「最も強く、最も美しく、そして最も哀しい英雄・源義経の生涯を描く」
概要
NHKが2005年1月9日から12月11日にかけて放映した第44作目の大河ドラマ。
源平合戦の時代を駆け抜けて散った稀代の名将にして英雄、九郎判官源義経の生涯を中心に、疑似家族としての主従関係、義経と平清盛とが共有した理想、政治家としては義経を討たねばならない兄としての源頼朝の苦悩といった新鮮な要素を主題に置いた平家物語。
宮尾登美子の小説『宮尾本 平家物語』と『義経』を原作とする。
あらすじ
時は平安時代末期。源氏と平家、双方の棟梁が新時代の覇者の座を巡って激突した、平治の乱から全てが始まる。勝った平家の棟梁平清盛は政治の中心へとのし上がって行く。しかし敗れた源氏の棟梁源義朝は東国に落ち延びる途中の尾張国にて非業の最期を遂げた。悲運は義朝の愛妾であった常盤御前と三人の子供たちにも及ぶ。
三人の幼子とて義朝の子であり、成年すれば源氏の武将となり平家の敵となる、斬らねばならないのだ。常盤は清盛に願って、出家を条件に子供たちの助命を許される。そして清盛の側室となることで、末っ子の牛若(後の義経)との生活も許されることになった。牛若は清盛を実の父と思い、平家の子供たちを兄弟と思って育った。そして清盛が語る、貿易によって海上に発展する「新しき国」の理想へと憧れるようになっていった。
しかし周囲の圧力によって牛若は、清盛とも、母常盤とすら泣く泣く別れさせられて、京の外れ、山中の鞍馬寺に預けられて遮那王と名乗る。そこで遮那王は驚愕の事実を知る。自分は亡き源氏の棟梁源義朝の子であり、いずれ平家と戦う定めにあるというのだ。山中にて鬼一法眼という師匠から武芸を学んだ遮那王は、元服して義経となり、大いなる未来と宿命の葛藤を胸に時代の奔流の最中へと旅立っていった。
物語序盤の主な登場人物
義経主従
- 源義経(滝沢秀明): 幼名は牛若(上井聡一郎)、稚児名は遮那王(神木隆之介)。無邪気に平家の子供たちと戯れていたショタその1。まさか後に時代をひっくり返す悲劇の英雄になるとは、本人すらも思わなかっただろう。このショタが数年後、リアルに成長した後に義経青年も演じている。
- 武蔵坊弁慶(松平健): 京の都を騒がす暴れん坊強盗(上様)から、遮那王との五条の大橋での出会いを経て家来にしてくれとつけ回すストーカー(上様)にクラスチェンジした。怖すぎです。遮那王じゃなくても普通逃げますぜ、そりゃ。
源氏方
- 源頼朝(中井貴一): 少年期は池松壮亮が演じた。通称「すけどの」(平治の乱の最中に右兵衛権佐に任ぜられた)、どう見ても無害な伊豆の流人(流罪にされた政治犯のこと)。さしもの河内源氏嫡流も政子の尻に敷かれて平穏な一生を終えるかに思われたが・・・
- 北条政子(財前直見): 軟弱な「すけどの」を嫁に迎えたツンデレ。頼朝を尻に敷いて平穏な田舎暮らし・・・では終わらなかった。義高や義経といった敵方にもツンデレを発揮する、意外にいいひと。
平家方
- 平清盛(渡哲也): 都を支配する偉大なる武家の棟梁にして平家の総帥。色々な意味で遮那王のお父さん。見かけは怖すぎるラスボスだが、内心は慈悲深く、敵将・義朝の子である九郎にもときに厳しく、ときに優しく接した。一族の未来を考えれば非情に徹するべきであったのかもしれない。
- 平時子(松坂慶子): 清盛の正妻。今作では色々と悲劇の原因を作った悪役的存在だが、史実で評価された毅然とした性格は今作でも同じ。
