※注意
このキャラクターは、その所業故に賛否両論が非常に激しく、時折過剰なキャラヘイト表現や、「似たような人物」など本来の記事内容の趣旨からズレた書き込みが行われる事があり、それが原因となって編集合戦へと発展する事も多々あります。
原則中立性のある記事を保つ為、そして無益な編集合戦及び、絵師や演者や脚本家といった関係者全般への風評被害及び、誹謗中傷行為を防ぐ為にも、そういった悪意を含んだ書き込みは極力控えるよう、お願い致します。
概要
CV:こおろぎさとみ (FGO Fes. 2022で行われた朗読劇『FGO THE DRAMALOGUE-アヴァロン・ル・フェ-』でのキャスト)
2部6章妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェの登場人物。美しい女性の姿をした妖精。温和で人間に対しても好意的な態度で接する。珍しいものを好む。
妖精國における六つの氏族「風の氏族」の長でソールズベリーの領主。
キャラクターデザインはTAa。
人間を顧みない妖精達の中では珍しく妖精と人間の共存を願っており、ソールズベリーは人間と妖精が仲良く暮らす平和な町になっている。その方針に反対している側近のコーラルのこともクビにしたりはせず、身近に仕えさせる器の広さを見せる。
彼女が持つ「風の声」は破格の能力であり、通常だと不特定多数に発信するだけのところ、彼女が使うとオベロン曰く「妖精國全土の噂を聞ける」ほど。
主だった人物関係としては、牙の氏族の長ウッドワスから好意を抱かれており、妖精騎士トリスタンからは嫌われている。また妖精騎士ランスロットにとっては大恩人であり、主君であるモルガンの命令よりオーロラの意思を優先する。
諸事情からキャメロットへの出入りが禁じられているため、会議には通信という形で参加している。
訪れたばかりのカルデア陣営をある程度助けたこともあるが、女王モルガンへの叛意と看做されればソールズベリー共々ひとたまりもない内容の発言をしており、妖精騎士トリスタンからは反女王派として討伐する機会を密かに狙われている。
オベロンからは「汎人類史の妖精に最も近い」と言われている。
関連タグ
Fate/GrandOrder 妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ 妖精 妖精國 ソールズベリー(Fate)
美しすぎる女妖精への疑惑
前編の公開時点では穏当な人物であると思われたが、後編で明かされた情報を合わせることで、不穏な側面が見え隠れする。
- オベロンが言った「汎人類史の妖精に最も近い」ということは、トリスタンが妖精達の宴に取り囲まれながらも武器から絶対に手を離さないほどに危惧し警戒していた、気まぐれに善行も悪行も無邪気に行う、人間の常識が通用しない存在と言える。(被害者の具体例はこちら)
- 追放された妖精達が集まるコーンウォールの村には、かつてオーロラに仕えていたハロバロミアも居た。
- 件の村は “嫌われもの” になった妖精が集まって出来た領域だというが、彼が“嫌われもの”になった理由とは? 氏族長お付きの身分だったともあらば、人間不足であぶれたらしい他の下級妖精達と同じ事情とは考えにくい。
- 彼曰く「罪を犯した風の氏族は罰として翅をちぎられる」らしく、風の氏族である己を誇る言動を取る彼自身も翅が無かった。描写された範囲では彼は人間を前にして本能に呑まれ暴走する仲間を止めようとする理性的な人格であり、故郷から追放されるような罪を犯す様を連想しにくいキャラに見えるが……
- 妖精國では誰もが正体不明の大穴に近づきたがらず、無意識に避けてるのに、大穴を常に監視する形で建築されている罪都キャメロットを除けば最も大穴に近い位置にソールズベリーの街を構えている。
- ソールズベリーの法に、独立権のない人間を脱走者扱いでベリル統治下のニュー・ダーリントン送りにするというものがある。基本的に各々の都市が独立している妖精國において、都市同士で人間の引き渡し条約が結ばれていることは異例であり、統治者同士すなわちオーロラとベリルの繋がりが示唆されている。
- 神という危険な存在に繋がる情報をモルガンによって消されていたブリテン異聞帯で、ソールズベリーは神を祀る聖堂を有する街であった。
- ブリテン異聞帯で最も穢れている湖水地方に自ら踏み入り得体の知れない醜い肉塊を引き上げ、結果として妖精國で最も美しいと評される竜の妖精メリュジーヌを再誕させている。一聞すると美談のようではあるが、そもそもそこはただでさえ誰も近付きたがらない上ソールズベリーからも遠く離れ、さらに反女王派を掲げるノクナレアの居城に程近い場所である。一体何の用があってそんなところに訪れたのだろうか。鏡の氏族の元に訪れていたのでその帰りというだけの可能性は高いが……
- 補足すると、湖水地方は鏡の氏族の本拠地であり、特にメリュジーヌが眠っていた昏き沼は彼らが竜種アルビオンを「ほねほねさま」と呼んで御神体として祀っている土地である。要約すると、鏡の氏族たちですら恐れ多いと安易に近づこうとしない(加えてサーヴァントや妖精に強い効力を示す毒性を持つ)沼になぜ風の氏族であるオーロラが接近、侵入できたのか不明である。
- パーシヴァルはかつて、メリュジーヌが絶望の涙を流していたことを目撃している。その日は鏡の氏族が皆殺しにされた日でもあった。また、パーシヴァルはソールズベリーには近づきたがらなかった。
- メリュジーヌの絆礼装において、オーロラのことを「醜悪にして害悪」と評しているとも読める記述がある。
- 前編で未だ行方不明のままのマシュを探す主人公達の下へ、人間牧場に新しく『外の人間』が収容されたという情報をコーラル伝いで提供している。しかし皆がそこへ向かったところ、タイミング悪くモルガン直轄の妖精騎士三柱が一人妖精騎士ガウェインに遭遇してしまうのだが、いくらなんでも話ができすぎている。更に言うとこの出来事は、主人公達がオーロラに請われてソールズベリーにおける問題事を幾つか解決し、周囲からそれなりの評価を得て頼られ始めた矢先に起きた。
