概要
漫画家和月伸宏によるSFアクション漫画『武装錬金』は、「週刊少年ジャンプ」に2003年30号から2005年21・22合併号まで連載。その後の「赤マルジャンプ」に、2005年8月16日「武装錬金ファイナル」、2006年1月16日「武装錬金ピリオド」が掲載された(また、単行本第10巻(最終巻)には、後日譚となる「武装錬金アフター」が収録されている)。ストーリー協力は黒崎薫。全10巻であるが最終10巻はファイナル以降のみ(『エンバーミング』読切版も併録された)の掲載となっている。
2017年には、集英社コミック文庫版(全5巻)が発売された。こちらには、毎巻描き下ろしの「武装錬金アフター アフター」が収録されている。なお、文庫版にはJC版に収録されていた「キャラクタープロフィール」「武装錬金(武器)解説」「ストーリーのライナーノーツ」は収録されていないので、そういった部分に於いての詳細なデータを知りたい場合にはJC版を読むことを推奨する。
テレビアニメは、原作完結後の2006年10月4日から2007年3月28日までテレビ東京系列で放送された。全26話。作者も予想していなかったらしく、このアニメ化を聞いた際には「今さらァ!?」と驚いている。
その他にも、キャラクターフィギュアの販売、ドラマCD化、ノベライズ(原作漫画の後日談)、ゲーム化などの様々なメディア展開をしている。
ちなみに第1話は和月氏が携帯電話を購入した直後に描いたらしく、それ以降も携帯電話が重要なファクターとして幾度となく登場する。第1話の筋書きはジャンプ漫画にしては珍しく「主人公がヒロインに助けられる」というストーリーだが、和月氏いわくウルトラマンがモデルらしい。
特徴
本作は和月伸宏氏の新境地を開拓した作品である。
るろうに剣心のような時代劇を手がけていた和月氏にとっては(読み切り作品を除けば)初めての現代活劇であり、外連味溢れるSFガジェットやメカニカルなクリーチャー達が跳梁跋扈するハイテンションな作風となっている。
登場人物達も殺伐としたヒロインや純度の高い変態のような一癖二癖のある個性派揃いである。一方で、どのキャラクターも大なり小なり辛い生い立ちや如何ともしがたい因業を抱えており、陰影の濃い人物造型となっているのも特徴である。
打ち切りの影響とは言え、コンパクトによくまとまったストーリーも評価が高く、本作が未だに根強い人気を誇る一因となっている。
また本作は次回作『エンバーミング』と世界観を共有している(あるいは、非常に近いパラレル設定)ようである。
ストーリー
私立銀成学園高校の2年生武藤カズキは、ある日の夜、廃工場で巨大な怪物に襲われていた少女を助けようとして命を落としてしまう。しかし、その少女津村斗貴子に錬金術研究の成果である「核鉄」を埋め込まれることによって命を救われる。同時に、唯一無二の「突撃槍の武装錬金」の力を手に入れた武藤カズキは、人を喰らう怪物ホムンクルスの存在を知り、戦いの世界に足を踏み込むことになる。
登場人物
なお、登場人物名のほとんどにはその人物の闘争心に見合った「武器」や「戦闘」を表す漢字・熟語が使用されている(非戦闘員の六桝などは除く)
仲間・ライバル
「蝶々覆面の創造主」の部下
ヴィクターとその家族
ヴィクター・パワード(CV:小山力也)
アレキサンドリア・パワード(CV:勝生真沙子)
ヴィクトリア・パワード(CV:釘宮理恵)
私立銀成学園高校の生徒
その他
用語解説
ホムンクルス
本作におけるホムンクルスは小さな胎児のような姿をした人造生命体であり、他の生物の遺伝子を取り込ませた後、人間を吸収して、動植物のパワーと人間の知能を持った改造人間に作り替える習性を持つ。従って、自分自身の細胞を取り込ませ、わざとホムンクルスに寄生させると、自分自身をモデルとした人間型ホムンクルスに変化する。いわばサイボーグである。
詳細は該当項目を参照。
武装錬金
錬金術の創り出した超合金『核鉄』を用いて作り出す武器。持ち主の闘争本能に呼応して姿を変化させる。通常の武器とは比べものにならない破壊力を有しており、ホムンクルスの体も破壊できる。
