概要
まず「ジャパネットはかた」とは
『ワンナイR&R』内にて放送された通販番組風のコントコーナーの1つ。初回放送は2002年11月27日で、不定期に放送されていた。
その名の通り『ジャパネットたかた』のパロディであり、山口智充演じる「はかた社長」が福岡県や九州地方にちなんだ「便利グッズ」を紹介する。しかし、紹介される便利グッズがどれもまともである訳がなく、実際は便利どころか痛い目にあう商品ばかりで、進行役の宮迫博之が毎回その商品によって酷い仕打ちにあうのがお約束であった。逆にはかた社長役の山口が返り討ちされることも少なくなかった。
「王シュレット」
2003年8月13日に放送された「ジャパネットはかた」第5回「快適生活グッズ紹介」にて登場した、当時福岡ダイエーホークス(以下ホークス)監督の王貞治氏をモチーフとした温水洗浄便座。王氏の顔の模型が便器にはめ込まれており、口部分から通常の温水洗浄便座よりも凄まじい勢いで水が発射されるという色々な意味で危ない代物。
出したものは、落下場所によっては顔を動かしながら自動で避けてくれるらしい。
壁掛けスイッチの右側にはダイヤルがあり、メモリの数字が王氏が更新したホームラン世界記録の756本に因んだ「756」、生涯ホームラン数の868本に因んだ「868」となっているが、これらはそれぞれ、「世界記録更新時のスイングの勢い」「通常の温水洗浄便座と比較して868倍の洗浄力」であると紹介された。これについて宮迫はそれぞれ「肛門ちぎれます」「僕ごとちぎれます」とツッコんでいた。
実際に洗浄を体感した宮迫は、物凄い勢いで直腸に水が入っていくのを声を上げながら痛がっており、最大メモリの「868」に合わせた際は、あまりの痛さに耐えかねて宮迫が離れた直後、今にも天井に届きそうな噴水が起きた程で、いかに通常の比ではない水勢の強さであるかがお分かり頂けるかと思う。
また、読売ジャイアンツ(以下巨人軍)での現役時代にON砲を形成した巨人軍終身名誉監督長嶋茂雄氏とビデをかけたと思われる「シゲ」という機能も存在し、それはスイッチを押すと便座からではなく、山口自らが長嶋氏の口調で用足しの音を消す音声を発する(所謂「音姫」機能、山口曰く「シゲ姫様」)というものであった。
ちなみにその週の放送では、この「王シュレット」とは別に、豚骨スープの油分で水分を弾く「布団こつ乾燥機」なる商品も紹介されたが、宮迫や山口の股間に熱々の豚骨スープが流し込まれ、彼らが熱がるという、あちらもあちらで中々に危ない代物であった。
そして、そのコントの放送後……。
炎上、そして日本シリーズ放送権剥奪へ…
この「王シュレット」が王貞治氏を侮辱したと批判が殺到し、炎上騒動へと発展してしまった。
ホークスの幹部もフジテレビに「王監督だけでなく、プロ野球全体をバカにしたような内容で大変憤りを感じている」と直接抗議するなど、その激怒ぶりは相当なものだった。
直ちにフジテレビは謝罪し、翌週放送にて謝罪テロップと社長名での詫び状を出すことなどを確約したが、放送から6日後の8月19日、ホークス側は高塚猛オーナー代行を通して「冗談では済まされない問題。王監督も自分だけでなく、球界全体の問題と捉えている。フジテレビの対応を継続的に見て、関係を修復するのは(今シーズンが終わった)後のこと」として、リーグ優勝した場合、ホークスのホームであるテレビ西日本を含むフジテレビ系列局を日本シリーズの放映に加えないこと(※1)や、優勝が決まった日の選手たちの生出演を拒否するという、強固な姿勢でフジテレビに抗議することを決定。
また、日本シリーズでの対戦相手だった当時の阪神タイガース(以下阪神)監督星野仙一氏もスポーツニッポンの取材に対し、フジテレビと(コントを行った山口・宮迫の所属事務所である)吉本興業に強い口調で不快感を表明(後述)。これを受けて、阪神もホームである関西テレビを含むフジテレビ系列局を推薦しないことを決断した。
その後、ホークスは優勝して日本シリーズに出場する事になり、先の発言通りフジテレビやその系列局は日本シリーズ放送権を剥奪された(※2)。
そのため、フジテレビ系列局では試合中継の放送が全く行われない事態となり(※3)、ネット局が無い地域から更なる苦情が殺到するなど、フジテレビは後日も対応に追われる羽目となった。
放送翌週8月20日の『ワンナイ』冒頭にてフジテレビの須田哲夫アナウンサー(当時)がこの件について15秒間謝罪を行うも、「15秒程度では謝罪になっていない」等の苦情・抗議が相次いだ。また、その週に放送されたコントコーナー「NANIWA」では、妊婦役の小池栄子に粉ミルクをかけて粗末に扱う描写があり、それについても「育児に不可欠な粉ミルクを軽率に扱うとは何事か!」と批判が殺到した。
それから2日後の8月22日、番組側は「ジャパネットはかた」のコーナー打ち切りを発表。大問題となったこの「王シュレット」回を以て事実上の最終回を迎える事となってしまった。
総じて「悪ノリも度が過ぎると大問題になる」という教訓となった事件であった。
(※1) ただしフジテレビ系列局でありながら日本テレビ系列にも参加しており、日本テレビ割り当ての日が日本テレビ番組放送曜日に当たった場合のテレビ大分とテレビ宮崎は免除された。
