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幼帝誘拐編集

宇宙暦798年/帝国暦489年7月、門閥貴族の残党であるランズベルク伯アルフレットレオポルド・シューマッハが皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を誘拐する事件が起きた。

この2人の黒幕にはフェザーン自治領アドリアン・ルビンスキーがおり、エルウィン・ヨーゼフ2世と門閥貴族の残党たちを自由惑星同盟へ逃がし、亡命政府を樹立させるつもりだった。しかしルビンスキーの真意としては、銀河帝国の実権を握った宰相兼最高司令官ラインハルト・フォン・ローエングラムに「幼帝を誘拐した門閥貴族の残党とそれを匿った同盟」を滅ぼさせ、その見返りとして新帝国における経済上の実権を得ることにあった。

一方のラインハルトもランズベルク伯とシューマッハが入国したことをすでに察しており、その目的を「幼帝誘拐」であると把握していた。そこであえて誘拐を成功させ同盟に彼らを引き込ませたことを確認した段階で、幼帝誘拐の実行犯とそれを匿う共犯者たる同盟の非を打ち鳴らし一挙に両者を滅ぼすことを考えた。さらに彼らの背後にフェザーン(正確にはルビンスキー)がいることも察したラインハルトは、ルビンスキーの腹心で在帝国の弁務官ニコラス・ボルテックに対しルビンスキーに代わる自治領主職と引き換えに、フェザーン回廊の通行権を要求し受諾させた。


8月20日、同盟最高評議会議長ヨブ・トリューニヒトによる演説で、エルウィン・ヨーゼフ2世の亡命と元フェザーン駐在弁務官レムシャイド伯ヨッフェンを首班とする「銀河帝国正統政府」樹立を宣言した。

事態を知ったラインハルトは同日予定通り皇帝を誘拐した門閥貴族残党と同盟を糾弾、同盟に対し宣戦を布告した。9月にはエルウィン・ヨーゼフ2世を廃して生後8か月の赤子であるカザリン・ケートヘン1世を新皇帝として擁立した。

トリューニヒトの演説を聞いた同盟軍イゼルローン要塞駐留艦隊司令官ヤン・ウェンリー大将は「幼帝誘拐」の裏にあるラインハルトの思惑、さらにフェザーン回廊を使っての同盟への侵攻まで看破した。

一方同盟政府はこれまで通り「帝国軍はイゼルローン回廊へ向かうだろう」と考え、「イゼルローン要塞とヤン・ウェンリーがいれば安泰」と思っていた。さらに先の第8次イゼルローン要塞攻防戦直前に査問会を開催しヤンをイゼルローンから召喚したことで危機に陥ったことから、政治的脅威であるヤン本人をイゼルローンから引きはがすより、その周囲にいる人間を削いでヤンの力を落とす方がよいと考えた。手始めに正統政府の軍務尚書に指名されたウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ客員中将と副官のベルンハルト・フォン・シュナイダー大尉、さらにヤンの養子であるユリアン・ミンツ曹長を少尉昇進の上でフェザーン駐在武官へ「栄転」させた。

ヤンはユリアンに、上官である宇宙艦隊司令長官アレクサンドル・ビュコック大将へ帝国軍のフェザーン回廊からの侵攻について言付け政府へ具申するよう伝えた。ビュコックは意見を容れたものの、政府や統合作戦本部からは無視されることになった。

第9次イゼルローン要塞攻防戦、フェザーン侵攻編集

11月20日、オスカー・フォン・ロイエンタール上級大将を司令官に、ヘルムート・レンネンカンプコルネリアス・ルッツ両大将を副司令官とする3万6千隻が要塞攻撃を開始。ロイエンタールの旗艦「トリスタン」に薔薇の騎士連隊による強襲戦とロイエンタール対要塞防御指揮官ワルター・フォン・シェーンコップ少将の一騎打ちといった事態も発生したが、戦線が膠着した12月9日にロイエンタールから「援軍の要請」が発せられた。

これを受けたラインハルトは、ウォルフガング・ミッターマイヤー上級大将を司令官とするフェザーン攻略部隊を進発させ、24日ミッターマイヤー艦隊はフェザーンへ侵攻し無血占領。宇宙港封鎖など軍政下におく一方で、一般人への暴行犯に対する公開処刑を行い民心を慰撫した。一方でルビンスキーの捕縛には失敗し、地下に潜伏した彼がその後の災厄をもたらすことは知る由もなかった。