- それまでの流れは『予言の子』一行の存在を知らしめ周囲に拡散させる意図にも繋がるため、モルガンを打倒したいオーロラにとっても悪くない話のはずである。オーロラまたはその周辺による情報漏洩や誘導があったと仮定した場合、臣下の裏切りや敵工作員の介入があったならともかく、そうでないなら態々自分から芽を摘んている行為に等しい。万が一モルガンに目をつけられる事を恐れていたなら、スプリガンの様に『我関せず知らんぷり』を決め込めば良いだけの事である。
- なお、アルトリア・キャスターの妖精眼にはオーロラに二心が有ったとは映っていない。
- 前述の通り風の氏族の長としての力で、離れた所に声を届けること、及び妖精國全土の噂=国中の情報を収集することが可能。つまりは機械が封じられているブリテン異聞帯においては情報戦で最上位の地位にあり、彼女の手の者が居ればどこでもスパイじみた真似が可能である。
- ベリルは度々、姿が描写されていない人物と情報のやり取りをしていた。
- 終編で、モルガンと「救世主トネリコ」が同一人物であること、一度滅んだ妖精國において妖精を蘇生させたモルガンのやり方がカルデア式召喚であることを、誰かの受け売りの形で語っている。前者はマシュを介して主人公側も知っているため、彼処に自身の協力者が居ればどうということはないが、後者はカルデア陣営…少なくとも主人公側は全く把握していない事実である。それ以外でカルデア式召喚のことを知り、なおかつ妖精國を蘇らせたことを理解しているのはベリルとモルガンのみ。モルガンがオーロラの情報源にはなり得ないので、残るはベリル。
- この事実に嘘や悪意的な解釈を巧みに織り込んだ偽情報を「モルガンの真実」と称して妖精國中に流した結果、真に受けたキャメロットの邪悪な上級妖精達は叛意を翻し、オーロラは自ら直接手を下すことなくモルガン殺害に成功している。
- ロンディニウムで反乱が起こった時、反乱した兵士達の一部は粛正騎士の姿をしていた。ブリテン異聞帯においてその装いをした兵士達が居るのはオーロラが統治するソールズベリーのみである。
- 上記の粛清騎士はソールズベリーに於いて、パーシヴァル率いる円卓軍との同盟関係を結ぶことに激しく反対している(が、直後にオーロラの鶴の一声によって撤回した)。この際、上記の騎士によってロンディニウムはソールズベリーと近年険悪な関係であったことが語られるが、恐らくこれはメリュジーヌの涙を見たパーシヴァルが意図的に接触を控えさせたためではないかと推測される。
- 心身共にボロボロにされ冷静な判断力を失っていたウッドワスを唆して思考の誘導を行いモルガンへの不信感を植え付けた。結果、モルガンは自身に最も尽くしていた彼に襲われ重傷を負い、自らの手で返り討ちにしなければならなくなった。
- 2部のPVでは背景に自然現象のオーロラが描かれている。
上述したオーロラの一連の行動と疑惑は一応妖精國に伝わる予言の成就と女王モルガンの打倒に繋がっており、結果として主人公陣営に対しても利として働いている。しかしながらあまりに不穏な描写ややり口の数々から、ブリテン異聞帯で最も危険な人物はモルガンではなくオーロラではないかと疑われている。
そして女王モルガンが倒され、ブリテンを大厄災が襲う時、このような不穏当な立ち回りをする彼女は一体何を考えているのか、その本質と目的が明らかにされた。
これより先、ネタバレ注意!!
「なぜいま殺した!?『大厄災』の後で良かっただろうに!」
「妖精どもには纏め上げる王が必要不可欠だ!それはモルガンの歴史が証明している!」
「あの女何を考えて───────考えて───────」
「いや。もしや……何も考えていないのか?未来への展望も、権力への執着も、自分の思うまま国を運営する信念も─────」
「何もない、のか?ただ、"自分がきらいなもの" を排除するだけの女だったと!?」
「─────信じられん!」
「そんな頭で2千年も生きていられるなぞ、物の怪にも程がある!」
本質の露呈
モルガンを流言で以て打倒した後、ノクナレアが次の女王として即位する戴冠式にて、オーロラは同じように縷言で以て王の氏族に下っていた他の妖精を唆し、ノクナレアとその配下達を謀殺して罪をアルトリア達に被せようとした。
これによって妖精國は完全にトップ不在となり、疑心暗鬼になった北と南の妖精による再びの争いを止められる者が居なくなってしまう。更にはそのタイミングで、『大厄災』の予兆となるモース化現象が急激な速度で蔓延し始めたため妖精たちがパニックに陥り、次の王が誰か決められる状況ではなくなってしまったため、国中が大混乱状態になってしまう。
これにはオーロラを傀儡とした国盗りを目論んでいたスプリガンも流石に困惑。何故ならどの道ノクナレアを蹴落とすにしても、国の維持を考えればまず戦後の混乱を治めることが肝要であり、王が居なければ防げない大厄災の存在も明示されていた。その点からすればこのタイミングでのノクナレア暗殺はメリットが一切無いと、多少の政治観が有ればすぐに分かるはずのことだからである。また、苦しむ妖精たちの現状を憂う言動をしていたオーロラが中継ぎの王を立てず、妖精國の民の苦しみを長引かせ更なる危機に曝すような行動をするのは矛盾してしまう。
なのに何故―――と考えた末にスプリガンが呟いたのが上記の台詞。
推察通り。オーロラはブリテンの平和を望む正義の聖女でも、ブリテンの支配を企む悪の黒幕やラスボスでもない。
その実像は、自身が他者から称賛されること以外は何も考えておらず、そのために邪魔な存在を排除することを行動原理としていただけの自己愛の権化。
汎人類史はおろか、これまでの特異点や異聞帯の物差しで見ても突出して異質な性質を持った、人間的な損得勘定や信念で測れない「妖精」という生き物の本質を象徴した存在だったのである。
「生まれた目的」という本能
大前提として、TYPE-MOON世界における妖精は「生きていく上で全存在をかけて果たすべき『目的』を持って生まれて来る生き物」と定義づけられている。
妖精はその「目的」を果たせなければ存在自体が枯れて衰弱死してしまうため、「目的」を最優先しようとする本能を持ち、オーロラの行動もほぼ全て自身の妖精としての「目的」に沿っている。※1
彼女の「生まれた目的」は、『誰よりも自分がいちばん愛されること』。
