「蛹を破り、蝶は舞う。トランの殻を破った時、このトランザが…天に輝く!」(第37話)
「リボンを付けて返そう!貴様達から受けた屈辱をな!!」:(同上)
演:広瀬匠
概要
第37話より登場。元々は次元戦団バイラムの中で最年少のトランだったが、次第に敵味方の両方から子供扱いされることに不満を感じるようになり、第36話では自分を軽く見る他の幹部達の鼻を明かそうとジェットマンに挑むも敗北。その際に止めを刺される寸前に「子供だから」との理由でジェットマン(レッドホーク)に情けをかけられ、さらに幹部達からも嘲笑を浴びせられてしまう(グレイは、音楽を邪魔した彼を邪険に扱ったり、前述の通りラディゲ・マリアと共に彼を嘲笑ったりはしたが、次の回でトランの姿が見えないことに気がついたりと気はかけていた)。この屈辱によって、ついにトランのストレスが限界に達し、爆発的な怒りのエネルギーで急成長した姿がトランザである。
成長後は圧倒的な実力を見せつけて、ジェットマンを倒した者が座るはずだった帝王の椅子をその前に占有。自ら帝王を名乗り、ラディゲを始めとするバイラムの幹部達を率いることになるが、力ずくで服従させる方法を選んだために彼等からの反感を買い、やがて悲惨な末路をたどることになる。
髪は大胆に波立つ銀色で、唇は紫色。時々人間に化けることがあり、その際はなるべく目立つような服装を整えている。
急成長する幹部はスーパー戦隊史上初となる。
演じるのは『超獣戦隊ライブマン』のドクター・ケンプをはじめ、美形でナルシスティックな悪役を演じてきた広瀬匠氏。氏は現在、自身の芸能プロダクションを経営している他、撮影用ドローンパイロットとして活躍するなど裏方に転向しており、役者の仕事は休業中である。
性格
他の幹部が提案した作戦や考えを一蹴し、自分一人で何でもやろうとする、そのくせ作戦が失敗した際には責任をなすりつける……と、その行動は尊大で自己中心的、かつ無責任である。
具体的な例を挙げよう。
第41話でラディゲ達が作り出した隕石ベムの心臓部を勝手に横取りして自分の手中に収めた後、バイラムの本部・魔城バイロックで
「見世物としては最高の出来だったぞ。違うか?ラディゲ。無能な指揮の下では、どんな宝石も輝きを失う。所詮、お前達はな、見世物小屋の道化師なのだ!」
とラディゲ達を嘲笑い、その後隕石ベムがジェットマンの本部であるスカイキャンプを襲撃している様子を眺めながら、
「有能な指揮を得て……フッ、やっと宝石も輝きだしたのだ」
と自分の実力を誇示する。
隕石ベムの心臓部を横取りした経緯を打ち明かしてラディゲから責められても、トランザは以下のように受け流す。
ラディゲ「貴様、卑怯だぞ!」(ラディゲも人のことを言えた手前ではないが…)
トランザ「戦略とはこういうものだ!」
そして、隕石ベムが倒されたら
「お前達の作ったバイオ次元獣など、所詮はただの石ころだ!」
と侮蔑の言葉を吐き捨てるように言い放ち、自分の失敗をラディゲ達になすりつける……といった具合である。
また、自分が何でも一番にならないと気が済まない性質でもあり、初登場の第37話では竜に武道勝負、凱にナンパ勝負、雷太に大食い勝負とそれぞれの得意分野で挑んで全員打ち負かすほどのこだわりを見せた。
幹部達にも自分を「様」付けで呼ぶよう強要し、拒否された際はキツいお仕置きを与えている。
このように、急成長に至った経緯が経緯なだけに、トランだった頃に持っていたひねくれた性格が殊更増大しているのである。その他、細かい所作にもトランの時の名残がそこかしこに見受けられる。また、散々『子供』と見下された反動からか、大人のインテリを気取っているかのような難解な用語や詩的な言い回しを強調した言葉遣いや、芝居かかった大げさな仕草が多いが、明らかに取ってつけたかのようなそれらの挙動は、客観的に見ると、却ってトランの頃よりも子供っぽくなったといえる。
上記のねじ曲がった性格でラディゲ達を率い、ジェットマン打倒を目指していくが、当然ラディゲ達からの反感は強く、とりわけラディゲには反抗的な態度を取られる等、(以前毛嫌いしていた)今は亡き首領ジューザと大差無い支配者に成り果てていた。
そして第47話において、帝王トランザの栄光はラディゲの手で終焉を迎えることとなる………
能力
