曖昧さ回避
- 『機動警察パトレイバー the Movie』に登場する架空のOS。本項で解説。
- 『Heroes of the Storm』の略称。
概要
正式名称は『H.O.S.』(Hyper Operating System、ハイパー・オペレーティング・システム)。
『機動警察パトレイバー』シリーズの劇場版作品第1弾『機動警察パトレイバー the Movie』における物語の中核を成すデジタルプログラム。
構成
作品中に登場する多足歩行式重機「レイバー」で使用される操縦制御システムプログラムの1つで、レイバー製造および販売を手がける大企業『篠原重工』が低迷気味にある社運の挽回を賭けて、物語の2ヶ月前に発表した最新型OS。
同社ソフト開発事業部所属のプログラマーである帆場暎一がほぼ独力で作り上げ、従来の同社製OS『L.O.S.』(Labor Operating System、レイバー・オペレーティング・システム)と比較して「プログラム駆動のみで機体の基本性能を30%引き上げる」ことを打ち出した画期的なOSとして話題を呼び、僅か2ヶ月の間に国内登録済レイバーの8割近くに搭載された。
他社製レイバーにも運用可能とした汎用性の高さが普及に拍車を掛け、その高機能を見込んで最初からHOSで運用することを前提に開発されたレイバーも登場し始めていた。それが、本作に登場する最新型レイバーにして最大の被害者となった『零式』ことAV-X0である。
暴走
政府主導の東京湾開発計画『バビロンプロジェクト』で確固たる実績を証明する一方、HOSが世に出回り始めた頃から都内で不可解なレイバー暴走事件が頻発するようになり、これを独自に調査した警視庁特車二課第二小隊隊員である篠原遊馬によって極めて危険な因子が介在している事実が確認され、さらにHOSとレイバー暴走事件との因果関係を追及した末に「レイバーの鋭敏なセンサーにのみ反応する低周波が暴走の引き金となる」とする結論に至った。 ただ、トリガーとなる低周波音の具体的な周波数については特車二課でも特定できず、遊馬が篠原重工の実山専務を説得して10.21hzであることを聞き出した。
その後、特車二課整備班主任のシバシゲオと共に様々な検証を進め、
- 強固なプロテクトで保護された怪しい不可視属性ファイルが同梱されている
- 規定の低周波を発生させる高層建造物が東京湾臨海地区に林立している
- 共鳴現象と増幅現象の相乗効果で低周波が広範囲に拡散する
- 開発計画作業用レイバーを管理する海上プラットホーム「方舟」が共鳴現象の要となる
の決定的な4点、さらにはこれらが類稀な特定条件「風速40m/s」と合致する事で被害が最大化、低周波が東京湾臨海地区を中心に関東地方一円まで拡大し、少なく見積もっても「首都圏各所に存在する約8000体のHOS搭載レイバー(ジオフロント深部、原子力発電所炉心部作業機含む)の一斉暴走」という驚愕の答え、即ち帆場がHOSに託した真の目的を遂に暴き出したが、折しも東京に近付きつつある大型台風の暴風圏内は風速40m以上、さらに上陸は2日後とあって火急の対策を迫られる運びとなり、考えられる対策
の4案のうち、唯一現実的な4.の方舟解体が急ぎ試みられることになった(なお、この方舟解体案にもとんでもない罠が隠されていたのだが…)。
正体
シバの緊急要請に応じたMIT(マサチューセッツ工科大学)による不可視属性ファイルのプロテクト解除および解析の結果、その正体はバックアップメモリーやパターン学習用SRAMなどに偽装、潜伏し、アクセスした対象への迅速な感染と発症を繰り返し、さらにはプログラム改変や論理的排除による抹消を見越した自己修復機能も備える凶悪なコンピュータウイルスであると判明した(シバとの検証中に納得の行く理論値を得られず投げやりになった遊馬が「やっぱりトロイの木馬?」とぼやいたとおりの結果だった)。
※シバが技術指導でアメリカに短期赴任する前、本庁から98式へのHOS搭載の命令が下りていたが、HOSを「素性の知れないOS」と断じ98式に搭載する気にならなかったシバは、HOS起動画面のダミーだけ組み込んで中身のOSは書き換えずHOSのディスケットを篠原重工に送り返し、その事実を黙ってアメリカに単身赴任しており、この英断によって特車二課のレイバーは暴走を免れていたのである(シバ曰く「おやっさんの教育の賜物」)。
HOS搭載の起動ディスケットを中継してこのウイルスに感染したレイバーは、規定周波数の低周波を感知するとブラックスクリーンに切り替わり、画面中に赤文字で「BABEL」と表示され続けるだけで一切の人為的制御を受け付けない状態となるが、
このウイルスの最も恐ろしい特徴は、「起動ディスケットを排出する」「リセットスイッチでシステム全体を初期化する」といった電子スイッチ経由の強制停止行為の無力化、つまり「OS範疇外の制限すらも無効化して感染したレイバーを起動する」(たとえメイン電源を切っていても、バッテリーを搭載している部分に潜伏したウイルス本体が低レベル制御装置を操作して勝手に起動する)という点にあり、これに加えてHOSを排除しようとする者を敵対認識して無差別に襲撃するようになる。
また、ウイルスの感染対象はレイバーに限らず、デジタルデータを読み込み可能なコンピューターならHOSの接触した時点で全て汚染対象となるため、劇中では篠原重工の製造工場ライン制御システムや方舟のメインコンピューターなど、直接HOSの利用できないコンピューターまで制御不能の暴走状態に陥っている。
