レンズの中の箱庭
れんずのなかのはこにわ
概要
講談社キャラクター文庫から刊行された、仮面ライダーディケイドの公式小説。
しかし、何かしらの形で本編の設定と繋がっているディケイドのメディアミックス作品にしては珍しく、ディケイドそのものをリ・イマジネーションライダーとして解釈した完全なパラレル作品である(ディケイドはその設定上、リマジ存在にする事が非常に難しい為にこうした作品は非常に少ない)。
あくまで、原典からリ・イマジネーションされた世界を渡る原作とは異なり、(多少の差異はあるが)原典ライダーの世界を巡るという今でいう仮面ライダージオウに近い作風。一方で誤植や設定監修に不備(※)が見られるが、ディケイドの異聞としては非常に完成度が高い。
著者は鐘弘亜樹で監修は父である井上敏樹が務める。その為か内容がどこか生々しいのが特徴。のちに鐘弘は小説ふたりはプリキュアと続編のMaxHeartの小説版も担当している。
登場人物
基本的な設定はテレビ版に近いのだが、あくまで彼は大ショッカー首領ではなく、本当にただの一般人。両親が海外暮らしの為、高2の頃から一人暮らしを始めており、可愛い妹はいない。
よってディケイドの力も大ショッカー製ではなく、自分の特性が具現化したものに変更されている。原作と比べて性格は暗く、若干コミュ障の気があり、これが小説ディケイドのカメンライド能力に繋がった物と思われる。
本編同様に多才である一方、私生活はズボラで、食事はインスタントで済ませている上に部屋にはGが出る始末。
カメラマンになったきっかけは自分の世界を探しているからではなく、カメラを通して見る世界そのものが彼の心が安らぐ居場所だったから。しかし、カメラから覗く人々の営みは滑稽で面白い一方で、その感情は実感を伴わない空虚な物である。
ある日、光写真館のカメラを覗いた事からこの物語は始まる。
作中では既にアギト〜響鬼、キバの世界で事件を解決済み。彼がディケイドに初めて変身した1番目の世界はどの世界に当たるかは不明。(カフェの客が突然怪人になったという描写から、555かキバ辺りと思われる)
1番目に士が訪れた世界で出会った少女。ディケイドの名付け親で大まかな役割は原作と同じ。本作ではメシマズ設定が追加されており、士をまともな食生活に戻そうと善意で料理をするのだからタチが悪い。
彼女にはとある秘密が…。
本作にキバーラが登場しない為、仮面ライダーキバーラにはならないし、お爺ちゃんも登場しない。その為、光写真館は無人となっている。
基本的な性格は原作と同じ…なのだが怪盗成分は薄まっており、何らかの理由で並行世界をさまよった末に士達と奇妙なルームシェア生活を始める。目的の為なら士を殺そうと画策する事もある。
実は本編開始前に家族を惨殺されており、殺人犯の靴を舐めさせられるという屈辱を味わされた経験から、孤独を人一倍恐れており、これがディエンドの力を手に入れた事に繫がったと思われる。
家族構成は両親と弟の4人なので、愉快なニーサンは影も形もない。
ちなみに本作で召喚したライダーはファイズのみ。
なお、こっちでは喫煙者設定。
ご存知おのディケおじさん。海東と共に、新世界創造の為に9つのライダーの力を集めている。赤黒い怪人に変身する事ができ、人間の生命エネルギーを吸い続けないと死んでしまう運命にある。自らの安息地を求めて世界を彷徨う内に故郷を忘れてしまった為にこの能力に目覚めてしまった。
ちなみに、意外とここまで鳴滝の出自に踏み込んだ作品は珍しく、他に鳴滝の設定に迫ったものも活字媒体に集中している。
2007年に放映された『仮面ライダー電王』の世界。
時系列は不明だが、リュウタロスが仲間に加わった後であることは確か。ただし、タロスズの呼び方は本編と異なる。
基本的な性格は原作とほぼ一緒。ウラタロスが取り憑いていた間はえらくモテていたが、後に取り憑いたモモタロスが乱暴な態度を取った為、看護師たちからフルボッコにされるという憂き目に遭う。
イマジンの契約者。料理や裁縫などの家事が得意で看護師というヒロイン属性の塊。愛読書は川端康成の『片腕』。
かつてボクサーであった恋人が左腕を負傷し、未来を絶たれた悲しみから、『片腕』に拘る理由を詮索される事を非常に嫌う。
2000年に放映された『仮面ライダークウガ』の世界。
時系列は不明だが、クウガの理解者が一条薫ぐらいしかいない点や、作中の発言からバヂスが出現した後の時系列である事が窺える。ので物語前半辺りだと思われる。その割にゲゲル内容が凝っているが。
しかし、この時期に本作オリジナル怪人が登場しているという点から物語の途中で分岐したパラレルワールドという可能性が高い。(未確認生命体には通し番号の設定が存在する為。)
