概要
エニックス(現スクウェア・エニックス)より発売されたRPG『ドラゴンクエストⅣ導かれし者たち』に登場するキャラクターで17歳。物語全般の主人公であり、第五章以降で登場する。
かつてブランカの北に住んでいた木こりの男性と、天空から舞い降りた天空人の女性との間に生まれたハーフで、両親の所在については父は雷に打たれて命を落とし、母は天空に連れ戻されたとされている。
本人は自らの出生の秘密を知ることはなくブランカ北にある人里離れた山奥の村で血の繋がらない両親や村人に守られながら育てられていたが、同時にいずれ来る魔族との戦いに備えて、村を守る騎士や魔術師の老人から「勇者」としての訓練を受けている。
リメイク版では「序章」にて平和に暮らしており剣術稽古に励みながらシンシアと楽しく戯れている、幸せだった頃の主人公の姿が描かれる。
その悲惨な境遇から、憂いを帯びた陰のある雰囲気のイラストが比較的多い。
劇中の活躍
魔族の王ピサロ(DQM3ではピサロの振りをした暴将ディオロス)に自分の住んでいる村を発見された事によって村を滅ぼされ、両親や家族同然の付き合いであった者達、そして大事な友人であったシンシアも失い、その仇をとるべく一人で旅立つ事になる。
旅の中で、自分と同じく導かれし者であった仲間達と出会い、彼らの支えを受けながらも勇者として成長していく事になり、アッテムトでは目覚めたばかりとはいえ、封印されていた地獄の帝王・エスタークを倒す事に成功している。…システム上勇者がいなくてもエスタークを倒せるのは秘密だ。
その後、狂気に駆られ進化の秘法を使って異形なる怪物と化したデスピサロとデスキャッスルを越えたデスマウンテンで対峙。最終的にデスピサロを打倒し、魔物に蹂躙されていた世界に平和を取り戻す事になった。
全てが終わった後、もはや残骸しか残されていなかった自分の故郷である村に戻った勇者は、思い出の花畑で命を落としたはずのシンシアと再会(マスタードラゴンが、勇者の活躍の褒賞として生き返らせたとされている)。再び会えた事を喜び会う中、そこへ仲間達が駆けつける形で物語は終わりを迎えている。
異種族の手によって理不尽な理由で大切な女性を殺され、復讐心を持つという点ではピサロと同じだが、その結末はまったく異なるものだった。
その血筋は遥か未来である続編『ドラゴンクエストⅤ』の花嫁とその子どもたちに受け継がれたとされている。
子孫を残した相手は不明だが、男主人公の場合だと、何者か(多分マスタードラゴン)が復活させたシンシアとの間に生まれた子の子孫ではないかと推察されている。
性別が選べる主人公。
小説版
久美沙織の小説版では男で、名前は「ユーリル」。
「あなた」を意味する「YOU」の響きを持つ言葉として作者が選んだ「北欧の冬至祭(ユール)」に由来する。
黒髪に黒い目の少年。日差しの角度によって髪は翠色に見え、感情が高ぶると目は紅玉髄(カーネリアン)に染まる。人里離れた村から出た事はなく、世間を知らない。
勇者ならではの剣と魔法を武器とし、トルネコから受け取った破邪の剣を使う。
幼馴染のシンシアが、自分が覚えている限り全く年を取らない事、尖った耳である事を不思議がっていた。姉のように見守ってくれる彼女に甘酸っぱい恋を覚えて初めての口づけを交わすが、その後村をデスピサロ率いる魔物が襲った事で全てを失ってしまう。この時、デスピサロの裏で暗躍する黒幕からは「黒の皇子」を最高の素材にする為の駒「翠の皇子」として、村が襲われた時に幻術を使って目くらましをかけられた結果生き延びている。
仇を探す為に旅立ち、ブランカからエンドールへと辿り着く。初めて見る「町」に驚きながら、辻占をしていたミネアと出会って「勇者様」と呼ばれるが、自分には覚えがない事だとして激しく反発。マーニャをして「最初は全然勇者には見えなかった」と言われるほど、当初は道に迷った子供のようだった。
その後、トルネコ、アリーナ一行と仲間は増え、キングレオ城にてライアンが加わった事で遂に「導かれし者たち」が一堂に会する。
アリーナとは同い年で、「姫」と「勇者」という重責もあって互いに共感を抱いている。一方でちょっとからかわれてむくれるなど、箱庭育ちゆえの幼い情緒も見られた。
世界樹を経て訪れた天空城では、その出自が語られる。
