概要
飛鳥時代の豪族藤原千方に仕えた四匹の鬼を総称して四鬼といい、一般的に藤原千方の四鬼と呼ばれている。『現在千方』では四性の鬼と総称されている。説話の舞台である伊賀・伊勢(三重県津市)を中心に地方伝承が残る。
鬼とはいうものの性質的には陰陽師藤原千方が使役する式神であり、四鬼はそれぞれ神変(人間の智力では防げない力)を持つ。
『太平記』巻第16「143 日本朝敵事」での四鬼は、朝廷に叛逆を企てた陰陽師藤原千方に従うも、紀朝雄による和歌の言霊によって千方の許を離れてどこかに失せ去った。
藤原千方説話の詳細は「藤原千方」を参照。
四鬼の面々
以下は『太平記』に登場する四鬼である。
『金鬼』
身体が堅固に出来ているため、矢で射られても体に突き刺さらない(『太平記』)。
『風鬼』
風を起こし、黒塵で人の目を晦ます(『現在千方』)。
『水鬼』
洪水を発生させ、敵を陸地にありながら溺れさせる(『太平記』)。
『隠形鬼』
怨京鬼とも。
姿を隠して敵に近づき、突然敵を押しつぶす(『太平記』)。
霧や霞に隠れる術を身につけ、人の心をたぶらかす(『現在千方』)。
様々な四鬼
謡曲『現在千方』では風鬼・水鬼・火鬼・隠形鬼に変更されているように、作品や地方伝承によっては火鬼・土鬼への入れ替わりも見られる。
『火鬼』
『土鬼』
五行思想との関係
四鬼の名前は金鬼・風鬼・水鬼や、作品や地方伝承によっては火鬼・土鬼と、五行思想の万物(火・水・木・金・土)の5種類の元素に基づいている(木には陽気=風という意味もある)。
隠形鬼については陰陽の陰かと思いきや、中世以降に信仰を集めた摩利支天の隠形法がモチーフだったりする。
近年、藤原千方説話の舞台となった地元では式神ではなく伊賀忍者の祖として推されている。わけがわからないよ。
なぜ「四鬼」なのか
藤原千方や四鬼が好きな人が陥りがちな疑問として、五行思想を基にしているのなら、なぜ火鬼・水鬼・木鬼・金鬼・土鬼で五鬼ではないのか、なぜ隠形鬼を含めて六鬼ではないのか、という問題がある。
千方が使役するのが「四鬼」である明確な答えこそ(おそらくは)ないものの、ここでは説話の基本構造を抽出して分析する試みのひとつ「如意宝」という説を中心に話型分析を紹介する。
中世日本の絵巻や室町物語(御伽草子)などは仏教の影響を強く受けたモチーフが数多くあり、そのモチーフのひとつとして彼の者の栄華を保証する如意宝という概念が登場しているとの話型分析がある。そのまま如意宝珠であったり、宝剣や宝鏡であったり、如意宝という概念はありとあらゆる形で登場する。
その中でも源頼光が渡辺綱・卜部季武・碓井貞光・坂田金時という武将を従えて武勲を立てる酒呑童子説話は、頼光四天王こそが頼光の栄華を保証する如意宝であり、仏法を守護する四天王(持国天・広目天・増長天・多聞天)に準えられていると話型分析できる。頼光は酒呑童子を討伐したことで将軍に任命されるため、頼光四天王の存在が栄華を保証する如意宝として機能していることがわかる。
このように四つの如意宝を同時に所有して繁栄するパターンは「四天王型説話」に分類され、千方が使役する四鬼もこの四天王型説話に分類に当てはめることができる。
しかし如意宝という概念は両義的な性質を持ち、所有者としてふさわしくない者には負の如意宝となる。例えば花咲爺さんに富をもたらす犬(如意宝)は、いじわるじいさんにとってはガラクタをもたらす犬(負の如意宝)となる。
千方が使役する四鬼は、紀朝雄の和歌の言霊によって千方が悪逆無道な者であると知って見捨てる。つまり千方は如意宝の所有者としてふさわしくない者となり、この時に四鬼が負の如意宝と化したため、千方は朝雄に討たれることになった。同時に善政有徳の天智天皇にとっての如意宝が紀朝雄だったのである。
如意宝を所有するにふさわしい者が誰なのか、その構造こそ酒呑童子説話とは逆のため藤原千方説話は「叛逆四天王型説話」などとも言われるが、要は千方の所有する如意宝は仏教の四天王に準えられているからこそ「四鬼」なのではないかと分析されている。
あくまでひとつの説であり、説話を研究する人の論文の数だけ答えがある。考察もひとつの楽しみかたではあるが、キリがないので難しく考えずに藤原千方説話を楽しみ、自らの如意宝を求めて創作活動を楽しむのがいいのかもしれない。
坂上田村麻呂伝説と四鬼
坂上田村麻呂伝説では尾呂志(三重県御浜町)の「四鬼の窟」に潜んでいたが、坂上田村麻呂の軍勢によって滅ぼされたと伝わる。
江戸時代中期(寛保元年(1741年)9月、大坂豊竹座初演)の義太夫節浄瑠璃『田村麿鈴鹿合戦』では、平安時代初期に復活した逆臣・藤原千方が周翁居士と名乗り、三種の神器を奪って氷上皇子を即位させようと謀るものの、桓武天皇に仕える坂上田村麿と鈴鹿山で合戦の末に討伐される筋の浄瑠璃が創作された。
関連タグ
関連キャラクター
四鬼セットで登場することが多い。
『忍法秘話』
⇒火鬼、土鬼、水鬼、隠形鬼
『女神転生』シリーズ
初出は『真・女神転生Ⅲ』。イケブクロ坑道に拠点を構える。見た目はマントラ軍のオニと似ており、そのオニたちの間でもすごい力を持つと話題になるほど一目置かれている。坑道深部にはキンキ、フウキ、スイキ、オンギョウキの四体それぞれが、得意とするスキルをみがきながら待ちかまえているので、対策をしないと勝つのは難しいだろう。
『ペルソナ4』『ペルソナ5』ではオニとは3Dモデルが共通のため登場させやすく、異なるアルカナに振り分けられペルソナ化している。
『新桃太郎伝説』
⇒火鬼、土鬼、水鬼、風鬼
敵の落としたつづらから現れる。
『信長の野望Online』
⇒藤原千方、金鬼、風鬼、水鬼、隠形鬼
『無双OROCHI』シリーズ
⇒金鬼、風鬼、水鬼、隠形鬼
『あさき、ゆめみし』
⇒風鬼、金鬼、水鬼
三兄妹として登場。怨京鬼は名前のみ言及されている。
『風が如く』
⇒火鬼、風鬼、水鬼、隠形鬼
『東京レイヴンズ』シリーズ
⇒藤原千方、金鬼・風鬼・水鬼・隠形鬼
『東京レイヴンズ Sword of Song』に登場。本作の四鬼は和歌が刻まれた神剣「歌詠」で討伐されたという設定で、『太平記』など史実の説話との違いがある。
『勇者である』シリーズ
藤原千方の四鬼として登場。
『うしろの正面カムイさん』
⇒隠形鬼・金鬼・水鬼・風鬼
茨木童子率いる軍団の一員の伝承由来の能力を持つ鬼として登場。現代のミームに適応したため全員女性である。