クウガの主人公で設定はほぼ原作通りなのだが、ディケイドをディケンズ(イギリスの小説家。1812年生〜1870没)と言い間違えるなど、本編以上に天然な所がある。また、鳴滝から話は聞いていたのか『仮面ライダー』という言葉を知っているが、ユウスケとは違い、敵対心をむき出しにするという事は無かった。
作中ではマイティフォームとドラゴンフォームを披露しているが、何故かマイティフォームの状態で剣を使用している。ゴウラムもクワガタムシ型ではなくカブトムシ型と表記されている。(海外では甲虫類をbeetleと一纏めにするが、流石に無理がある)
小野寺ユウスケの原典であるので、彼は登場しない。
2006年に放映された『仮面ライダーカブト』の世界。
時系列は恐らく物語の前半辺り。ただし、原典で毎回のように登場していた加賀美や、ZECTが本格的に天道に接触し始めた時期に登場した矢車が登場していない。
カブトの主人公で、設定はチートである点を含めて原作通り。
今回は自宅に押しかけたゼクトルーパーに怯える樹花を上手く言いくるめて宥めたり、箸を海東と士の額に命中させて倒したり、クロックアップのカードをどこからともなく持ってくると云った芸当を披露。
原作にも登場した天道の妹。自宅に押し掛けたZECTを兄の友達と信じ込んだ辺り、天然さは度を越している(それだけ兄を信頼しているという事なのだろう。…多分)。
ビストロ・ラ・サルで働く少女。当初は士達を食い逃げ犯と見なしていた。(犯人は後述のワーム)
怪人
非常に大柄で頑強な肉体を持つ赤黒い鬼に似た怪人。ポジション的にはアルティメットDやダークディケイドに近い。光球を放つ能力を持ち、命中した対象を跡形も無く消し去ってしまう。正しく世界の破壊者というべき存在。
他者のエネルギーを奪って生きるというファンガイアに似た特性を持つが、ファンガイアが食った対象はガラス状になるのに対して、こちらは食われた対象がミイラ化するという違いがある。(吸血鬼がモチーフなのは原作の案内人が紅渡だったからだろうか?)
ライダーの力を使って世界を破壊し、新たな世界の創造を促す鬼に似た赤黒い怪人という特徴は本作の主人公ディケイドの特徴に酷似している。というのも、ディケイド達も鳴滝も並行世界へ現実逃避し、異形の怪物になってしまった者同士。本質は同じだったのだ。
なお、あくまで小説での解釈となる為、映像作品の鳴滝の正体ではない。
正式名称もセリフも全くない。ただし、ビルを跳躍する能力や真空波を放つ能力を持っている事からモチーフは鋭い爪や刃を持つ動物と思われる。
『ひったくりで左腕が使い物にならなくなった恋人の為の綺麗な腕が欲しい』という看護師の願いを叶える為に暗躍しているが、その叶え方というのが人々を襲って左腕を捥ぎ取るという、イマジンらしいが中々にえげつない方法を取る。
最期はディケイドとデンオウモモタロスの必殺技で挟み撃ちにされて粉々に粉砕された。
揚羽蝶種怪人のグロンギだが、正式名称は不明。
詳しくはリンク先で。
名前や設定から実はクウガ編は元々キバ編の予定だったという説がある。
後の漫画版ガリマの先駆けなのかもしれない。
カブトの世界にて食い逃げ犯(士と海東)に擬態したワーム。前者はさなぎ体と共にカブトに瞬殺され、後者はゼクターカブトに変形したカブトとクロックアップを使用したディケイドクウガのタッグのキックの前に爆散した。両者共に士達の心を乱す行動を取っており、士が己の本心と向き合うきっかけとなった。
正式名称は不明。
今までに士達が倒してきた怪人達。突如士の世界に現れて平和を脅かし始めた。
オリジナルフォーム
一応キバフォームの姿だが、原作とは異なり、マントを着ている。
ディケイドがディエンドにカメンライドした姿。造形の大部分が共通するためか、ディケイドのマゼンタ部分がシアンに塗り替わっていくような変身描写となっている。
地面にクレーターが空くほどの銃撃が得意だが、硬い外殻を持つ鳴滝には全く通じなかった。
小説版におけるディケイドの最強フォーム。コンプリートフォームと共通する特徴を持つが、変身にケータッチを使用する描写はない。
最大の特徴は歴代ライダー本人を召喚して戦える事にあり、戦闘力も通常時に比べ大幅に上がっている。作中ではクウガからキバまでのライダーを召喚し、必殺技を次々に浴びせ、トドメのライダーキックで鳴滝を葬った。
余談
本作のディケイドは原典のようなクロスオーバーを可能にする為に生み出された存在(自分自身の固有の物語が存在しない)ではなく、士自身が自分の世界を探し求める為に生み出した存在であり、副題も踏まえて、原典の「ディケイドに物語はありません」というセリフへのアンチテーゼになっている。
つまり、原典で使われた『リ・イマジネーション』という言葉通り、ディケイドは文字通り、士のイメージから作られた存在というわけである。
本作では原作で巡った昭和ライダーの世界は巡らず、サブライダーの類もディエンドしか登場しない。もちろんシンケンジャーの世界なども巡ることはない