概要
諫山創の漫画『進撃の巨人』を原作とし、2015年に前後編2部作で公開された日本の特撮映画。
東宝配給。
8月1日公開の前篇タイトルは『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN』。
9月19日公開の後篇タイトルは『進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド』。
2011年に実写映画化が発表された。
監督は当初中島哲也が予定されており、諫山創とも話し合いを重ねていたが中島が2012年に降板。
2013年に樋口真嗣に監督が変更となったと発表された。
2014年の4月に三浦春馬の主演が決まり、11月には他のキャストも発表された。
実写版スタッフは、企画の段階から諫山および諫山の担当編集者と打ち合わせを重ねており、当初は原作に沿った内容の脚本を提出したところ、諫山から「エレンの性格を、原作とはまったくの別人にして欲しい」という要望を受けたことで、ストーリーを含めた大幅な再構築をはかることとなった。
なお、原作者側からは「原作とは逆に、巨人達を避ける為に人間達が高いビルの屋上で生活している」というアイデアも提案されたが「そこまで変えたら、『進撃の巨人』の映像化とは言えない」という理由で却下となる一幕も有った。
脚本の町山智浩は最初はオファーを断っていたが、諌山から三回依頼され引き受けた(町山の自宅まで作者と担当編集者がやって来たという、三顧の礼と言えば聞こえはいいが一歩間違えばサイコホラーかストーカーにしか思えない事態まで起きていた。なお、町山はアメリカ在住である)。町山は原作漫画の4巻ぐらいまでのストーリーをそのまま参照して、90分程度のシナリオにまとめたが、それを読んだ諌山と講談社の担当編集の川窪慎太郎が「原作とは全く違う話にして欲しい」と要望した(ちなみに第一稿では、偶然にも原作からの改変点まで同時並行で製作されていたアニメ版のシナリオとほぼ同じだった、逆に言えば町山氏の着眼点はそうズレていた訳ではないのである、下記の事情さえなければ…)。
なお、町山は原作者の諫山が「影響を受けた人物」としてよく名前を挙げており、脚本に関わる事になった理由も原作者サイドの要望だったが、そもそも映画評論家であって脚本家ではなく、商業映画/ドラマ/アニメなどの脚本を手掛けるのが本作が初である。
映画版オリジナルキャラが多数登場する理由は、作品の舞台をドイツ風から日本風に変更した関係上、エレン やミカサやアルミンなどは、日本人の名前としてもかろうじて有り得るが、リヴァイやエルヴィンといった明らかなドイツ名は、日本には絶対に存在しないため、オリジナルキャラに置き換えた、または登場させなかったとのことである。
また「巨人で怖がらせないで欲しい」という諫山の要望を受け、CGではなく実際の人間が演じる特撮映画となった。
樋口真嗣監修によるPG12版プロモーション映像(※残虐な描写を含む)
スタッフ
- 監督:樋口真嗣
- 脚本:渡辺雄介、町山智浩
- 音楽:鷺巣詩郎
- 主題歌:SEKAI NO OWARI
ANTI-HERO(前篇)
作詞:Fukase 作曲:Nakajin 編曲・歌:SEKAI NO OWARI
SOS(後編)
作詞:Saori 作曲:Fukase 編曲・歌:SEKAI NO OWARI
キャスト
オリジナルキャラ
注・映画のネタバレを含みます
「人類最強の男」の異名を持つ。原作におけるリヴァイに相当する人物。調査兵団の隊長で、ミカサの師匠でもある。
斧を武器とする巨漢で、5人兄弟の長男。なんと立体機動装置無しで巨人と渡り合える、常人離れした戦闘力を持ち、憎まれ口を叩くジャンに対しても気さくに接する仲間達の良き兄貴分でもある。
実写オリジナルキャラの中では後半まで生き残っていたが、後編でシキシマの手からエレン達を逃すためにシキシマの部下諸共自爆し、死亡した。
巨漢、仲間達の兄貴分という点から原作におけるライナーに相当する人物と言える。当初はライナーが登場する予定だったが、原作での設定を考えてオリジナルキャラとなったらしい。