これらの症状によってレイバー搭乗者、あるいは遠隔操作をしている者、そしてコンピューターの使用者は、感染したコンピューターを機能不能状態になるまで物理的に破壊するか、バッテリーを抜き取るなど搭載する全ての電源の接続を物理的に断ち、起動不能にする以外にする一切の停止手段を失う(コンピューター制御下に無いヒューズやサーキットブレーカーのような物理スイッチなら有効だが、こういった非常用スイッチ類は一般的には事故防止のためエンジンルーム内のような、操縦席から離れた容易に操作できない場所に装備されているため運転中は操作困難)ため、篠原重工の製造ラインコンピューターの暴走では電源ブレーカーを落として強制停止し、HOSでの運用を前提とした零式が暴走した際には泉野明が外部からメモリーを破壊して沈黙させる結果となった。
結末
前述のとおり 帆場の企みの完成を阻むべく特車二課第二小隊による「方舟解体作戦」が決行され、帆場の残したトラップを含む数々の困難を乗り越えて作戦自体は一応成功に終わる。しかし、事件全体で見た場合、帆場の企みの一部でしかない「レイバーの暴走」を止めて被害を最小限に納めることしかできず、実質的には勝利したのは帆場の方であった。
帆場が仕掛けた試みのほとんどが、帆場が死亡した時点で完結していて容易には取り返しがつかない状態だった上、方舟を失うことでバビロンプロジェクトはスケジュールの遅延など大幅な後退を余儀なくされ 帆場が意図していた可能性が高い「首都東京の発展と開発=バビロンプロジェクトへの妨害」という目標は達したためで 劇中でも後藤喜一が「どっちに転んでも分の無い勝負」「あいつが飛び降りた時に、本当の勝負はついていたのかもしれん」と、作戦開始前に既に勝負はついていた(しかも負け戦)であったと吐露している。
ちなみに事件後、不可視属性ファイルに収められたウイルスプログラムを完全解明したMITの調査チームによってワクチンプログラムが開発され、部分的ではあるがHOSの危険性を認めた時点からの省庁関係への根回しと併せて、あわや大惨事の責任を負うところであった篠原重工は倒産の危機を免れた。
評価
『機動警察パトレイバー the Movie』が封切りされたのは1989年(平成元年)であるが、既に
の3点をテーマに据えた鋭い先見性で高い評価を受けている。
また、放映当時からHOSの起動画面に衝撃を受けた者が多く、古くはPC-9801上でHOSの起動画面とログインウィンドウを再現するMS-DOS用差し替えプログラムが存在し、以降もスクリーンセーバーや壁紙などが有志の手によって作り続けられており、近年ではアニメをテーマとしたコラボレーションTシャツのロゴデザインにも起用されている。
その他
篠原重工八王子工場の一室に保管されていたマスターコピー版HOSに限っては、「Go to, let us go down, and there confound their language, that they may not understand one another's speech.」という『旧約聖書』創世記11章7節の文言が表示されてからウイルスが覚醒する描写が成されている。
この文言は、押井守が自身の作品に度々引用している『世界古典文学全集5・聖書』(筑摩書房)からのものであり、後藤隊長の暗唱によって
- 英:And the LORD came down to see the city and the tower, which the children of men builded. Go to, let us go down, and there confound their language, that they may not understand one another's speech. Therefore is the name of it called Babel.
- 訳:主は天より降り、人の子たちの建てる街と塔をご覧になった。さあ、我らは地に降って彼らの言葉を乱し、互いに言葉が通じないようにしよう。これにより、その街の名はバベルと呼ばれた。
とする全文が明らかとなるが、これは創世記の11章5節と7節、9節序文を一纏めにしたものである。
なお、漫画版では単に「レイバーの性能を向上させる篠原重工製新型OS」として描かれている上に開発者の帆場も存命であり、普及に関して『SEJ』(シャフト・エンタープライズ・ジャパン)と協力関係にあるなど設定が大幅に異なる。
勿論、ウイルスなど仕込まれておらず、中身についてもシバ曰く「搭載したからといって劇的に機体性能は向上せず、あくまでも操作環境統合用のOS、要するに篠原製のレイバーの操縦に練達した搭乗者が別のメーカー製のレイバーにいきなり乗っても同じように動かせる(=動作の最適化ができる)ようになり、結果として作業効率が良くなるから機体性能が向上したように感じるだけ。機体性能も向上はするが、平均して2~3%程度」、遊馬や後藤曰く「本来、(バビロンプロジェクトのような)大規模集中工事用の機械に搭載、使用してデータのフィードバックやノウハウを蓄積・共有して初めて意味があるものであり、イングラムのような出動ごとに状況が異なる、かつ迅速な収束が望ましい機体に載せて使用してもあまり意味がない」というものになっている。
作中では、イングラムに対しても導入が検討され、既に実装されていたAVS-98に太田功と野明が実際に搭乗し、模擬戦が行われた。結果としては、太田曰く「使える」、野明曰く「動きに迷いがなくなって嫌」との感想をそれぞれ抱いている。
状態ごとの画面
- 起動画面(マスター版)
- 起動画面(ウイルス分離版)
- ブラックスクリーン時
関連イラスト
- スマートフォン風