概要
全体は、『機動戦士Zガンダム』の第50話「宇宙を駆ける」において初登場した存在で、考案者は富野由悠季など『機動戦士Zガンダム』に携わったアニメスタッフ達である。この初出の時点では、全体という名称は付いておらず、20年以上後に刊行された小説『機動戦士ガンダムUC』内で初めて名前が付けられた。
富野を始めとしたスタッフ達が『機動戦士Zガンダム』にておおまかに設定を決めた後は、続く『機動戦士ガンダムZZ』にも登場。以降も宇宙世紀というシェアード・ワールドにて、『機動戦士ガンダムUC』、漫画『機動戦士ガンダム カタナ』など後続の作品にも登場し、設定が共有・発展していった。
全体は、ニュータイプ(いずれ獲得する能力を先に得ていた人々)が力を引き出すことの出来る場(フィールド)であり、人間が死亡した際に発生する残留思念(思惟)が集っている。同作では、カミーユ・ビダンに力を貸した。
『機動戦士ガンダムZZ』の第47話「戦士、再び……」でも登場し、ララァ・スンやフォウ・ムラサメといった歴代の死亡した登場人物の残留思念(思惟)が赤色に発光しながら登場、ジュドー・アーシタに力を貸している。
「ニュータイプ100%コレクション 41 ターンエーガンダム Vol.2」には、アニメ『∀ガンダム』の企画書である『環ガンダム』(リングガンダム)の設定が記載されており、「ディアナがナノマシンによる老化防止を拒否した理由」という項で、人類が絶滅したときに光に乗ったデータが一千億光年の彼方の生命体に、人類の存在などの記憶を場(フィールド)という形状で伝えてくれると、全体に関しての具体的な設定が初めて言及された。
小説版『機動戦士ガンダムUC』の10巻「 虹の彼方に (下)」で初めて、全体という名称が設定された。
『機動戦士ガンダム カタナ』の7巻では、シン・フェデラルのリチャード・グレイソンが、妖刀ムラサメを使うことで、全体を認識する。全体は、人の意思を一つに繋いで束ねて届くかもしれない次元の果てと説明されており、リチャードは新たなフロンティアである全体へ行こうとするのである。
設定資料集「機動戦士ガンダムUC GREAT WORKS-完全設定資料集- (BOXII episode4-6) 」が発売。同書には機動戦士ガンダムUC』の追補小説『不死鳥狩り』が収録されており、同作では物語の中心として全体が据えられ、全体が操作するユニコーンガンダム3号機フェネクスを追い、主人公のヨナ・バシュタが所属するシェザール隊の活躍を描かれた。
※小説・不死鳥狩りはその後、KADOKAWAより発売。
『機動戦士ガンダムNT』は上記の不死鳥狩りを原作に再構成した作品となっており、ネオ・ジオングを破壊しに来た全体、全体に操作されるフェネクスという設定はそのままである。
既知
既知とは、既に知っている情報の事である。
他人の既知の伝播
小説『不死鳥狩り』でヨナはフェネクスの近くにいた影響で、誰のものかも分からぬ他者の魂の既知が自分の既知と同化して、本来ならば知りえない対象の情報を獲得し、短期間でパイロットしての技術も向上した。 同作において、ニュータイプが急速に戦闘技能が上達していく理屈は、他者の既知が自分にインストールされるからという論法である。
刻
刻とは、この世界の歴史が保存されたアカシックレコードのようなものである。
ララァ・スンやシャア・アズナブルなど、死ぬ間際に刻が見えるという台詞は印象深い。
『不死鳥狩り』によれば、高次元にある全体にとって刻は千年、万年、億年の時間が積層されようと、それを並列して見渡せるのだという。
集合精神として
機動戦士Zガンダム