なので、一見好ましく映ったオーロラの今までの言葉や行動は全て、ただ一時の、その場における他者から称賛を貰うためのパフォーマンスである。
例えば以前から行ってきた人間の保護や、肉塊だった頃のメリュジーヌの保護等も、裏を返せば「心優しい人格者として評価されたい」から。「予言の子」一行に手を貸したのも、「助けを求めてきた相手を拒んだら相手から好いてもらえない」「『国中の皆を苦しめる悪い女王』を倒すのに一役買えば国中の皆は自分に感謝して愛してくれる」という自分本位な動機のため。
また、「誰よりも自分がいちばんに」という部分が特に厄介で、自分より注目や称賛を集める=愛される存在が居るとオーロラは「目的」を果たせないことになる。加えて、妖精とは基本的に生まれつきの完成品であり、その中でも風の氏族は他の妖精のような働き・傷つき・学び・奉仕する役割を持たず、「ただそこにいるだけで価値のある妖精」という特に完成された存在であるため、その権化であるオーロラは自分を高めることを知らない。なのでオーロラは常に「いちばん」であろうとするための手段として、「自分以外のいちばん」が居れば相手の足を引っ張る形で潰そうとする以外の選択肢を持たないのである。
ノクナレアを謀殺したのは、「皆の暮らしを良くしてくれるかもしれない新しい女王として、皆が自分(オーロラ)より彼女に注目し、称賛と愛を捧げる」状況を壊すため。尚且つノクナレアが第二のモルガンとして自身の目の上の瘤になるのを防ぐため。
スプリガンが「王位は後で簒奪できる」と高を括っていたのに対し、早々に謀殺の仕込みを済ませておく程にオーロラはノクナレアを危険視していた。何故なら、血液を与えることで妖精なら誰でもかつ縦横無尽に配下を増やせる彼女の能力は放置する程彼女の立場を盤石にし、なおかつオーロラから「自分をいちばんの存在として仰ぐ者」を奪うシェア争い上の大敵だからである。
他にも回想シーンで、鏡の氏族を悪人に仕立て上げる言説をメリュジーヌに話して皆殺しにさせたことが明らかになっており、理由は作中で明示されていないためあくまで推測の範疇だが、オーロラの性質と予言の発表時期を照らし合わせると、「救世主の予言」という妖精國で最も求心力のあるものをもたらしたというこの一点であると考えられる。
鏡の氏族の予言は未来視に等しい精度を誇り、その氏族が妖精國の未来を変える「救世主」と「真の王」の存在を示したことは、妖精たちの人一倍好奇心旺盛な点から見てもオーロラにとって自分以上に注目を惹きつける事柄であると同時に、『妖精國で一番愛される存在が自分ではなくなる』と突きつけられたも同然の仕打ちになる。
特に「真の王」については具体的な名前が挙がらなければ「もしかしてオーロラ様では?」と期待する者も出ようが、彼女以外の名前が挙げられてしまえば皆そちらに期待するのは確実で、その時点でオーロラの存在感は二の次三の次になってしまう。従って「救世の予言」並びに「予言の子」と「真の王」など自分から「皆の愛=生まれた目的の実現」を奪う災害でしかなく、それを広めた鏡の氏族は、彼女からすればまさに厄災そのものだったのである。
(なお、この予言を逆手に取って「予言の子」に相当する存在を自らの手で造り出し、配下に置くことで自身の求心力を維持・向上する試みから生まれたのが、ソールズベリーの養育院及びパーシヴァルだったのだが、具体的な方法はメリュジーヌとウッドワスに任せ切りにしていた上に思うような結果が得られなかったため、双方をあっさり放棄した)
このように、彼女にとっての他者とはあくまで自身の妖精としての「目的」に必要不可欠なものであり、言い換えれば「自分を褒め称え、飾り立ててくれる装飾品(アクセサリー)かつ舞台装置」でしかない。
故にオーロラは、氏族長としての権限を使おうとはするが、その地位に氏族を守るべき責務がついていることは認識していない。予言より以前は鏡の氏族に自ら足を運んだりと、氏族長としての義務は果たしているが、それはあくまでも自身の「妖精の目的」に反しないからしているだけなのである。
故郷であるはずの妖精國も、そもそもオーロラからしてみればモルガンが一代で勝手に作った箱庭に過ぎないため端から愛着は無く、いちばん愛されたいという「目的」より優先順位は当然低い。なので国を護ろうとする動機が生じるはずも無く、そんな妖精國の次期リーダーや民の安寧などどうでもいい。
妖精國として俯瞰すれば、「真の王」が居たところで結局は問題の先送りでしかないことと、厄災が収まればブリテン異聞帯の有り様はモルガンの作った妖精國ではなく当初の更地になることを考えると、どのみち妖精國を護る動機は彼女からは出てこないだろう。(本編では奈落の虫が全てを飲み込んだが、あれはあくまでも『楽園の妖精』が使命を果たし、大厄災を全て撃退した結果なので、大厄災が暴れるだけであれば恐らく、最初にベリルと汎人類史のモルガンが見た更地同然のブリテン島だけが残った状況に近い有り様になると思われる)
実際に大厄災が起きても、彼女は「町や領民を護る」といった領主らしい意識は一切持たず、「そこにいるだけで価値のある妖精」という風の氏族の性質に従い「時間が経てば何もかも収まる、悩みごとはみんな誰かが解決してくれる」と他人任せにして自分は動こうとしなかった。
確かに大厄災だけであれば上述の通り放置していても収まる現象ではあったとはいえ、それは “ブリテン全土の住民の生存率を度外視すれば” という話である。なので町が燃えようと民が暴徒と化そうと何事も無いように微笑み、対応を急き立てられれば「生き残った北の妖精を自身の造った養育院の内部駆除用機能で始末する」「領内に出たモース病の妖精の処理を町の人間達に丸投げする」「余所から助けを求めて逃げてきた妖精は見捨てる」といった場当たり的な棄民の指示を笑顔のまま次々に出し、挙げ句「妖精國や妖精達が滅んだら自分は外の世界 (汎人類史) に移り住む=自分を褒め称えてくれる人達がいる他の場所を探せばいい」と考え、一人さっさと実行のための算段を練っていた彼女の非情さは、側近のコーラルや画面の前のマスター達を唖然とさせた。
