概要
- 『ウルトラマンネクサス』(2004年~2005年)、広義にはそれを主軸とする『N PROJECT』全体を含むことも
- 『ウルトラマンマックス』(2005年~2006年)
- 『ウルトラマンメビウス』(2006年~2007年)※ウルトラシリーズ40周年記念作
の3作につけられた総称。
2013年に上記3作のDVD-BOXが発売された際のコマーシャルのキャッチフレーズ、およびベストセラーズ社から発売された書籍「CIRCUS別冊 語れ! ウルトラマン」の記事の一部からつけられた。
共通点として、
- それまでのMBS(『ティガ』から『コスモス』まで)から中部日本放送(CBC)と電通により制作されていた。
- 胸にプロテクターが存在、腕にも装飾があり、腕の装着物から光の剣を使う。
- これまでの戦士から一変し埋め込まれたカラータイマー(マックスのみ突き出ている)。
- 腕についた派手な装飾(ネクサスはアームドネクサス、マックスはマックススパーク、メビウスはメビウスブレス)。
- それまでのデザインとは異なり派手な容姿とシンプルなカラーリングのデザイン。
- 板野一郎氏の監修による板野サーカスでのCGを生かした激しい戦闘描写。
- フィルム撮影ではなく全編ビデオ撮影。
- 本編終了後に作中の用語などを解説する所謂「おまけコーナー」を放送。
などが存在する。
「新たなウルトラマン像の創造」を主目的とした「ULTRA N PROJECT」の一作であるネクサスと、それの終了後「原点回帰」を狙ったマックス、シリーズ40周年記念作のメビウスといった異なるコンセプトで製作された。
『メビウス』はテレビ以外にも劇場版、OV、ネットムービー、漫画、雑誌連載と幅広くメディアミックスされた。
ちなみに『ネクサス』『マックス』は土曜日の朝に放送されたが、『メビウス』は土曜日の夕方に放送されていた。
上記の通り、全てCBCにより制作されたため、一部のファンからは『CBC三部作』とも呼ばれ、また『新平成三部作』などとも呼ばれている(ちなみに、他の作品群は制作局名で呼ばれることはほとんどない)。
評価
このように数多くのメディアで展開されたシリーズだったが、結果は芳しいものではなかった。
一言で総括するなら時代の流れと過去の清算に翻弄され、役目を果たせなかった不運な作品群である。
※ULTRA_N_PROJECTおよび円谷英二、円谷プロダクションの項目も参照。
『ネクサス』およびこれを主軸とする『N PROJECT』
商業的失敗、企画頓挫に至った。
その要因の筆頭として、『ネクサス』の作風が過去作と大きく異なったこと(特に前半期)が挙げられる。
この惨状を招いた大きな要因として、元々は『ネクサス』が深夜枠を想定した企画だったことが挙げられる。
シリアスなドラマ重視の大人向け構成になった理由は、
「それ以前に採算度外視の作品を作り続けた財政管理のツケとして重くのしかかる予算不足を克服しつつ、同時に作品としての筋を通す」
という、財政難の克服と作品としてのこだわりとを両立するための挑戦であったと言えよう。
たとえば予算不足によってビル破壊のような派手な演出が難しくなったことから考案されたメタフィールドなどはその最たる例であり、閉鎖的な場面を主舞台にすればロケハンやセット制作のコストを大幅に削減できることも明白であろう。
そのようにして仕上がった作品がディープでオトナな新時代のウルトラマン像として、少しでも成人受けすれば御の字…だったはずである。
先立って開始されていた子供向け雑誌用企画『ウルトラマンノア』、『ネクサス』『ノア』の両者に繋がる映画『ULTRAMAN』…と、上手く噛み合えば媒体ごとに違う各世代をターゲットとしつつ同一の世界観を描くという画期的な連動企画になるはずだった。
ところが、『ネクサス』の放送時間がコンセプトに反して土曜朝という「子供の時間」になることが、クランクイン後に決定された。
つまり、「視聴者層が、制作現場の想定したターゲットとは真逆になる」という天変地異が、制作が走り出してしまった後で発生した。
また、『ネクサス』の前日談であり本来先立って公開されるはずだった映画『ULTRAMAN』も、公開が遅れ『ネクサス』開始後になってしまったうえ十分な宣伝もできず興行的に失敗し、進められていた続編の製作も頓挫してしまった。
そしてそれらの影響なのか、商業的戦略にも色々と不都合が生じ、
- よりにもよってクリスマスからお正月にかけての商戦期にグロテスクホラー演出の絶頂時期が重なる
- 玩具展開に合わせて登場した新兵器が登場早々にトラウマ描写に使われるという非常に残念な扱いを受ける
など、端から販促を行う気がないとしか思えないような放映編成であった。
