概要
JR九州が運営する新幹線路線の1つ。2022年9月23日に武雄温泉駅(佐賀県武雄市)~長崎駅(長崎県長崎市)間が部分開業。
整備新幹線の一つであり、全区間がフル規格で開通すれば新鳥栖駅〜長崎駅間を結び、九州新幹線の博多駅〜新鳥栖駅間への乗り入れ予定や山陽新幹線への直通計画も構想されている。
整備計画の法令上の名称は単に「九州新幹線」であり、これは博多駅〜鹿児島中央駅間の路線と新鳥栖駅〜長崎駅間の路線の両方を現す。当初は前者を「九州新幹線(鹿児島ルート)」、後者を「九州新幹線(長崎ルート/西九州ルート)」または「長崎新幹線」と呼称して区別していたが、本区間の路線名称が決定した後は前者を「九州新幹線」、後者を「西九州新幹線」と呼称するようになった。
2008年(平成20年)4月28日に武雄温泉駅〜嬉野温泉駅〜諫早駅間が先行して着工された(工事実施計画は3月19日に認可申請、3月26日に暫定整備認可)が、2011年(平成23年)12月26日に武雄温泉駅〜長崎駅間(66㎞)がフル規格で一体整備されることが決定。2012年(平成24年)6月29日に認可された(認可申請は6月12日)。この区間は2022年(令和4年)9月23日に開通する予定。
新鳥栖駅〜武雄温泉駅間は未着工となっている(この件については後述)。当初の計画ではフリーゲージトレインが運行される予定となっていたが、技術的にハードルが高く試験車両も所定の性能をクリアすることができず導入は中止、結果として頓挫する形となった。
佐賀県工事区間建設問題
新鳥栖駅~佐賀駅〜武雄温泉駅間の建設について、佐賀県は難色を示しており、2019年(平成31年/令和元年)には県知事が「佐賀県は新幹線の整備をこれまでも求めていないし、今も求めていない。」とまで発言している。
この問題の背景としては
- 佐賀県、特に人口の多い佐賀市にとって重要なのは博多駅までのアクセスであり、わずかな時短と引換に大幅な値上げを強いられるのは受け入れ難い。
- 博多駅~佐賀駅間は50km程度の距離だが、各種割引を駆使すると普通電車とほぼ変わらない値段で特急に乗車可能で、結果朝ラッシュ帯には普通よりも特急のほうが本数が多いといった具合に安価な特急への依存度が高く、新幹線による値上げは博多との流動に影響が大きく直結する。(ただし新幹線化でも高速バス等との兼ね合いもある以上大した値上げはないと思われる)
- そのくらいの距離は通勤特急なり快速なりで解決しそうにも思えるが、似たような事情だった鹿児島本線鳥栖以南は通勤特急廃止&データイムの博多直通消滅という末路を辿っている。
- このように享受できるメリットが少ないのに対して建設費用は距離に応じて数百億円もの負担が必要であり、その上並行在来線の第3セクター移行による負担増までのしかかる。(ただし輸送断面からもともと分離の可能性は低い)
……と、デメリットばかりでメリットが無いというのがある。
また製薬や工業・物流等のビジネス色が強い鳥栖市には既に新大阪方面に繋がる新幹線駅が有り、遠方からのビジネスニーズには適用されていること、(佐賀市はどちらかというと官公庁の街である)またこの新幹線駅が佐賀駅からも6駅(約20分)とそう離れてはいない位置にある事も影響している。
2018年(平成30年)になってフリーゲージトレイン導入が断念されたと報道されたが、新鳥栖~武雄温泉をフル規格で建設するには佐賀県の認可が必須であり、まだハードルは高い。当面は鹿児島ルート初期開業時のようにリレーかもめとの乗り換え方式で凌ぐ予定。
しかし、長崎本線自体も江北駅~諫早駅間が単線状態である事、暫定接続駅である武雄温泉駅がある佐世保線に至っては全線単線且つ最高速度が95km/h(新幹線開業後は設計最高速度を130km/hに引き上げ)、江北駅の平面交差など設備面でも問題はある。(なおJR九州はこの問題に対して佐世保線の大町駅〜高橋駅間において複線化工事を行い対応している)
フル規格での着工は、
- 並行在来線をJR九州が責任持って継続するか、長崎県か国がほぼ全額を負担して維持する。
- 佐賀県の地元負担の軽減、はっきり言うとほぼゼロでない限り首を縦には振らないと思われる。
- 速達列車の佐賀駅停車。
- 新幹線開業後も在来線特急時代と同等の所要時間・サービス・価格の維持
- 鹿児島ルートとの兼ね合いで新大阪・博多発着が出来るのか?