また同盟の弁務官事務所襲撃と航路図の奪取も目標とされたが、ユリアンと武官補のルイ・マシュンゴ准尉の活躍でデータ消去に成功、脱出方法を模索することになった。

28日に第2陣のナイトハルト・ミュラー大将指揮の艦隊が、そして30日「ジーク、マイン・カイザー」「ジーク、カイザー・ラインハルト」の歓声と共にラインハルトの本隊が到着した。

宇宙暦799年/帝国暦490年1月1日、ミッターマイヤー艦隊がフェザーン回廊同盟領出口へ向けて出撃し、同月下旬に帝国軍主力が後を追って出撃。帝国軍出撃を見届けたユリアンたちも独立商船「ベリョースカ」号と契約し、24日フェザーンより出立。途中帝国駆逐艦「ハメルン4」に発見され臨検を受けるも、逆に乗っ取りに成功し同盟領へ脱出した。

帝国軍のフェザーン占領後、ビュコックより自由裁量権を与えられたヤンはイゼルローン要塞の放棄を決定。要塞事務監アレックス・キャゼルヌ少将が脱出計画立案にあたる一方、駐留艦隊分艦隊司令ダスティ・アッテンボロー少将の献策により老朽輸送船500隻を自爆させ、レンネンカンプ艦隊に2,000隻の損害を与える戦果を挙げている。

1月19日ヤンは軍民合わせて500万人と共に脱出、ロイエンタールは空き家となったイゼルローン要塞を占領した。

ランテマリオ星域会戦編集

フェザーン占領の報が同盟に伝わるとトリューニヒトは雲隠れして職務を放棄。代わってウォルター・アイランズ国防委員長が政務を代行する一方、ビュコックは残存兵力を糾合しパエッタ中将の第1艦隊とライオネル・モートン中将の第14艦隊、ラルフ・カールセン中将の第15艦隊、合わせて32,900隻の迎撃部隊を編成した。

一方帝国軍は1月30日にポレヴィト星域にラインハルトの直属部隊とミッターマイヤー、ミュラー、カール・ロベルト・シュタインメッツアウグスト・ザムエル・ワーレンアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト各大将の艦隊、合計154,600隻(戦闘用112,700隻、支援用41,900隻)が集結。一方同盟軍を率いるビュコックと総参謀長チュン・ウー・チェン少将(ハイネセン出撃直前にそれぞれ元帥、大将に昇進)の目論見としては、ヤン艦隊と合流しなおかつロイエンタール軍が帝国軍主力と合流するわずかな時を狙うしかないと考えていた。しかし同盟国内の政情不安から早期開戦せざるを得ない状況になっており、双方の条件をギリギリ満たせるであろう戦場としてハイネセンに最も近い無人星域であるランテマリオで迎え撃つことを決めた。

2月8日両軍は戦端を開いた。帝国軍は「双頭の蛇」の陣形で布陣し、その兵力差を活かして包囲殲滅しようとした。一方帝国軍の陣形を見て取った同盟軍は、逆に帝国軍を引き込んでからの各個撃破をもくろんだが、同盟軍先鋒部隊が帝国軍の進撃に対して恐慌状態となり勝手に戦端を開いてしまう。これにより帝国軍は同盟軍を半包囲したものの、同盟軍もひたすら防御を固め時間稼ぎに徹した。

戦いは丸1日続き、9日11時に帝国軍予備の黒色槍騎兵艦隊が投入されるとともに全軍に対し総攻撃が発令された。これにより同盟軍は総崩れとなったが、時を同じくしてヤン艦隊が帝国軍背後に到着、攻撃を開始したことで帝国軍も一時的に恐慌状態に陥ったことで、同盟軍残存部隊は撤退に成功、ヤン艦隊もユリアンたちを乗せた駆逐艦「ハメルン4」と合流しともにハイネセンへ撤退した。勝利を収めた帝国軍はガンダルヴァ恒星系の第2惑星ウルヴァシーへ移動し基地設営を開始。その間にロイエンタール・レンネンカンプ両艦隊が合流しその戦力を18万隻に増大させた。


ヤン艦隊の蠢動編集

2月13日、ハイネセンに到着したヤンはそれまでの功により同盟軍史上最年少の元帥に昇進し、ヤン艦隊の将帥も同様に1階級昇進、ユリアンとマシュンゴも帝国駆逐艦乗っ取りの功績によりそれぞれ中尉、少尉に昇進した。