『機動戦士Zガンダム』において、残留思念が集う場(フィールド)として描写された。全体に溶けている残留思念の形状は、生前着ていた衣服を着用しており、死亡時に着ていたパイロットスーツなどで現れる事はほぼない。
不死鳥狩り
『不死鳥狩り』では、死者の魂が全体の中へ還っても、人間としての自我は個々で残っている。ただし姿・形は接触する生者のイメージに依存するようで、ヨナ・バシュタが幼馴染のリタ・ベルナルと世界の界面(現世とあの世との境界)で再会した際にはヨナの持っている記憶が反映されて、リタは幼少期の姿をしていた。
劇中の活動
機動戦士Zガンダム
同作では、主人公であるカミーユ・ビダンがパプテマス・シロッコとの戦いで、乗機であるZガンダムの機能バイオ・センサーを発動させた。すると、周囲にはカツ・コバヤシ、エマ・シーン、サラ・ザビアロフといった死んでいった人間の残留思念が姿を現した。全体に溶けた残留思念達は敵側に寝返って死亡したレコア・ロンド、敵として死亡したロザミア・バダムも含め、パプテマス・シロッコを排除しようとしていた。唯一生前にシロッコを信奉していたサラ・ザビアロフの残留思念だけは、シロッコを殺させまいと他の残留思念達の行動を制止しようとするのだが、カツ・コバヤシの残留思念は「頭で考えるだけでは疲れるだけだ、カミーユの見ているものを見てごらんよ」とサラに促す。ジ・Oの中にいるシロッコでさえ、自分達のようにすぐに全体の中で溶け合うのだと昂ぶるサラを説得するのだった。
機動戦士ガンダムZZ
同作では、主人公であるジュドー・アーシタがハマーン・カーンとの戦いで、乗機であるZZガンダムの機能バイオ・センサーを発動させた。すると、周囲にはエルピー・プル、ララァ・スン、フォウ・ムラサメといった死んでいった人間の残留思念が姿を現した。この時のジュドーは乗機のZZガンダムがコア・ファイターという戦闘機の状態で、ハマーンの駆るキュベレイに太刀打ち出来ない状態だったが、全体に溶けた残留思念達がハマーンの前に立ち塞がり、ジュドーを守護するのであった。そして、コア・ファイターから紫色の波動が立ち上ると、波動が延長し各所に散らばったガンダムのパーツを吸い寄せ、ガンダムへと合体を行う。この時にジュドーは「みんなの力がガンダムに」と明確に全体のパワーを認定しているようであった。
機動戦士ガンダムUC
同作では、主人公であるバナージ・リンクスがフル・フロンタルとの戦いで、乗機であるユニコーンガンダムに吸収されたマリーダ・クルス、カーディアス・ビスト達の残留思念が立ち上ってきている。コロニーレーザーにメガラニカが狙われた最終局面では、これまで以上のサイコ・フィールドを顕現させた影響でサイコフレームに魂を吸われ、バナージ自身も全体の一部となってしまうが、リディ・マーセナスとミネバ・ラオ・ザビの呼びかけにより現世への帰還を果たした。
機動戦士ガンダムUC 不死鳥狩り
同作では、主人公であるヨナ・バシュタがニュータイプへと覚醒し全体と繋がっていく。全体から送られてくる情報によれば、宇宙世紀の人間はこの世に産まれ、寿命を全うし、死ぬ(肉体を捨てる)と全体へと還るという、循環運動を全体は繰り返しているのだという。全ての人間が高次の存在となって刻を見られるその日が来るまで千年、万年、億年の時間がかかるかもしれないが、それは全体にとっては見渡せる刻の積層でしかないという。
機動戦士ガンダムNT
不死鳥狩りではモノローグの形で読者に説明された全体の設定だが、今作ではミシェル・ルオを語り部として、彼女の推論という形でダマスカスの乗員に説明された。
