概要
RPGにはつきもののモンスター(monster)(怪物、魔物、妖怪)。
冒険の途上で出会う生身の人間も、敵としての設定が存在する者はモンスターのカテゴリに含まれることが多い。
人間と亜人・人外のモンスターを含めエネミー(enemy)と称することもあるが、本記事ではモンスターと総称する。
『wizardry』シリーズは作品のイメージを象徴するアイコンとしてモンスターが特に重要な役割を果たしている。
これは『wizardry』シリーズ初期作品の画面構成によるもので、物語の背景はごく簡潔な文章、冒険の拠点となる街の各施設は選択式のメニューとして表示されるのみで、そこにいるはずの従業員や係員などはパターン化された受け答えしか表示されない。
そもそも主人公に相当する冒険者たちでさえ、その姿が画面に表示されるようになるのはシナリオ#6から。また商店で購入・迷宮で入手する武具や各種アイテムも、やはりシナリオ#6までグラフィックは用意されない。
いざ迷宮に潜ってみると、ワイヤーフレームで表示された壁(および床と天井)が続き、モンスターと遭遇し戦闘画面に切り替わった瞬間、初めて表われるグラフィック的なものがモンスターなのである。
モンスター以外でグラフィックらしいものが用意されているのは勝利時に表示される「宝箱」と「(漠然とした)戦利品」、および全滅時に表示される「墓標」。
一部の版ではタイトル画面にも一枚絵が用意されている。
迷宮内にはモンスター以外のNPCもいることはいるのだが、出会ってから別れるまでのやり取りはやはり文章でしか表示されない。
シナリオ#3からは物語性が強化され、迷宮内外のイベントのために画像が用意されるようになり、シナリオ#1や#2も新ハードへの移植に際して街の各施設や迷宮の壁がビジュアル化されている。
しかし主人公側の容姿は一部の例外を除きプレイヤーの想像に委ねられており、シナリオ#6以降も外伝作品では非表示のものが多い。
そのため、多くのプレイヤーが共有できる視覚イメージはやはりモンスターが中心となる場合が多い。
グラフィック
初期の版で用いられていたモンスターグラフィックは、現在の基準で見ればごくシンプルなもので一作ごとの種類も少ない。
とはいえこれでも当時のコンピューターゲームにおいては革命的な進歩であり、またハードの機能的に読み込み時間の厖大化などの問題が起きてもいた。
デザイン(原画)
各タイトルごとのモンスターデザインは以下の人々が担当している。
#1『狂王の試練場』#2『ダイヤモンドの騎士』#3『リルガミンの遺産』
ワンダースワン版ウィザードリィ
- 氷樹むう.
#4『ワードナの逆襲』
- 山田章博(PCエンジン)
- 末弥純(ニューエイジオブリルガミン)
#5『災禍の中心』
#6『禁断の魔筆』
- 末弥純(SFC)
- 池上明子
外伝Ⅲ『闇の聖典』外伝Ⅳ『胎魔の鼓動』
- 松下徳昌
『ウィザードリィ 〜DIMGUIL〜』
『EMPIRE』シリーズ
- 宮内健
- 末弥純・山宗・緑川美帆・Nottsuo
- 末弥純・他多数
不確定状態
光源の限られた迷宮内においては、何者かと遭遇し戦闘が始まっても、その正体が明確にわかるとは限らない。
モンスターの識別はグループ単位で判定され、遭遇時およびターン終了毎に一定確率で正体が判明し確定状態となる。
モンスターの正体を確実に識別する手段として僧侶系第三位階の呪文 "LATUMAPIC" があるが、シナリオ#1の元祖AppleⅡ版における "LATUMAPIC" は「戦闘中に唱えると、交戦中のモンスターの正体が判明する」という使い切りの効果しかなく、同位階の "BAMATU" や "DIALKO" の回数を削ってまで唱える価値は全くなかった。
シナリオ#2からは複数の呪文に対し効果や位階の見直しが為され、"LATUMAPIC" は「キャンプ中もしくは戦闘中に一度唱えると、迷宮にいる間は常にモンスターの正体が判明する」常駐効果に変更されている。