かつて一人の天空人の女が地上に墜落し、ブランカの木こりの男に介抱された。女は記憶を失い、男と共に過ごす内に愛し合い結ばれる。そして一人の子を産むが、出産の苦痛によって記憶が戻った女は「竜の神」に助けを求め、竜の神が送った一瞥は雷となって夫妻と子を貫いた。
夫は死亡するが、生まれて来た子は肉と霊の間に生まれた為に死ぬ事はなく、竜の神はいずれこの子が広がりつつある闇から世界を救う事になると確信する。そして女は地上の記憶を失って天空へと帰り、竜の神の神託を受けた人々によって作られた村で、その子は大切に育てられる事となった。
ピサロとは「エルフの少女を愛した」という共通点を持ち、まるで光と闇の反転のような存在として描かれる。
サントハイムで入手した「あやかしの笛」を吹いた時には、知らない筈の旋律を奏でる自分が自分でなくなるような恐怖を覚え、イムルで見た夢に従ってロザリーヒルを訪れた時には、再び淀みなく演奏して秘密の入口を開いた。
そのピサロがロザリーを失って放った慟哭の、感情の直撃を受けて一時的に自失するほど強い影響を受け、進化の秘法で不死身の怪物となったデスピサロの本質を唯一人見抜くなど、単純な敵とは呼べぬ存在である事が描かれた。
最後の戦いの後に仲間達が光の中に消えた後、自分が行きたい場所を決めあぐねている所に、懐かしい気配が寄り添う所で物語は終わる。
評価
これまでのドラゴンクエストシリーズの主人公の中でも、その境遇は「悲惨」といっても過言ではない。
マスタードラゴンに生みの父親を殺され、生みの母親と生まれた後に引き離された挙句、勇者としての使命を与えられて生まれた結果、ピサロによって家族や友人、村の人々を殺され、たった一人で魔物の徘徊する外の世界へと投げ出されてしまった主人公は、ピサロへの復讐だけが生きる支えになるも同然で過酷な戦いを続ける事になっている。
しかし、どんなに魔物達と戦い、復讐を終えて世界が平和になったところで、他の仲間達と違って勇者には帰る場所がなく、また平和になった世界で戦う以外の生き方が出来るかどうかさえも分からず、その未来は殆ど絶望的でしかなかったのだが、それでも最終的には天空の世界に留まらず、仲間達と過ごした地上の世界へ帰る道を選んでいる事からも、その芯の強さがうかがわれる。
そんな勇者が、全てが終わった後に、たった一つの生きる希望としてシンシアを取り戻す事になったのは、数少ない「救済」と言える物だろう。
と思われたのだが…。
家族や友人を虐殺され故郷を滅ぼされた主人公よりも、その怨敵で身勝手な理屈で人間を滅ぼそうとしているピサロの方に対し判官贔屓に近い形で人気や同情票が集まり、その結果、ピサロナイトを倒した事で間接的にピサロの恋人であったロザリーを死に追いやってしまった主人公の方が悪いという理不尽な非難を、一部の熱烈なピサロファンから受ける事になってしまっている。
ちなみにPS版で勇者一行がピサロナイトを倒さなくてもエビルプリーストが始末してしまうので、ロザリーは結局エビルプリーストが用意した悪人たちに始末されてしまう。
※以下、リメイク版のネタバレ
運命に操られた哀れで不幸な勇者
判官贔屓の影響でリメイク版では、裏に黒幕がいたとはいえ、ロザリーを間接的に死に追いやった償いをさせられるかの様に、家族や幼馴染みシンシアを差し置いて、1000年に一度しか咲かない世界樹の花でロザリーを生き返らせるという行い、正気に戻ったピサロを仲間にして黒幕を倒しに行く、しかも黒幕のいる場所の関係で馬車を連れられないのにピサロは必ず編成する必要はあるが、主人公は馬車で待機しても良いという、下手すると主人公としての立場さえ失いかねない、主人公(笑)所ではない、主人公(悲)な展開を迎えている。
リメイク版で世界樹の花で両親やシンシアや故郷の村人相手に使って復活させるイベントがなく、世界樹の花でロザリーを復活させた後はデスピサロに復讐し亡き者にする事は不可能となるのであえて裏シナリオをやらずに通常ENDで終わらせるプレイヤーもいる。
家族や友人の仇であるピサロを討つ為に、過酷な戦いの日々を過ごし続けてきたはずなのに、生き返ったロザリーとイチャイチャしているピサロの姿を見せ付けられる主人公の胸中は、いかがな物なのだろうか…?
