ワードナの逆襲
わーどなのぎゃくしゅう
日本語PC (1988年)
PCエンジン(『3&4』収録) (1994年)
プレイステーション(『ニューエイジオブリルガミン』収録) (2001年)
windows(『ニューエイジオブリルガミン』収録) (2002年)
『ニューエイジオブリルガミン』から、小説版(後述)のタイトルだった『ワードナの逆襲』が正式な邦題となった。
物語は#1の続編になり、#1の展開とゲームシステムを逆転させた構造になっている。
構図の逆転もさることながら、明確な『主人公』のキャラクターが存在するという点がwizardryシリーズとしては異端である。
なお後代の和製wizには『BUSIN』及び『BUSIN0』、『生命の楔』、『囚われし魂の迷宮』など、主人公が存在するタイトルが複数発表されている。
加えてワードナ一行に対する行動の制約(後述)、複雑怪奇なイベントの数々に対する圧倒的なヒント不足によって、とんでもない高難易度のシナリオとなっている。
これは#1・#2・#3をクリアしてきた歴戦のプレイヤーに対する挑戦状として発表されたとも言われる。
実際、海外及び一部日本版のパッケージの表に「For Expert Players Only」という文言が書かれていることもそれを裏付けている。(更にこの文言の下には「Experience With "Proving Grounds of the Mad Overlord" Required.」と書かれており、これは「1作目のプレイ経験が必須である」ことを意味している。)
一方でパロディやブラックユーモアのネタ要素も従来以上に盛り込まれており、中には宗教問題に踏み込んだものもチラホラと…
これらの理由から、「番外編」「公式によるパロディ」といった捉え方をされたり、「事実上の失敗作」と批判する人もいれば、「最もwizらしいwiz」と賞賛する人もいたりと、評価が大きく分かれている怪作である。
また本作はシリーズの従来作品に比べ物語性が重視されており、全く異なる複数のエンディングが用意されているとなっている。
あらすじ
勇者ホークウィンド率いるソフトーク・オールスターズにより、ワードナは討伐された。かくして彼がトレボーから奪い取ったアミュレットは、狂王の元に戻った。
しかしワードナが生前にかけていた魔術により、彼の遺体は火にも水にも損なわれる事はなく、いかなる方法をもってしても破壊できなかった。
ワードナが復活する可能性に思い至り、トレボーは恐怖と猜疑に捕らわれる。
かくしてワードナの遺体は地下迷宮深くに安置され、名声を求めて集った冒険者達が警備にあてがわれる。
今や墓守となった彼らの役目は、ワードナが復活したその時に備える事であった。
それから百年後、トレボーの予想通りワードナは復活を遂げる。
彼はアミュレットを再び手に入れるため、その力で世界を制覇するために立ち上がる。だがその身体からは往年の魔力は失われていた。
魔法陣から召喚する魔物を従え、ワードナは地上を目指す。だがその道のりは容易いものではない。
その行く手には冒険者の末裔である墓守どもが待ち構え、背後からはトレボーの亡霊が追いかけてくるのだから……
アミュレットとガントレットの物語
ゲーム作家であるロー・アダムス(後述)の提案によって、『アミュレットとガントレットの物語』という、より詳細なバックストーリーが作成されている。
遥か昔。狂気に堕ちた大魔道士が「忘れられし神々の神殿」にて「大いなる門」を開き、神々を地上に顕現させた。
世界は崩壊するかに見えたが、明け方には何者かの手で神々は送還され、「大いなる門」も大魔道士も消え去っていた……
それから数世代。
伝説と思われていた「忘れられし神々の神殿」と、制御不能の強大な魔力を内包した「アミュレット」が発見される。
それから更に数千年。
かの大魔道士の弟子が書き記した巻物が、一人の王と一人の魔術師の手に渡り、永く封印されてきた「神殿」と「アミュレット」が再び歴史の表舞台に現れる。
アミュレットに触れるために必要な「ミスリル・ガントレット」の片方を手に入れた魔術師は神殿に乗り込むが、アミュレットはもう片方のガントレットを持つ王によって奪われた後だった。
(その後の展開はシナリオ#1を参照)
そして五年後。
エルフのニンジャ「ホークウインド」(Hawkwind)が率いるパーティ「ソフトークオールスターズ」(THE SOFTALK ALL-STARS)が、魔術師の事務所に到達。
冥界からの賓客である「不死王」をもてなしていた魔術師は不意をつかれ、野蛮な冒険者たちがアミュレットを剣の先に吊るして持ち去る姿をその目に焼き付けながら、命を落とす。
かくてアミュレットを取り戻した王が、世界征服の覇業よりも優先したのは、憎き魔術師の亡骸を破壊し完全にこの世から消し去ることだった。
だが、魔法を窮めし魔術師の肉体は、いかなる手段を用いても滅ぼすことが出来なかった!