- 平重盛(勝村政信) : 清盛の嫡男、42歳で父・清盛より先に亡くなる。歴史上は清盛を諫める善人と伝わることが多いが、寛大すぎる清盛に対して長男として厳しい正論を述べることが多い役回り。
- 平宗盛(鶴見辰吾) : 清盛の三男、兄・重盛、父・清盛亡き後平家の棟梁となる。幼い頃から既に、父の愛を巡って義経と対立しては敗走を繰り返す。負けるな宗盛、頑張れ宗盛、この源平合戦に勝ち抜くのだ。
- 平知盛(阿部寛) : 清盛の四男、後に船弁慶と言われた豪傑であり、壇ノ浦の戦いで平家軍の指揮を執る。一族の中でも、知将らしい見解を述べることが多い。
- 平重衡(細川茂樹) : 清盛の五男。父の宿敵だった義朝の忘れ形見である九郎と幼き日ともに遊んだが長じるにおよんで敵対し、囚われて頼朝のもとに送られる。頼朝は重衡の堂々とした態度に感服したと言われている。
奥州藤原氏
- 藤原秀衡(高橋英樹): 奥州の王者、奥州藤原氏の棟梁。義経のお父さんになりたくてもなれなかった人。義経が名将として世に名を残せたのはこの人のお蔭だけど、その割には報われなかったようだ。
- 藤原泰衡(渡辺いっけい): 奥州藤原氏の御曹司。後の一族と義経を襲う過酷な未来へのフラグをばら撒いている。自業自得というべきかもしれないが可哀想な役回り。
京都の人々
- うつぼ(上戸彩): 京都の町娘。幼少期は守山玲愛が演じた。畏れ多くもメインヒロインの座を静御前から奪おうとする、牛若の幼馴染。奥州にも追っかけてきて、ヒロインの座を奪うには努力が必要であることを、後世に知らしめた。
- 静(石原さとみ): 伝説の白拍子・静御前のこと。言わずと知れた後の義経の愛妾にして判官伝説(義経を巡る伝承の総称)のヒロイン。遮那王時代の義経となかなかインパクトがある出会いをして、賢妻ぶりを示している。
- 常盤(稲森いずみ): 常盤御前の名で知られる亡き源氏の棟梁・源義朝の愛妾。平治の乱で夫を失い、己の実母すら捕えられるという平家の過酷な落ち武者狩りに遭って止む無く平家に降る。苦労して義経ら三人の子供たちを生き延びさせ、平家の圧力が強まる中に母子の情を押し殺して義経を鞍馬寺に預ける。
- 鬼一法眼(美輪明宏): 鞍馬山に現れる謎の人物。義経にとって武芸・兵法の師匠。無茶苦茶強く、また姿を消したり現れたりする術も用い、中の人の迫力も手伝ってとても人間には見えませぬ。
朝廷
- 後白河上皇、後白河法皇(平幹二朗): 院政を布いて当時の日本国を治める治天の君、この時代をドラマ化する際は定番のラスボスキャラである。今様オタクの呑気そうな一面と日本一の大天狗と恐れられた大陰謀家の一面とを併せ持ち、源氏と平家を操り競わせる。
作品の特徴
黛りんたろうならではの幻想的で絢爛豪華な演出で知られる。武蔵坊弁慶との五条大橋での伝説的な出会いは桜の花吹雪が舞い、義経と引き離された静御前が鶴岡八幡宮で披露したこれも伝説の舞においては紅葉が嵐となって画面を圧する。
その他、伝説に謳われた名場面ほど幻想的な演出が惜しみなく用いられたが、そのあまりに非現実的な演出手法は視聴者からは絶賛と批判が相半ばする賛否両論となる。しかし、同氏のインタビューによれば、演出意図は一貫しており、史実ではなく平家物語と判官伝説という物語や伝説の映像的再現にあったという。
余談
主人公の幼年期を演じた神木隆之介は、2012年の大河ドラマ『平清盛(大河ドラマ)』では義経を演じている。