(ある意味、妖精國の民たちの不安定さ・存在の軽さを理解しており、その有り様から考えると無駄なことをしなかっただけともとれる。とはいえ彼女の特性と、妖精の悪性を目にして救うのを諦めても自身の民として最低限の庇護を図っていたモルガンや、嫌悪と良心から自身の手を汚してでも民であった妖精を滅ぼすと決めたバーゲストを比べると血も涙もないという印象は強い)
そして彼女は、自分より注目され愛されるモノと同様に自分を称えないモノを敵視する。それは感情論のようなものではなく自身の「目的」を曲げかねない存在として脅威になり得るからである。
それは自身の腹心や同胞とて例外ではなく、前編序盤で登場したハロバロミアは、オーロラに「正論好き」と疎まれたが故に翅をちぎられ追放された被害者だった。
コーラルも「民を捨てて自分は安全な鐘楼に引き籠る」「外の惨状そっちのけで異邦の魔術師を庇護(=捕獲)し、彼/彼女から汎人類史の情報を収集する事にばかり関心を寄せる」といったオーロラの方針に異を唱えた=オーロラの意思より他の妖精達や人間達を優先した=オーロラを何よりもいちばんの存在として扱うのをやめたため――――
虫に変えて踏み潰した。
実はこうした彼女の本質は章の前半部分で片鱗が出ており、「自分は妖精國の存続よりも妖精の在り方を大切に思っている」という発言は、自分がいちばん愛されている状況を作ろうとする彼女の意志が「自分の生存」や「世界の維持」よりも優先順位が高いことに繋がっていた。
上述するソールズベリーの放棄も、恐らくはこの動機が含まれていた可能性が高い。
つまり前半で見せた人格者ムーヴは、ほぼ全てが上辺だけで中身の無いスカスカなハリボテ(虚言)だったということになるが、では何故こうした側面が「相手の嘘や悪意を見抜く妖精眼」を持つアルトリアに見抜けなかったのか。
これはオーロラが、自身の口にした言葉を全て自分にとっての真実にする性質、言い換えれば一種の強力な自己暗示の力を持っていたため。
彼女は誰にでもいい顔をしたい八方美人故に、状況次第でいくらでもブレる自身の言動で自己矛盾を起こさないため(更に言えば恐らくはモルガンの妖精眼を誤魔化すため)これを用いて「自分の全ての言動は無自覚に放ったものである」と内心で強く言い聞かせる事により、表層意識だけを見るのならこの段階で何も考えていないも同然の存在と化し、文字通り自覚無く「目的」のために行動できるようになっていたのだ。
そのため彼女が口にする賞賛や罵倒は、真偽など関係なく表に出した時点で全てが「真実」であり、自分が心にも無い綺麗事の台詞を考えたり嘘を吐いたりした自覚も、他者を引きずり落とすために悪意を以て奸計を用いたり、事実の曲解や罪の捏造を行ったりしたという自覚も一切抱けない。
挙句には「『誰からも愛されるオーロラ』のイメージに傷が付くような自身の言動」も都合よく忘却・脳内補完してしまう始末で、上述の鏡の氏族虐殺の折にもオーロラは「自分がメリュジーヌを唆して無実の存在を一方的に滅ぼした」事実を忘却し、「あんないい妖精達(鏡の氏族)を滅ぼす様な奴はこの世で最も穢らわしい存在だ」と周囲に心から嘆いて見せた。ノクナレア暗殺も自分ではなく「『予言の子』一行がやった事」になっていたため (当初はノクナレアごと一行の毒殺をも図っていた事と、その中には『異邦の魔術師』まで含まれていた事さえ、である) 、「真の王」不在による大厄災の発生も因果関係や罪責は自分自身で撒いた種だと結び付かず、コーラルの件でさえ、彼女の中では「軽いお仕置きのつもりだったが、“うっかり” 見失って “うっかり” 潰してしまった」という認識に書き換わっている。
そんなオーロラの言動だけなぞれば、損得勘定も信念も存在しないという、統治者ではない有象無象の妖精たちの大多数に近く、他の町の統治者には当てはまらなかった特徴であり、普段の統治者としての行動とのギャップも手伝ってスプリガンが困惑したのはあるかもしれない。
そして彼女を取り巻くのもまた、彼女と価値観の共通度が特に高い風の氏族が主であることから、彼らはオーロラを無邪気に支持し続け、オーロラは妖精國での地位を維持し続けた。
更に「その時々の理想の自分に忠実に生きられる+都合の悪い事は綺麗に忘れられる」という性質故に自己肯定力が決定的に強かったことから、自己肯定ができなくなった妖精が輝きを失いモースに堕ちるという妖精國特有の破滅条件にも当てはまらず、結果として妖精暦の代から数えれば実に約3000年もの年月を生きながらえてきた。
妖精國が、汎人類史との乖離が大きいことを示す異聞深度がEXの数値を示している根拠を説明するならば、妖精としての「目的」という軸を外すと人間には理解が難しくなるオーロラは十分にその役割を果たすキャラクターの一人である。
備考
- 風の氏族の「毒婦」
ノクナレア(及び、未遂に終わったが「予言の子」一行)を暗殺する際、オーロラは流言だけでなく毒を用いていた。
養育院に設置していた内部駆除用の機能も、「指先ひとつで眠るように旅立てる」という言から毒ガスの類ではないかと推測できる。
ここで連想されるのが、妖精暦400年に起きたウーサー暗殺である。
ウーサーも毒によって殺され、トネリコ曰く犯人の動機は「自分が気に入らないからというだけで」だった。そして脚本担当の奈須きのこ氏自身による同人誌『Avalon le Fae Synopsys』で、この同じ手口の暗殺もオーロラによるものだったと言及されている。(後述「余談」も参照されたし)
また、ブリテン異聞帯の始まりであるケルヌンノス殺害も手段は毒殺であり、となればこれもはじまりのろくにんのうち、風の氏族の祖となった亜鈴が主導したのではないかという疑念が持てる。※2
文字通りの「毒婦」としてのオーロラの性質は、先祖代々の業だったのかもしれない。
- オーロラの実力
大厄災がソールズベリーを襲い、町にモース病の症状が蔓延し始めてもオーロラは全く動じなかった。モルガンや協力者のオベロンに対してはあれだけ警戒していたにもかかわらずである。
これは危機感が無いというわけではなく、前述のメリュジーヌを毒沼から拾い上げた件から察するに、妖精起因の呪いは本当に彼女にとっては脅威でなかった可能性がある。