魔術師復活への恐怖にとりつかれた王は、アミュレットの魔力を用いて魔術師の迷宮を改装し、複雑な罠と強力な守護者を配置した墳墓へと造り変えた。
だがここに、魔術師の罠があった。太古の秘術を駆使してアミュレットに仕掛けられた致死の呪いが、魔力を発動させたその瞬間に王の生命を捉えたのだ。
図らずも最後の仕事となった、「死せる魔術師を墳墓という名の牢獄に捕らえ、冒険者たちに絶えず監視させる」という命令だけがその後も護り継がれることとなった。
百年の後、「狂王トレボー」が怖れた「悪の魔術師ワードナ」復活が現実のものとなるその時まで……
ワードナのHPが0になるか、それに類する行動不能の状況に陥った場合、即ゲームオーバーとなる。
一方で伝統のオートセーブがなく、セーブデータは8個まで記録できるため、どのタイミングでセーブするかはプレイヤーの判断次第。
ただしゲームのルールに則って行動していても、状況次第では詰んでしまうことも。
迷宮内にはかのトレボーの怨霊がさまよっており、一つの階層に長時間留まっていると、ワードナめがけて徐々に近づいてくる。つかまってしまうとこれまた即ゲームオーバー。
敵としての能力は設定されておらず、迎撃も回避も出来ない。ただしあるアイテムを使用すれば除霊は可能。
魔法陣
復活直後のワードナは極端に弱体化している。
なにしろ初期はレベル0(!?)でHP1、呪文も使用できないという有様。普通の人間ならば「消失」扱いのところを、秘術によって強引に「生きて」いるのだ。
とはいえそこは大魔術師、こうした事態を予測して対策は立てていた。
ワードナ自身にしかその存在を認識できない特殊な魔法陣を迷宮の各所に設置し、異次元に避難させて置いた下僕たちと共に、自身の失われた魔力をも取り戻せるように仕掛けておいたのである。
冒険者たちのように「地上の街」を活動拠点に出来ないワードナは、この魔法陣=サークルを最大限に活用しなければならない。
サークルの機能の一つはワードナのレベルアップ。
ワードナは戦闘に勝利しても経験値を得ることは出来ない。B10の(幸い、スタート地点のすぐ傍にある)サークルに踏み入ることでレベル1となり、能力値が上昇すると共に初歩的な呪文も使えるように。
ただしこの効果は一度きりで、同じサークルに何度入りなおしても余計にレベルアップしたりはしない。
もう一つの機能がワードナの回復。
消耗したHPと呪文回数を、サークルに踏み入ることで最大値まで回復させることが可能。
そして最後にして最大の機能が、下僕たちの召喚である。
各サークルごとに十二種の魔物が登録されており、その中から三種を選んで召喚するのだ。
下僕
下僕たちはグループ単位で運用する。同一種を複数グループ呼び出すことは出来ない。画面上ではグループ内の個体数のみが表示される。
本作のゲームシステムは#3までのパターンを逆転させたものであり、冒険者たちとの戦闘はそれが最もわかりやすく現れる。
戦闘画面の下部に冒険者たち(最大で六体)の情報が表示され、上部には最大3グループの下僕とワードナの情報が表示されるのだ。これは前作までのパターン(冒険者パーティは六人まで、魔物は最大4グループ)をそのまま踏襲し、敵味方だけがキレイに入れ替わったものである。
戦闘以外のキャンプ時に、下僕たちに呪文を唱えさせることは出来ない。荷物を持たせておくことすら出来ない。敵と出くわすまでは、フラフラついてくるだけ。
さらに戦闘になっても、どのような行動をとるかを具体的に指示することはできない。例えワードナがダメージを受けてHPの残量が厳しくても、回復呪文の使い手がその能力を発揮するかどうかは運次第なのだ。
