ケルト神話
けるとしんわ
概要
現代にケルト神話として伝わる、体系化された神々や英雄の物語は、ケルトと呼ばれる人々が伝えてきたアイルランドやウェールズ地方の神話・伝承を指す。
ブリテン島やガリアに伝わる神話はドルイドの口伝によって伝承されていたが、ケルト文化のローマ化に従ってドルイドの宗教が禁止された為に完全に消滅してしまったとされる。また、ケルト人の宗教は基本的に祖霊崇拝や精霊崇拝が中心だったため、他の多神教のような複数の神による序列そのものが築かれることもなかったといわれる。
一方、アイルランドやウェールズ地方の神話はローマの侵攻から免れ、またアイルランドに布教したパトリキウス(聖パトリック)がキリスト教とケルト文化の融和を図り、周辺の伝承を収集・記録したことから命脈を保つことに成功した。
アイルランドにおけるケルト神話
アイルランドにおけるケルト神話は以下の4つのサイクルで構成されている。
神話サイクル
ダーナ神族を初めとする、神々の物語。創世神話はなく(失われたともいう)、今のアイルランドにあたる「エリン」の島に50人の女性と3人の勇者が漂着するところから始まる。その後、四度に渡って島外からの諸部族の漂着(あるいは来寇)、繁栄、天災や巨人族等による滅亡が繰り返される(それゆえ来寇神話ともいう)。そして次第にエリンは巨人族「フォモール族」が支配するようになった。第四次来寇部族「フィル・ボルグ」は、滅亡した第三次来寇部族「ネヴェズ族」のうち南に逃れて奴隷となった者たちの子孫であり、巨人と同盟してエリンに定住するようになった。
そこに第五次来寇部族が襲来する。ネヴェズ族のうち北に逃れて北方魔法王国で魔法を学んだ者たちである。彼らこそ「トゥアハ・デ・ダナーン」こと「ダーナ神族」つまりアイルランドの神々であった。王である戦神ヌァザに率いられたダーナ神族はフィル・ボルグを滅ぼしてフォモール族に挑む。ヌァザ王はフォモール族の王バロールに倒される。しかし、バロールの孫でもある太陽神ルーがバロールを討ち取って巨人族を滅ぼし、ついにダーナ神族がエリンの支配者となった。やがて第六次来寇部族「ミレー族」が来寇する。ダーナ神族はミレー族に敗れて海の彼方の世界「ティル・ナ・ノーグ」に逃れ、残った者は力を失って山野に戯れる妖精となっていった。このミレー族が現在のアイルランド人であるという。
アルスターサイクル
クー・フーリンを中心とした英雄の物語。エリンの北東、アルスター王国を舞台とする。太陽神ルーの子として生まれたクー・フーリンは、冥界の女王スカアハのもとで武術を修業し、魔槍ゲイボルグを手に入れる。やがてアルスター王国はコノート王国と開戦する。コノート側には事情あってアルスターから亡命した勇士たちとアイルランド諸州から集めた大軍があり、さらにアルスターの兵士たちを力萎えの呪いが襲う。この窮地をクー・フーリンは一人で凌がねばならない。この決戦に登場する人物たちの物語がアルスターサイクルである。
ウェールズにおけるケルト神話
イギリスのウェールズやコーンウォール、フランスのブルターニュに伝えられた神話の総称。現代では1849年にシャーロット・ゲストがまとめた『マビノギオン』によって知られる。
マビノギオンはおよその4つの物語からなる。「四つの枝のマビノギ」「マクセンの夢」「スィッズとスェヴェリス」「アルスル王の物語」
四つの枝のマビノギ
狭義でのマビノギオンとはここに含まれる4つの物語を指す。マビノギとは若者の物語を意味し、女神アリアンロッド、英雄ルー・ロー・ギッフェス(太陽神ルーのこと)らが登場する4つの若者たちの英雄譚が語られる。
マクセンの夢
ローマ皇帝マクセンが夢で見た乙女エレンを求めてブリテン島に上陸して結ばれ、本国の反乱と戦う物語。
スィッズとスェヴェリス
ブリテン王スィッズが直面した三つの危機に、フランス王となった弟のスェヴェリスが助力して挑む話。
ケルト神話に登場する概念
王たちの相談役のこと。司祭であり、立法者や裁判官であり、医者でもある。予言の力や魔術の力に優れていた。アーサー王伝説に登場する魔術師マーリンもドルイドの一人である。
騎士たちの誓いのこと。騎士たちはゲッシュによって強大な力を手にし、英雄となることができた。しかし、これを破ることは破った者の死や破滅をもたらすものであった。
ケルト神話に関連するタグ
余談
欧州の神話の中ではそこそこ有名な立ち位置にあったのだが、創作作品の題材になって以降は徐々に知名度を上げていった。
2020年7月15日において、どういうわけかケルト神話の事象を事細かに解説した創元社の「ケルト事典」が爆発的に売れ始め、立て続けにケルト神話関連書籍も同様に売れたので「追いケルト」なるパワーワードが誕生している。