また、前記した「妖精國全土の噂を聞ける通信能力」や、他の妖精を別の生き物に変えてしまうことで上級妖精の耐魔力を抜いて瞬殺できる程度の能力はあり、モルガンやウッドワスのような桁外れの戦闘力こそないが、判明している能力だけでもそれなりの生存能力と戦闘能力は持っていると言える。
オーロラは刹那的にしか生きられない妖精ではあるが、見た目と口先だけの存在ではなく、そこは腐っても氏族長という他ないだろう。
- その他捕捉事項
※1
作中で「目的」に沿って生きていると描写された妖精はそれほど多くはなく(ホープ、ノクナレア、オベロン等)、オーロラはそれを律儀に3000年続けていたことを考えると、ある意味妖精として真面目だったと捉える声もある。
ただし、そもそも個々の「目的」が明かされた妖精自体が一部ネームドキャラに限られ、(その内オベロンとアルトリア・キャスターは、周りの環境と状況下によって『そうせざるを得なかった』影響が強く、内心では「目的」を達成する事自体嫌々やっていた) 本来の使命=「目的」を捨てて永らえたモルガンも汎人類史のモルガンの介入によって変質したイレギュラーであるため、妖精國の他の妖精が「目的」に囚われず平然と生きていたと考えるのは早計と言わざるを得ない。
事実モース化したホープや発狂したドラケイ、欲望に歯止めが効かなくなった結果「目的」が邪魔者の排除に切り替わり、周りのものを破壊・殺戮するだけの悪妖精(アンシリー・コート)化した妖精達の有り様を通して「目的」に沿う生き方ができなかった妖精の運命は明示されているため、無事な妖精は何らかの形で個々の「目的」に沿うように生きており、物語の本筋には関わらないから描写を省かれただけと考えるのが自然である。
重ねて言うが、妖精の「生まれた目的」は「存在基盤に直結した本能、あるいは宿命そのもの」であり、「不真面目な者なら放り出せる程度の単なる課題」ではない。後天的に別の「目的」を見つけて上書き更新するケースもある(元の「目的」は新しく生まれる妖精に引き継がれる)という設定も出ているが、それも「自身の存在の全てをかけて果たすべきもの」であるため気まぐれ程度でコロコロ変えられる程容易なものではない。
オーロラが一つの「目的」を保持し続けたのは「真面目だったから」というより「本能に忠実」かつ「『自分を変える』という概念を持たない種の妖精」だったからと考えられ、3000年続いたのも「合う環境に居られたから」かつ「他者に潰されない強い力と高い地位が有ったから」という点が大きいだろう。
※2
はじまりのろくにんの中にオーロラのような妖精が居た場合、亜鈴5人を毒殺してでも「目的」に沿って聖剣を作っていたのではと解釈する声もある。
が、妖精は基本的に代々「目的」を受け継いで生まれるとされており、そう考えると異聞帯ブリテンの各氏族の祖であるろくにんとその後継である氏族長の「目的」は同じ=オーロラの祖先の「目的」も「自分がいちばんに愛されること」であって「聖剣鍛造」の責務は後から生じたもの…所謂「任務」や「指令」に近いと推定できる。
この「目的」と「自分の預かり知らないところで人々や神々が死に、糾弾する相手も残らない」事態は決して対立はしない(自分を知っていてかつ責めず肯定してくれる相手だけ生きていればいい)ため、「自分を褒めてくれる気の合う5人の仲間と一緒にサボり、外の世界の滅びを見ても反省せず、生き残って糾弾しに来た存在を毒殺」という流れは成立しないとは言い切れない。(「サボりを咎める口喧しい真面目ちゃんとして振る舞ったら嫌われるから、仲間に合わせてサボった」という可能性も、「自分は聖剣作りなんてしたくないし、自分だけ怠け者として失望されるのも嫌だから、残りの五人に甘え都合のいい言葉で誑し込んだ」という可能性も両方考えられる)
「亜鈴は仔と違い唯一無二の存在なため、死んでしまうと『次代』は発生せず、生まれるのはあくまで同等の力を持つ亜鈴返り」という情報もあり、元祖の亜鈴と亜鈴返りがどこまで近い存在なのかは不明瞭=力は同等でも「目的」まで同じとは限らないとする意見もあるが、それでもセファールというブリテンからすれば未知の存在の襲来に予め備えるような「目的」が果たしてろくにんが生まれるより前に生じるか、襲来を確認してから「目的=聖剣鍛造」を植え付けたろくにんを星が生み出そうとして間に合うのかという疑問は残る。
知った上で付き合っていた面々
性質を正確に理解すれば彼女を真に自分の陣営に引き入れることも不可能ではなく、実際それを分かっていたオベロンは相互利用できていた。ただしその「妖精の目的」の内容ゆえに、理解していても舵取りが難しいので、かなり慎重な交渉を要した。
※
「オーロラが何も考えず気まぐれを起こしていたのではないか?」という考えについては、オベロンとオーロラは共謀してお互い情報共有をしており、オベロンの手広い情報網の一端をオーロラの風の声が担っていた事を前提に置くと考えにくい。
何故ならオベロンの計画は、意図せぬ状況でオーロラが気まぐれを起こしただけで瓦解するからだ。事実、主人公一行がソールズベリーで妖精國における内事情の調査を兼ねた『社会勉強』という名の奉仕活動に励んでいた折には、領民から頼られだした=自分より目立ち始めたと看做して態と虚偽の情報を流し、間接的に粛清しようとしていたため、それに気づいたオベロンは脱出後さっさとソールズベリーには戻らない算段を取っている。
なので両者は少なくとも、打倒モルガンまでは協力出来ると相互理解した上で組んでいたと考えられる。回想でもお互いの線引きを越えない範囲で探りあっていた節がある。
ただ、オーロラが気まぐれを起こす事は計算内としても、タイミングについてはどこまでがオベロンの計画だったかは疑問が残る。
オベロンの計画は「モルガンの排除」「聖剣の作成」「ケルヌンノスの排除」の3段階で成り立っている。しかしケルヌンノスが残ったままだとブリテン異聞帯の初期状態のような更地になるだけなので、ブリテン自体を消すには至らず計画を達成できない。したがってこの異聞帯の特徴である「聖剣が無い状況」で気まぐれを起こされるのは、オベロンにとっても都合が悪かった部分もある。故に「一行は打倒モルガンに必要だ」と説いてオーロラを牽制していた。(一方のオーロラは必要ないと考えていた節がある。というのも人間牧場の件から分かる様に、一行の存在もまた彼女からすればモルガンと同じく「自分から『いちばん』を奪おうとする存在」でもある為、むしろ彼処も居なくなってくれた方が都合が良い上、他の大勢の妖精と同じく、あの女王に「予言の子」なんかが敵うわけないと見ていたからだ。事実、対モルガンという点に限って言えば打倒のトリガーになったのは当人の口先であり、主人公達は全滅寸前まで追い込まれてしまっていた)
