概要
投打二刀流に渡る活躍で日本人メジャーリーガー(およびアジア出身選手)初の本塁打王を獲得、2度のシーズンMVPも満票で選出された、果ては元バスケットボール選手と結婚したなど、話題が連日絶えないスーパースターの大谷翔平選手。
しかしその過熱報道ぶりに「野球(ひいてはスポーツ)はまるで大谷選手一人でやっていると言わんばかり」「彼の話題でどこを見ても食傷気味」「過度に持ち上げ過ぎ」と考える層がおり、また大谷選手を神格化するあまり、少しでも批判的な発言をする相手に過剰な罵詈雑言を浴びせる者(通称:オオタニ教、オオタニ信者、タニシン、焼豚)も存在することから、しまいにはその温度差から「ハラスメント」呼ばわりの俗語が誕生してしまった。
実際のところ野球は世界的にはマイナースポーツ(※)で、メジャースポーツであるサッカーでそれこそ世界中誰もが知っているであろうリオネル・メッシ選手などとは知名度が足元にも及ばない。「世界のオオタニ」は誇張表現も良い所で、過去のクリスティアーノ・ロナウド選手のインタビューでもアナウンサーが「ショウヘイ・オオタニ選手を知っているのか?」という全く関係がない失礼極まりない質問をいきなりやらかした事もある(答えは当然ノーであった)。
(※ これには異論反論もあるだろうが、道具を揃えるのに金がかかるスポーツであるため一部の先進国でのみ人気が高いとも言われている。またアメリカは「近代野球の宗主国」等とも呼ばれるが、実のところはアメリカンフットボール(NFL)こそが一番人気のスポーツである。サッカーに至っては2023年にMLSに加入したメッシ選手が現れるまで、アメリカ国内ではマイナースポーツの立ち位置であった)
試合中継の地上波放送は少ない(NHKのBSおよび動画配信サービスのSPOTVではほぼ全試合を放送している)ものの、大谷選手は打撃の結果が報道で伝えられると、打撃成績と直接関係の無い打球速度や打球角度まで一々伝えられることが当たり前である。通常、他の選手ではここまで伝えられるのは稀であり、これも「大谷ハラスメント」の一例と言われている。
もっとも、これはメディアがあくまでも勝手にバカ騒ぎしているだけで、大谷選手自体はメディアへの露出にはあまり積極的ではない。
ただし、自身を特集する有意義なドキュメンタリー番組(NHKプレゼンツの「NHKスペシャル」・タモリ氏MCの「タモリステーション」・ビートたけし氏MCの「TVタックル」・東山紀之氏MCの「バース・デイ」・中西哲生氏MCの「GET SPORTS」など)に対しては取材に意外と積極的に何度か応じている一方で、バラエティ番組には、日本球界時代には何度か出演したことはあるものの(日ハムの広報戦略の一環として、バラエティ番組の出演要請を受けていたと思われる)、MLB移籍後は全く出演しなくなった。
このあたりは年始の特番等限られた数とはいえMLB移籍後もバラエティの出演に前向きな同学年の鈴木誠也選手とは対照的と言える。
結婚発表後も、恐らく自身の結婚相手に対してしつこく詮索されることを見越してなのか(※)、週刊誌に追いかけられる前に自身のインスタグラムで真美子夫人の姿を公表するなど先手を取ったり、「プレイに集中したいので言いますけど」と、メディアを暗にけん制するかのような前置きをしたこともあった。
※ ただ、これに関しては、MLBをはじめ北米のプロスポーツでは選手の妻も一定の役割を求められる(実際、北米では「夫人会」と呼ばれる独自の慣習がある)ため、妻の存在をある程度公にしておく必要があったという事情もある。
これだけプレーで十分な話題がありながらもメディアは「大谷翔平で視聴率がとれる=カネになる」ことを悪い意味で学習してしまい、いつしかプレーの細かすぎる情報や本人のプライベートも無視して取り上げるようになってしまったのだった。
「非常識な報道」による実害
大谷選手をはじめとするプロ野球選手側もマスコミ側の過剰な報道で実害を被る事態もいくつか起きている。
フジテレビ・日本テレビによる新居報道問題
2024年6月に、大谷翔平選手がアメリカ・ロサンゼルスに購入した邸宅の場所が特定されるような報道が行われ(通常、アメリカのセレブの邸宅は場所が特定されないよう空撮する)、ウェブメディア「現代ビジネス」が大谷選手側が日本テレビとフジテレビを事実上の「出入り禁止状態」にしたと報じた(参照記事(JBpress・2024/6/14))
その後、日テレとフジは出入り禁止の状態になっていること自体は否定したものの、大谷選手を不適切な報道で怒らせたことは事実であると認め、公式に謝罪した。
2025年1月7日にロサンゼルスで大規模な山火事が発生し、被害地域には引っ越し前の大谷選手の邸宅があった場所も含まれていた(※)ことから、偶然とはいえその被害を免れるという皮肉な事態が起きた(当然ではあるが、だからといって日テレとフジの行ったことが正当化できるわけではない)。