戦闘の際は長剣ボルトランザを使用する。第37話でジェットマン5人とラディゲ、マリア、グレイを全員敵に回した上で圧倒するなど、その実力は高い。さらには天堂竜を結界付きのリングに転移させて圧倒するが、あと一歩のところでラディゲが差し向けたバイオ次元獣ギョライピラニアの奇襲によって失敗。
分身術で敵を幻惑したうえで斬撃を見舞う技も使う。また、トラン時代よりはるかに強化されたサイコキネシスやメタルトランサーからの光線も武器。
戦闘能力以外でも兵器開発技術が抜きん出ており、第42話ではテストロボット・G2、第44話では人間の生命力を動力源とする巨大メカ・魔神ロボベロニカを開発している。最後の登場回となった第47話でも標的をオブジェに変えるバイオガンを開発し、ジェットマンを窮地に追いやった。
末路
トランザは自作のバイオガンで天堂竜 / レッドホーク以外のジェットマンを次々とオブジェに変えていった。最後に残ったレッドホークを狙うトランザだが、レッドホーク、そして彼と一緒に行動していた謎の男の反撃によって追いつめられる。トランザはレッドホークを羽交い絞めにして脅すも、男は聞き覚えのある笑い声と共に本性を現わす。
「トランザ…所詮貴様は流れ星!いかに輝こうと、落ちる運命にあったのだ!!」
彼の正体は、第45話でベロニカのエネルギーを吸収した後に行方知れずになっていたラディゲだったのだ。
ラディゲはトランザをレッドホークもろとも亡き者にしようとするが、レッドホークはトランザの身体を盾にして攻撃を防ぎ、反撃した後、トランザに大ダメージを与える。それによって力の源でもあったメタルトランサーが破壊されてしまったことで他のジェットマンは元に戻り、満身創痍のトランザは彼らの必殺技ファイヤーバズーカの直撃まで喰らう羽目になる。
バイオ次元獣なら即死したであろう怒濤の連続攻撃だったが、トランザは重傷を負いながらも生き延びていた。しかし、超能力と戦闘能力の全てを失ってしまい、自分の敗北が信じられぬまま、惨めに地べたに這う。そんな彼に追い討ちをかけたのはラディゲだった。ラディゲは剣をトランザの片手に突き立て、残忍な笑みを浮かべながらさらに彼をいたぶる。
ラディゲ「トランザ…俺の名を言ってみろ」
トランザ「ぐあああ!ラ、ラディゲ……!!」
ラディゲ「何ぃ!?トランザ…俺の名を言ってみろ!」
トランザ「ラディゲ…っ」
ラディゲ「何ぃっ?………“ラディゲ”だとぉ!?」
トランザ「あああああ!! ……ラディゲ様ぁぁぁーっ!!!」
ラディゲ「そうだぁ!………だが殺しはせん。人間として生きながら、一生俺の名を恐れるんだ!!」
こうしてトランザは、以前跪かせていたラディゲによって完膚なきまでに屈服させられた。
この心身共に痛めつけられた事がトドメとなり、廃人と化してしまった彼は、「脳神経がズタズタにされた身元不明の患者」として精神病院に収容される。
医師A「あの患者、まだ身元がわからないのか?」
医師B「ああ、ひどいもんだよ。脳神経がズタズタにやられてる。一生あのまんま(の姿)だそうだ」
トランザ「うわああああああーーっ!助けてくれーーっ!!許してくれ、許してくれーーっ!!!」
かくしてトランザは、隔離病棟の片隅でラディゲの幻に怯え、苦しみ、錯乱しながら生き続けるという死よりも酷く悲惨な形で物語から退場したのであった。この末路は当時の全国の良い子と大きなお友達にとってみんなのトラウマとなった。
ちなみに、この結末は広瀬氏本人の発案だという。言うまでもなく当初、プロデューサーを始めとするスタッフの多くからこの提案は大反対され、「子供が番組を観れなくなる」「スーパー戦隊シリーズを潰すつもりか」と激怒されもしたが、自らが演じるキャラをここまで徹底的に追い込もうとする広瀬氏の大胆な発想を気に入った井上敏樹氏の英断や、当回の監督で広瀬氏とは既に何度か一緒に仕事をした間柄であった東條昭平氏の鶴の一声によって採用されるに至った。それでも尚も、本当にこの脚本通りに撮影するべきか否か、クランクインギリギリまで制作陣の間で激しい討論が交わされる事になったと、当時プロデューサー補として今作に参加していた白倉伸一郎氏が語っている。
そして、このトランザの最期が描かれた第47話のサブタイトルは『帝王トランザの栄光』。まさに皮肉極まりないものである。
