概要
藤子・F・不二雄原作の漫画・アニメ作品『ドラえもん』のエピソードの一つ。TC26巻収録。
しずちゃんこと源静香が中心となって物語が進むエピソードであり、サブタイトル通り彼女の魔女っ子としての活躍を描く。
ストーリー
シンデレラを助ける魔女っ子しずちゃんという妄想しているところをのび太に見られてしまったしずかは、小さい頃からの憧れを打ち明ける。その話を聞いたのび太は「ドラえもんに頼んで、本物の魔女っ子にしてあげる」と約束する。
帰宅したのび太から「しずかの夢を叶えてあげて欲しい」と頼まれたドラえもんだったが、「人を魔法使いにする道具なんかあるか! ろくに考えもせず安請け合いして!」と至極当然の反論をする。するとのび太は「悪かったよ。人を助けたいしずかちゃんの美しい心に感動して安請け合いしたのが間違いだった」と言いながら落ち込んでしまった。その様子を見たドラえもんは流石に言い過ぎたかと思い、しずかが誰かを魔法で助けたいと思った時、その場に合ったひみつ道具を貸してあげることにした。
ドラえもんとのび太が源家へ行くと早速、しずかから「箒で空を飛びたい」と頼まれる。そこでドラえもんは「無生物さいみんメガホン」を使い、しずかの家の箒を空飛ぶ箒に変えたのだが、その箒はどこかに飛び去ってしまう。ドラえもん曰く「箒の中にもそそっかしいのがいるんだね」とのこと。
仕方が無いので野比家の箒を空飛ぶ箒に変えることで対応する。次にドラえもんは魔法使いが被る帽子のような道具「タスケテ帽」をしずかに渡す。この帽子は困っている人がいると帽子の先端が動き出し、どこに困っている人がいるかを知らせてくれるのだ。しずかはこの帽子を使い、助けを求めている人達を探すことにする。
こうして魔女っ子しずちゃんの活動が始まる……と思われたが、最初の仕事は箒を無断で貸したことをママに叱られ、罰として庭掃除をする羽目になったドラえもんとのび太を助けることだった。
しずかは箒を返そうとするが、のび太が「いいよ。せっかく魔法使いになれたのに」と言ったため、先程の無生物さいみんメガホンをドラえもんから貸してもらい、バットを箒の代わりにすることで解決。しかししずかが「誰かを助ける時、一々ドラちゃんから道具を借りるのはまどろっこしいわね」と言った為、ドラえもんはしばらくの間、いつもお腹に装着している「四次元ポケット」をしずかに貸すことにする。
「これさえあれば何でも出来る」と考えたしずかは、早速タスケテ帽の指示に従い、家の中で泣いている少女を見つける。少女曰く、友達の誕生日パーティに行こうとしたら母親が服を全てクリーニングに出してしまったらしい。そこでしずかは「着せかえカメラ」で少女をドレス姿に変える。
しかし少女は「お友達の家は電車で1時間もかかるから、今から行っても間に合わない」と言って再び泣き出してしまう。その様子を見たしずかは「お姉ちゃんに出来ないことは無いんだから」と言いながら「どこでもドア」を取り出し、少女を友達の家へ送り届けてあげた。
その後も人助けを夜遅くまで続け、満足したしずかはドラえもんにひみつ道具と箒を返却。のび太は試しに自分もタスケテ帽を被るが、なんとタスケテ帽が反応する。
ドラえもんとのび太は「タケコプター」で困っている人を探しに向かう。すると助けを求めているのはしずかであり、夜遅くまで無断で外出していた為にママに叱られ、家に入れて貰えず泣いているのだった。
魔女っ子しずちゃんのひみつ道具
ドラえもんがお腹につけている、なんでも取り出せるお馴染みの道具。
今回はいちいち借りに行くのも面倒と言う事で、しずかに託される事に。
魔法使いの帽子を思わせるひみつ道具。
困っている人がいると頭のボンボンが反応してそちらの方向へ磁石のように動き、被った人そちらへ導いてくれる。
野比家のホウキをしずかが乗る「空飛ぶホウキ」に変えている。
その後、代わりにのび太のバットをホウキに変え、庭掃除をすぐ終わらせるようにした。
なお、箒は長い間乗っていると股が痛くなるようで、乗り心地はそこまでよろしくない。
大山版「魔法使いしずかちゃん」では粗大ゴミを馬車に仕立て上げ、
ジャイ子をフニャコ先生のサイン会場へと向かわせている。
一瞬で思い通りの服に着替えることが出来うカメラ。
原作などで女の子の服をデザインしたのは誰か明言されていない(恐らくしずか)が、