この下僕たちの盆暗ぶりが、この作品の難易度を高める大きな要因の一つである。
アイテム
ワードナが持ち歩けるアイテムは装備品を含め8個まで。上述の通り、下僕たちに持たせておくことは出来ない。
これでは必須アイテムを持ち歩くだけでも大変になるが、ある敵を倒すことで「ブラックボックス」(BLACK BOX)を入手すると、状況はグッと楽になる。
これを装備することで、内部の亜空間に19個のアイテムを収納することが出来るのだ。
またワードナはボルタック商店を利用できないので、要らないアイテムをお金に換える手段がない。ぶっちゃけ村正だろうが聖なる鎧だろうが、ワードナにとってみればただのゴミである(聖なる鎧は布製の装束なので、無理矢理着込むことは可能なのだが…)。
それでいてお金を要求されるイベントはあるので、世の中は世知辛い。
ここでまた「ウィザードリィ二都説」の話題だが、#4で描写される地上の様子や幾つかのエンディングは、#3や#5の「都市国家リルガミン」の様子とはかみ合わない部分が少なからずある。
また#4のシナリオの上では『リルガミン』や『ニルダの杖』といった語句は登場しない。
#1のトレボーの治世が終わった後に#2のダバルプスの乱が起こったのだとすれば、#2の百年後を舞台とする#3と更にその数年後の#5は、#4と同時期か、それから数年以内の出来事ということになってしまう。
つまり「#2、#3、#5の舞台はリルガミンで、#1と#4の舞台(トレボー城塞)は別の都市」というのが最も自然な解釈である、という二都説の強力な根拠となっている。
なお、株式会社ローカス発行の『ニューエイジオブリルガミン公式ガイドブック』では、#3を#2の「三十余年後」とすることで、#2、#3、#5の三作品が#1から#4までの百年間に起こった出来事であるとして、すべて「都市国家リルガミン」が舞台であると強引に結論付けている。が、そうなるとマルグダ女王(曽祖母)とベイキ女王(ひ孫)の関係からやはり設定的に無理が生じる。
また#4をあくまで「番外」「パロディ」と位置づけ、設定の整合性を求めること自体が無意味であるとする意見もある。
『ニューエイジオブリルガミン』にて末弥純デザインのグラフィックが表示されるようになっている。
これらはFC版Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ、SFC版Ⅴ・Ⅵで使用された魔物やNPCと同じ原画が流用されたものや、wizardry関連書籍のカバーイラストや挿画から転用されたもの、さらにwizardryとは無関係の作品(『ウォーハンマー』等)から転用されたものも確認できる。
パロディ、ブラックユーモア、楽屋ネタがふんだんに盛り込まれている。
- 冒険者たちの名称には統一感がないが、これらは実際のプレイヤーたちが用いていたキャラクターのデータから取られている。
- 『NAL』アレンジ版では削除されてしまったが、"THE SPANISH INQUISITION"というパーティも登場。「NO-body expects the Spanish Inquisition!(出てくるなんて 思ってなかったろう?!)」なおこれは解る人には解るが、モンティ・パイソンのスケッチが元ネタ。
- パイソンズネタはこれに留まらず、ボーパルバニーの元ネタである殺人ウサギを倒した"Holy Hand Grenade of Antioch(アンティオキアの聖なる手榴弾)"が"HHG of AUNTY OCK(オックおばさんの聖なる手榴弾)"として登場。ただし用途はウサギ対策ではなく土木作業。