if展開・トランザの逆襲
非公式続編に付き、if展開とさせて戴く。だが、非公式続編漫画『鳥人戦隊ジェットマン 時を駆けて』ではラディゲの復活に呼応して回復。逐次その行動を妨害し、最期はラディゲを倒すためジェットマンに手を貸す道を選んだ。こうして、トランザはかつて廃人にしたラディゲに逆襲を果たすのであった。
余談
劇中では散々いがみ合っていたトランザとラディゲだったが、トランザを演じた広瀬匠氏はラディゲ役の館大介(後年の芸名:舘正貴)氏とはプライベートではとても親しかったそうだ。だが、この第47話におけるトランザ退場劇は、元から劇中におけるラディゲの凶行のせいで視聴者から嫌われがちだった館氏の好感度を最悪なものにする決定打となり、その後、館氏は実子を含む視聴者からの風評被害に苦しめられ、脚本を作った井上氏を恨んだという。しかし前述した様にトランザ退場劇がここまでトラウマものになったのは広瀬氏自身の提言がきっかけであり、間接的であるとはいえ、館氏が視聴者からの風評被害に苦しむ事になった一因は広瀬氏にあるとも言えなくもない。
もっとも館氏としては広瀬氏に対しては恨みを抱く事はなく、寧ろあの壮絶な展開を自ら考えて、演じきったその役者魂に感服したという。
一方で、元から井上氏はこの退場劇を想定していたのか、トランをトランザにすることは想定内だったという(とはいえ流石にトランザの最期の場面については本編ほど凄惨なものではなくラディゲに止めを刺されて殺される」予定であったらしい)。こういう退場劇を子役にさせるのは問題だという、最低限度の良識だろうか。
このトランザ退場劇に関しては出演者全員が台本を読んだ際に絶句し、トランを演じていた久我未来氏も、テレビで自分が演じていたトランの果ての姿であるトランザの退場劇を観た際、ショックのあまりに愕然としたという。
関連タグ
次元戦団バイラム 自己中 ナルシスト ブラック上司 みんなのトラウマ 吐き気を催す邪悪 俺の名を言ってみろ
関連・類似キャラクター
スーパー戦隊シリーズ
一条総司令:トランザと対比するジェットマン側の独裁的なブラック上司。トランザ同様に心身共に痛めつけられて再起不能となる末路をたどった。
カイザーブルドント、サラマンデス、マンマルバ、リジュエル:戦隊シリーズにおける、子供から急成長を遂げた幹部達。
ドグラニオ・ヤーブン:人間界の施設に幽閉されて、死ぬよりも辛く苦しい報いを受けながら退場したスーパー戦隊の悪役。こちらは刑務所。
ガチレウス:同じく部下に対して超強権的に接するブラック上司である点と、その因果応報といえる形で報いを受ける事となったスーパー戦隊の悪役。
その他特撮・アニメ作品
黒岩省吾/暗黒騎士ガウザー:トランザが倒れた5年後に登場した、同じく井上敏樹氏が手掛けたトラウマ退場者。ちなみにその退場回はトランザ退場回同様に皮肉に満ちたサブタイトルが名付けられた他、あまりの内容から一部の地域では放送が見送られた。
佐野満/仮面ライダーインペラー、草加雅人/仮面ライダーカイザ:前者は11年後、後者は12年後に登場した、トランザや黒岩と同じく井上氏が手がけたトラウマ退場者達。
プロイスト:14年後に登場した駄目帝王。両性具有らしく親から歪んだ教育を受けたばかりに利己的で救いのない独裁者となり、最期は自業自得の末路を迎えた。また、トランザと同じく自身に反抗的な仲間を「俺の名を言ってみろ」という台詞と共に服従させていた。
シド/仮面ライダーシグルド:21年後に登場した、『大人』を気取り、誇示しながらも、実際の言動の本質は子供そのものだった敵対者。彼は脚本家こそ異なるが、トランザ同様に特撮の歴史に残るトラウマものな退場をした。
ロック:24年後に登場した少年幹部。トランザと同じく、「元々は少年の姿だったが、一気に青年の姿になった」、「体は大人だが、心は子供じみている」、「仲間は利用するだけの存在と見なす」、「下剋上を企んでいる」などなど、多数の共通点があるも流石にその末路はトランザとは大いに異なっている。
ヒュドラム:29年後に登場した下剋上幹部。トランザ同様、チームのリーダー格を出し抜いて自身がリーダーになろうとしたが、自身に恨みを持つ人物に惨敗した直後にそのリーダー格から逆襲されるという因果応報の末路を迎えた。