※ 現地の混乱により被害の実態がまだ殆ど明らかになっていないこともあり、この邸宅が実際に焼失したのかどうかは現時点では不明である点には注意。
なお、フジテレビはその後も、シーズン中にもワイドショーで力の入った大谷選手の特集を毎日のように行っていたため、視聴者からも「ここまでくるともはや悪質なストーカーとやっていることが何も変わらない」「こんなことをして大谷選手のご機嫌が取れると本気で考えているのか?」と局側の対応を疑問視する声が相次いだ。
菊池雄星投手に対する取材問題
2024年9月には、大谷選手の高校の3学年先輩であるアストロズ(当時)の菊池雄星投手が、「自分に関する記事を書きたいというので取材を受けたら、実際には大谷選手に関する記事の一部だった(要約)」と述べ、マスコミの取材方法に苦言を呈するという事態が起きた(参考)。
一応、この記事は確かに菊池雄星投手の特集記事ではあるが、一方で、「SHO-BLUE」という大谷選手を中心とした日本人メジャーリーガーの連載記事と言う一面もあった。恐らく、菊池投手側にそのことが十分に伝わらないまま取材を行ってしまったが故に起きた事態であると思われる。
とはいえ、菊池投手は立ち話では申し訳ないと考えてわざわざ会食の場を設けたり、記者を車で送迎をしたりといった気配りまでしていたようで、「菊池投手にここまでのことをさせておきながら…」と記者側のモラルを問題視する意見も多く見られた。
2024年ワールドシリーズ制覇後の大谷選手のメディア対応
ロサンゼルス・ドジャースが世界一になり、日米両メディアが彼に取材やインタビューを当然ながら躍起になって行った。
この際、元日ハムの先輩である田中賢介氏やその田中氏をインタビュアーとして起用したNHKとの質疑応答には誠意を以って応えた一方、元木大介氏や元木氏をインタビュアーとして起用したフジテレビ(MLBのワールドシリーズの放映権を得ていた)がインタビューをしようとした際には、チームスタッフや広報担当を介してけんもほろろに完全に拒否された(この時、大谷選手は不機嫌そうな表情を露骨に浮かべた後にフジテレビ陣営にガンを飛ばし、「出て行け」のジェスチャーをファックサインがわりと思わしきポーズと共にとっている。その時の様子はカメラにバッチリ映っており、特にガンを飛ばした時の画像はSNS等を通じてあっという間に広まってしまった)。
これは、上記の新居報道を巡る問題で大谷選手がフジテレビに対して不信感・不快感を未だに持っていたことに加え、インタビュアーを務める予定だった元木氏も大谷選手のポルシェを不用意にSNSで拡散させた前科があったためと考えられる。大谷選手からしてみれば、自分に迷惑を散々掛けた相手が揃ってやってきたのだから、MLB在籍7年目にして試行錯誤・紆余曲折・艱難辛苦の末の世界一達成の喜びに水を差されたのを上回り冷水をぶっかけられたような気分になっただろうし、思わず不快・不愉快な顔をしてしまったのも無理からぬことであろう。
視聴者からも元木氏は大谷選手へのインタビュアーとして不適格ではないのかとする見方が多かったが、そうした視聴者の嫌な予感がものの見事に的中してしまったと言える。
結局、フジテレビは大谷選手への独自取材を諦め、大谷選手がNHKの取材に応じている様子を横からカメラで映すほかになかった(これに関しても、NHKや大谷選手に無許可で取材に便乗したことになるので、これはこれでマスコミとしては本来なら絶対にやってはいけない行為である)。
さらにこれだけならまだしも、フジテレビはあろうことかワールドシリーズの再放送をプロ野球の日本シリーズの裏番組として放送してしまった。
放送局も視聴率の取れる番組を放送すること自体は各テレビ局による競争の一環ではあるものの、これまで放送局との信頼関係を密に積み上げていたNPBの面子を潰すような行為にも等しく、実際、NPB機構側は大激怒し、一時フジテレビから取材パスを剝奪する処分を科している。
野球シーズンが終了した後には『中居正広のプロ野球珍プレー好プレー大賞2024』を放送しており、これだけ問題を抱えていながら、大谷選手特集で番組の大部分を費やし、珍プレーの大半も元中日ドラゴンズの宇野勝氏のヘディングなど過去のプレーの使いまわし、更には渦中にいた元木氏までゲストに登場する有様だった(念のため補足しておくと、『珍プレー好プレー対象』自体は毎年やっている年末の恒例行事ともいえる番組である)。
フジテレビはその年ワールドシリーズを放送できたことでかなりの利益が出たため、年末にボーナスとしてそれらの利益の一部を社員たちに還元したという。
支給に当たり、港浩一社長は「これからも志高く『視聴率反転攻勢』、そして更なるブランドイメージ向上を目指し、強い体質の会社へと、進化し続けましょう」と威勢の良いメッセージを送っていたそうである。
このような無神経極まりない人選や放送形態、さらには放送で上げた利益をボーナスとして呑気に社員たちに配る無神経さには、関係者だけでなく野球ファンからも非難の声が当然ながら上がった。