武装錬金には必ず一つの特性があり、それはベースとなる武器には本来ならば存在しない、超自然的能力であることが多い(錺布がエネルギーになる、いくら爆発させても減らない、幻覚を見せる、持ち主の体を再生させるなど)。
テレビアニメ
内容
ほぼ原作に忠実だが2クール目である再殺編での展開が多少異なる。本編は「ピリオド」に当たる部分までで「アフター」のエピソードは最終回のEDでサイレント形式で映像化された。
原作でのシリアスな場面で唐突に入りがちなギャグシーンは軒並みカットされている。
スタッフ
原作:和月伸宏
監督:加戸誉夫
シリーズ構成:大和屋暁
キャラクターデザイン:高見明男、加藤はつえ
音楽:田中公平
アニメーション制作:XEBEC
製作:武装錬金製作委員会
主題歌
オープニングテーマ
「真赤な誓い」
歌 - 福山芳樹 / 作詞 - 福山恭子 / 作曲・編曲 - 福山芳樹
最終回ではカズキとパピヨンの一騎打ちのシーンで挿入歌としても流された。
エンディングテーマ
「ホシアカリ」(1 - 14話、26話)
歌 - 樹海 / 作詞 - Manami Watanabe / 作曲 - Yoshiaki Dewa / 編曲 - Yoshiaki Dewa・Zentaro Watanabe
最終回では原作「アフター」のエピソードに乗せる形で流され、番組を締め括った。
「愛しき世界」(15話 - 25話)
歌 - 加々美亜矢 / 作詞 - 加々美亜矢 / 作曲・編曲 - 澤口和彦
余談
『鋼の錬金術師』関連
これより少し前に『鋼の錬金術師』のアニメが放送されていたが、和月氏は『ハガレン』を全然見ていなかったらしく、無知な読者から「“錬金術”がハガレンからの盗作だ」と指摘されてから改めて視聴し、「(荒川弘女史と)同じエサ食ってる感じがする」と感想を述べている(なお、この件に関しては『武装錬金』を読んだ荒川氏も「やっぱり和月先生は上手いと思った」と語っている)。
『武装錬金』打ち切り騒動
上述のように本作の完結(連載終了)にはジャンプ作品には珍しい紆余曲折があり、当時にはそれが盛大に物議を醸した。
ジャンプの“アンケート至上主義”の限界
週刊少年ジャンプでは、俗にいう“アンケート至上主義”とされる制度がある。
これは「アンケートはがきでの評価が高い作品をできるだけ本誌前面に出して販売数を伸ばす」と同時に、「評価の低い作品を打ち切って、代わりに新人を投入し、本誌のクオリティを維持する」と言うものである。
特に当時は「最下位・本誌最後尾10週で打ち切り」のルールがあったとされている(ただし、改変期や不慮の休載などで『こち亀』など安定作品が最後尾に来ることはあった。またジャンプ黄金期などにおいては開始1~2話目のアンケート結果の次第で10週を待つこともなく打ち切られる作品もちょくちょくあった)。
もちろん本来アンケートは作品評価の指針のひとつに過ぎず、アンケート上で打ち切り要件を満たしてしまった作品でも、作品が出された背景や、社会的意義、作品のメッセージ性、単行本の売上、作品そのものの質、などを考慮して連載が継続された作品もある。(例:はだしのゲン)
しかし本作の連載されていた当時は(黄金期の)様々なデータの分析から連載判断が“アンケート偏重”へとより偏り、「至上主義」どころかアンケート結果そのものが「絶対権威」、謂わば反論が許されない信仰の域まで高まりつつあった。
ところが本作はこれに盛大かつ壮大にケチをつけた。
「おかしい、アンケートは芳しくないのに、コミックスは新刊出るたびに業界全体でも上位にくる。なぜだ」
勘のいい方はお気づきだろう、大きいお友達の存在である。
武装錬金は斗貴子やパピヨンなどどちらかと言うと「大人のオタク」が嗜好するネタが満載の作品であり、その勢いたるやアニメ化以前からコミケ運営がサークルカット判定でサークルを固める程だった。
しかし、当時まだオタク文化と言うのは現在ほど受け入れられておらず、隠れた嗜好であった。
さらにWebのブロードバンド隆盛期にあたり、ファンがその想いを語るにあたって、わざわざ非相対の手段で編集部を通す動機が薄れていた。ましてPCやWeb回線の保有のハードルが低い若年層ではなおさら顕著になった。