このあたりもお互い打倒モルガンまでの協力関係だったという根拠である。
オーロラを最も間近で見ていた一人。
肉塊でしかなかった頃にオーロラに掬い上げられた彼女は、その時に見たオーロラの美しい輝きに魅せられると同時に深く愛し、その輝きを守ることを己の使命として新たな形を得た。
そのため、オーロラが自身に向かって鏡の氏族に謂れのない罪を着せる考えを示し、遠回しに「始末してこい」と迫ってきた際も、「それでオーロラの輝きが曇らずに済むなら」と従ってしまった。
鏡の氏族はメリュジーヌ=アルビオンの遺骨を祀る大人しい種族で、メリュジーヌにとってはかけがえのない家族にも等しい存在であり、そんな相手を虐殺するなど当然耐え難いことではあったが、それ以上に「彼女たちの存在が注目を集めることによってオーロラの輝きが曇ること」「オーロラの願いを拒むことで自身がオーロラの輝きを曇らせること」「そのせいでオーロラが苦しむこと」「オーロラに不要とされること」の方が耐えられなかったのである。
しかし、罪悪感を殺し虐殺を終え「オーロラさえ労ってくれるなら自分は報われる」と言い聞かせながら帰って来た彼女が目の当たりにしたのは、上記の通り、自身の所業を無かったことにして「犯人=モルガンの手先である妖精騎士ランスロット」を「この世で最も醜い存在」「外見はどんなに綺麗にとりつくろっても、所詮は自分(オーロラ)の真似ごとをしているだけ。あんな汚いモノは思うだけでも汚らわしい」と切り捨てるオーロラの姿だった。この瞬間、メリュジーヌはオーロラが他者への労いや感謝を抱く余地の無いただの自己愛の権化でしかないと悟った。
(しかもパーシヴァルの養護院における回想から推測するに、オーロラの言動およびメリュジーヌがとった一連の行動及びやり取りはこれだけではなく、他にも彼女の「目的」と気まぐれに基づく『お願い』によって、何度も人種や領民内外を問わず罪の無い者達を幾人も手にかけ、全て終えるとオーロラの半理不尽かつ上辺だけの罵倒を自身の預かり知らぬ所で浴びせられ、その本質を突き付けられては苦しみ嘆いていたことが窺える)
それでもメリュジーヌはオーロラを見限れなかった。自身の願い、あの日見た輝きへの憧れからオーロラへの愛を捨てられなかった。それらを捨ててしまえば己は身も心も己でいられなくなると分かっていた……
その想いは最後まで変わらなかった。
※
なお、鏡の氏族はその予知能力の強さから、氏族長のエインセル以外は未来で起きる悲惨な事実を変えられないことに対して悲観かつ消極的になっており、滅ぼされる前から滅びを予見して受け入れていた。
メリュジーヌに殺されるときですら彼女に同情し、妖精亡主と化してさえそれは使命のためであり恨みのためではないという、汎人類史の価値観で見れば聖人の域に達している。
そんな彼女たちを悪人として滅ぼし、なおかつその罪から逃れたオーロラの非道さがより際立つというものである。
迎えた結末
大厄災に襲われ、妖精や人間達が争い、燃え盛るソールズベリーの町に戻ってきたメリュジーヌをオーロラは「いつも通り」の笑顔で迎える。
オーロラはコーラルの顛末を「自分の認識」に沿って語り、妖精國を捨てて汎人類史の世界へ行くという考えをメリュジーヌに明かし、共に来るように誘った。
改めてオーロラの本質を見たメリュジーヌは涙を流し、オーロラの腹を剣で貫いた。
動機は義憤や失望、憎悪ではない。
今まで通り「オーロラの輝きが曇ってしまうことを防ぐため」「オーロラ自身が輝きの曇った己に傷つき苦しむことを防ぐため」である。
己の欲望に忠実過ぎるオーロラは並外れた自己肯定力を持つが、それに必要な原動力を他者に依存している。
しかしその点において、オーロラがその思想を危険視されず、それどころか氏族長として祭り上げられたのは、彼女の統治する民が疑うことを知らない純真無垢――言い換えれば幼稚で刹那的な愚か者ばかりの妖精たちと、元からこの世界での身分や立場が低かった人間たちという「相性が良すぎた」存在ばかりだったからと考えられる。
では汎人類史ではどうなのか。メリュジーヌは「汎人類史の世界ならば、必ずその本質を見透かされ排斥される。そうすれば君は輝きを失ってしまうだろう」と見解した。
後述の独白の中では、オーロラはメリュジーヌ関係以外は「目的」に関わる事項以外の「欲望を出した」ことが無いらしく、周囲に合わせて行動を選んでいた節があるので、メリュジーヌの語る排斥はいずれ訪れるとしても、それまでは数年か数十年か数百年かは分からないが持った可能性もある。「おいおいね」の件から察せられる通り彼女の時間感覚は人間の比ではない。
しかし、その間に彼女の望むモノを一時的に手に入れられたとしても、それが外部に拡大していけば、いずれは抑止力や妖精を超える人外、神秘を秘匿する機関や異端排除の専門機関の跋扈する、正に人外魔境と言う他ない世界とぶつかる事態となるのは目に見えているため、余程狡猾に立ち回らなければ自滅を待つのみである。
仮に上手く立ち回っても、たった一度の失策や不運だけで今まで積み重ねてきた全てを一瞬で失う汎人類史において、ただ美しく在り続けるだけで学習や向上といった変化を知らない彼女では適応が望めず、生き残ることは難しい。
また、汎人類史では土地に染み付いた呪いに由来するモース化現象は無いと思われるが、それ以前にこの世界における妖精は、自分たちの純粋性が人間特有の狡猾と強欲さから来る醜い悪意に染まることを恐れ、一部を除けば自分たちから関わろうとすることは良しとせず、霊脈の多い秘境、あるいは神秘が色濃く残るイギリスの僻地から繋がる妖精郷に引き篭っているため、人間が居る土地で見かけることはまず無い。