もともと子供向け雑誌で展開されていた『ノア』は好調だったものの、『ネクサス』では最終盤まで明確に『ノア』として登場せず、これまたグッズ販促にほとんど活かされなかった。
こうした事情が重なり、制作陣の本意でない部分もあったとはいえメイン視聴者の子供とその保護者に受け入れられるとはとても思えない商業作となってしまい、路線変更か1クール短縮のどちらかを迫られてしまった(詳しくは『ネクサス』のページで解説しているが、様々な要因から最終的に1クール短縮を選択)。
第3クールからはデュナミスト交代によって作風が比較的明るくなり(路線変更ではなく当初から予定されていた)、結果論ではあるが1クール短縮によってテンポの改善や予定されていた鬱展開のカットによって視聴率が若干回復した。
また、上記の一連の処遇(主に映画『ULTRAMAN』続編の頓挫)を不服とした一部スタッフが社内クーデターを起こし、当時の社長が役員会もなしに解任されるという物騒なお家騒動にまで発展。
最終的に、この企画は円谷プロに財政難の更なる悪化と強い遺恨とを残す結果に終わってしまったのである。
『マックス』『メビウス』
『ネクサス』の失敗もあり、昭和ウルトラマン時代の遺産(昭和作品に登場した怪獣の再登場など)を積極的に運用して「原点回帰」することになった作品。『ダイナ』以来の過去作要素を含む作品が展開された(劇場版を含めれば「コスモス」以来)。
この2作は、作品自体は視聴者から好評だったものの、少子化によるメインターゲット自体の縮小、『ネクサス』時点からのCBCへのローカル落ちにより首都圏での十分な宣伝ができなかったことなどにより視聴率は振るわなかった。
さらに『メビウス』の放送枠が当時ローカルセールス枠であり、スポンサードネット扱いでの放送も同時・遅れ問わず主要都市圏に限られたため、一部地域では未放映だったり、放送されても無理のある編成だったりする局が見られたりした(この事態を憂慮してか、放映したローカル局の中には朝の情報番組でわざわざ特集を組むなど自前で熱心に宣伝を行う局すらあった)。
結果、グッズの売り上げが不振に至ったのは勿論、スポンサー獲得も困難となり、番組提供枠としての価値そのものを落としてしまった。
今2作を最後に『ギンガ』まで長らくテレビシリーズが展開できなかったのはこれが原因とされている。
3作全体としての業績、その後の財政への影響
上記の原因から3作そろって視聴率・売上共に苦戦を強いられてしまい、商業面での売上は『ネクサス』から一方的に下がっていったことで、もともと財政難にあった円谷プロにトドメをさす形となってしまった。
参考までに『メビウス』が終盤に入った2007年2月の期決算は売上高約56億円に対して当期純利益はわずか約4400万円と制作費すら回収できないほど非常に低かった。
おそらくその原因は少子化とローカル落ちにあるが、それ以上に『N PROJECT』での大失敗と『マックス』以降で再び採算外視に戻ってしまったことが大きい(参考までに、『マックス』は前作の反省から1話あたりの制作予算が倍増された結果、『メビウス』までの予算を本作のみで使い切ってしまい、追い借金をする羽目になっている)。
そんな状態で売上まで下がってしまえば、どうなるかは想像に難くないだろう。
最終的に、40年続いたTBS系列でのウルトラシリーズの放送は『メビウス』(より厳密にはメビウス終了後の翌月に放送された『ULTRASEVENX』)を最後に終了。
円谷プロでも『N PROJECT』の打ち切りをきっかけとした社内クーデターをはじめとする経営陣の交代劇が相次ぎ、それまでの経営のツケが遂に限界を迎え倒産寸前まで陥り、子会社化、創業者一族の追放など大幅な改革を余儀なくされるに至った。
この失敗の後、メイン局はテレビ東京やBSに変わり、全国放送は途切れることとなった。
BSでの『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』放送後、ウルトラマンゼロというシリーズの救世主が現れ、2013年に『ウルトラマンギンガ』(新ウルトラマン列伝)が放映されるまで、ウルトラシリーズは劇場映画、OV、雑誌での展開が中心となる長い暗黒期を迎えることとなってしまった。
その後の土壌形成
上述の通り、役目を果たせず良い結果を出せなかった本シリーズではあるが、その後の新世代ヒーローズへの布石や土壌形成を行い、大小なりとも影響を与えたのは確かである。
- シリーズ展開のために制作されたスーツは後の『大怪獣バトル』や新世代ヒーローズの各作品で長きにわたって使われる貴重なリソースとなった。