ランテマリオ会戦の残存戦力を麾下に収め、同盟軍唯一の機動戦力となったヤン艦隊は2月末より行動を開始、手始めに補給とウルヴァシーの基地設営資材を輸送中のゾンバルト少将の補給艦隊を壊滅させた。

ラインハルトはシュタインメッツにヤン艦隊の捕捉撃滅を命じたものの、3月1日のライガール・トリプラ両星域での会戦で8割の損害を出して敗北。増援に向かったレンネンカンプ艦隊も翌2日、ヤン艦隊の行動に幻惑された挙句損害を出し敗退した。さらにワーレンが同盟基地からの補給物資強奪を進言しタッシリ星域の補給コンテナ群を襲撃したが、ヤンがコンテナにヘリウムを仕込んでいたことで大爆発を起こし、混乱を起こしたワーレン艦隊をヤン艦隊が襲撃したことで敗北した。

バーミリオン星域会戦編集

タッシリ星域海戦後、ワーレンの偵察によってヤンが同盟領内の補給基地を転々としながら帝国軍にゲリラ戦を挑んでいることが明らかとなった。

ヤンの狙いは帝国艦隊を各個撃破し続けてラインハルトを引っ張り出し、戦場で討ち取ることで帝国内の内乱を惹起することにあった。ヤンの狙いを見抜くとともに損害の蓄積に苛立ったラインハルトは、提督たちの反対を押し切って各艦隊を各地に派遣し、みずから囮となってヤン艦隊をおびき寄せる策に出た。一方のヤンも帝国艦隊の分散と同時に、各艦隊がラインハルトの本隊から最も遠方に達するころには本隊がハイネセンに到着してしまうという巧みな行動を行っていることを察知し、想定よりも早い段階で決戦に挑まざるを得ない状況となってしまう。

4月12日、ヤン艦隊は最後の補給地である小惑星ルドミラの補給基地を出撃した。なお寄港中、ヤンは副官であるフレデリカ・グリーンヒル少佐にしどろもどろになりながらプロポーズし、フレデリカも同様になりながら受け入れた。

陣容編集

帝国軍編集

艦艇18,860隻

なお首席秘書官ヒルデガルド・フォン・マリーンドルフはウルヴァシー残留を命じられた。

同盟軍編集

艦艇16,420隻

  • 総司令官:ヤン・ウェンリー元帥
  • 副官:フレデリカ・グリーンヒル少佐
  • 副司令官:エドウィン・フィッシャー中将
  • 参謀長:ムライ中将
  • 副参謀長:フョードル・パトリチェフ少将
  • (フェザーン駐在武官:ユリアン・ミンツ中尉)
  • (フェザーン駐在武官補:ルイ・マシュンゴ少尉)
  • (イゼルローン要塞防御指揮官:ワルター・フォン・シェーンコップ中将)
  • (イゼルローン要塞事務監:アレックス・キャゼルヌ中将)
  • (銀河帝国正統政府・軍務尚書:ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ元帥)
  • (銀河帝国正統政府・軍務尚書副官:ベルンハルト・フォン・シュナイダー中佐)
  • 分艦隊司令官:ダスティ・アッテンボロー中将、マリノ准将、(ライオネル・モートン中将)、(ラルフ・カールセン中将)
  • 空戦隊長:オリビエ・ポプラン中佐、イワン・コーネフ中佐
  • 薔薇の騎士連隊長:カスパー・リンツ大佐

()内の人物は、同盟政府の正式な許可なし(黙認は得ている)に参加している。

経過編集

4月24日、両軍はバーミリオン星域に布陣。3日間の消耗戦の後、27日同盟軍が速攻に転じるとともに帝国軍はラインハルトの策による24段の防御陣で対抗した。これは突破された部隊も最後尾で再編されるという無限に続くものであり、同盟軍を物心両面で追い詰めていった(ただし果断速攻を旨とするラインハルトの性には合わなかったようで苛立ちを隠せてなかった)。また同時に両軍の単座戦闘艇による空戦も発生したが、同盟軍側が第2空戦隊長コーネフ中佐、第1空戦隊アップルジャック中隊長モランビル大尉らが戦死するなど大きな損害を受けた。

30日、ラインハルトの策をユリアンが見破ったことでその目的を察したヤンは作戦を変更。小惑星帯へ退きマリノ分艦隊が帝国軍左翼へ移動を開始し、それを主力と判断したラインハルトは防御陣を解き追撃を命じた。しかしこれは隕石をけん引することでかさ増しした囮であり、同盟軍主力は右翼方向からラインハルトの本隊を叩こうとした。帝国軍分艦隊群は横撃するため回頭したが、崩されたと思われた同盟軍部隊の包囲下に陥ることになった。