そんな彼らからすれば、いくら自分たちと精神性が近い故の無自覚と云えども、オーロラがやっている事は自分の欲のままに振る舞う、ずる賢くて汚い人間と同類であるため、当然ながら歓迎されることなどまずあり得ない。(そもそも妖精國の妖精には、依存レベルで人間の存在が必要不可欠なため、人間が居ない妖精だけの環境で生活など当然出来るはずもなく、早々に瓦解するのは目に見えていた。オーロラも内心ではそれを理解していたので、あえて此方の同胞と暮らす案は口にしなかったのだろう……)
以上を踏まえるとメリュジーヌが言う所の排斥には、人間社会は勿論のこと、妖精社会においても爪弾きにされて何処にも居場所が無くなり、(自分を除けば) 文字通り独りぼっちで惨めに生きるしか道はないという意味も含まれており、どう足掻いてもオーロラは、彼女にとって都合の良い条件を満たせる妖精國でしか生きられなかったのだ。
そして万が一運良く生き延びたとしても、最終的には妖精國でのそれとかけ離れた姿に変質する可能性が高く、そのまま悪妖精化するか或いは彼女を憐れんだメリュジーヌに介錯されるかの結末になると思われる。
(ホープの様に妖精としての「目的」を忘れて自我を保てなくなる可能性もあるが、自己愛の塊であるオーロラからすれば、別な意味で無様な醜態を晒すこの上ない屈辱である為有り得ない…それが後述する良くも悪くも『特別な執着』を抱くメリュジーヌの目前であれば尚更である。それは自害も同様)
いずれにせよ、汎人類史に出たオーロラに待ち受ける苦しむだけの末路が現実になる前に手にかけたのは、彼女なりのオーロラへの愛と感謝の形であった……
(女王暦になる前の妖精暦から生きている彼女が「汎人類史への移住そのものが不可能か」どうかについては、妖精暦から存在するケルヌンノスの影響が汎人類史に波及しようとしていたことから、「女王暦で存在しているかどうか」の判定の可能性が高い。そもそも外に出られないならメリュジーヌが介錯する必要は無くなる)
終盤、死ぬ間際のオーロラはオベロン・ヴォーティガーンからブリテンを守る為に最後の飛翔をする、かつてメリュジーヌであった竜アルビオンを見上げた。
廃墟と化した館で彼女は過去を振り返る。
誰も愛さない代わりに、誰も欲しがらない。自分より輝くものが現れたら、無意識に陥れて排除する。ブリテンでもっとも美しい妖精。彼女は3000年間そうあり続けた。オベロン・ヴォーティガーン曰く「加害者であり傍観者でもあったからここまで生きてこられた」「ブリテンでもっとも無垢な簒奪者」だった。
その一方で女王暦になってからは翅の輝きが落ち、自らが醜悪な生き物であることを心のどこかで自覚しつつあった。
ただ、オーロラは過去に一度だけ自分の為にならない、つまり他者から褒められる目的でない事をした。それが、暗い湖の底で蠢く肉塊であるメリュジーヌを救い出した時である。もちろん、動機は一緒にいた侍女達に「ブリテンでもっとも美しい妖精が、ブリテンでもっとも醜いものを助ける」という自分の素晴らしさをアピールするだけの打算に満ちた行動だった。
しかし、抱き上げた肉塊は嗚咽し涙を流し、その涙がオーロラにはこれまで見たこともないほど悲しく、温かく、真摯なものに見えた。そして、救助行為をしたことによる周囲からの羨望の期待ではなく、自分の行い自体に感じ入ったことも初めてであった。
メリュジーヌは、触れたくもなかった肉塊であった状態から「きみのようになりたい」と思い、美しい妖精になった。その美しさは、長く生き衰えていたオーロラが憧れ、憎み、疎ましく思う程であり、彼女の心の醜さを湖面のように映し続けた。オーロラも、そんな美しい存在を生み出した自分は良いことをしたのだという、純粋な本心で微笑んだ。それは生まれて初めての、賞賛されたいという狙いを持たない微笑みだった。
竜へと変貌したメリュジーヌの、飛びながら砕け散っていく姿を子供のように見上げながら、
「…………消えろ、消えろ。……高く、高く。……どこまでも…………高く………………」
祝福と呪詛、その両方が込められた言葉を呟き、勝ち逃げの如くオーロラは死んだ。
血に染まりながらも、彼女は最後まで美しく(みにくく)輝き続けた。
発言が全て真実になってしまう彼女にとっては、翅の輝きが落ちて醜い存在になりつつある事実は、たとえ自覚していても口に出したが最後、自分の存在を否定することを意味するため、今の今まで本音を語ることができなかったと考えられる。
また、オーロラの風の声の能力を考えると、風の声をメリュジーヌに聞かせたのは意図的なものと考えられる。オーロラにとってメリュジーヌは妖精の「目的」の例外に位置しており複雑な感情を抱いている。メリュジーヌの鏡のような性質と、翳りを見せる翅と、最後の独白でメリュジーヌを本当に無垢と評した事をまとめると、彼女なりの筋の通った理由があった可能性もあろう。
さらに同人誌『Avalon le Fae Synopsys』によれば、妖精國に生まれた当初のオーロラは16歳頃の姿をしていたが、ある時を境に20〜24歳の今の姿に成長してしまった……とされている。メリュジーヌの外見年齢も大体16歳以下に見える事を考えると、彼女の存在はオーロラにとって「自分がかつて失った理想の姿」であると同時に「誰にも渡したくないもの、二度と手放したくないもの」という側面もあったと思われる。事実『Fate/Grand Order フロム ロストベルト』においては (あくまでも本作における一解釈ではあるが)、メリュジーヌの無垢な美しさがいずれ自分を上回り、取って代わられてしまうことを深層意識で恐れながら、都合の良い難癖を付けて抹殺することもできたにもかかわらず、自身の目的の為に使い潰す形で抑えつける範囲に留めていた。
(モルガンとの決戦時、戦力面で言えばウッドワスが死んだタイミングでメリュジーヌも突撃させた方がより確実にもかかわらず撤退の指示を出していた点も、妖精國中の魔力を集めているモルガン相手だと、メリュジーヌもただではすまないと無意識に考えて守ろうとしたからという可能性はある)
そのため、本音で自らより美しい存在を認めながら死ぬことは、「誰よりも美しくなければならない」という「努力の出来ない身」には重すぎる使命を持ち、それ故に他者を貶めることしか出来なかった彼女にとって、最も屈辱的であれど、救いある最期だったのかもしれない。
