概要
2021年9月に刊行された宇宙戦艦ヤマトシリーズの小説。正式タイトルは『宇宙戦艦ヤマト 黎明篇 アクエリアス・アルゴリズム』。
「宇宙戦艦ヤマト2199」シリーズの展開の陰に隠れて長らく音沙汰が無かったオリジナルのヤマトシリーズの約十年振りとなる新作であり、またシリーズ初となるアニメのノベライズではない完全オリジナルストーリーの小説でもある。
元々は公式ファンクラブ「ヤマトクルー」の会報誌『ヤマトマガジン』で2019年から2020年にかけて連載されていた『アクエリアス・アルゴリズム 宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部』というタイトルの小説だったが、それに加筆修正が行って書籍化した。
2009年に公開した劇場アニメ『宇宙戦艦ヤマト復活篇』の前日談にあたり、『宇宙戦艦ヤマト完結編』と『復活篇』のミッシングリンクを繋ぐ物語となる。
著者は高島雄哉で、元々は彼の解釈に基づく小規模なサイドストーリー的なものが想定されていたが、最終的には将来的に作られるかもしれない『復活篇 第2部』へ向けた地ならし・呼び水としての役割を持つ壮大な物語となった。
本作の制作にあたり、世界観構築のため岡秀樹の音頭取りで「アステロイド6」という制作チームが結成されている。
- 高島雄哉(アステロイド6号、著者)
- 岡秀樹(アステロイド1号、制作推進担当)
- 梅野隆児(アステロイド7号、イラスト担当)
- 西川伸司(アステロイド5号、メカデザイン・美術設定担当)
- 我が家の地球防衛艦隊(アステロイド2号、兵器・戦略・戦術設定担当)
- さたびー(アステロイド3号、世界観・人物設定担当)
- 扶桑かつみ(アステロイド4号、地政学全般の設定考証担当)
後者の3名はアニメや小説は本業ではないが、ヤマトシリーズのファン活動を長らく続けており、シリーズに対する知見の深さに目を止めた岡氏がスカウトした。
2024年現在、第一部「アクエリアス・アルゴリズム」に続く第二部「マリグナント・メモリー」の発売が発表されており、『ヤマトマガジン』Vol.18にてプロローグが掲載された。引き続きアステロイド6の手により制作されるが、著者は高島氏に代わってさたびー改め塙龍之が担当する。
さらに第二部発表に際して本作が三部作予定とも明かされており、第三部も著者は別の人が担う予定とのこと。
第一作~『完結編』の出来事が随所で触れられているほか、北野哲などのアニメでは一作限りでフェードアウトしたキャラやアストロバイクなどの懐かしのメカの再登場など、往年のファンならニヤリとする要素も多い。
あらすじ
ヤマトが水惑星アクエリアスの水から地球を救うために自沈してから約12年。
アクエリアス氷球にヤマトらしき存在を確認したことを受け、古代進達は真田志郎の手引きで非公式にアクエリアス氷球へ向かう。しかしそこにはディンギルの残党軍がおり、絶体絶命に陥るが、同じくアクエリアス氷球に潜伏していた船〈氷華〉に救われる。そして、氷華に乗って古代達は氷球奥深くに眠るヤマトの残骸へ辿り着く。
一方、氷球で暗躍するディンギル残党軍は、ウルク岩盤と氷球を衝突させ、両者の構成物質の化学反応による大爆発で地球を破壊しようとしていた。古代達はディンギルの目論見を阻止するため行動する。
登場人物
第一部から登場
元ヤマト戦闘班長(艦長代理や艦長も経験)。
惑星ベルライナでの紛争に介入するという事件を起こしてしまい、現在は責任を取る形で予備役になって一線から退いている。平和を願う気持ちと軍人としての立場の板挟みで苦悩している。
ヤマトが見つかったという連絡を受け、アクエリアス氷球へ向かう。
元ヤマト生活班長。『完結編』の後に古代進と結婚する。古代と共にアクエリアス氷球へ向かう。
古代夫婦の一人娘。本作第一部時点では11歳。『復活篇』時代の影のある性格と異なり、この頃は好奇心旺盛で結構な行動派。父親との仲はまだ拗れていない。
アクエリアス氷球へ向かう古代達の船にパピライザーとともに密航する。
アナライザーの直系の分析ロボット。語尾に「パピ」が付く。数か月前に古代家の4人目の家族として迎えられており、美雪と仲が良い。
アナライザーとは親子関係を結んでおり、彼の事の「パパ」と呼んでいる。