- カシナートの剣が本来の用途で使われる。
- 「生きる伝説」ことホークウインド("HAWKWIND")の正体は、本作の開発にも関わっているゲーム作家にして、パソコン雑誌『ソフトーク』の編集者でもあるロー・アダムス三世(Roe.R.Adams Ⅲ)。
PC版は早い段階で翻訳されたものの、ゲームシステムの特異性と、英語圏の人間にとってすら難解なシナリオゆえに、多くのユーザーには受け入れられなかった。
Ⅰ~ⅢをFC版に移植したアスキー&ゲームスタジオも本作の移植を断念、SFC版のⅤとⅥを優先している。
シナリオ#4の家庭用ハードへの移植は、ナグザットによるPCE版『3&4』と、ローカスによるPS版『ニューエイジオブリルガミン』の二種があるが、どちらも大幅な改変によって比較的プレイしやすい「万人向けのゲーム」になっている。
PCエンジン版3&4
ニューエイジオブリルガミン
- 『クラシック』と『アレンジ』の二つのバージョン(およびシナリオ#5)を収録。
- 『クラシック』は原作の雰囲気と難易度をほぼそのまま再現。
- 『アレンジ』はストーリー全編が大幅に書き換えられている。
- エンディングの分岐条件と、エンディングそのものの内容も大きく異なる。
- オリジナルのエンディングも追加されている。
- ワードナのモノローグ等の形で、クリアのためのヒントが表示される。
- ブラックボックスの仕様が大幅に変化。装備品ではなくキャンプコマンド扱いとなり、容量も大幅に増大(全種類×99個!)。
- 下僕は5種類を1体ずつ召喚。
- 召喚時に末弥純デザインのグラフィックと、能力等の詳細も表示される。
- 戦闘時は詳細な命令を下せるようになり、移動中も呪文を使わせることが出来る。
- ただし荷物は持ってくれない。
- 「仲間を呼ぶ」能力で増えた分は、戦闘終了時にいなくなる。
- 呪文の使用回数も有限になっている。
- 原作では召喚できない下僕が、新たに追加されている。
- 周回プレイによって下僕の種類が更に増えていく。ここには歴代シナリオのラスボスの姿も…
- さらに特定のエンディングを見ることでのみ召喚可能になる者も…
1990年に手塚一郎による『小説ウィザードリィ シナリオ4 ワードナの逆襲』が刊行。
原作とは異なり冒険者側の視点から描かれており、有象無象の魔物を引き連れたワードナによる淡々とした殺戮ぶりは、さながらホラー映画である。
犠牲となる冒険者にも大なり小なり「物語」が用意されており、更に絶望感を煽る。
本来冒険者の味方であるはずのカント寺院の腐敗っぷりも描写されており、幸運にも迷宮から生還した二人の冒険者は口封じの為に文字通り死ぬような目に合わされた。
またホークウィンドは本作ではエルフの女忍者となっており、無敵を誇る「彼女」が最終的に取るに足らぬ魔物相手に敗北した理由が、独自の設定・解釈の下で説明されている。
1994年の竹内誠による短編集『リルガミン冒険奇譚―ウィザードリィ異聞』には、#4と#5をつなぐ新解釈のエピソードが収録されている。
ワードナの復活、冒険者やトレボーの亡霊に追われる苦難、地上への脱出。その過程でワードナに起きた「光落ち」と、真実への到達から至る#5への布石は、一種爽快である。
また同年に刊行された多摩豊『ウィザードリィ正伝 トレボーと黄金の剣』も、トレボーとワードナの因縁を描いているという点において、#4と関わりが深い作品といえる。