大山版「魔法使いしずかちゃん」では、まずしずかがデザインした服をジャイ子が着用。
ただしあまりにも派手過ぎたため、改めてジャイ子自身がデザインした可愛らしいデザインの服に着替えさせている。
原作などでは女の子を誕生パーティー会場へ向かわせる為に使用している一方、
大山版「魔法使いしずかちゃん」ではジャイアンを野球場に案内する為に使用している。
しずか自身は使用しなかったが、大山版「魔法使いしずかちゃん」でジャイ子をフニャコ先生の元へ向かわせる為に取り出した。
だが途中で電池が切れてしまい、ジャイ子は煙突の上で立ち往生する羽目に。
大山版「魔女っ子しずかちゃん」ではジャイアンやスネ夫を助ける為に使用し、2人を追い詰めた猛犬を子犬へ戻した。
大山版「魔法使いしずかちゃん」ではボロボロになったスネ夫の自転車を新品に戻そうとしたが、
間違えて青い方=古くなる方を表にしてしまったため、スネ夫の自転車は更にボロボロになってしまった。
大山版「魔女っ子しずかちゃん」のみ登場。
一時的に「お金のいらない世界」に変える事で、銀行強盗を無害な存在へと変えた。
わさドラ版「魔女っ子しずちゃん」(1回目)に登場。
木に引っかかった町の少年のラジコンを回収する為に使用した。
アニメにおける原作との主な相違点
現在、大山版で2回、わさドラ版で2回と4度もアニメ化されている。
どのアニメでも原作には登場していないジャイアンやスネ夫が登場し、2017年版以外はしずかに助けてもらっている。
大山版「魔女っ子しずかちゃん」(1981年)
- アニメでのしずかの呼び方に合わせてタイトルが若干変更。
- アニメ化初期の作品と言う事もあり、しずかののび太の呼び方が「のび太くん」になっている。
- しずかが挙げた魔女っ子の代表は「メリーちゃん」「マグちゃん」に変更。
- のび太の掃除を助ける際のひみつ道具として無生物さいみんメガホンに加え、より効率よく掃除をするため「ミニ台風発生機」も用意して貰っている。
- 困っている女の子を助ける際に最初「かぼちゃの馬車」を用意しようとしたが、生憎その子の家にあったのはカボチャではなくサツマイモだったため、流石にそれで馬車を作るのはアレなのでどこでもドアを用意した。
- 人助けの内容に「ジャイアンとスネ夫を追い回す猛犬をタイムふろしきで子犬にする」「銀行強盗をもしもボックスでお金のいらない世界を創り出すことで逆に『お金を皆にあげる』存在に変える」が追加。
- 因みに、もしもボックスはあくまで、「使用者をパラレルワールドに送る」道具であるため実は銀行強盗に関しては何の解決にもなっていなかったりする。
大山版「魔法使いしずかちゃん」(2005年)
- 再アニメ化に伴いタイトルもマイナーチェンジ。
- しずかの妄想はのび太のみならずママにまで見られてしまっている。
- しずかの「魔法使い」になりたいという憧れをこっそり教えてもらったのび太だが、最初魔法薬を創る怪しい「魔女」を妄想してしまった。違いますー!!
- しずかが挙げた魔法使いの代表は時代に合わせ「ハリーちゃん」「ククちゃん」に変更。
- 人助けの内容が「フニャコフニャ夫先生のサイン会に行きたいのに余所行きの衣装を母ちゃんがクリーニングに出してしまったジャイ子を助ける」「その途中に、大事な試合前なのに店番を任されてしまったジャイアンをどこでもドアで、自転車がパンクしたスネ夫をタイムふろしきで助ける」に変更。他にも「盆栽のどちら側を切るべきか悩むおじさん」「川に落ちた子犬」など様々な人や動物たちを助けている。
- ジャイ子はタケコプターで現地に向かわせる形にしたものの、スネ夫を助ける途中でそのタケコプターの電池が切れてしまう緊急事態が起きたため、粗大ゴミを無生物さいみんメガホンで馬車に変え、丘の上のお城を思わせるやたら豪華な建物へと向かわせることになった。
- ただし、スネ夫の自転車はうっかりタイムふろしきを「裏返し」にしてしまったせいで、更にボロボロになってしまっている。
- ドラえもんにお礼と共に四次元ポケットを返すシーンでは『のび太のドラビアンナイト』の「夢のゆくえ」のイントロ版がBGMとして流されている。
- しずかが叱られる事態をタスケテ帽で察したのび太は、ホウキではなく傘に跨って空を飛んでいる(原作・他のアニメ化ではタケコプターを使用している)。
