概要
藤子不二雄(藤本、安孫子の両方)のチーフアシスタントを務めた後、独立した漫画家・方倉陽二が、1977年4月から『コロコロコミック』で連載した漫画。
てんとう虫コミックスから全2巻で発売されたが、未収録のエピソードもある。現在は絶版だが、方倉の故郷・豊後高田市の市立図書館では読むことができる。また、国立国会図書館のデジタルコレクションに含まれており、同館内のPCでも読むことができる。
連載開始時の状況
本作の連載開始前から『ドラえもん』は6誌で並行連載が行われている人気漫画で、各誌には「ひみつ百科」等の記事が掲載されていた。作者の藤本は連載本編の執筆で多忙だったため、これらの記事の執筆は、1973〜1976年に藤子不二雄のチーフアシスタントを務めていた方倉が担当した。1977年のコロコロコミック創刊にあたり、その方倉が本作の執筆者に選ばれたのは自然の流れだといえる。
本作の連載開始時は、てんとう虫コミックス『ドラえもん』1〜13巻が刊行されており、その500万部突破を祝う内容が本作第1回には含まれている。
特長
『ドラえもん』を第1話から読む読者ばかりではないため、その作品設定は初見では伝わりづらい場合ももあった。知識のない読者は「なぜドラえもんがのび太の家にいるのか」「なぜドラえもんはネコ型ロボットなのに耳が無いのか」といったことがわからないまま読み始めていたのである。
本作は、『ドラえもん』という作品についてのあれこれや(基本設定、漫画執筆の実態、アニメ化情報)、ドラえもんの身体各所の機能について細かく解説することで、外と内から作品を掘り下げる内容になっている。ドラえもんの各機能を解説する際には、時にはSF考証(『空想科学読本』のような科学考証ではない)も盛り込まれている。
…のだが、この解説は方倉の持つスラップスティックすぎる悪乗りが多分に含まれており、現在「『ドラえもん百科』に書いてあることが全て作者の藤子不二雄(1989年以降は藤子・F・不二雄、1996年の作者没後は藤子プロ)が認定した公式設定である」とは言えない状況にある。
本作は徹底的に「ドラえもんというドジロボットが主演のギャグ漫画」「のび太はそれに巻き込まれたり、ツッコミを入れたりするチョイ役」というスタンスで描かれている。そこには我々が知る「ドラえもんはドジなのび太を諫め優しく導く保護者」という視点は無いに等しい。ドラえもんはQ太郎やウメ星デンカのようなコミカルトラブルメーカーとして描かれている(ただし、藤本の漫画の中期~後期のエピソードでも、ドラえもんがのび太と同じようにひみつ道具で調子に乗ったり、のび太と共に周囲に騒ぎを引き起こす場面は度々描かれている)。
連載後期にドラミの解説が始まると、極端なまでにドラえもんをDisりドラミを持ち上げるような扱いをしており、作中でも「ドラえもんはドラミのことを愛しているから、このように道化を演じているのです」とまで書かれていたほどである。それが加速し…(後述)
他にも急に劇画風になってドラえもんが八頭身になったり、当時の時事ネタとして王貞治や口裂け女、更には○ッキー○ウスが登場したり、ヤバいネタは盛りだくさんである。初見で本書を笑わずに読める人はそうはいないだろう。
なお、本作では主に行われているのは漫画『ドラえもん』の解説だが、大山のぶ代版アニメ、アニメ映画について特集を行う回も複数ある(当たり前だが、約四半世紀後に放送が開始される水田わさび版アニメとは無関係である)。
その他の主な内容
1979年には『ドラえもん』の2度目のアニメ化(テレビ朝日)が発表され、『コロコロコミック』誌上では、まるで初のテレビアニメ化のような特集記事が組まれたが(コロコロ編集部による隠蔽)、日テレ版ドラえもんのことを知っている読者が編集部にクレームを入れたため、本作『ドラえもん百科』内で初のアニメ化ではない旨がほんのちょっぴりだけ説明された。
1980年の映画ドラえもん第1作『のび太の恐竜』公開時には、「ドラえもんVSティラノサウルスくん」という内容が本作内で描かれた。なお、同時期の「小学四年生」(1980年5月号)の別冊付録には、『のび太の恐竜』のダイジェスト漫画(45ページ)を方倉が執筆した(単行本未収録)。
