概要
空母とは、航空母艦を略したものであるが、人口に膾炙したこちらの方で解説する。
主兵装として航空機を搭載し、それらの運用のため必要な格納庫と飛行甲板を擁する軍艦のこと。英語では「Aircraft-Carrier(航空機輸送艦)」と呼ばれる。
また、特に空母で運用するために作られた航空機を艦載機と呼ぶ。艦載機は任務により戦闘機、攻撃機、偵察機などに分けられる。
搭載される艦載機と艦隊との組み合わせで形態・運用は様々。狭義の空母は固定翼機(飛行機)を発着艦させることのできるもの(正規空母および軽空母)を指す。
現用型としては「スチームカタパルト」を有したアメリカの空母が有名だが、実際運用されている空母全体に対する割合でいえばむしろ「マイナー」な艦種である。
多数の航空機を搭載、発着艦させる性質上、大型で巡洋艦型の船体に、大出力の機関を搭載しており、機動力、航続力、最大速度に優れる反面、甲板の殆どを滑走路としてしまうため火器の搭載が難しく防御力に劣る場合が多い。
(実際の甲板の長さでは、それなりの速度で航行している状態でないと艦載機は飛び立てない、このため「速度に優れる」というよりは「高速で航行できなければならない」のである。)
戦闘能力
搭載された航空機が最大の武器といえる。
直接的な武装としては機銃や高射砲(現在はミサイルも)を搭載するがあくまでも防御兵器であり、またそれも十分な数は運用できず、駆逐艦や巡洋艦などの艦艇数隻とともに行動し、艦載機と共に守ってもらうのが基本である。
むしろこういった武装は、周囲の艦艇と艦載機が築いた防空網を潜り抜けてきたミサイルや航空機から身を守るための最後の手段、あるいは気休めでしかない。
対潜水艦戦闘能力も低く、対空火器を設置しない分、爆雷投射器などの対潜兵器を設置するか、対潜能力のある航空機を飛ばして守ってもらうしかない。
随伴艦と艦載機を失った空母はエンジンの付いた板切れでしかない。
運用する国
現在、空母を有している国は米・仏・英・露(旧ソ連)、伊・スペイン・インド・タイ・ブラジル。建造はもちろん、運用にも多額の費用がかかるため、保有できる国は限られる。規模の小さい海軍ではその多額の維持費が他の軍艦の運用を圧迫する。中国も、ソ連崩壊で運用できなくなったヴァリヤーグをウクライナから購入して改修し、訓練用空母「遼寧」として就役させたが今のところ実戦での運用はかなり困難である。
正規空母の運用を最初に始めたのは、イギリス海軍であり、アメリカ海軍・大日本帝国海軍が次いだ。日本海軍は第二次世界大戦時には世界屈指の機動艦隊を保有していたが、現在の海上自衛隊は専守防衛の方針や予算の都合、同盟国の意向などといったさまざまな理由により固定翼機を搭載する空母は保有していない。
アメリカ空母艦隊の「お手紙」
現在はまず起こらないが、かつては同じ海域に複数の空母が展開し、作戦を共にすることが殆どだった。(~ベトナム戦争)
当時は空中給油などの技術が無く、戦闘で着艦が不可能になったり、事故で飛行甲板が閉鎖されると艦載機は行き場を失ってしまう。このような場合に対処するために、空母を複数同時に運用していたのである。
そうやって本来の所属とは違う空母に緊急着艦した機も、とうぜん着艦した空母の整備員によって整備が行われる。
これで所属が変わるわけでは無く、修理が終われば本来の空母に復帰する。
本来の空母に戻るとき、アメリカでは整備員が機体に「落書き」をして帰還させる風習があった。機体を便箋に見立て、あちらの整備員にメッセージを伝えようという訳である。
そのメッセージは写真にも多く残されており、例えば
『共に戦えてうれしい。一緒にがんばろう!』といった激励メッセージや、
『自分が整備を担当した〇〇だ』のような自己紹介のようなメッセージが機体を飾っている。
また『(艦を間違える間抜けは)空軍に違いない』といったからかいのメッセージもある。
このメッセージはチョークで書き込んであり、布でふき取れば簡単に落とせる。
もちろん長く飛べば吹き飛んで消えるのだが、同じ艦隊の空母同士なので落ちるほど長くは飛ばない。メッセージはそのまま残るのだ。
なお、このような落書きは空母上だけでなく陸上の基地でも行われており、ビジターであっても容赦なくアメリカのオシアナ海軍航空基地に訪れたイギリス海軍空母アークロイヤル(二代目)所属のF4Kに対し『植民地海軍』と書いたりしている。
さらにアメリカだけではなく他国でも行われている(ZAPPINGと呼ばれている)。