リルとはラブラブカップルで、原作におけるフランツに相当する人物。外壁修復作戦から生還したらリルと結婚する約束をしていたが、夜明けの巨人襲撃時に巨人に下半身を捕食されて死亡する。
dTVで配信された本作の前日談『反撃の狼煙』第3話ではリルとの出会いや交際することになった経緯が描かれている。
未亡人で、子供の養育費を稼ぐために兵士に志願した。リルとは親交があり、彼女の良き理解者でもあった。エレンに好意を抱いていたらしく、戦闘狂に変わり果てたミカサとの再会でショックを受けていたエレンを色仕掛けで誘い、「娘の父親になってほしい」と頼むが、その直後に巨人に襲われて生きたまま丸呑みにされた。エレンも後に同一の巨人に食われる事となり、巨人の胃袋で再会を果たすが、すでに事切れていたために救えず、エレンが覚醒するきっかけとなった。
フクシとはラブラブカップルで、原作におけるハンナに相当する人物。美人の上に対人格闘技の実力も高かった為、同期の男性兵士達の憧れの的だった。作戦中にフクシの死によって発狂し、復讐の為に外壁修復用の爆薬を強奪して巨人の群れに特攻して爆死する。
高い対人格闘技の能力を持っている、同期の憧れの的であるという点から、ハンナだけでなく原作におけるアニやクリスタの要素も持っていると言える。
エレン達とは顔馴染みで、駐屯兵団に所属していたが、2年前の超大型巨人の襲撃で妻子を失ってからは衛生兵に転向し、エレン達と共に外壁修復作戦に参加する。原作におけるハンネスに相当する人物。
実はエレンが幼少の頃に彼の父親の下で医学を学んでおり、その為にエレンの巨人化能力の秘密を最初から知っていた。後編で憲兵団に処刑されそうになったエレンを助ける為に巨人化能力の秘密を説明して弁護しようとしたが、クバルに口封じの為に射殺される。
憲兵団所属の政府高官で外壁修復作戦の最高責任者。常に敬語を使うが、それが逆に何だか胡散臭い雰囲気を醸し出している。その正体は…。
訓練兵団の教官を務めている人物。外壁修復作戦にも参加し、巨人の気配に怯えて冷静さを失った兵士達を鎮めようとしたが、その瞬間横の物陰から現れた巨人に捕まって捕食された。
『反撃の狼煙』ではハンジ、イズルと共に全編に渡って登場し、暴走しがちなハンジや食い意地が張っているサシャに手を焼く様子が描かれている。
原作におけるキースに相当する人物だが、原作のようにサシャが半分渡した芋をちゃっかり食べていたり、訓練中に折り紙を折っていたりと、キースと比べるとややお茶目な一面も見せる。
『反撃の狼煙』に登場する憲兵団所属の予算管理官。一応ハンジより上の立場の人間なのだが、彼女には頭が上がらず、常に彼女に振り回されているという、原作におけるモブリットに相当する人物。ハンジが着けているゴーグルは彼が贈ったものである。
原作との差異
- リヴァイの代わりにシキシマなど、複数のオリジナルキャラクターが原作キャラと置き換わる形で登場している。
- エレン、ミカサ、アルミンらは少年ではなく青年という設定(働いている描写がある)。
- エレンとミカサは同時に入隊するのではなく、最初の巨人の襲来時に生き別れとなり、後に再会する。
- 原作の世界は中世のドイツをベースとした完全な架空世界として描かれているが、こちらは我々が住む21世紀の世界が巨人の出現を発端に文明崩壊した後の世界という設定で、完全に日本をベースとしており、衰退前の文明の存在を思わせるものが所々に登場する(不発したミサイル、壁の材料として使われているヘリコプターの廃機など)。
- その為に、壁の中の世界の技術レベルは原作より遥かに進んでおり、20世紀初頭ぐらいの雰囲気(少量だが電池が使用されている。軍には大型の自動車が存在する)である。変更した理由は不明だが、メタ的な視点からおそらく馬や中世ヨーロッパの世界観を用意するだけの予算が無かったからだと思われる。
