なお、地上から打ち上げたものが戻ってくる場合に限って大気圏再突入、もしくは単に再突入という場合もある。
宇宙機の大気圏突入
宇宙船などの「発射、宇宙飛行し、地球へ帰還する」の内、もっとも危険で難しいとされる行為である。
衛星軌道から大気圏に突入する場合、衛星に必要な速度(地球低軌道では7.9km/s程度)をほぼ保った高速で大気圏に接触する。もし仮に衛星軌道で停止しても、衛星軌道の高度(地球低軌道でも300km以上)からの長い距離を重力加速度を受け空気抵抗無しで落下するためにやはり高速になり大気圏に突入する。
大気圏、いわゆる空気も物質であるため、高速で突入することで前方の空気が圧縮されて熱も生じ、圧縮されて高圧となった空気は恒星からの熱で温められ更に高温となる、さらに圧縮された空気はプラズマ化することでそれ自体が熱を発する。成功させるにはこの熱と抵抗を計算に入れた適切な角度と速度で突入する必要がある。
地上への帰還を目的とする場合では、突入する角度が浅すぎると高高度の薄い大気を通過し、十分に減速できず再び宇宙へ飛び出してしまう。逆に角度が深すぎると速度を保ったまま低高度の濃い大気に突入し、過度の空気抵抗と熱が加わり耐久性や耐熱性の限界を超えると分解、燃える恐れがある。最適な角度を選んでも断熱圧縮による空力加熱やプラズマ化した空気による輻射熱は必ず発生するため、機体の耐熱処理は非常に重要になってくる。
ただし、帰還時には大気が全面的に邪魔者というわけではなく、着陸に必要な燃料は大気があることにより大幅に節約できている。大気があれば大気中を通るように軌道を変えるだけでいいが、真空の天体に着陸する場合は周回速度の完全な打ち消しや降下(落下)時の減速をすべて自力で行う必要がある。
また、この大気を突入に利用する研究もされており、エアロシェルを展開して空機抵抗により徐々に減速、高い耐熱性を必要とせずに降下していく方法が試されている。
一般的には突入に失敗すると燃え尽きるというイメージがあるが、役目を終えた人工衛星を、わざと大気圏突入させて燃え尽きさせることがある。制御可能なうちに処理して置かないと、宇宙空間を漂うゴミ(スペースデブリ)となって、後続の宇宙活動の妨げになるため、こういった制御落下を行うことも宇宙開発事業には必要な行為なのである。
惑星探査機などでは、大気を通過することにより減速し軌道を変える「エアロブレーキング」という手法が存在する。そのまま地上に降りない場合、目的の減速をした上で再び宇宙へ飛び出すのが成功となる。
主な耐熱処理
アブレータ
樹脂が溶融、炭化、蒸発する際に熱を奪う性質を利用して熱の侵入を阻む。主な例ではアポロ計画宇宙船の帰還カプセルやソユーズ計画宇宙船の帰還カプセルがこの方法を用いている。
また、大陸間弾道弾の弾頭部もこの方法で冷却をする。
耐熱シールド
機体に貼りつけられたセラミック製の耐熱タイルにより熱の侵入を阻む。スペースシャトルのオービター部(軌道船。人や機材が乗る)に用いられている。
主な現実における例
- 2001年、ロシアの宇宙ステーション・ミールが大気圏再突入によって廃棄処分された。破片は完全に燃え尽きずに海上へと落下したが、この際に破片が日本上空を通過することがわかっていたため少なからず騒ぎとなった。
- 2003年、スペースシャトル・コロンビアが大気圏突入の際、分解したのは断熱パネルの分解によるものである。
- 2010年、小惑星探査機「はやぶさ」が大気圏に突入したのは、イトカワから持ち帰ったカプセルを地球に届けるためには、地球に出来るだけ近づく必要(遠いとカプセルが地球に届かない恐れがある)があり、カプセル放出後にはやぶさが地球圏を離脱するだけの推力はなかったからである。
- 2018年、中国の宇宙実験施設「天宮(ティエンコン)1号」は当初は中国政府は否定していたが2016年以前から制御不能となり軌道に留まり続けることが出来ずに高度を落としており、ついに再突入した。通常は制御状態で降下する事で被害の及ばない場所へと落とすが、天宮1号は中国政府の発表とは異なり軌道の制御すら不可能という完全な制御不能なまま再突入となった為、軌道が不明でいつ再突入するかが不明であり、度々予想時刻が書き換えられ、そのたびに落下予想地点も書き換えられた。