古代達がアクエリアス氷球にて出会った男性。宇宙破氷船〈氷華〉に乗艦する。その正体は防衛軍の技術士官で、2年前にディンギル残党軍によって殲滅された惑星ボギーニャの生き残り。ディンギルへの復讐を願い、核融合兵器の原料となるトリチウムを集めるため、アクエリアス氷球に潜伏していた。
元ヤマト工作班長。現在は科学局の副長官を務める。アクエリアス氷球内にヤマトらしき存在を感知し、古代達に伝える。
その後、アクエリアス氷球へ向かった古代達を地球からサポートする。
『復活篇』でヤマトクルーとなる女性。本作第一部時点では14歳。
本作時点で既に高い能力を有しており、飛び級で大学院生になっているだけでなく、防衛軍専用ネットワークにある技術士官用の会員制ルーム「理論井戸」の管理人を務めている。
アクエリアス氷球へ降りる際に重力嵐に取り込まれた古代一行が解決策を見つけるために理論井戸に不正アクセスしたことにより古代達と接触。その後、通信が途絶した古代達の痕跡を辿っていったところ、偶然科学局にアクセスして真田と邂逅。その後「ホーマー」というコードネームで科学局に臨時雇用され、真田ともに地球に危機に立ち向かう。
かつてヤマト航海班長を務めた島大介の弟。本作では成長し、インターン生として科学局に勤めている。
元ヤマト航海班。古代達と共にアクエリアス氷球に向かう。
元ヤマト機関部。古代達と共にアクエリアス氷球に向かう。
元ヤマトのコスモタイガー隊。ステーション・シラサギの責任者。3年前は古代の部下だったが、ベルライナ事件によって左遷同然に現在の部署に配属された。
古代一行から連絡を受け、地球へ迫るウルク岩盤の迎撃のため出撃する。
- 水谷英司
『完結編』で駆逐艦「冬月」の艦長だった人物。本作では戦艦「山城」の艦長で、同艦が所属する第一空間機動艦隊の次席指揮官も務める。下の名前は本作で新たに付けられた。
開拓惑星オーダーに出現したディンギル艦隊の迎撃に出撃する。
元ヤマト航海班。現在は防衛軍参謀次長。連載時はエピローグのみの登場だったが、書籍で出番が増加し、佐々木理雨とともに真田を補佐する。
元ヤマト戦闘班。現在は南部重工業の社長を継いでおり、最新鋭艦ブルーノアの公試航行にオブザーバーとして参加している。
元ヤマトのコスモタイガー隊隊長。現在はブルーノアの航空隊を仕切っている。過去作で口にしていた「まあ見ていてください」という自信あふれる台詞は本作でも健在。
かつてヤマト艦長を務めた人物で、『完結編』においてヤマトと運命を共にした。本作では回想シーンに登場するほか……
ディンギル残党軍に戦力を与え、裏で暗躍する存在。
本作オリジナルキャラクター
- 佐々木理雨
佐々木美晴の姉で、科学局で真田の補佐官を務める。
- 結城鋼次
- 邦枝慎吾
- 小野寺克己
宇宙破氷船〈氷華〉の乗組員で、大村と同じく惑星ボギーニャの生き残り。
- 青柳倫吾
空間騎兵隊の隊長。真田の依頼を受けた太田の指令でアクエリアス氷球へ古代達の救助に向かう。
- 塙龍之介
第一空間機動艦隊の司令長官。勇猛果敢な性格だが、それゆえにディンギル艦隊の罠に嵌まってしまい、水谷に後を託して戦死。
- サルゴン
ディンギル残党軍の首魁。かつてルガール大神官大総統の参謀を務めていた。地球への復讐を企てる。
- グティ
サルゴンの息子。アクエリアス氷球で工作活動を行う。
第2部から登場
『ヤマトⅢ』序盤に登場した、太陽の核融合異常増進(本作では「太陽クライシス」と呼称)に最初に気付いた教授。
本作では地球に接近するブラックホールの存在を観測し、真田に相談する。
本作オリジナルキャラクター(第2部)
- オリガ
ボラー連邦領の惑星ブイヌイの開拓自治委員会の委員長を務めるボラー人女性。
- ヤーノシュ
惑星ブイヌイに開拓人員として送り込まれた難民のリーダー。ガルマン・ガミラスに与せず、ボラー連邦に所属し続けたガルマン人の一人。
登場メカ
地球
かつて地球を何度となく救った伝説の艦。
『完結編』において、地球へ伸びる水柱を自爆によって断ち切り、そのまま水の中へ沈んだ。現在はアクエリアスの水が冷え固まってできた氷球の中に眠る。
- 宇宙破氷船〈氷華〉
アクエリアス氷球にて活動していた謎の船。特殊なフィールドを展開して周囲の氷を一時的に溶かすことで、氷内を自在に移動できる。
その正体は惑星ボギーニャで開拓のために使用予定だった作業船。ボギーニャがディンギル残党軍にて壊滅させられた後、大村達を乗せてアクエリアス氷球に潜伏していた。