- 原作では物語開始の数十年前から何度も調査兵団が壁外調査を繰り返しているという設定だったが、本作は壁の中に逃げ込んで以降は百年間一度も人類は壁の外には出ていないという設定である。その為に物語開始時点では巨人の実在を疑う者すらおり、立体機動装置は超大型巨人襲撃後にハンジによって開発された兵器で、調査兵団も「外の壁」奪還作戦に向けて作中で新たに結成された兵団である。
- 原作と違って壁の外の世界の情報や技術もある程度は残っている為か、過去の失われた文明の技術を研究したりすることは法律で禁じられている(ただし原作でも武器、兵器を含めた急速な技術の発展は王政府が陰で隠滅していた)。
- 原作の巨人の表情は如何なる時も変化せずとにかく無機質、無感情な印象が強いが、本作は個体によっては怪我をした際に苦しむ様子や鳴き声をあげる描写なども見られる。また人間ほど豊かではないものの感情の存在が窺える反応も見られる(例えばエレンが巨人化した際に周辺の一同が驚いた表情を浮かべた)。
- 前述の通り、殆どの巨人は人間が演じている為に、アンバランスな体格をした個体が極端に少ない。また、原作では女型の巨人以外はいなかった女性風の体の個体も多くなっている。
- 原作の巨人は本来は食事をする必要もなく、人間を捕食する理由も不明で、死体には全く興味を示していなかったが、本作の巨人は死体を奪い合ったり壁についた死体を舐めとったり等、普通の生物感がかなり強い設定になっている。捕食した人間も原作の巨人のように吐き戻したりせず、ちゃんと消化している模様。
- さらに原作の巨人のように質量の割に重量が軽いなどの特徴もなく、そもそも作中で明かされた巨人の正体や成り立ちなども全く原作のそれとは異なるため、本作の巨人は原作の巨人とは完全に別物である。エレン達巨人化能力者の設定や成り立ちや能力等も原作とは全く異なる。(これは本作が製作されたのがまだ原作で巨人関連の謎がほとんど判明していなかった時期なのである意味当然とも言える)
評価
登場人物の多くがオリジナルキャラクターである事や、諫山の要望によりエレンの性格を別人に設定した事で、各キャラのキャラクターや人物関係も原作とは全く異なるものとなっており、この時点で原作ファンからは大きな反発と批判を受けた。
脚本を手がけた映画評論家の町山智浩もこの各種改変については「原作レイプと言われて大炎上するのは間違いないです」と公開前に述べたうえで「でも勝ち目のない戦いに挑むのが進撃の巨人という話じゃないですか」と、批判を浴びる事を前提で、スタッフは実写化に挑戦したとしている。
ただし、原作ファン以外からも通常巨人の特撮は全体的に評価は高いものの、それ以外のストーリーやキャラクターや設定等を含めた映画全体の評価は概ね不評である。純粋に脚本や演出の不備や役者の演技を批判する声も多い。
これに対し町山と親交のある宇多丸は、「ウィークエンドシャッフル」内で前編を「頑張っている事は伝わる」「特撮ファンが応援したい気持ちも分かる」「ハリウッドの大作映画の真似にはなっていない」と、好意的に見ざるをえない部分があるとしたうえで、映画としては「ダサい」「間が悪い」「役者の大芝居が痛い」「キャラクター同士のやり取りや台詞回しが現実感が無さすぎて見ていて辛い」などと、多方面にわたり酷評している。
そういった狙いが当たってか当たらずか、前編は通常巨人達が不気味すぎるとして評価・興行収入ともにさほど悪くなく、制作費に目をつぶればまずまずの仕上がりであった。
しかし後編は、予算の都合なのかウリの通常巨人たちが殆ど出てこなくなり、大きく評価を落とす。実際に観客動員数や興行収入も前編から一気に半減してしまうという結果だった。
その為か、前編の時点では町山の予想通り「炎上」という形である意味盛り上がってはいたものの、後編は炎上すらしない空気状態で終わってしまった。
挙句の果てにはネット上でこんな小話が出る始末。
「進撃後編はここ10年で文句なしの最低のクソ映画」
「実写版デビルマンは?」
「あれは11年前」