ドラえもんと様々なSF作品のロボットを比べる企画では、スターウォーズや未来ロボダルタニアスが取り上げられた。そこでは『ゲッターロボ』の主人公のことをリョウ隼人と誤って記載している(正しくは「流竜馬」で、その相方が「神隼人」)。
本作ではギャグ要員としてネズミが『トムとジェリー』のようにしゃべりまくる。方倉はよっぽどドラえもんVSネズミの構図が好きだったのか、コロタン文庫などで描かれたひみつ道具解説の際にもよくしゃべるネズミを登場させている。
本作内に出てくる文言や台詞
- みんな知ってるね:本作でノラミャー子の絵の横に添えられた文言。
- 「君はあののび太よりおっちょこちょいか!?」:本作内の台詞。ネット上でよく煽り画像として出される。
- 「さてここで一発音楽でも行ってみようか」:本作内の台詞。ラジオDJに扮したドラえもんが発する。
方倉設定
本作をはじめとした「方倉陽二が自作内に執筆したドラえもんの諸設定」は方倉設定と呼ばれている。本作は、ドラえもんのキャラクターが登場するドタバタギャグ漫画でもあるため、描かれた設定の中には読者を笑わせるための一時的なギャグも多く含まれている。
方倉設定の一部は、藤本が逆輸入する形で『ドラえもん』本編に取り入れたものもあるが、細かなギャグ設定の多くは、単なる一時的な記事として扱われ「そんな設定はなかった」ことになっている。
藤本の『ドラえもん』本編に取り入れられたもの
- ドラミの「タイムマシン」はチューリップ型ということが方倉設定で定められたが、1980年の「ガンファイターのび太」にて、チューリップ型のドラミのタイムマシンが初登場し、その後もたびたび描かれた。「チューリップ号」という名称は藤本の漫画には登場しない(名称は『決定版ドラえもん大事典』には「チューリップ号」と記載されているが、水田版アニメには「時空間チューリップ号」として登場するなど、バラつきがある)。
公式設定として取り入れられ、解説書等で現在も踏襲されているもの
- ドラえもんの足の裏には「重力反発装置」が搭載されている。その為、常時3㎜浮いており、裸足で外出しても家の中が汚れる心配は無い。また、この装置と同質の技術「極微反重力特殊コーティング」が身体の表面にも施されている為、どれだけ身体が汚れても布で軽く拭き取るだけで綺麗になる。
- ドラえもんは短足だが「伸縮マシーン」という装置が搭載されており、この装置のお陰で正座をすることが出来る(当初は後期の「ドラミはドラえもんより絶対的に優秀」という方針のため、「ドラミは正座できるがドラえもんは胡座しかできない」と発表。しかしこれ以前に本編にてドラえもんの正座は披露されていたため、日本中の読者が「一番ドラえもんに関わった筈の編集者が嘘を流すなんて!」「所詮大人はドラえもんを真面目に読んでないのか!!」と大激怒し抗議の手紙を送る、俗に言うドラえもん正座事件が発生。これを受けてドラえもんが作者の方倉氏をハンマーで2発ぶん殴り「やかましい、ボケ!!」「わかったか、おろかもの。」と散々にこき下ろし訂正させると言う形でこの件は丸くおさまった)。また、腕もある程度まで伸縮自在であり、それでTC36巻『天つき地蔵』で、手で自転車を漕ぐという技を見せている(劇中後半になるほど、この伸縮した腕はよく描かれている)。
- ドラミは量産機ではなくオンリーワン(ただし『ドラえもん道具カタログ』では、ドラえもんと同様にドラミも量産型の市販品として扱われている)。
- ドラえもんとドラミは同じ缶に入ったオイルを使用しており、ドラえもんの方が薄い上澄み液を、ドラミの方が下の濃いオイルを使った為に、ドラミの方が高性能になった(藤本の漫画では言及されていないが、大山版と水田版の両方のアニメで共に採用されている)。
- ドラミの好物はメロンパン、大嫌いなものはゴキブリ。
- ドラミの眼には「必殺ウインク光線」を放つ機能がある(『映画アニメドラえもん「のび太の日本誕生」』、『ドラえもん最新ひみつ百科1』、『決定版ドラえもん大事典』、『ドラえもんひみつ大百科』)。
公式でスルーされているもの