- 高速連絡艇
『永遠に』でヤマト乗組員が暗黒星団帝国に占領された地球からの脱出に使ったものの同型艇。
古代達がアクエリアス氷球に向かう際に使用する。古代にとってはあまり良い思い出が無いので、本艇を見た際はしばらく動けなくなった。さらに美雪とパピライザーも「スチームアイロンみたい」「ダサいかも」という感想で、古代家の面々からの評価は散々である(一番ひどい目に遭った雪が大して気にしていないのが幸いか)。
- アストロバイク
第一作にてワンシーンだけ登場した「アストロバイク」の派生機。サイドカータイプ。アクエリアス氷球での移動に使われる。
- 強襲揚陸艦〈騎竜〉
空間騎兵隊の母艦。『さらば』時代の巡洋艦を改造したもの。
- 上陸用舟艇
『さらば』で初登場した惑星降下に用いられる宇宙艇。本作では騎竜に搭載され、アクエリアス氷球への降下に使用される。
コスモタイガーⅡの後継機として開発されたが、玄人向け過ぎる性能から普及しておらず、後にコスモパルサーに次世代主力機の座を明け渡すことになる。
ステーション・シラサギに配備されている3機が地球に迫るウルク岩盤の迎撃に出撃する。
地球防衛軍の主力機。ステーション・シラサギに配備されている機体がコスモタイガーⅢの護衛のために出撃する。
ヤマトの最初の航海においてドメル将軍が用いた兵器。ガミラスからの技術供与によって地球が開発したものが登場し、ウルク岩盤の迎撃のためにコスモタイガーⅢに搭載される。
『完結編』時代の戦艦。現在ではスーパーアンドロメダ級などの新型艦の登場によって旧式扱いとなってはいるが、現在でも一線に配備されている。第一空間機動艦隊の次席指揮官である水谷が艦長を務める「山城」などが登場、
『復活篇』時代の主力艦。第一空間機動艦隊の旗艦である「ベテルギウス」などが登場。
『復活篇』時代の主力艦。
- 戦略戦闘空母〈ブルーノア〉
地球防衛軍の次期総旗艦となる予定の最新鋭艦。現在は公試航行中。
地球防衛軍の新型戦闘機。ブルーノアに試験飛行隊として搭載されている。
- 中型雷撃艇
『ヤマト2』や『ヤマトⅢ』で登場した雷撃艇。本作では惑星ボギーニャに配備されている機体が登場。
- 多弾頭砲
『さらば』『ヤマト2』でテレザート星の地上戦で用いられた兵器。氷華に積まれているものが少し登場。
『永遠に』で初登場した波動エネルギーを封入した実体弾。本作ではヤマトの波動エンジンのスターター代わりに使われる。
第一作のラストでヤマトをデスラー砲から守った特殊装備。波動砲を反射できるというその性質を応用し、即席の波動砲身の作成に使用される。
また、過去作でロクに登場しなかった理由付けとして、製造工程が極めて繊細なため大量生産できず、現在でも最重要拠点にしか配備されていないと説明されている。
- 特殊救難艦〈オリオン〉
銀河難民救助隊の母船。群からの払い下げのパトロール艦を改装したもので、両舷に飛行甲板が新たに設置され、その下部には単独行動可能な新宇宙貨物船を2隻接合している。この貨物船はそれぞれ「ゆき」「かぜ」という名前が付けられており、前者は『復活篇』冒頭で登場した「貨物船ゆき」そのものと思われる。
ディンギル残党軍
- ウルク岩盤
ディンギル帝国の拠点だった都市衛星ウルクの残骸で、ディンギル残党軍の拠点。
その構成物質はかつてアクエリアスの水との反応によって爆発したディンギル星のものと同じであり、残党軍はこれをアクエリアス氷球にぶつけて地球を爆破しようと目論む。
- ガルンボルスト
ディンギル残党軍の巨大戦艦。地球連邦の開拓惑星オーダーへ強襲する。
ブラックホール砲を装備した「ガルンボルスト改」も存在する。
- 中型戦艦
「カリグラ級」とも称されるディンギル残党軍の戦艦。地球連邦の開拓惑星オーダーへ強襲する。
- ロボットホース
ディンギル帝国の地上戦用馬型ロボット。アクエリアス氷球で残党軍が使用する。
- ディンギルチャリオット
2機の一人乗り攻撃型円盤に載せた小型化したニュートリノビーム砲を4機のロボットホースで牽引する、名前の通りチャリオットのような外見の兵器。アクエリアス氷球で使用される。
- 水雷艇
ディンギル帝国が保有したハイパー放射ミサイルを搭載した水雷艇。本作では残党軍が惑星ボギーニャでの大虐殺に使用した。