更には、町山は自分が立ち上げた雑誌「映画秘宝」で長年の相棒だった柳下毅一郎に「(前篇の)国内興収は怒りのデス・ロードに勝ったね」とその部分だけ切り出せば誉めたり慰めてるように見えるが、前後の文章を良く読むと明らかに非常に馬鹿にしたニュアンスで言われるわ、知人である映画評論家・時代劇研究家の春日太一に酒の席で「あの映画は一体何だ?」と説教されるなど、散々な事態になった。
なお、本作公開翌年の「映画秘宝」の新年号では、恒例企画の「映画業界の死んで欲しい奴」における町山の回答は「自分」だった。
……と、このように散々叩かれていた映画であったが、後に冒頭部にある「ちゃんと原作通りに作ったら原作サイドに却下された」「むしろ原作者直々に嬉々としてメチャクチャに改変した案を出してきて、町山の方が却下した」と言うエピソードが広まるにつれ、「そんな制約があっては、クソ映画になっても仕方がない」と一転してスタッフサイドに同情の声が集まるようになった。
さらに監督も監督でそんな事情を知ってか知らずか「好き勝手やっていい」と判断、町山の脚本をガン無視して恋愛要素を入れたり(ちなみに、樋口真嗣監督は過去に町山智浩と柳下毅一郎からラブシーンの演出の頓痴気ぶりを雑誌「映画秘宝」で酷評された事が有る)、見栄え重視で設定をガン無視したりと好き放題しており、不評な点は主にその好き勝手の部分で、ギリギリ好評な箇所は町山脚本通りの場所である
そして原作者である諫山創が(原作で最もひどい目に合っているキャラの一人である)ライナーを非常に好んでいると言う事実が広まるにつれ、「原作者から町山への歪んだ愛情なのでは?」と言った声が聞かれるようになる。
挙句「後々原作通りに合流しないように」と「当時の時点で既にユミルや大地の悪魔絡みの世界の真実、マーレ関連、地ならしやエレンの行動などのありとあらゆるネタバレを喰らう」という未来の自分から未来を見せられたエレン状態にされる憂き目に逢うこととなる。
結果的に「口ばかりで無能な町山がクソ脚本を書いて原作レイプした作品」という評価から「嫌がる町山に専門外の脚本を書かせて原作者がレイプした作品」という評価に一転、芸術家・諫山創の被害者扱いされるようになる(特に、監督は後に一人だけシン・ゴジラで汚名返上に成功している点も含めて同情されている)
当の諫山は「脚本の町山智浩さんはすごく考えている。特に後編は、反体制やロックンロールの精神がよく出ている。樋口真嗣監督の特撮に対する愛があふれている。生き生きとやってもらえるのがうれしかった。」と語っており、試写会では頭を抱える町山の横で手を叩いて大受けしていたという。(なお、ライナーのモデルとなった先輩も原作者権限で同行させられていた模様)
諫山の町山智浩への愛情は歪んでなどいなかったのだろう。ただ、他者には理解しがたい程に純粋で真っ直ぐな愛情だったのだ。
一方で過去に町山は映画批評において「原作通りに作る実写版とか何が面白いかわからない」と寄稿していた事実も発掘されており、前述した通り当初は原作通りの脚本を書いていたことに関しては「吐いた唾が返ってきてしまっただけではないか」という厳しい意見もある(ただ、しつこいようだが町山はそもそも過去に映画の脚本を書いたことはないことは留意。オファーを受けた経緯もほぼ四面楚歌に追い込まれた形での決断のため本人にとっても不本意である。)。
なお、後に水道橋博士のYoutubeチャンネルで、町山智浩は(町山と宇多丸の映画評論を更に評論する書籍が出版された事との関連で)原作版の「進撃の巨人」について「漫画を通して描いた町山智浩評論」と評した(そもそも、原作が「モデルは町山智浩」のキャラが何人居るんだ?という作品なので)。
その他
2014年1月24日の金曜ロードショーで、スバル・フォレスターとコラボした実写化のCMが一度だけ放映された。
余談
- 本作の監督である樋口真嗣は平成ガメラ3部作にて知名度を一気に上げたが、『進撃の巨人』シリーズの巨人にはガメラの有名な敵であるギャオスの影響を受けていることは諫山創が認めており、そこには樋口によるギャオスの描写も当然ながらあったと思われる。巨人(進撃の巨人)を参照。