さらにはITの発展やマーケティングの理論や手段の進化と変化により個人情報の持つ意味が、かつてのジャンプ黄金期よりも重要なものとなり、しかもそれが法整備が求められるほど周知されるようになる(いわゆる「個人情報保護法」が成立したのが本作の連載開始と同じ年である)と、読者側もアンケートを出す事に対して慎重な姿勢(あえて言えば及び腰)を取るようになる者が増加した。要はアンケートを出さない読者がより増えたのである。
それらの要因が重なった結果本作の熱心な読者層はアンケートはがきをほとんど出さなかった。
一方で「コミックス程度でもお小遣いを待たないとならない小中学生」とは異なる購買力でコミックス新刊は出た端から完売し重版を要求され、中には一部の熱狂的ファンが同じ巻のコミックスを何十冊も購入するという事例も見られた。
つまり、以前も少数ながら存在していたとされつつも制度を変えるほどではなかった“アンケートのねじれ現象”が、本作によってついに顕在化したのである。
どうやらねじれ現象が発生していることは編集部でも認識していたようなのだが、当時は確立された制度であったため、様子見にズルズル延長したもののこれ以上は他の作家の手前もあり延長不可能(コミックス9巻分)というところまで来てしまった。
こうして、本作の終了に関するすったもんだに繋がるわけである。
これを契機として「10週の上限を制度から目安に緩和(以前の指標に戻す)」した上で「コミックス売り上げが優秀な作品は姉妹誌(あるいは公式アプリ配信)に移して連載継続」というジャンプ内部の変革につながったとされる。
また、本作はジャンプ作品としては前代未聞の「(自社調べによる)不人気を理由とした連載終了後にアニメ化された作品」となった。
なお、もし打ち切られなかった場合には、メインキャラが多数死亡する鬱展開が用意されていたという。
それを考えれば、無理やりにでも大団円に持って行けたことは塞翁が馬と言うべきかもしれない。
起こった事をより正確に言うなら
この「ねじれ問題」をより細かく見ていくと、実は“アンケート至上主義”制度に限界を来したと言うよりも「少年誌のマンガが少年の娯楽から成人以降、中年などオタク層の娯楽になってしまっていた事にどう対応するか?」という問題に行きつく。
ジャンプおよび集英社にとって、この問題は創刊当初より度々浮上してきた問題であり、そもそもジャンプそのものの創刊も、この問題に起因するものであった(ジャンプ創刊の一因には先行雑誌であるマガジン・サンデー両雑誌の購読対象年齢の上昇問題がある)。
ジャンプおよび集英社は兄弟雑誌の創刊や所属漫画家の兄弟雑誌への連載枠移行による読者層の移動を目論む事で、この問題に対処してきた。上述の“アンケート至上主義”も本来は、この問題に対応する(「少年雑誌」としての編集方針を維持する)ための苦肉の策であった。
しかし、この手段はいわば問題の棚上げと先送りにはなっても根本的な解決には遠く、この問題は結局は本作による「ねじれ問題」の露呈まで燻り続けていたのである。
また、これは日本の少子化に伴う「ジャンプの本来の読者層が、その絶対数においてジャンプを支えきれなくなってしまった」と言う問題の露呈でもあり、同時に「少年ジャンプの寿命を伸ばすためには『少年』にこだわらず幅広い層の読者(少女・女性・青年・中年・老年の各年齢および性別層)を獲得する必要がある 」という現実を「少年ジャンプは『少年』のためのものだ」としてきた編集部に突き付けた形となったのである。
この騒動は、アンケートを出す本来の読者である少年層を重視するアンケート主義を維持するか、少年誌の皮を被ったまま中年にあわせて売上げ主義に向かうかの対立でもあったのである。
これはジャンプに限らず学生を第一ターゲットとして財布を握る親も考慮すると言う、他の少年誌やアニメやビデオゲーム産業でも大小なり差はあれど有ったことである。
関連イラスト
関連タグ
銀魂:本作と同じくWJ本紙で終了するも尺が足りない⇒別雑誌移籍⇒それですら尺が足りず最終巻が全ページWJ未掲載という顛末を辿った作品。
評価タグ