不確定グラフィックはFC版移植に際して追加された要素であるが、モンスターの名称に関しては不確定 / 確定の差異が初めから存在していた。
FC以前の版ではモンスターグラフィックの種類自体が少なく、迷宮入口付近の雑魚敵から深層部の強敵まで同一のグラフィックが使いまわされているものが多い。
FC版では同一原画の使いまわしでも種類ごとに色違いになり、グラフィックの表示だけで見分けられるようになっている。同時に不確定状態のグラフィックを新規に用意することでモンスター識別の意義を保ったのである。
ただし#5では独立した不確定グラフィックはなく、SFC版・FM TOWNS版およびニューエイジオブリルガミンでは確定状態のグラフィックをモザイクもしくはシルエットで表示したものとなり、PC版とPCエンジン版では不確定状態でも名称が変化するだけである。
リルガミンサーガの不確定グラフィックは確定状態のグラフィックを暗く加工したもので、プレイヤー視点では容易に見分けられる。ただしFC版では一種ごとに色分けされていたものが色まで同一になってしまっており、識別の意義が完全に無くなったわけではない。
#6以降は不確定グラフィックの概念自体がなくなり、種類ごとの色分けもされているSFC版では「神話学」のスキルが完全に無用の長物となっている。
ただしDIMGUILを含む外伝シリーズでは不確定グラフィックのシステムが継承されている。
モンスター
『wizardry』シリーズのモンスターはタイトルごとに顔ぶれが大きく異なっており、(例えば『ドラゴンクエスト』シリーズにおけるスライムのような)皆勤賞の代表的モンスターはいない。
だが、冒険者と同じ戦士・魔術師・僧侶・盗賊などのクラスをもつ人間タイプのモンスターは、(#4をも含む)ほぼすべてのタイトルに共通して出現する。
他にも、マーフィーズゴースト、グレーターデーモン、フラック、マイルフィック、バンパイアロード、アークデーモンなどはゲーム中での印象も強く、出現するタイトルも比較的多いため、シリーズを象徴するモンスターといえる。
デザインが印象的なサイデル、他作品で見かけることが少ないポイズンジャイアント(ポイゾンジャイアント)やライカーガス、逆に他作品にも引用されているボーパルバニーやクリーピングコインを挙げてもいいだろう。
またこの分野の複数の作品に登場するような定番のモンスターは、高い確率で『wizardry』シリーズのいずれかのタイトルに登場している。
モンスターリスト
上記のような特性を考慮し、各作品の記事内に記載。
データ
初期タイトルでは、モンスターにはそれぞれ「名称」「不確定名」「タイプ」「レベル」「HP」「AC」「ダメージ(攻撃力)」「特殊能力」「抵抗」「弱点」「友好」「EXP」「出現数」「出現場所」と「後続の随伴率・種類」が設定されている。
出現数は1グループの頭数で、多いものだと最大9体まで。
その後に一定確率で特定種のグループが付いてくる。B1では最大で2グループ、B2~B4では3グループ、B5以降は4グループまで出現しうる。
モンスターの特殊能力には「状態異常の追加効果がある攻撃」「呪文使用」「ブレス」「HP自動回復」「仲間を呼ぶ」「逃走」などがあるが、特に怖れられているのが「クリティカルヒット」と「エナジードレイン」。
前者はHPの残量とは無関係に一撃で「死亡」状態にするもので、「首を刎ねた」と表示される。
後者はレベルを下げる攻撃。キャラクターの体力(HP)を奪うのではなく、一時的な弱体化でもなく、積み上げた経験によって得た強さを奪ってしまうのだ。なお、その結果としてレベルが0になると、その場で即「消失」となる。戦闘終了と共に経験値も下がった後のレベルに相当する値まで落ちる。種類によっては一撃で2レベル、3レベルを奪ってくるから怖ろしい。