他国の場合は交換訓練の際にフランス空軍のミラージュIIIEにイギリス空軍の技術者が下品な落書きをしたり、仕返しにイギリス空軍のハリアーを油性塗料でピンクに染めたり、ニュージーランドのオハケア空軍基地に訪れたイギリス空軍のバルカン爆撃の機首の国籍マークをニュージランド空軍のキウイ鳥マークに描き換えた挙句に飛行隊のインシグニアまで描き加えたり、と様々なものがある。
ちなみに第二次世界大戦中、日本の空母翔鶴から飛び立った攻撃機隊がアメリカの空母ヨークタウンに誤着艦しそうになった事があった。
空母の種類
~空母とついたもの
- 正規空母:「正規」の意味をどう取るかだが、「生まれながらの空母で改造艦ではない」か「空母として一人前の能力を備えている」のいずれかの解釈が多い。日本海軍では前者の用途で用いていた。
- 軽空母:正規空母に比べ、小型で搭載機数や運用能力に劣るもの。
- 特設空母:「特設」とは客船など民間船舶から改装された軍艦を指す日本海軍の用語で、その中でも特設空母とは、他種の軍艦から改造された改装空母とともに正規空母の対義語の一つとなる。隼鷹型の様に正規空母に匹敵する能力を持つ艦から大鷹型の様に速力と搭載量に劣り専ら航空機輸送に従事した艦まで様々である。
- 護衛空母:対潜護衛を主目的としたのでその名がある。空母としては軽空母より更に劣り、速力も遅いが、その分安価であることが多い。
- 装甲空母:飛行甲板に装甲を施し防御力を高めたもの。
- 三段空母:飛行甲板が三段ある空母。マイナー。
- 原子力空母:原子炉を動力源とする空母。
- 潜水空母:潜水艦に空母の機能を持たせたもの。実艦は「看板負け」である。
- ヘリ空母:ヘリコプター専用の空母。
- 宇宙空母:宇宙戦闘艦のうち現実の空母類似のもの
- 氷山空母:氷山を削り空母に改装(しようと)したもの。英国面。
~空母とつかない空母類似艦
- 航空戦艦・航空巡洋艦:戦艦・巡洋艦の航空機運用能力を高めたハイブリッド艦
- 重航空巡洋艦:旧ソ連・ロシアが政治用語として生み出した国内類別。実質は空母。
- 強襲揚陸艦:上陸用舟艇による揚陸能力に加え、空母同様の飛行甲板を持ち、ヘリコプターを用いた上陸やVTOL機を用いた作戦支援を行う能力を持つ艦。
- ヘリコプター揚陸艦:ヘリコプターによる作戦支援と揚陸に特化した艦。ここから強襲揚陸艦が派生した。類例は少ないが海上自衛隊のいずもがこれに近い。
- 水上機母艦:車輪を持つ通常の飛行機を扱う空母に対し、車輪の代わりにフロートのついた水上機を扱う母艦。現在は建造されない。
構造からの分類
島型と平甲板型
第二次大戦までの空母には、以下のような分類があった。
現在の空母は、この分類では全て島型空母となっている。
各国の主な空母
黎明期~第二次世界大戦期
アメリカ : ラングレー エンタープライズ(ヨークタウン級、※2) エセックス級
イギリス : フューリアス(※1) アークロイヤル(初代) イラストリアス
ドイツ : グラーフ・ツェッペリン(未成)
- ※1:世界初の空母は巡洋艦から改装されたフューリアス。最初から空母として建造された初の空母は鳳翔(起工はイギリスのハーミーズが先だったが完成は日本のほうが先だった)。
- ※2:日米が開戦時に保有していた正規空母で生き残った3隻の一つ(他のヨークタウン級はいずれも戦没、他2隻はサラトガ・レンジャー)。後にアメリカの空母の命名規定が変わってもエンタープライズのみ受け継がれているのはこのためである。
冷戦期
アメリカ : エンタープライズ(CVN-65)
イギリス : インヴィンシブル級
ソビエト連邦 : キエフ級
現在(空母類似の艦種もここに記す)
アメリカ : ニミッツ級
イギリス:オーシャン (ヘリコプター揚陸艦)
フランス : シャルル・ド・ゴール・ミストラル級(強襲揚陸艦)
ロシア : アドミラル・クズネツォフ(重航空巡洋艦)
イタリア : ジュゼッペ・ガリバルディ カヴール サン・ジョルジョ級(強襲揚陸艦)
オーストラリア : キャンベラ級(強襲揚陸艦)
タイ : チャクリ・ナルエベト
韓国 : 独島級(揚陸艦)
日本 : ひゅうが型 いずも型 (公式分類はヘリ搭載護衛艦だが、世界的には「ヘリ空母」または「ヘリコプター揚陸艦」として分類される)
将来
アメリカ : ジェラルド・R・フォード級
イギリス : クイーン・エリザベス級
フランス :仮称 PA2(クイーン・エリザベス級とほぼ同型)
インド : ヴィクラマーディティヤ ヴィクラント
ロシア : ウラジオストク級(強襲揚陸艦)