- CGを積極採用し続けた結果、元々日本トップクラスだった円谷のCG技術はさらに磨かれた。特に空中戦描写は明確にクオリティが上がり、それ以降も激しい激突描写が増えるようになっていった。
- 『ネクサス』の途中から次回予告前に挟まれるようになったミニコーナーは、(一部例外はあるが)以降の作品にも引き継がれシリーズの定番となっている。
そして何より「クリエイター上がりに経営はできない」という言葉があるように、創業者の円谷英二御大は根っからの職人であり、常に採算無視・品質至上主義を掲げてきた創業者一族による博打経営は早晩破綻することは目に見えていたはずである。むしろこのタイミングで問題が表面化しなければ、取り返しのつかない所まで負債が膨れ上がり、プロダクションの倒産によって各種権利が離散し、ウルトラシリーズとしての新作を製作できなくなり、さらなる権利問題で過去作の視聴すら困難になるなど、芋づる式に悲劇を招く最悪の未来すらあり得ただろう。
円谷プロが黒字転換を果たせたのは、創業者一族追放からわずか1年後だった。予算や赤字体質への反省から「クオリティは維持しつつも無駄は省け」を旗印に、大岡新一10代目社長や親会社となったTYO→フィールズ社、メインスポンサーとして長い付き合いを持つバンダイナムコグループをはじめとした新経営陣により、放映期間は短いながらもクオリティと採算性を両立し商業的側面もしっかり重視、展開した『X』や『オーブ』などの良作が次々制作され、ここ数年は黒字経営が続いている。2014年には債務超過が終了したと発表された。
このように、ウルトラシリーズ50周年前後辺りで円谷プロが復活を果たした今だから言えることだが、結果的に本シリーズは、新しい経営方針を完全に軌道に乗せるための重要なターニングポイントとなったといえるだろう。
ある意味では円谷プロへの警鐘を鳴らし手遅れになる前のギリギリのタイミングでの対処を促してくれた作品群であるとも言え、現在までウルトラシリーズが続いているのもこのシリーズの残したものと経験のおかげと言える。そういう意味では、ウルトラシリーズではもっとも重要な作品群であるだろう。
シリーズ暗黒時代にもウルフェスをはじめとした各種イベントは休止せずに行われ続けており、『メビウス』はゼロの登場までこれをなんとか牽引し続ける原動力となり、さらに公募という形で新怪獣も毎年登場するなど、ウルトラシリーズの知名度と歴史を細々ながらも維持し続けた。
商業的に見れば輝かしい結果こそ残せなかったものの、近年ではこれら3作品自体もDVDや配信サイトなどで視聴の機会が増え、もともと作品自体はおおむね好評であった『マックス』『メビウス』はもちろん、放映当時は賛否両論だった『ネクサス』についても再評価が進んでいる。
近年では、『ネクサス』と『マックス』は『X』に、『メビウス』は『Z』ボイスドラマに客演し、注目度はむしろ上がっている。
事実として現在の評価は悪くないどころかむしろ好評であり、気になれば原典を視聴してみるのもいいだろう。
このように、『Nプロ』を中心に、いずれも後年の作品に何らかの形で関わっており、近年では回収しきれなかった要素への再挑戦やゲスト枠の獲得などでも重要な役回りを担っているため、決して黒歴史扱いはされていない。
余談
一部の書籍やサイトでは『コスモス』もこの括りで紹介されることがあるが、公式には『ネクサス』から『メビウス』までの3作品がハイコンセプトシリーズであり、『コスモス』は含まれない。その理由として、コスモスからネクサスまで2年の空白期間が存在すること、制作局や参加企業も異なっていることなどが理由とされる。また、特撮パートがTDG三部作と同じフィルム撮影であり、予算規模もそちらに近い。
また、『メビウス』の後同系列で放送されたものの、深夜枠の放送であることと『ウルトラセブン』の派生作品という側面が強いためか『ULTRASEVENX』もこのシリーズには含まれない。
今シリーズに参加した板野氏は『メビウス』以降の特撮作品には参加していないものの、代表を務めるグラフィニカがCGを手掛けた『電光超人グリッドマン』のリメイク作品『SSSS.GRIDMAN』や『SSSS.DYNAZENON』等の円谷アニメにも参加している。
ちなみに、『SSSS.GRIDMAN』には『ティガ』から『コスモス』までのMBSが参加、『メビウス』(より厳密には『ULTRASEVENX』)以来のTBS系局参加作品となった。
公式サイト
本放送中にCBCにより公式サイトが開設された。2021年現在でもいずれの作品のサイトも閲覧可能である。また、CBCはTDG三部作のサイトも公開している。
関連項目
ウルトラマンネクサス ウルトラマンマックス ウルトラマンメビウス
ウルトラマンコスモス→ハイコンセプト・ウルトラマン→新世代ヒーローズ