なお、「魔女っ子しずかちゃん」「魔法使いしずかちゃん」双方とも、しずかの服は大山版ドラえもんでお馴染みのピンクの衣装ではない。
わさドラ版「魔女っ子しずちゃん」(2007年)
- 冒頭のシンデレラの妄想をしずかが楽しんでいたのは自宅の玄関となっている。
- 道具を借りる過程は原作通りだが、もっと気合を入れたいと「着せ替えカメラ」で衣替え。本人は「魔女っ子」っぽい衣装と呼んでいたが、どちらかと言えば90年代以降の魔法少女アニメっぽい感じのミニスカ衣装となっている。
- 加えて魔法の呪文までしっかり用意。それに合わせて着せ替えカメラを押すようドラえもんにお願いするなど、すっかり乗りに乗っている。勿論、その際に魔法少女っぽい変身バンクもしっかり流されている。クルリン・パラリン・プルルルン♪ミラクル・シズール♪
- ホウキに悪戦苦闘するしずかのシーンはホウキに何とか跨り続けたもののコントロールが効かず振り回されてしまう、と言う形になっている。
- 魔女っ子の代表の名前は明言せず、「魔法使いってみんな痛かったのかしら……」と一纏めで例えている。これは下記の2017年版も同様。
- 人助けの内容は原作通りだが、それに加えてラジコン飛行機が木に引っかかったジャイアンやスネ夫を「マジックハンド」で助けている。
わさドラ版「魔女っ子しずちゃん」(2017年)
- 今回のしずかの衣装は普段と変わらない。
- こちらも呪文が存在するがバンクはなく、呪文も「シズシズ・ホイ♪」とよりコンパクトになった。
- いたずらをしたため母親から逃げていたジャイアンとスネ夫から助けを求められるも、彼らの方が悪い為助けなかった。
なお、どのバージョンにおいてもオチは変わらない。
「ドラえもん、早く何とかしてよー!」
「う、うん……えーとえーと何かないか何かないか…!」
「早くー!」
「そんなこと言われたって……もう、誰か本当に魔法使いを呼んでくれ~!」
(2005年版より)
「ママ開けてー!お願い、もうしませんからー!ミラクル・シズール……。」
(2007年版より)
余談
ドラえもんやのび太、ジャイアンやスネ夫がひみつ道具を悪用し、その結果しずかが酷い目に遭ってしまうことは珍しい話ではない。しかし、しずか自身が(善意によるものとはいえ)ひみつ道具で調子に乗ってしまい、その結果痛い目を見るというエピソードは非常に珍しい。
加えて、これまでに四回アニメ化されているが、いずれも原作と同じ結末を迎えるという点でも珍しさに拍車をかけている。
作中ではしずかが空を飛ぶ際にタケコプターではなく箒を使いたい理由として「サリーちゃんもメグちゃんもララベルも、みんなほうきに乗ってる」と主張するシーンがあるが、アニメ版では彼女達の名前は一切出ていない。
大山のぶ代版アニメで映像化された際、1981年版では「メリーちゃん」と「マグちゃん」、2005年版では「ハリーちゃん」と「ククちゃん」という名前に変更されている。
また、上記のエピソードや『魔界大冒険』にて、ドラえもんは「魔法使いになれる道具や魔法を使えるようになる道具は無い」と発言しているが、TC37巻収録「魔法事典」では、自分が使いたい魔法を自由に作ることが出来る「魔法事典」というひみつ道具が登場している。
しずかが例に出したような魔法少女アニメの主人公たちは帽子をかぶっていないことが多い。タスケテ帽はむしろ「ファンタジア」で魔法使いの弟子に扮したミッキーマウスがかぶっている帽子に酷似している。
水田わさび版アニメで映像化された際、2007年版では「着せかえカメラ」で格好も魔法少女らしくしてもらった上に、変身呪文や変身シーンも披露した。
原作版では、しずかはドラえもんとのび太、そして泣いている少女を助けている場面しか描かれていないが、アニメ版ではジャイアンとスネ夫も助けている(ただし2017年版では、彼らはいたずらで母親達を怒らせただけだったため、助けることはしなかった)。また、2005年版ではジャイ子、神成さんなども助けている。
なお、今回の話におけるしずかの人助けは、善意によるものとはいえ良くも悪くも普段の日常の遊びの延長にあるものと言える。故に夜遊び/門限破りを正当化するものではないのだ。
2017年のアニメ版では、しずかは「自分は正しい人の味方」と称しているが、結末の伏線になっていると言えるかも知れない(つまり夜遊び/門限破りは正しくないということ)。