- 長崎ルート開業により本数が減少すると噂される熊本・鹿児島方面の本数問題。
- ルート選定の影響による、武雄温泉駅~佐世保駅・肥前鹿島駅・ハウステンボス駅への速達列車を開業後どうするか。
と、これらのハードルを乗り越えることが求められる。
またその他にも佐賀市近辺で懸念される点としては
- 佐賀駅〜新鳥栖駅間を在来線沿いに直線で敷設した場合、吉野ヶ里遺跡群を横断する事を避けられないがそれをどうするのか
- これまで在来線に隣接する地域で行われてきた佐賀インターナショナルバルーンフェスタへの影響(在来線に沿う形で高架線のフル規格で建設された場合、確実に影響が出る)
- 佐賀平野(具体的に言うと佐賀駅〜江北間)は日本でも有数の軟弱な地盤でありそれに対する工事費用の高額化・工期の長期化への懸念、などがある。(元々上記のフリーゲージトレインが導入されたのもこれが遠因であった)
この佐賀平野の軟弱地盤は長崎本線が非電化の時代から泣かされていた。
SL時代は貨物列車こそD51が鹿児島本線から直通していたが、寝台特急「さくら」など鳥栖駅を通過し長崎本線に入る優等列車は博多駅で、通過しない列車は鳥栖駅で軸重が非常に重いC59から軸重が軽いC57やC60と交換するのが常であり、C60が門司駅から直通することもあった。また肥前山口駅(現・江北駅)では転車台が置けずデルタ線で対処していた。
電化工事の際も架線柱を立てるのに難航、特殊な両側支持の門型架線柱が導入されたがそれでも1975年3月の山陽新幹線全線開業に間に合わず、電化開業も1976年7月までずれ込み鹿児島本線全線電化から約6年、日豊本線南宮崎電化と比較しても2年以上遅れる結果となった。ちなみに長崎自動車道はこの佐賀平野をできるだけ避けて山裾を通るようなルートで建設されている。
略歴
2020年(令和2年)
- 9月24日、2022年秋を目処に九州新幹線長崎ルート(武雄温泉駅〜長崎駅間)の暫定開業を発表。
- 10月28日、N700Sの6両編成を導入し、列車名は「かもめ」にすることと、武雄温泉駅で接続する在来線特急の列車名を「リレーかもめ」にすることを発表した。(参照)
2021年(令和3年)
2022年(令和4年)
- 1月6日~11日、N700S(Y1編成)を下松→(海上輸送)→川棚→(道路輸送)→大村経由で車両基地に搬入。7日には、玄界灘にてJR九州保有の船「クイーンビートル」から、輸送船を見学するツアーも行われた。(参照)
- 2月22日、開業日を2022年9月23日にすると発表。また、同日開業予定の2駅についても、仮称だった嬉野温泉駅と新大村駅の名称で正式決定することも決まった。(参照)
- 4月27日、JR九州のプレスリリースにて、西九州新幹線武雄温泉~長崎間の運賃及び特急料金を発表。
- 5月10日、試験走行を開始。初日は新大村駅~長崎駅を低速走行。新大村駅~武雄温泉駅は翌日走行。
- 6月10日、運行ダイヤなどを発表。
- 7月29日~31日、かもめ楽団港イベント。海上輸送中のY4編成(ラッピング無し)を、唐津港、佐世保港、長崎港に入港させ、セレモニーを行うイベントを実施。ただし、30日の佐世保港と31日の長崎港のイベントは、台風に影響で海が荒れていたため、輸送船は入港せず、セレモニーのみのイベントとなった。(参照)
- 8月7日、かもめ楽団駅イベント。武雄温泉駅→長崎駅の片道1往復で、1号車に「HAPPY BIRTHDAY!」とラッピングした車両を運行。各駅停車で、行先表示は「かもめ1号」。