全体とは「宇宙世紀の人間は死ぬと魂(エネルギー体)となり、認識の及ばない高次元にある魂が集うフィールドに行く。」 、「ニュータイプは生きたまま、魂から発する未知のエネルギーを操って現実に働きかける者」で、「サイコミュは時に魂のエネルギーを集め物理的なエネルギーに変換してモビルスーツに作用させる装置」と不死鳥狩りの時よりも具体的で分かりやすい説明となっていた。
全体の一部となった人物
ララァ・スン
『機動戦士ガンダム』に登場した女性キャラクター。アムロ・レイによって討たれるが、同作の第43話「脱出」では、残留思念としてアムロを導き、ア・バオア・クーからの脱出に助力した。
『機動戦士ガンダムZZ』第47話「戦士、再び……」では全体の一部としてジュドー・アーシタの救援に駆け付け、ハマーン・カーンの前に立ち塞がった。
アニメ『機動戦士ガンダムUC』episode7「虹の彼方に」では、シャア・アズナブルの残留思念が憑依しているフル・フロンタルの前に姿を表した。
『機動戦士ガンダム 光る命 Chronicle U.C.』では、同じく残留思念となったアムロ・レイと共に、刻を閲覧していた。
フォウ・ムラサメ
『機動戦士Zガンダム』に登場した女性キャラクター。カミーユ・ビダンを守る為にジェリド・メサにより討たれ、カミーユの中へと入った。同作の第42話「さよならロザミィ」では、暴走するロザミア・バダムを救うよう、決断を渋るカミーユの背中を押した。また、同作の第50話「宇宙を駆ける」で残留思念として登場し、Zガンダムのバイオ・センサーの機能により、体を通して出る力として表現された。
『機動戦士ガンダムZZ』第47話「戦士、再び……」では全体の一部としてジュドー・アーシタの救援に駆け付け、ハマーン・カーンの前に立ち塞がった。
リタ・ベルナル
追補小説『不死鳥狩り』の設定では、U.C.0095、地球連邦軍とアナハイム・エレクトロニクスとの合同評価試験に強化人間として参加し、搭乗機体ユニコーンガンダム3号機フェネクスのリミッターを外された事で試験中に死亡。全体の一部になった。フェネクスの全身がサイコフレームで出来ていた為、彼女の魂はフェネクスに憑依、機体が彼女の肉体となった。そして、ヨナ・バシュタ と共にこの世にあってはならないネオ・ジオングを破壊することに成功する。
『機動戦士ガンダムNT』では、U.C.0097の半年前に地球連邦軍とアナハイム・エレクトロニクスとの合同評価試験に強化人間として参加し、搭乗機体ユニコーンガンダム3号機フェネクスのリミッターを外された事で試験中に死亡。全体の一部になった。不死鳥狩りと同様にヨナ・バシュタに協力を求める。彼女の前に立ち塞がるのは、地球圏に甚大被害を齎そうとするゾルタン・アッカネンと彼の乗機Ⅱネオ・ジオングであったが、その過程の戦闘で同じく全体に溶けたミシェル・ルオとヨナの手助けにより、Ⅱネオ・ジオングの破壊に成功する。
イアゴ・ハーカナ(小説版)
『不死鳥狩り』にて。U.C.0096、袖付きのヤクト・ドーガをコアとした不完全なネオ・ジオングとの戦闘で機体を操られ、止む無く味方のヨナ・バシュタに自分を討つよう命令したイアゴは死亡。全体の一部となった。
『機動戦士ガンダムNT』では、死亡せず、イアゴは全体の一部とならなかった。
関連タグ
機動戦士Zガンダム 機動戦士ガンダムZZ 機動戦士ガンダムUC 機動戦士ガンダムNT
サイコミュ バイオセンサー サイコフレーム サイコ・フィールド
カミーユ・ビダン ジュドー・アーシタ ヨナ・バシュタ リタ・ベルナル
Zガンダム ZZガンダム ユニコーンガンダム3号機フェネクス ネオ・ジオング