概要
「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症法)における感染症の区分の一つ。「動物や昆虫、食品などを介してヒトにうつる病気」と定義されている。
この区分に属する疾患は非常に多く、
- ネズミや犬、コウモリなどの哺乳類からうつる病気(狂犬病、腎症候性出血熱、サル痘、炭疽など)
- 蚊が媒介する病気(デング熱、日本脳炎、マラリアなど)
- マダニが媒介する病気(重症熱性血小板減少症候群、日本紅斑熱など)
- 食中毒(A型肝炎、E型肝炎、ボツリヌス症など)
などがある。
ヒトからヒトへの伝染は起こりにくくコントロールしやすいため、社会への悪影響はそれほど大きくないとされている。
(逆に言えば動物由来の病気であっても、ヒトからヒトにうつりやすいものであれば一類感染症・二類感染症・三類感染症のいずれかに分類される)
しかし中には非常に危険な病気もあり、特に狂犬病はウイルスに感染した後すぐにワクチンを打たなければ致死率ほぼ100%である。
必要な措置
一類・二類・三類のような大流行は起こりにくいと考えられているため、無症状や軽症であれば隔離入院や就業制限までは必要ない(勿論、症状が重い場合は入院して治療を受けなければならないが)。
しかし感染源となったものや場所は消毒されることがある(一例として2014年にデング熱が日本で流行した際は代々木公園が一時的に閉鎖されていた)。
デング熱など蚊が媒介する一部の病気は検疫の対象疾患となっており、海外旅行から帰ってきた人が空港や港などで足止めを喰らうこともある。
例えばデング熱の場合、「デングウイルスを媒介するヒトスジシマカは日本国内にも生息しているため、デング熱の患者が入国すると日本国内で大流行してしまう危険性がある」というのが理由らしい。
四類感染症の患者を診察した医師は、直ちに最寄りの保健所に届け出なければならない。そして保健所は都道府県知事に報告しなければならない。
該当する主な疾患
数がとても多いので、一部だけ掲載する。
狂犬病
名前からして犬からうつる病気のイメージが強いが、猫やキツネ、ウサギ、コウモリなど全ての哺乳類が感染源となり得る。狂犬病ウイルスを持った動物に咬まれたり引っ掻かれて感染することが多いが、動物の唾液を浴びただけでも感染する可能性がある。
日本など一部の先進国では撲滅されたが、海外(特に発展途上国)では未だに多数の死者が出ている。
発症すると重い脳炎を起こし、発熱や筋肉痛、倦怠感などの風邪のような症状の後、錯乱・幻覚、恐風(風を怖がる)、恐水(水を怖がる)などがみられる。世界で最も危険な感染症と言われ、一度発症してしまうとほぼ100%死亡してしまう(ちなみにあのエボラ出血熱ですら致死率50%)。
動物に咬まれたらすぐに傷口を流水と石鹸で洗い、至急病院に行ってワクチンを打ってもらおう。そうすれば発症を予防することができる。
腎症候性出血熱
ユーラシア大陸で広く流行しているハンタウイルスによる疾患。ネズミが媒介する。
ハンタウイルス肺症候群
新種のハンタウイルスが引き起こす重篤な肺炎。北米および中南米で流行している。
サル痘
天然痘ウイルスに似たサル痘ウイルスによる疾患で、症状も天然痘に似ているが、天然痘よりは感染力・毒性が弱い病気。しかしそれでも致死率は最大で10%近くにもなるので十分危険な病気である。
デング熱
ヒトスジシマカなどの蚊が媒介するウイルス性疾患。主に東南アジアなどの熱帯地域で流行している。
高熱、激しい頭痛、筋肉痛、関節痛、嘔吐、下痢などが主な症状で、通常は1週間以内に自然治癒する予後良好な疾患である。
しかしごく稀にデング出血熱と呼ばれる劇症型のデング熱を発症することがあり、この場合は致死率が非常に高くなる。
黄熱病
アフリカや中南米で流行している蚊が媒介するウイルス性出血熱。