(※2)最終戦となる第7戦は、ホークス戦の放送に熱心だったTVQ九州放送を系列局に持つテレビ東京が放送権を本事件前から獲得していた。
そしてその第7戦はテレビ東京系列局の無い地域の一部で、(深夜の)ダイジェスト番組という形式で、TBS系列局(例:東北放送、大分放送、宮崎放送)か日本テレビ系列局(例:北日本放送、山口放送、高知放送)で放送された。
(※3)先述の通り日本テレビ系列にも参加しているテレビ大分とテレビ宮崎は、日本テレビ割り当ての日が日本テレビ放送曜日に当たった第2戦を(加えてテレビ宮崎に関しては第5戦も)放送している。
各界の反応や影響
「王シュレット」のモチーフにされた王貞治氏は西日本新聞の取材に対し、「野球界と芸能界を一緒にするからこういうことになるんだ」「僕自身は実際に(放送を)観ていませんが、かなりえげつないものだったと聞いています。対応ですか?それは球団に任せているから」とコメントした。
その後行われた15秒謝罪に対しては、「テレビ局がそういうことをするのは大変なことでしょう。誠意は十分に感じました」「(フジテレビ系列の)地元局についてはもういいかな、という思いもある」と一定の理解を示した。
ホークス側は上記の声明に加え、「球団だけの問題じゃない。野球界に携わる者として許し難い」「誠意とは一度テロップを流すことではない。お詫びしたからといってどうこう出来る問題ではない」とフジテレビ側のあまりの誠意の無さを、対応内容の具体的な部分まで示した上で強く非難した。
上述の通りスポーツニッポンから取材を受けた阪神監督(当時)の星野仙一氏は「あれは怒って当然。やっていいことと、悪いことがある。しかも“世界の王さん”やで」「俺がもし(同じような扱いを)されても怒るし、そうなったら胴上げだろうが、ビール掛けだろうがすべて取材禁止や。お笑い同士で楽しくやるのはええけど、こっちは戦っとるんや」と怒り混じりにコメントした。
一方で、「シゲ」としてネタにされた長嶋茂雄氏や彼の親族、巨人軍や球団を有する読売グループからの抗議は特に無かった。
「ジャパネットはかた」の元ネタになったジャパネットたかたも、それまでパロディとして使用されていることは認知しており、事件前までは「良識の範囲内だろう」と静観していたが、この事件によって堪忍袋の尾が切れた模様で、公式ホームページ上で「事前に放送内容などの連絡は同局よりいっさい受けておりませんでした。今回の内容について、大変遺憾に思うと同時にただちに、文書と電話で同局に対して厳重に抗議をいたしております」と発表し、その怒りは相当なものだったという。
ジャパネットたかたのみならず、ウォシュレットのメーカーであり、王氏をスポーツ支援顧問に起用していたTOTOも『FNNスーパーニュース』などのスポンサーを降板し、当分の間いずれも公共広告機構(現:ACジャパン)のCMに差し替えられる事態に発展した。
また、事件翌週の「NANIWA」にて使用された粉ミルクについてだが、和光堂の製品「ぐんぐん」の商品名が映っていたため、製造元の和光堂も「企業イメージを損ねた」としてフジテレビに抗議した。
事件後、ホークスの日本シリーズ中継のフジテレビ系列での放送は、後身の福岡ソフトバンクホークスとして次に日本シリーズ進出を果たした2011年まで、地元局のテレビ西日本を含め一切行われなかった。
余談
ホークスや王氏が「ジャパネットはかた」にてネタにされたのは、実はこの「王シュレット」回が初めてではなく、2003年3月26日に放送された第2回「ダイエット商品紹介」にて「福岡ダイエットホークス」という商品が登場しており、その中で山口が宮迫に王氏の一本足打法を真似させるというシーンがあった。
後に宮迫は自身のYouTubeチャンネルにて山口がゲスト出演した際に本事件について触れており、
「リハーサルの段階で不安があったが、全員が麻痺していた」
と語っている。また、王氏がTOTOの名誉顧問であることも知らなかったという。
なお、この「王シュレット事件」が起きた2003年辺りから、フジテレビやその系列局では、本件から約2ヶ月前に起きた『27時間テレビ』での笑福亭鶴瓶による開チン事件を皮切りに、
- 堀江貴文による買収騒動(2005年)
- 里谷多英によるクラブ泥酔騒動(同上)
- 関西テレビによる『あるある大辞典』での捏造問題(2007年)
- 『クイズ!ヘキサゴン』のユニット・矢口真里とストローハットの『ONE PIECE』主題歌起用による炎上(2009〜2010年)
- 韓流ゴリ押しを始めとする偏向報道(2011年)
- 東海テレビによる『ぴーかんテレビ』での不謹慎テロップ・通称「セシウムさん」騒動(同上)
- 『ほこ×たて』でのやらせ発覚(2013年)
- 『めちゃイケ』のメンバー・三中元克による企画放棄とそれに伴う番組降板(2015〜2016年)
- 『テラスハウス』の出演者・木村花の誹謗中傷による自殺を巡るやらせ疑惑(2020年)
- 『99人の壁』でのサクラ発覚(同上)
- 大谷翔平選手の新居無断放映(2024年)
…等、立て続けに騒動や不祥事が起きるようになり、別の意味で視聴者の注目を集める様になってしまう。
そして、極め付けとなる2025年には……。
関連動画
実際の放送
放送翌週の15秒謝罪
おまけ:「福岡ダイエットホークス」登場回