芋長
いもちょう
自動車会社ペガサスの近所にある和菓子屋で、老年の主人(演:南州太郎)とその妻のうめ(演:喜多道枝)の2人が営んでいる。商品は様々あるが、中でも1本100円で販売している芋羊羹には並々ならぬこだわりがあるようで、自宅の床の間には「芋羊羹」と書かれた掛け軸まで飾ってあるほどである。
もっとも、主人は「若い頃はケーキ職人になるのが夢だった」とも語っており、これが後々作中でも思わぬ大騒動を巻き起こすこととなる。
さてこの芋長の芋羊羹、ただの和菓子かというとそうではなく、主人夫婦らですら知らなかった意外な効果が、宇宙暴走族ボーゾックの出現によって明らかとなる。
その効果とは「一部の宇宙人を巨大化させる」というもの。総長ガイナモら幹部や手下のボーゾックの荒くれ者達、それに宇宙ゴキブリや宇宙バチまでも、概ね時間制限付き(※)で数十メートルクラスにまで巨大化させる。これにより攻撃力・防御力も共に向上するようで、等身大での戦闘では決まり手となるフォーミュラーノバによる攻撃すらものともしなくなる。
巨大化の際には、荒くれ者の顔が画面一杯にアップで映ると同時に、赤い光のオーバーレイが掛かり口から白いガスあるいは煙を噴き出しながら巨大化するという演出がなされている。一応、芋長の芋羊羹自体は「美味しい」とカーレンジャーからも評判の一品であるが、前述した演出や、食べる際に明らかに羊羹を食べている音ではない(生のお餅を齧っているのように)硬質感のあるSEが聞こえてくるために、見ようによっては不味過ぎて吐いている(もしくは怒っている)印象を受ける。
この効果は、発明家グラッチが単身地球に赴いた際、小腹が空いたため偶然その場にいた子供さんこと天馬市太郎を人質に、彼の母親である良江に買ってこさせた「チーキュの美味しいもの(※)」を食べたことで、偶然に発覚したものであった。
その後、巨大化の原理を突き止めるべく再び市太郎を人質にし、今度は父親である総一郎にチーキュの美味しい物を買って来させたのだが・・・種類自体は同じはずなのに何故か「小っちゃくなってしまう」というアクシデントが発生。グラッチと小さくなったMM(モーモー)モグーは天馬父子に追い回される羽目になった。
結局、さらなる調査の末にコンビニ(映っていたのはかのファミリーマートである)製の芋羊羹では縮小してしまう(こちらは巨大化するまで効果が永続する)こと、そして巨大化させる効果があるのは芋長の芋羊羹である、という結論に達したのであった。
また、ボーゾック1のピザ職人・XX(クスクス)ミレーノはピザの材料に芋羊羹を使いそのピザを食べて巨大化したことから、これを元に調理しても巨大化の効果は変わらないことが明示されている。一方で、賞味期限が切れた物(カビが生えて腐り悲惨な状態)は、一旦は巨大化してもすぐに元の大きさに戻ってしまう。因みにこの時の演出は巨大化時と同じだが、アップで映ったボーゾックの顔に掛かるオーバーレイが赤から青に変わっている。
この特性が、最終回で重要な役割を果たすことになる。
(※1 例外もあり、普通の昆虫サイズから人間大に巨大化した宇宙ゴキブリ・ゴキちゃんは、一度巨大化してからは以後そのサイズのままだった)
(※2 この時持ってきた「チーキュの美味しい物」は、たこ焼き・フライドチキン・いなり寿司、そして芋長の芋羊羹の4つであった)
ボーゾックにとって、芋長の芋羊羹は戦力を強化する上で重要なアイテムであるため、彼らは芋羊羹を略奪行為もせずキチンとお金を払って買っている。最初にグラッチが500円で購入した際、主人は特に気にすることなく客として接していたが、帰り際にその背中を見てやっと彼の異様な風体に気付き、「変な奴が芋羊羹買っていった」と腰を抜かしていた。もっとも、その後は慣れてしまったのか普通に売っており、ゾンネットが買いに訪れた際には恋愛相談にも乗るほどの順応ぶりも見せている。
ボーゾックの人間離れした風体も相俟って、一見するとおかしく感じられるこの行為であるがしかし、見方を変えれば普通の強盗だってその為の道具は自分で買うようなものとも言えるし、そもそも1個100円で買えるほど安いものをワザワザ略奪するメリットは薄い。何より、略奪で被害をもたらして店じまいされたら致命的である。つまり、普通に買うに越したことはない。
特に人間態にも化けずに買いに行っているあたりはともかく、揃いも揃って偏差値の低い連中の集まりなボーゾックにしては、比較的理にかなった行動と言えないこともない。もっともこれは、カーレンジャーの世界観の一般人の皆さんも総じて、ボーゾックをはじめとした宇宙人に対し、破壊行為などの露骨な悪事を働かない限りは“変わった風貌の人達”程度にしか認識していないという、かなり緩い事情もあってのものでもある。