遭遇時に戦意を示さない「友好的な」モンスターもいる。これにどう対処するかはプレイヤーの判断。
「立ち去る」を選ぶとそのまま通り過ぎることが出来る。危険はないが実入りもない。そして悪の性格のキャラクターが一定確率で善に変化する。
「戦う」を選ぶと先制攻撃に近い状態になる。そして善の性格のキャラクターが一定確率で悪に変化する。
#5以降はゲームシステム全般に大幅な改変が為され、モンスターの特殊能力にも「後列攻撃」「鎧破壊」「窃盗」などが追加されており、遭遇のしかたや集団の構成などに独自のルールが設けられているタイトルも多い。
見果てぬ夢を追い求め
『wizardry』の記事でも「コンピューターRPGの偉大なる始祖」とされている通り、この分野そのものの基礎が『wizardry』によって確立された(個々の要素に関しては『wizardry』以前の作品から継承されている部分もあるので、必ずしも「起源」とは言いきれない)。
『wizardry』から後続のRPGに受け継がれた要素の一つが「レアアイテム」という概念である。
後代の
「0パーセントと表示されるが、小数点以下の確率で盗める(本当は盗めない)」
などの逸話も、『wizardry』の影響があればこそのものである。
さて『wizardry』においてモンスターとの遭遇は「固定出現」「徘徊遭遇」「玄室遭遇」の三つのパターンがある。
「固定出現」の場合は戦闘終了後の戦利品も固定されている場合が多く、シナリオ上のイベントアイテムであれば二つ目は入手できないようにフラグ管理されている(戦闘自体が発生しない)。
「徘徊遭遇」の場合はアイテムの入った宝箱は出現せず、金銭のみが入手できるパターンが多い。
そして入手出来るかどうかが確率によって支配されるのが「玄室遭遇」である。
「遭遇時点で先頭にいたモンスター」の種類によって、最大で三つのアイテムが入手できるが、それぞれが「得られるかどうか」がまず一定の確率、そして「得られたものが何だったか」が特定の数種の中からまたランダムで決定される。
基本的には「より深い階層の」「より強力なモンスター」ほど高性能の品物(および危険な呪いの品物)を持っている「確率が高い」。
ただしこの法則にはいくつかの例外があり、シナリオ#1では世に言う『三種の神器』(村正・手裏剣・聖なる鎧)よりも更に入手困難な「回復の指輪」「破邪の指輪(僧侶の指輪)」「支えの盾(シールド+2)」の三つが、一部で『裏・三種の神器』と呼ばれているとかいないとか。
ともあれ、「シナリオクリア(ラスボス討伐)そっちのけで珍品蒐集に没頭する」プレイスタイルは『wizardry』のころにはすでに確立されていた。
むしろシナリオをクリアしてもそのまま迷宮に挑み続けることができるうえ、クリア時の演出が地味なので(後代のRPGにおける「エンディング」の概念がまだ確立していなかったともいえる)、「メインシナリオクリア後の珍品蒐集こそがこのゲームの本番」とさえ言われている。
アイテム入手の法則性は外伝シリーズやエンパイアシリーズにも受け継がれているが、BUSINではモンスターの種類ごとに入手できるアイテムが複数種設定されており、BUSIN0では特定のクラスが戦闘中にこれらを盗むことができるため、「メインシナリオクリア後に挑めるランダム生成ダンジョンのランダム出現宝箱からしか入手できない」アイテムがレアアイテムの扱いになっている。
余談
PCエンジン版Ⅴにおけるモンスターのいくつかは、先行するPC版の末弥純によるデザインを基にしており、一部では無断使用ではないかともいわれている。
ただし明確に異なるデザインを新規に描き起こしたモンスターもおり、雑魚敵と同一のグラフィックが流用されていたNPCについても一人ずつ別個の画像が用意されている。