- ドラえもんは自分の名前を戸籍に書こうとして「え」のカタカナが思い出せなかったのでうっかり「えもん」をひらがなで書いて登録してしまった。
- ドラえもんの役職は特定意思薄弱児童監視指導員(もっとも、これは、コロコロ読者からの質問に困ったDJドラえもんが苦し紛れに発した一発ギャグ)。
- ドラミはボーイフレンドが4人(出てこないものも含めると15人)いて、彼らを家に集めてホームパーティーするくらいのリア充。1990年代後半のドラえもんズ映画でドラミはドラ・ザ・キッドといい雰囲気になるが、過去のボーイフレンドたちについてはまったく語られていない。
- ドラミは新素粒子を発見しただの展覧会で金賞受賞だの長編小説執筆だのと、露骨にヨイショしている設定が多い。
この他に「のび太がハナクソダーツのギネス級記録保持者」等、公式でスルーされているどうでもいい設定が山ほどあるが、ここには書ききれないので自分で確認してください。
なお、ハナクソダーツをする場面自体は藤本の漫画(1974年『夢中機を探せ』)でも描かれているが、その場の思いつきでハナクソダーツをやりはじめた場面しか描かれておらず、その後、ギネス級記録保持者になったのかどうかまでは言及されていない。
公式に取り入れられていない設定
- ドラえもんの故障している機能を取り換えるにはネズミを特定の数だけ捕まえる必要があるので、事実上壊れっぱなしであるという設定が『ドラえもん百科』に記載されているが、前述の通り鈴は新品と交換したことが『アニマル惑星』にて語られている。がんばってネズミを10匹つかまえて交換できたのかもしれないが、藤本の漫画本編では語られていない。
方倉設定に関するその他の事項
1995年頃に乱立するドラえもんの諸設定が整理される前は、方倉設定は長らく準公式設定として扱われていた。
その間にテレビ朝日で放映されたクイズ大会で問題の底本にされることもあり、方倉がすっごく小さいコマで描いた「ドラえもんの好きな楽器は太鼓」というドマイナーな設定が1問目出題されるというひどい事態もあった。
どこぞのトーク番組あたりで堂々と方倉設定を公式設定のように披露してドヤ顔をする芸能人がいたりするが、時に下手にこれをするとコアなファンから方倉設定(しかも藤子Fによる修正済設定)である事を指摘されて大恥をかいたりするので注意を要する。
ただしファンは方倉設定に対しても「作品の歴史のひとつ」として敬意を払う事を常としており、近年は公式側も「方倉設定を信じてしまった初期ドラ世代への配慮」から両方を拾い上げる向きがある。
藤本設定か方倉設定か未調査の事項
- ネコ集めすず
- 「誕生直後のドラえもんは特売品として取り扱われていた」という設定は方倉設定だと誤解されることもあるが、1976年に発売されたてんとう虫コミックス11巻「ドラえもん大事典」(加筆版)にて藤本が「がらくたばこ」に放り込まれるドラえもんの姿を描いている。ただし、「ドラえもん大事典」(加筆版)よりも前に方倉のみで作画した解説記事等に同じような内容が描かれており、それが方倉のアイデアで記載されたものであれば、方倉設定と呼んで差し支えないということになる。
関連イラスト
関連項目
- 怪物くん:このマンガの次回作として『怪物くん百科』(さいとうはるお)が始まったがこちらは未単行本化。『ドラえもん百科』の実質的な最終回は『ドラえもん怪物くん百科』というタイトルで、方倉が執筆している。
- 2112年ドラえもん誕生:藤本が執筆したドラえもんのおいたち、本作『ドラえもん百科』、その他各種解説書、アニメ各種によって異なるドラえもんの誕生から現代にやってくるまでの設定の差異を統一すべく、藤本の合意と共に作られた1995年公開のアニメ映画。公開当時、藤本もこの作品における設定を「ドラえもん誕生の決定版」と述べていたが、水田版アニメではこの作品の設定を採用しているエピソード(「ドラえもんが生まれ変わる日」『ドラチャン☆ドラヂオ第15回』)と、上記の方倉設定を採用しているエピソード(「走れドラえもん!銀河グランプリ」「ドラえもんの100年タイムカプセル」)の両方が存在し、バラつきがある。