34話ではグラッチがDHA、カルシウムを増やしバリバリ練り辛子を配合した芋羊羮を開発していた。
物語終盤、主人が年齢を理由に芋羊羹作りを引退しようとした時は、巨大化の術が失われることを危惧したボーゾックが、ボーゾック1のメイクアップアーティスト・PP(プリプリ)チープリをけしかけ、暴走皇帝エグゾスから与えられた若返りパックの効果で無理やり若返らせたこともあった。
前述した若かりし頃の夢もあってか、若返って咄嗟にキムタクならぬイモタクと名乗った主人は洋子とともにケーキ屋になってやり直そうとするなどさらに一悶着あったものの、結果的には元に戻った主人にやる気を取り戻させ、さらには芋羊羹の味も向上するという副次的な効果までもたらすなど、事情が事情とはいえボーゾックはやたらと主人に対しては丁重に扱おうとする。
言うまでもなく、手塩にかけて作った芋羊羹が巨大化アイテムに使われていたことを、主人は最後まで知る由もなく、また芋長で作られた芋羊羹だけが、どうしてボーゾックを巨大化させる効能があったのか、その理由が明かされることも当然なかった。
企画当初から、「ボーゾックの巨大化アイテムは食べ物にしよう」という方向で進んでいた。
当初はカレーライスにする予定で話を進めており、「ジャガイモが効いたのか、肉が効いたのか」などのギャグも考案されていたが、肝心の具体的な巨大化までの行程(どうやってカレーライスをボーゾックの手元に出現させるか?)が思うように決まらなかったため没とされた。
その後も幾度も話し合いが繰り返され、フライドチキンやあんぱん、煎餅、カップラーメン、アイスクリーム、たこ焼き、いなり寿司など数々の代替案がいくつも持ち上がる中で(結局その中からフライドチキン、アイスクリーム、たこ焼き、いなり寿司も、前述の経緯に組み込まれる形で本編に登場した)、ある時脚本家の浦沢義雄が「言葉の響きがいいし、手軽で美味いけど誰も注目することのない落ちぶれた感じ」「この番組(スーパー戦隊シリーズ)で絶対出てこない言葉だろう」という理由から芋羊羹を提案。思いついたきっかけは「会議のケータリング(茶菓子)で出された」とも「プライベートで引出物として頂いた」とも言われている。
こうして伝説の「芋長の芋羊羹」が誕生した。
本作の制作に関わって以降、浦沢は関係者から何かと芋羊羹(またはコーヒー牛乳)を差し入れられることが増えたそうだが、当の浦沢自身は芋羊羹はそんなに好きじゃない上に、あまりにも芋羊羹ばかり贈られてくる為、今では浦沢家の家族全員が芋羊羹を見る度にうんざりしているというオチも付いていたりする。
本作以外にも、名前のみというケースも含めて複数の作品で、芋長の芋羊羹が登場することがある。
- 『電磁戦隊メガレンジャーvsカーレンジャー』 - 伊達健太/メガレッドの実家の八百屋に、陣内恭介が事故のお詫びの品という名目で芋長の芋羊羹を持参
- 『仮面ライダー響鬼』 - 名前のみ登場
- 『海賊戦隊ゴーカイジャー』 - 主人公たちが訪れたビルのテナントの一つとして、名前のみ登場
- アニメ『もえたん』 - 黒威すみの好物として芋長の芋羊羹が登場。すみの演者である戸松遥は、後に『獣電戦隊キョウリュウジャー』においてキャンデリラを演じている
- 『劇場版 動物戦隊ジュウオウジャー ドキドキサーカスパニック!』 - アトリエ・モリの机の上に置いてあった芋長の芋羊羹をレオが手にしているのが確認できる
- 『魔進戦隊キラメイジャー』 - SL邪面に破壊された浩乃湯横の看板に名前がある
この他、バラエティ番組『日曜もアメトーーク』の「スーパー戦隊大好き芸人」回では、野球仮面が芋長の芋羊羹を食べて巨大化するという一幕も盛り込まれた。ボーゾック以外が芋長の芋羊羹で巨大化する数少ないケースの一つであるが、巨大化時の台詞と描写はボーゾックのそれとは異なり、機械生命体のパロディになっている。
『カーレンジャー』の英語版リメイクである『パワーレンジャー・ターボ』では巨大化に必要なアイテムが魚雷に変更されている。
これについては『食べ物で巨大化する』描写がドラッグを連想させてしまうからだと推測されている。
シドンの花:『地球戦隊ファイブマン』に登場するアイテムの一つ。こちらも芋長の芋羊羹と同様に、最終回で重要な役割を果たしたアイテムとして知られる
ヘルヘイムの森の実:『仮面ライダー鎧武』に登場するアイテムの一つ。こちらは本当に劇中プロップが不味かったアイテムであるとされる
ニコニコ動画:同サイトにおけるスーパー戦隊シリーズ公式配信にて、毎回怪人などが巨大化するシーンになるや、芋長の芋羊羹とその作品固有の巨大化手段をかけ合わせたようなネタコメントが投稿されるのが、半ばお約束と化している(詳細はこちらも参照)