- 小型戦闘機
ディンギル帝国の主力戦闘機。ウルク岩盤の迎撃に出撃したコスモタイガーⅢを襲撃する。
また、ボギーニャの大虐殺では、狩りをするように人々を撃ち殺していった。
- 大型戦闘機
ディンギル帝国の主力戦闘機。ウルク岩盤の迎撃に出撃したコスモタイガーⅢを襲撃する。
- 岩石ロケット
かつてウルクの岩盤の一部を構成し、ウルク崩壊時の脱出に使われた小型艦。小惑星にウルク岩盤の迎撃に出撃したコスモタイガーⅢを待ち伏せ、強襲する。
ボラー連邦の決戦兵器だが、何故かディンギルがガルンボルストに装備して運用。
その性能はボラー謹製のものより遥かに強力であり、上記の小型化したニュートリノビーム砲ともども根無し草のディンギルが開発・製造など到底できるものではなく、彼らの裏にいる存在を窺わせた。
登場勢力
- 地球連邦
銀河系の辺境にあったことから銀河交叉の影響をほぼ受けておらず、ディンギル残党軍によるテロは起こっているものの、かつてのような人類存亡レベルの危機に晒されることもなく、惑星開拓などで成長を続けている。
ガルマン・ガミラス帝国とは友好関係が続いており、同国が後述の移民計画「マゼランエクソダス」を実行した際には、移民支援と残留希望者の保護を、資源星系の譲渡を対価に託される。
また、かつては敵対したボラー連邦とも国交ができている。
- 銀河難民救助隊(インターステラーレスキューネットワーク)
第一部の事件の後、古代が結成した非政府・非営利組織。星々を巡り、銀河交叉の影響で苦しむ人々を救援するために活動する。
- ディンギル残党軍
『完結編』において、母星を失ったことで地球への移住を目論み、「アクエリアス事変」を引き起こしたディンギル帝国の残党。地球とガルマン・ガミラスへの憎しみから、彼らの領域内でのテロ活動を続けている。
本作では過激派宗教テロ組織のような存在になっており、彼らの信じる神の御許へ行くため、地球を浄化と称して破壊しようと目論む。
『ヤマトⅢ』においてデスラーがガミラス人とガルマン人を合一させて建国した星間国家。
銀河交叉によって壊滅的被害を受けたため、ボラー連邦と休戦したうえで、2205年に国家中枢をマゼラン星雲へと移す大疎開計画「マゼランエクソダス」を立案・実行し、銀河系から事実上撤退している。
銀河系の一翼を支配する巨大星間国家。
銀河交叉の後でガルマン・ガミラスと休戦し、復興に注力しているが、全盛期ほどの国力は無くなっている。
ちなみに本シリーズでガルマン・ガミラスに与しなかったガルマン人もいることや、ボラー連邦で2番目に人口が多い民族であることが判明した。
用語
- 銀河交叉
『完結編』冒頭で起こった大規模災害。銀河系に異次元から出現した銀河が交差し、多くの星々が壊滅的被害を受けた。さらにこれによって発生した「多重衝撃波」は今後数十年かけて広がっていく見込みとなっており、現在進行形で続いている災害となっている。
銀河系大戦真っ只中のガルマン・ガミラス帝国とボラー連邦も大打撃を受け、皮肉にも両国が休戦する理由になった。2215年でもまだ災害の混乱は続いており、大規模な国家間戦争こそ起きていないが、テロや民族紛争が多発している。
- アクエリアス事変
『完結編』にて起こった、水惑星アクエリアスの接近によって地球が水没の危機に陥った事件のこと。
ヤマトが自爆することで断ち切ったアクエリアスの水は、その後宇宙空間で球体の状態で凝固して「アクエリアス氷球」と呼ばれる地球第2の月となった。
- 惑星ベルライナの悲劇
2212年に起こった事件。惑星ベルライナでガルマン系住民とボラー系住民の間に内戦が勃発。ガルマン人の移民支援のためにベルライナにやってきていた地球艦隊は、ガルマン・ガミラスとボラーの休戦協定に抵触することを避けるため手出しできないでいたが、指揮官であった古代が人命救助のため命令違反覚悟で惑星に降下。しかし、降下した時には既に犠牲者は膨大な数に上っており、住民を救うことができなかったばかりか、古代の行動が協定違反として国際問題になりかける。結果、古代は責任を取らされる形で予備役に回され、彼の部下達も左遷された。
- ボギーニャの大虐殺
2213年にディンギル残党軍によって起こされた事件。地球連邦の開拓惑星ボギーニャがディンギル残党軍に襲撃され、ハイパー放射ミサイルによって10万人いた住民のほぼ全てが虐殺された。