- 8月23日、指定席の前売りを開始。かもめ1号、2号は10秒で完売。
- 9月10日、報道関係者向けの試乗会を実施。
- 9月18日~19日、一般人向けの試乗会を実施予定だったが、台風14号の接近に伴い中止。計40本の列車に、抽選で選ばれた1万2000人が乗車予定だった。
- 9月23日、開業。ブルーインパルスが記念飛行するなど、各駅で開業記念イベント開催。
2023年(令和5年)
- 8月19日~23日、車両検査時の予備車を確保するため製造したY5編成を下松から大村へ輸送。10月下旬より運用開始予定。
- 9月23日、開業1周年イベントを長崎駅で開催。「メイクアップかもめ」ラッピング車両(Y2編成)を使用した「GO WEST!」号を運行。
駅一覧
●:停車 ▲:一部停車
駅名 | かもめ | 乗換路線 | 備考 |
---|---|---|---|
武雄温泉 | ● | 佐世保線 | リレーかもめ対面乗換駅 |
嬉野温泉 | ▲ | 新幹線単独駅 | |
↑佐賀県/↓長崎県 | |||
新大村 | ▲ | 大村線 | 車両基地最寄り駅 |
諫早 | ● | ||
長崎 | ● |
|
各駅停車タイプ…25本
嬉野温泉通過…12本
嬉野温泉・新大村通過…7本 合計44本(22往復)
新大村~長崎(区間列車)…3本
※リレーかもめ22往復中5往復は、みどりとして佐世保駅まで運行。
車両
N700S 6両編成
型式番号がJR東海・JR西日本のN700Sとは異なり、700系と同じ付け方となっている。製造番号は8000番台を名乗る。
指定席は2+2列シート、自由席は3+2列シート。
号車 | 1号車 | 2号車 | 3号車 | 4号車 | 5号車 | 6号車 |
---|---|---|---|---|---|---|
型式 | 721形(8000) | 727形(8000) | 725形(8000) | 725形(8100) | 727形(8100) | 722形(8100) |
座席 | 指定席 | 指定席 | 指定席 | 自由席 | 自由席 | 自由席 |
トイレ | ◯ | ◯ | ◯ | |||
車椅子 | 4席 | |||||
その他 | 多目的室 |
編成 | 輸送日 | 落成日 | 製造 | 検測機能 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
Y1 | 2022年1月6日~11日 | 2022年6月25日 | 日立 | 軌道 | 川棚港にて歓迎イベント |
Y2 | 2022年3月24日~29日 | 2022年6月21日 | 日立 | 電気 | |
Y3 | 2022年6月11日~16日 | 2022年7月15日 | 日立 | 軌道 | 一部未塗装 |
Y4 | 2022年7月28日~8月4日 | 2022年9月8日 | 日立 | 一部未塗装、お披露目イベント(※) | |
Y5 | 2023年8月19日~23日 | 2023年 | 日立 | 一部未塗装、追加増備車 |
※下松港→唐津港(お披露目イベント)→(佐世保港と長崎港寄る予定だったが波が高く中止)→大島港(退避)→川棚港(陸揚げ)
コラボ
開業を記念して、沿線5市と弱虫ペダルのコラボ企画を実施。
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かもめ楽団