主な創作作品における例
- 機動戦士ガンダムシリーズ
- 大気圏突入(ガンダム)を参照。初代第5話のサブタイトルにもなっており、以降のシリーズでもお約束のシーンとして登場する。
- 魁!!男塾
- 塾長江田島平八が敵対組織の罠にかかって宇宙に追放された時、生身で宇宙遊泳をしてシャトルに乗り移り、地球に帰還したい旨を伝えるが酸素の都合で出来ないと言われると宇宙服と酸素ボンベをもらい受け、そのままシャトルと鎖でくくりつけ大気圏突入するという行為を行い無事帰還をしている。
- サイボーグ009
- サンダーバード(SF人形劇)
- 32話にて無許可で軌道上を周回し「宇宙放送局KLA」を営んでいた人工衛星の軌道と打ち上げ途中で故障により制御不能になった打ち上げロケットの指令破壊による爆破が偶然同じ位置であったため爆発に巻き込まれ、帰還の用装置が壊れた状態で地表への降下軌道に乗ってしまう。乗っていた技術者のローマンが修理を行おうとするもエアロックまで故障してしまい軟着陸ができない状態で降下し始める。高度が落ち機体表面温度が徐々に上がり始めている最中、乗っていたDJのリック・オシェーが高所恐怖症のため救助を拒みアラン・トレーシーに拳で説得される前に偶然放送用テープのスイッチが入ってしまう。その後、落下地点がちょうど石油精製工場の敷地内であったためサンダーバード2号が分解しつつあるKLAをミサイルで撃墜し爆破処分しようとしたものの放送が流れはじめたためオシェーがまだ中にいるものと勘違い。国際救助隊本部やサンダーバード3号に連絡を取ろうにもサンダーバード5号が電子機器故障による修理中で連絡が取れず、KLAの乗員が既に救出済みで無人になっていることに気づかなかったため、予定を変更してサンダーバード2号の主翼にKLAを乗せて落下地点をずらし工場への落下を免れる。ちなみに、国際救助隊本部に戻って事の経緯を知るまでサンダーバード2号に乗っていたバージルとブレインズの2人は通信ができなかった件もあり、オシェーを助けられず死なせてしまったものと思っていた。
- カウボーイビバップ
- 「19's session ワイルド・ホーセス」で登場する。愛機の調整を終えた主人公が、そのままそれを駆り大気圏の上(月の破片が大量にあるという設定)で、(自称)宇宙海賊との戦闘中、愛機はウィルス攻撃に対抗するために操縦支援システムをカットした状態で地球の重力にとらえられてしまう。デブリ等により救助も間に合わず、機体には大気圏突入の為の機構がなく、更には推進剤も切れてしまい、相棒に別れを告げていると、骨董品の宇宙船からの救援通信が来る。エアロブレーキングの指導を受けて実行するもエアブレーキ代わりに使用していた着陸脚の破損により離脱は不可能になってしまう。しかしタイミングよく近くまでたどり着いたその骨董品のカーゴ内へと回収されて大気圏へ再突入をしたものの、骨董品は耐熱タイルが剝れている、車輪が出ないとトラブルだらけ。無事に突入に成功し、砂漠で胴体着陸して壊れた骨董品の前での写真で話は終わる。
- ナイトウィザード
- ウィザード等の月衣という能力を持つ存在は常識的なものを遮断する為、通常の武器は利かない事に加え、深海や宇宙空間での活動すら生身で可能としている。アニメでは主人公の一人である柊蓮司が生身かつ着陸用装備を持たないまま大気圏突入を行い、無傷で墜落している。
- また、セブン=フォートレスリプレイ黒き星の皇子では人工衛星が落下して柊蓮司へと直撃している。(当人は月衣により無傷である)
ゲームソフトにおける例
大気圏突入時に操作可能なもののみ記載しており、ムービー等の操作不能なシーンで大気圏突入が描かれるものは除外しています。
- SDガンダムワールド ガチャポン戦士シリーズ
- ガンダム作品をベースとしたシミュレーションゲーム。宇宙と地球との間には大気圏境界マスが存在し、艦艇とZガンダム等一部MS以外は移動も戦闘も困難。
