKIP本部が山神を疑っていること、そして彼の力になりたいことをカミングアウト。
それを聞いた山神は、リンに分所に保管されている怪獣細胞を持ってくるよう依頼、やはり彼はクロだったことが判明した。
しかし、待ち合わせの場所にリンが持ってきたスーツケースの中身は空、しかも直後に石堂シュウと伴所長他、星元市分所の面々も一緒に現れる。
実は細胞採集の現場でネロンガ細胞に引き渡しの際に、山神は警備が厳重な件から「犯人ももう諦めているかもな」という推測を、顎を触りながら語っていた。
それを見たリンは、尊敬する恩師の横流し犯の疑惑があって欲しくなかった確信へと変わってしまい、事前に仲間達と打ち合わせしていたのだった(力になりたいという言葉は本心ではあるが、罪の償いの手助けをしたいという意味だった)。
だが直後、仮死状態だったネロンガがよりにもよってこのタイミングで復活し、さらにこれを追うようにパゴスまで出現してしまう。
騒動の隙を突いて逃亡するもリンに追い付かれてしまい、そこで彼は動機を吐露する。
「誰も分かってくれない!皆、怪獣を倒すことばかり!」
「見ろ、あの力を!何故利用することを考えない!?誰もやらないなら俺が…!そのための研究資金が必要だった!」
彼は、優れた能力や科学の進歩を促すであろう怪獣達の特殊能力を放置するのが許せず、未来を良くするための研究用の資金欲しさにこのような暴挙に出てしまったのだ。
優秀な頭脳を持つ学者であり、未来ある赤子の父であるが故に道を誤ってしまったのである。
しかし、二大怪獣がウルトラマンアークのルーナソードクレセントで倒された後は、流石に観念したのかそれ以上抵抗することも無く、後から追ってきたシュウ達によって取り調べのために連れて行かれた。
連行される前、山神への自分の思いを言葉にして伝えるリンだったが、山神はすれ違いざまに「忘れたよ、そんな昔のこと」と切り捨てた。
…しかし山神は、リンに見えないところで顎に手を当てていた。
こうして否応なしに、高校生の頃にキラキラした思い出と、それを作った山神との思い出に別れを告げることになったリン。
しかし…
ユピー「リンっ!あのっ!あのねっ!ユピーは、リンのことが大好き!だから、だからね!リンには元気でいてほしいっ!!」
その場に残っていたユピーが、リンに励ましの言葉を贈る。
涙を拭い、笑顔を浮かべてユピーに礼を述べるリン。
辛い経験をしたリンであったが、山神に応援されてリンが創り上げた夢の結晶であるユピーに励まされたことで、“過去”と決別した彼女もまた、“未来”に向かって歩き出すのであった…。
その後、山神は地球防衛隊により業務上横領の罪で取り調べを受けていることが、X(旧Twitter)の『石堂シュウの日記』に記録されている。
考察・評価
『ウルトラマンデッカー』のシゲナガ・マキや、『ウルトラマンブレーザー』の横峯万象と同じく、怪獣の力を利用しようとし、かつての教え子と対立した人物ではあるが、ある種の復讐目的だったシゲナガや環境変動による人類への制裁を目論んだ横峯とは異なり、実は彼自身はちゃんとした使い方をしようとはしていた。
劇中でも、「電気を吸収し、自らも発電する怪獣」「潮を生み出す怪獣」「火を吹く怪獣」の力を活用し、環境に配慮したより良い社会を作ろうとしており、それが如何に無理のあることだとはいえ良識的な使い方をしようとしていたのは確かなのである。
リンと対立したときも、「でも、現実に今、目の前で大きな被害が…!」と否定したリンに対して「そうだ、今だ!皆、今、目の前にあることしか見ていない!未来を犠牲にしてどうする!?今、多少の犠牲を払ってでも…未来を生きる、あの子達のために!!」と苛立ちを見せるなど、是非はどうであれ地球の現状に疑問を抱いていたのは間違いなく、何かの形で狂ってはしまったが、彼なりに地球の未来と、自分の子供を含めた未来を生きる人々のために行動してはいたはずなのである。