日々枯れていくだけの生活がすなわち死ぬよりもおぞましいことである彼女にとって、汎人類史へ逃げようとした気まぐれの選択は地獄行きの切符であり、それを食い止められて最後まで称えられ続けたまま幕を閉じたことで、結果的に妖精らしく生まれ持った「目的」を果たした。改めて、自分に都合の良い世界を真実にしてしまう「妖精としての強み」は並大抵ではない。
余談
- 制作者からの人物評
ライターである奈須きのこ氏から担当絵師であるTAa氏への依頼は「FGO史に名を残すほどの問題人物」であったとされている。
過去に人類を滅ぼし得る規模の所業を行ったビースト達であっても、彼らには「その愛をもって人類を滅ぼす」という信念で一本の筋を通しており、それすらも置き去りにするほどの問題人物は中々に無いと言える。
- 「成長」の背景
オーロラの見た目が成長するに至ったきっかけや過程については不明だが、マスターの間ではモルガン(トネリコ)が妖精暦500年時に妖精國を復興させた頃ではないか?という説が浮上している。
上述の通りモルガンはオーロラだけをモニター越しで会議に参加させており、キャメロットへの出入りも禁じている事から、彼女が妖精たちにもたらす影響力を熟知していたことが窺える。そして妖精暦の終わり頃――「救世主トネリコ」としての最後の活動時に起きた大きな出来事と云えば、言わずもがなウーサーと当時の円卓軍毒殺を発端とした、最初のロンディニウム炎上と崩壊である。
ここからオーロラがウーサー殺害に裏側で関わっており、モルガンは彼女が風の氏族の長という立場の関係上抹殺出来ないため、代わりの報復として当人の外見年齢を変える=老いの形で美しさを奪える力を示すことで同じ轍を踏ませない為の対策処置としたとも考えられる。事実見た目の美しさの重要性は、オーロラが自分の醜い本質を自覚し始め、メリュジーヌに愛憎を抱く根幹ときっかけにもなっている。
- 汎人類史の「オーロラ」
氏族長は全員「元ネタの妖精」が存在するのにオーロラだけは存在しないことから、汎人類史ではすぐに消され、伝承にも残らない程度の存在でしかなかったのだろうと思われている。
が、地域や時代を広げれば「ペリー・ダンサー(イングランド)=フィル・ヒリーシュ(スコットランド)」や「アウローラ(ギリシャ)」など名称の意味が近しい存在はあるので、変質して存在している可能性もある。
その後の登場
『サーヴァント・サマー・フェスティバル2023!』のミニシナリオにてアルトリアを題材としたゲームをプレイすることになったのだが、黒髭が自作したゲーム・『妖精界の村』にて彼女にそっくりな姿をしたボスキャラであるブラッドオーロラーが登場した。(当然アルキャスはこの事に驚愕していたが、当の黒髭は妖精國での顛末を知らなかったのかよく理解していなかった)
これは元ネタの中の「ラスボスではないが攻撃回避力と追尾力が高く、ゲームクリアの高い壁になる難敵(しかも存在としてはラスボスより古株)」のポジションであり、モルガンやアルトリアから見た妖精國での彼女の立ち位置と一致するダブルパロディに仕上がっている。
比較対照可能キャラクター
『~疑惑』の項で述べた各種の描写から、裏でモルガンに関する情報をやり取りしていた事が示唆されている。また、刹那的かつ自身の目的の為なら自分の命や周りの犠牲も厭わないという性格面と、妖精國を崩壊させた要因が『自分にとって邪魔なモノを排除しただけ』という点で共通している人物でもある。
ただしスタンスとしては、オーロラが「何も考えていない」のに対し、彼は「(欲しいもの以外は)どうなっても愉快ならそれでいい」とかなり両極端。
せっかく上手く運んでいた事をその場の思い付きで台無しにする悪役繋がり。特に後者は「自分のために全ての他者を使い潰す自己愛の権化」という点も重なる。
ただしこの二人は事の善悪や周囲への影響を把握した上である程度長期的な計画性を(少なくとも途中までは)持って行動できるのに対し、オーロラは本当にその場その時その瞬間の自分のことしか考えられない。
またオーロラの場合、結果としては自身の思惑は一通り果たしている(台無しになったのはあくまでも周囲の他者の思惑)という点でも、二人とは異なる。
イベント『ぐだぐだ新邪馬台国』にて発覚した、様々な所業及びそれにより齎された惨状がオーロラと類似しており、元上司からも「恨み買いすぎだ」と突っ込まれている。
しかし後先考え無しなオーロラとは真逆で、天下人として大局を見据えた上で動いてはいるもののそれに至るまでの判断が速すぎることと、それまでの経緯や過程を度外視したものである為に、周囲がそれに着いていけなかったと言う代物。
分かりやすく言うとこちらのタイプに該当するのかも知れない。
ブリテンの王の証たる島の神秘の加護を持って生まれた彼女は、いわば「王としてブリテンを統べる」という「生まれた目的」を抱えた存在だったが、父王ウーサーとマーリンが次代の王として異母妹のアルトリアを作り出したことによって「目的」を阻まれ憤慨。
王位を奪い返し「目的」を果たすために周囲を操り、時には我が子さえ利用してアルトリアを陥れた結果、円卓どころかブリテン自体を滅ぼしてしまった。
妖精國のモルガン及び彼女のブリテンは、奇しくも「汎人類史の己のように『生まれた目的』に振り回された存在」によって滅んだと言える。
ご存じネロ・クラウディウスの母親。
「『ローマ皇帝の母』という身分を通して自身一人の欲を満たすため、血縁者も含む他者を利用して蹴落とし踏み躙り、真っ当な愛を求める我が子さえ、自分に都合の良い人形として扱った挙げ句毒まで盛る女」として描かれている。
自覚有る悪意の塊という点は異なるが、やった事は大分似ている。
2部6章公開後、プレイヤーから「頭オーロラ」というスラングが作られてから約2年後、初登場シナリオ内で「頭ドゥリーヨダナ」という言い回しが使われた(強欲、ズルい、自分勝手といった意味合い)。
ただし、やらかした実績はわりと洒落にならないものの、それでも多くの兄弟や仲間達を率い慕われる真っ当なカリスマ性や責任感、更に欲望まみれで逆に裏表の無い人柄から、在り方はまったく似ても似つかない。