- Alpha Squadron(MSXパソコン用STG 販売元:ソニー)
- ネメシス2(GB用STG 販売元:コナミ)
- 3面のボス「クレーターコア」との対決が大気圏突入すべく高度を落としながらの対決となる。撃破するとクレーターコアが大気圏突入時の熱で蒸発しながら小さくなり、燃え尽きる。
- 重装機兵レイノス(メガドライブ用ACT 販売元:メサイヤ)
- 先述の『ガンダム』のオマージュと思われる、大気圏突入タイミングでの戦闘が存在する。『レイノス』では軌道上に集結する敵部隊の全滅後、主人公の機体が味方の艦に収容された後で仲間のゾウザリーが遅れてやってくるが、艦は大気圏突入体制に入っていたために収容されずに燃え尽きて死亡、(このステージには制限時間があり、うかうかしてると時間切れでプレイヤーも閉め出しを喰らって死ぬ)。リメイク版では条件付きだがレイノス単騎で大気圏突入やゾウザリーを救出することも出来る。
- 重装機兵ヴァルケン(スーパーファミコン用ACT 販売元:メサイヤ)
- 大気圏突入に失敗し窮地にあった敵兵を捕獲(保護)する場面がある。
- スプリガンMark.2(PCエンジン用STG 販売元:ナグザット 開発:コンパイル)
- 『ガンダム』のオマージュ(というより前述のレイノスのオマージュ)と思われる、大気圏突入タイミングでの戦闘が存在する。発射しても誘導出来ずに左上へと飛んでいってしまう為、ミサイル系は搭載してもまともに使用できない。画面右下へ向かい降下しているため、敵を撃破した際には徐々に小さくなりつつ左上へと上昇していく。再突入直前に戦闘になった為、母艦への帰還が無理な場合に備えて単独突入用の装備である「ストラトシューター」を装着して戦闘を行うが、友軍機が被弾によりこの装備が使用できなくなるという場面もある。(このステージのボス戦は帰還限界高度以下の戦闘なので時間制限があり、時間切れの場合は強制的にストラトシューターが使用されてしまい、敵からの攻撃を避けることが出来なくなり撃墜されてしまう)
- レイフォース(タイトー)
- ステージ2のラストで熱圏外で戦闘が描かれ、撃破されたボスが地球の引力に捕らわれ燃え尽きながら墜落していく。その後間を置かず地上降下が始まるが主役機X-RAYは単騎で大気圏突入が可能なためか特にドラマチックな展開はない。
- ハイパーデュエル(テクノソフト)
- 主役機は単騎突入が可能な上、大気圏突入シーンが実質ボーナスステージという珍しい作品。
- Deadspace3(XBox360/PS3/WinowsPC用TPS 販売元:エレクトロニック・アーツ 開発:Visceral Games)
- CMS CrozierでTau Volantisへ大気圏突入を行うシーンがある。大量に浮かぶ残骸を避け、機雷を撃墜しつつ画面に表示される軌道を外れないように操縦するミニゲーム的なシーンとなっている。
- エースコンバット3(PS用フライトシューティング 販売元:ナムコ)
- ニューコムルートM41 Zero Gravityにて大気圏外でのミッションがあり、終了時に大気圏再突入を行い帰還する。再突入時に姿勢制御に失敗すると燃え尽きてしまう。
- KerbalSpaceProgram
- 宇宙船のフライトシミュレートで、大気の濃さと宇宙船の速度に応じた空気抵抗による加速度がかかり、大気圏突入を経た着陸やエアロブレーキングによる軌道変更が自由に可能。
- BAYONETTA(XBOX360/PS3用クライマックスアクション 販売元:セガ 開発:プラチナゲームズ)
- 大気圏突入中に女神像を破壊する戦闘がある。時間制限があるものの、基本的に余裕のある制限になっている。
- ロックマンゼロ4
- ネタバレになってしまうので詳細は割愛するが、ある重要人物の手によって地球に落下するように仕向けられた人工衛星を破壊すべく人工衛星に乗り込み、大気圏に突入する直前(あるいは突入直後)まで戦い抜くことになる。