そして、彼の言う「今、目の前にあることしか見ていない」という発言は、まさに公害、地球温暖化、環境問題などの課題を抱えた現実世界の地球及び現代人にも言えることであり、決して他人事ではないのだ。
…とはいえ、彼の言う通り未来は確かに大切だが、だからと言って「今」を犠牲にするのも間違いだと言える。
何故ならば、未来とは現在の積み重ねの先にしか存在しないものであり、誰かの「今」を犠牲にすれば、当然その誰かの未来が閉ざされてしまうからである。
何より、今回の事件が明るみに出れば山神だけではなく、彼の妻や子供の未来までもが暗いものになってしまうのは避けられない話であり、未来のためと謳った行動でその未来を閉ざしてしまうというのは皮肉としか言えないだろう。
未来を良くしようと考えるのなら、その土台となる「今」を軽視するべきではなかった。
「怪獣」という人智を超えた存在と出会ったことで、彼の中で何かが壊れてしまったのかもしれない…。
また、「誰も分かってくれない!」「誰もやらないなら俺が…!」という台詞から見るに、少なくともSKIP内部ではその過激過ぎる思想を誰からも理解されていなかった可能性が高い。
もしそうだとすれば、彼はある意味孤独な男であったのかもしれない。
そう考えると、モノゲロスによる怪獣災害で両親を喪ったユウマとは奇しくも同じような境遇だった、いわばアンチテーゼとも言えるだろう(両親のいないユウマと、家族の父親である山神という、皮肉にも立ち位置すら真逆であったりする。もしかして狙ってやったのだろうか?)。
「例え力が強くても一人きりじゃ戦えない」…皮肉にも山神はこれに当てはまってしまったのである。
そんなこともあってか、視聴者の中には「この人、『Z』とか『トリガー』の世界に居るべきだった」「理想は分からなくもないけど、皮肉にも自分が罪を犯したことで自分の子供の未来を壊してしまった」「確かに一理あるが、しかし手を出しちゃいけない力だってある」「(多少の犠牲と称したことに対して)少ない悪のために多くの罪無き人達を犠牲にするのか」など、賛否両論に近い複雑なコメントを残す視聴者も多く居た。
ちなみに、ネロンガの雷を利用したことに関しては、“ウインダムにネロンガの角を使うことで彼の電力問題を解決した”ユカやバコさんらストレイジの皆さんというどうあがいても越えられない壁が居たりする。
同じ怪獣でも、それを使う者の意思や目的によって結果は大きく変わってしまうということなのだろう。
また、ユピーは山神との交流を経たリンが創ったロボットであるため、山神にとっては自分と別れを告げた教え子が、自分に憧れて教え子が作った存在に励まされるという皮肉な結末となった。
なお、本エピソードでネロンガとパゴスがルーナソードクレセントでぶった切られる際に抱き合っているような様子を見せているが、一部では「山神との思い出に別れを告げるリンに近い」「奥さんと子供の未来を暗示している」という声もあったとかなかったとか。
余談
リン達に見せた幼子の写真は、本エピソードの特技監督を務めている内田直之監督の娘さんである内田陽奈子氏の写真。
関連タグ
ウルトラシリーズ
- 春野ムサシ、大空大地:対義語(と言える人物)。
- ヒヤマ・ユウジ:こちらも「人類の科学の進歩の為」という方便で怪獣よりも恐ろしい存在を利用した人物。しかし、こちらは結局のところ自分の会社の利益になることしか考えていない欲深い人物であり、他人の忠告にも全く耳を貸さなかった結果、とんでもない化け物を生み出して破滅するという最悪の末路を迎えた。
- マブセ・イチロウ:前作の劇場版に登場した「怪獣研究の民間企業」かつ「一児の父親」であるという点で、山神と近しい点のある人物。彼もまた純粋に「人類の発展」のために怪獣を利用する研究をしており、また一定の成果も挙げていたが、自身の研究に傾倒してしまったために家族とすれ違い、災厄を生み出す要因となってしまった。ある意味では、山神の行為が発覚しなかった場合のIFの姿と言えるかもしれない。