一方で、「エビルプリーストという真の黒幕が進化の秘法を使って世界を滅ぼすのを阻止する為、利害が一致したピサロと手を組み共闘する」「ピサロとロザリーの二人が、かつての自分とシンシアと重なって情が移り、結果的に彼ら二人を救う道を選んだ」とも考えられなくはない(実際、後者はデスピサロ撃破後に天空人の一人が「思えばデスピサロも哀れな男でした」と発言していた)が、後者はそうだとしてもかなりのお人好しであるし、それをほぼ無関係の(むしろ一部ピサロに煮え湯を飲まされていた)仲間達に手伝わせるというのも妙な話である。
加えて、世界樹の花を使ってまで恋人ロザリーを甦らせて自身を闇落ちから救い、あまつさえ黒幕討伐に協力してくれるという主人公達に対してそれまでの仕打ちに対する謝罪や詫びすら口にしなかったどころか、むしろ「自分の信念に基づき勇者の村を滅ぼした」旨の自分は間違っていない発言さえするピサロに対しては数多くのプレイヤーから猛批判されている。
後の子孫達の一人と、特にその花婿が色々不幸な目に逢いながらも最終的に幸せを勝ち取った事を鑑みても、ドラゴンクエストシリーズにおいてトップクラスの不幸な主人公であるのは間違いないであろう。
特徴
多くの武具を装備する事や「ギラ」・「イオラ」などの攻撃呪文、「ベホイミ」・「ベホマズン」などの回復呪文、「マホステ」・「アストロン」などの補助呪文を使うバランスタイプで勇者専用のデイン系攻撃呪文やそして彼(女)のトラウマともいえる「モシャス」が使える(リメイク版ではギガソードに変更)。
ステータスは全体的に高いがすばやさだけが低め。最終的にHPはライアン(リメイク版では上回る)、ちからはアリーナ、MPはマーニャやブライ(リメイク版ではクリフトやミネアにも)に抜かれてしまうが、MP以外は差は僅か。
特にファミリーコンピュータ版においては仲間がAI操作になって行動が安定しないこともあり、唯一操作が可能な勇者は最終的に攻撃・回復・補助全てに優れた器用万能的なキャラに育つ。
山奥の村の人々
竜の神マスタードラゴンの神託を受けた人々によって作られた村には、商人や農民など普通の人間と、剣士や魔法使いに代表される特殊な人間、そしてエルフで構成されている。小さいながらも平穏で豊かな村であったが、魔軍によって壊滅の憂き目を見る。
- 両親:勇者の養父母。釣り好きで実直な父は陽気で料理上手な母と共に勇者を健やかに育てた。ピサロに攻め込まれた時、今まで実の親だと嘘をついていた事を詫びつつ勇者を逃がし、滅びる村と命運を共にした。
- シンシア:勇者の友達でエルフ。男の子を選んだ場合はガールフレンド、女の子であれば気の良いお姉さんとして勇者に接して来る。「モシャス」の呪文で勇者の身代わりとなり死亡。ゲームEDでご都合主義のように復活しているが、シンシア復活の奇跡はマスタードラゴンの仕業と推測する事も出来る。一度別れた勇者の仲間たちも何故か二人を祝福するかのように現れるが、彼らはマスタードラゴンにリリルーラか何かで飛ばされた可能性がある。
小説版ではシンシアの幻を見るという形に落ち着いている。
- 村人達:田舎訛りの農夫やおしゃべりを楽しむ老人、そして行き倒れの男を助けた宿屋の主人など勇者を優しく育んだ心の温かい人々。だが、その温情が仇となってピサロ率いる魔族の襲撃を招き、全員皆殺しとなってしまった。
山奥の村の南に住む老人
旅を始めた勇者が最初に出会う老人。話しかけると「一晩泊っていきやがれ」と、乱暴な口調で一泊させてくれる(無料。勇者が他のメンバーと合流した後も泊めてくれる)。ブランカ城に住む老人が「北の森(=山奥の村の南)にきこりの親子が住んでおり、息子は森の中で会った娘(実は主人公を産んだ母親)と結婚した後に雷に打たれて死亡(実行犯がマスタードラゴンに仕える天空人であり、マスタードラゴンが直接彼等を始末しようと動く前に行動していた事が天空の城の日記で確認できる)し、残された父親は今でも1人できこりをしている」という話をするが、その父親がこの老人のことだと思われる。
実際に小屋の横にはお墓があり、更に天空城にこの時に息子と結婚した主人公の母親で天空人の女性らしき人もいる。これらの状況を繋ぎ合わせると彼は勇者の祖父ではないかという説がある。しかし、ゲーム本編ではぼかして公式発表はされていないため真実はわからない。4コマでは時折、勇者と老人の祖父孫水入らずなネタもあったりする。
リメイク版ではパーティの先頭にだれがいるかで呼び方も変わり、男勇者とクリフトとホフマンとピサロは「ガキ」になり、女勇者とアリーナは「じょうちゃん」になる。また、ライアンとトルネコとパノンは「おっさん」、ブライは「じいさん」、マーニャとミネアとルーシアは「べっぴん」と、性別や年齢で呼び方も変化しているが、いずれにしても一泊させてくれるのに変わりは無い。
ただしドラン先頭時だけは魔物と認識してしまうため、さすがに無理。
外部出演
大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL
「勇者」のカラーバリエーションの1つとして男勇者が参戦。
詳細は勇者(ファイター)を参照。
ドラゴンクエストモンスターズ3
本編中に男勇者が出演している。
女勇者?お察しください。
なお、本作ではピサロが村を滅ぼした事が濡れ衣になっている。
ピサロと戦う必要が無くなった後の最終的な動向は不明。
関連イラスト
男勇者
女勇者
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関連タグ
ドラゴンクエストⅣ 勇者 男勇者(DQ4) 女勇者(DQ4)
ライアン アリーナ クリフト ブライ トルネコ マーニャ ミネア
他作品
- ダイ(ダイの大冒険):『ダイの大冒険』の主人公。特殊な血筋と人間との間に生まれ、勇者として世界を救うドラクエ作品繋がり。