これらの事情から、フジテレビ社内はイメージやコンプライアンス意識の改善より目先の成果優先の体制であることが改めて証明されたと言える。
悲しくも、「悪名は無名に勝る」というようにアンチの感情すら興味という形で利用されて視聴率に還元される。そして視聴率が取れることでスポンサーもCM契約を継続するという悪循環が続く限り、テレビ局はビジネスとして成立してしまうため、余程の危機感がない限りは今後もこの体制が変わることはないだろう。
散々やりたい放題したツケがこの直後に一気に降りかかってくるとはこの時フジテレビはおろか視聴者さえも想像していなかった(後述)。
2024年11月、第3回プレミア12での取材問題
シーズン終了後、2024年11月10日よりプレミア12第3回大会が開催された。
この大会ではMLB選手の参加はMLBポストシーズンと期間の近さもあって事実上参加不可能といっても良く、実際に本大会に大谷選手は出場していない。まだ歴史の浅いマイナーな大会なのだが、今大会はスター選手の集う大会ではなく将来のスター候補となる若い選手たちのアピールの場という一面も持っている。
それなのに対戦国の有望な若手選手に対して執拗に大谷選手についてのコメントを求める日本メディアの姿勢があまりにも失礼であると国内外から非難された(例えば、韓国の最年少トリプルスリーを達成した有望選手キム・ドヨン選手に対しては「NEXT大谷」と無理やりこじつけるメディアもあった)。
若手選手を抱えるチームからすれば「うちの若手のせっかくの晴れ舞台」であるのに、大会に出場すらしていない大谷選手の話ばかりすることがどれだけ失礼か想像が着くだろう。
大谷選手が参加していない、観に来てもいない大会にもかかわらず無理矢理大谷選手の名を出すのはただのこじつけ、便乗商法である。
そして東京ドームの決勝では多くのメディアが日本の優勝を確信していながら、台湾優勝というまさかの結果に終わった。
ある意味、野球の神様が日本メディアの他国野球への無関心さに手痛い一撃を与えたのかもしれない・…。
2025年、フジテレビが裁かれる時
大谷ハラスメントの急先鋒として物議を醸していたフジテレビだが、長らく侍ジャパン公認サポーターとしても活動していた元SMAPの中居正広氏の自局アナウンサーへの性的暴行を隠蔽していたことが発覚する(この案件のインパクトの強さからあまり話題にならないが、実は外資規制違反にも抵触している可能性も大いに指摘されている)。
ついには中居正広騒動の記者会見の対応の不味さからトヨタ自動車・日本生命・任天堂などの大企業がフジテレビの公式スポンサーから一斉に撤退しており(企業はそれなりのコストをかけて広告を出すので、費用対効果が見込めないなら契約期間中でも撤退することがある)、局としての存続自体が非常に危ぶまれている。1月30日、林芳正官房長官が記者会見で、フジテレビの一連の対応を受け、「現下の状況などを踏まえ、当面フジテレビへの広告出稿は見合わせる」と語り、ついには省庁絡みの広告(広報)まで取り下げられ、日本政府からも事実上完全に見放された。
しかも、大谷選手や他のスポーツ選手にハラスメント取材を散々繰り返し、政治家や芸能人のスキャンダルの責任を厳しい言葉で日頃追及してきたにもかかわらず、自分がいざ糾弾される側になると自己保身に走ったかのような閉鎖的な対応に終始し続けたために、「一体フジテレビは何様のつもりなのか」と、視聴者ひいては世間やスポンサーからも見限られてしまう事態となった。
参照記事・一体何様のつもり!?フジテレビが崩壊の危機「中居正広ショック」でCMがACジャパンになっていく…数々の物議に視聴者怒り爆発(MINKABU・1月22日)
皮肉なことに「視聴率反転攻勢」「更なるブランドイメージ向上」「強い体質の会社を目指す」としていた前年の港社長の威勢の良い挨拶とは完全に真逆な事態に陥ってしまったのである(その港氏も社長職を引責辞任する羽目になったのだが)。
ただ、局が番組制作どころではなくなるほどの大混乱に陥ったことで、少なくとも2025年シーズン中は大谷選手をはじめとするドジャースの日本人選手たちがフジテレビのしつこい取材に追い回されることはなくなったと思われ、これに関してはある意味で朗報と言えるのかもしれない。
もちろん、フジテレビ側が何とか取材費用を捻出して大谷選手への取材を強行する可能性もないわけではないが、この一件はアメリカを含む海外でも大きく報じられていることから、大谷選手やドジャースへの取材にもこのことが少なからず影響を与える可能性がある。アメリカを含む欧米は日本と比べて人権やコンプライアンスに対する意識が高く、今後も日本メディアが取材を続けるならばそれに従う必要があるだろう。
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王シュレット:過去にフジテレビが引き起こした、野球界を巻き込んだ不祥事
藤井ハラスメント:同じく過剰すぎる報道によって出来た俗語。