5月2日、同盟軍部隊は総旗艦「ブリュンヒルト」間近まで迫ったが、ミュラー艦隊が来援。強行軍で全軍の6割ほどの戦力であったが、「ブリュンヒルト」との間に割り込み間近に迫っていたモートンの旗艦「アキレウス」を沈め戦死させた。再び戦線が膠着する一方で弾薬の底が見え始めた同盟軍は、分艦隊群の包囲網の一部を解きミュラー艦隊と分艦隊群が交錯した瞬間に集中攻撃を実施、カルナップが戦死しミュラー艦隊旗艦「リューベック」も大破の後沈没した。ミュラーは脱出し、その後3度にわたって旗艦沈没・変更の憂き目にあったものの奮戦し続け、その勇戦ぶりから「鉄壁ミュラー」の異名をまつられることになる。

それでも5日、再びヤン艦隊は「ブリュンヒルト」を再度射程に収めた。同盟軍の勝利が決定されようとしたその時…


同盟政府からの無条件停戦命令が下されたのだった

ハイネセン占領編集

5月2日、ヒルダが独断でミッターマイヤーと会談。戦況の不利を伝え、バーミリオンより近いハイネセンへ向かいこれを占領し、ヤンへの停戦命令を出させることを献策した。

ミッターマイヤーはこれを了承し、最も近い宙域にいたロイエンタールと共にハイネセンへ急行した。

4日、帝国軍はハイネセンへ到着。同盟政府へ無条件降伏を要求するとともに衛星軌道上から統合作戦本部ビルへ脅しの攻撃を行った。ビュコックやアイランズは抵抗しようとしたが、いつの間にか復帰したトリューニヒトが即座に降伏を決め、地球教徒たちにビュコックたちを拘束させた。

これによりバーミリオン会戦、ひいてはラグナロック作戦は帝国軍の勝利となったものの、「勝利を譲ってもらった」形となったラインハルトは、しばらくの間ヒルダに複雑な感情を抱かずにいられないことを吐露した。

戦後編集

5月25日、帝国と同盟の講和条約「バーラトの和約」が締結されたが、主な内容は

・ガンダルヴァ星系および2つの星系を帝国へ割譲

・同盟領内での帝国船の自由通行権

・年間1兆5000億帝国マルクの安全保障税の支払い

・戦艦及び空母の廃棄

・帝国との「友好・協調」を阻害する活動を禁ずる国内法制定

・惑星ハイネセンに帝国皇帝の代理たるの高等弁務官府設置

であり、事実上同盟が帝国の属領へ成り下がったことを示す内容であった。

同日トリューニヒトは最高評議会議長を辞任し、家族や財産とともに帝国へ亡命。後任にはジョアン・レベロ元財務委員長が就任した。同盟軍ではヤン、フレデリカ、ユリアン、マシュンゴ、アッテンボロー、シェーンコップ、ビュコックが退役。統合作戦本部長に後方勤務本部長ロックウェル大将が、宇宙艦隊司令長官代理にチュン大将が就任した。

6月10日、ヤンとフレデリカは結婚式を挙げ短い新婚生活に入った。


銀河帝国正統政府はハイネセン占領により瓦解、レムシャイド伯は自殺し関係者は拘束された。エルウィン・ヨーゼフ2世はランズベルク伯とシューマッハによって連れ出され行方不明となる。

メルカッツとシュナイダーは、バーミリオン戦後にヤンから「後日のために」と預けられた60隻の艦船と参加を表明したポプランやリンツ11,820名の将兵とともに、「動くシャーウッドの森」艦隊を組織し潜伏することになった(表向き全員戦死したとされる)。


帝国軍は駐同盟高等弁務官となったレンネンカンプ、ガンダルヴァ駐留軍司令官となったシュタインメッツを残しオーディンへ帰還。

6月20日、オーベルシュタインはカザリン・ケートヘン1世の父ユルゲン・オファー・フォン・ペグニッツ公爵に対し、退位と帝位をラインハルトに禅譲する旨の宣言書に署名させた。これによりゴールデンバウム朝は490年でその歴史に幕を下ろした。

6月22日、ラインハルトは皇帝に即位。ローエングラム朝銀河帝国の幕が開けた。

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銀河英雄伝説 銀河帝国(銀河英雄伝説) 自由惑星同盟

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