肝臓が炎症を起こすことによって黄疸が出るのと、胃腸からの出血によって大量の吐血や血便を伴う。致死率が非常に高い病気である(50%)。
国によっては黄熱ワクチンを打っていなければ入国できない場合もあるので海外旅行の際には要確認。
ジカ熱
蚊が媒介するウイルス性疾患。軽い発熱や発疹がみられる比較的予後良好な疾患だが、妊婦さんに感染すると胎児に重い障害が残ることもある。
チクングニア熱
蚊が媒介するウイルス性疾患。高熱や筋肉痛、発疹などが主な症状。通常は予後良好である。
日本脳炎
主に東南アジアなどで流行している重篤なウイルス性脳炎。デング熱などと同様に蚊が媒介する。
感染しても99%の人は発症せずに済むが、ごく稀に激しい頭痛や意識障害を伴う重篤な脳炎を引き起こすことがある。この病気にかかった場合、致死率は20~40%にもなる。
日本でもかつては恐れられていたが、現在はワクチンで予防できるようになった。
ウエストナイル熱
アフリカ、ヨーロッパ、中東、オーストラリア、北米などで流行している、蚊が媒介するウイルス性疾患。
高熱や頭痛、筋肉痛などインフルエンザに似たような症状があらわれる。一部の人は大幅に重症化し、脳炎になって死亡することもある怖い病気。
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
クリミア・コンゴ出血熱ウイルスに似たSFTSウイルスが引き起こす出血熱。日本・朝鮮半島・中国などで流行しており、マダニが媒介する。
発熱、嘔吐、下痢などの症状の後、血小板が減ることによって全身から出血することもある。致死率は10~30%で、怖い病気である。
予防のためのワクチンはまだ無い。
A型肝炎
主に発展途上国で生の魚や魚介類などを食べて発症するウイルス性肝炎。慢性化することは無いが、稀に劇症化して死に至ることもある。
ワクチンで予防できる。
E型肝炎
野生動物の肉を生で食べて発症することが多いウイルス性肝炎。日本などの先進国でも発生することがある。
慢性化することは無いが、稀に劇症化して死に至ることもある。
予防のためのワクチンはまだ無い。
炭疽
強い毒性と生命力を持つ炭疽菌による危険な感染症。
感染経路によって症状が異なり、高熱と発疹を起こす皮膚炭疽、激しい腹痛・嘔吐(吐血)・下痢(血便)を起こす腸炭疽、激しい咳や喀血を起こす肺炭疽がある。
いずれの場合も致死率は非常に高く、特に腸炭疽と肺炭疽は早急に抗生物質で治療しなければ致死率は100%に近いとされている。
また、炭疽菌は天然痘ウイルスやエボラウイルス、ペスト菌などと並び生物兵器としての悪用が懸念されている細菌でもある。
ボツリヌス症
時間が経った缶詰や真空パックなどの空気が少ない食品に菌がいることが多い(これはボツリヌス菌が酸素を嫌うことが理由)。乳児にとっては蜂蜜も危険。
他の細菌性食中毒でよくみられる下痢や発熱の症状は出ないが、物が二重に見えたり歩けなくなるなどの重篤な神経症状があらわれる。致死率も20%以上と高い。
日本紅斑熱
リケッチアと呼ばれる細菌が引き起こす怖い病気。マダニが媒介する。
高熱と全身にあらわれる発疹が主な症状。重症化すると播種性血管内凝固症候群(DIC)を起こして亡くなることもある。
マラリア
マラリア原虫が引き起こす病気。ハマダラカと呼ばれる蚊が媒介する。
先進国では珍しい病気となったが、アフリカなどの熱帯地域では未だに脅威となっている。世界中で年間2億人以上が感染し、約60万人が死亡しているとされる。結核、エイズと共に世界三大感染症と言われている。
高熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、嘔吐、下痢などの症状があらわれる。一応治療薬はあるが、すぐに治療しなければ脳・肺・腎臓・血液などが壊れて亡くなることもある。