竹熊「見て描きゃいいんだよ! 見て描きゃ!! ホラ!」
相原「い、いいや…だが…そんな…見て描いたりしたら…それはパクリとか盗作とか、そういうことになるのではないのか?」
竹熊「完~~~~全にパクリだ。だがそれはプロのまんが家でもみんなやってることなのだ!」
概要
小学館『ビッグコミックスピリッツ』1989年46号から1991年18号まで連載された。
本作は竹熊と相原が本人役で登場しており、それぞれ22歳と19歳という設定になっているが、勿論フィクションである。原作:雁屋哲、作画:由起賢二の劇画『野望の王国』をパロディ化した異様に濃い画風が特徴。
開始して早々になんだが、本作を口で説明するのは難しい。
本作はタイトル通り「『漫画』そのものを題材とした作品」であり、これ以前にもあった手塚治虫の『漫画大学』、石森章太郎の『マンガ家入門』よろしく、いかにマンガを描くかという入門書的な導入となっている。
しかし、それはあくまで話の枕にすぎず、実際の所は作者と主人公名が一緒であることからもわかる通り、藤子不二雄Aの『まんが道』よろしく(というかあからさまなパロディ)2人の主人公によるビルドゥングス・ロマンが作品の本筋になっている。これにより一見適当に見えるがあまりに堂々とウソを描いているせいで「どこまでがウソか」というのがわかりづらい独特な世界観、(作者の画力のせいで)「劇中で実際に起こったこと」と「作中作」の区別が付きづらいという虚実の垣根が非常に曖昧な作風となり、実際に内容を読んでもらわなければ伝わらん部分が数多く存在する。
その独自の世界観は連載当時から幅広い層の支持を集めた。
単行本の装丁は秋田書店のチャンピオン・コミックスのパロディで、2006年には上下2巻の「21世紀愛蔵版」が発売され、書下ろし短編も併録された。
続編
2007年に正式な続編『サルまん2.0』が『月刊IKKI』にて連載された。
しかし、連載開始からわずか8話で打ち切りとなり、単行本化には10年もの月日を有した。単行本には「なぜ『サルまん2.0は失敗したか』」の座談会が収録されている他、本作が大失敗した後に『バクマン。』というタイトルと作風がよく似た作品が嘲笑うかの如く大成功したことに対し、自虐も兼ねて同作とサルまん2.0の比較エッセイを掲載している。
あらすじ
以下、紛らわしいので作中の登場人物は下の名前で、現実世界における実在人物は苗字で記載する。
第1部
漫画で日本制覇を目指す若き獅子・弘治と健太郎。二人は「売れる漫画」を考え、悪戦苦闘していた。二人は手始めに「漫画の基礎知識」を学び、続いて様々なジャンルの漫画に触れ、その描き方を模索する。
そしてついに念願の番長漫画『学園あらし翔!!』の読切原稿を書き上げた弘治と健太郎は、『少年スピリッツ』編集部に向かう。持ち込みの担当・佐藤治の異相に気圧される二人であったが、無事に『翔』は新人賞に出されることとなった。
しかし、肝心要の新人賞には『翔』は掠りもしなかった。キレた二人は掃除のオバサンに扮して編集部に侵入し、受賞作品をひそかに焼却処分。これにより代原として『スピリッツ』に掲載された『翔』に、二人は裏工作で大量のアンケートを出し、遂に連載が決定する…。
第2部
弘治と健太郎の連載『とんち番長』が軌道に乗った。テコ入れを繰り返し、遂に『ドラゴンボール』を抜いて初版280万部の売り上げをマーク、とうとうアニメ化も決定した。
一躍時の人となった二人は、国民的大ヒットとなった『とんち』のマーケティングでぼろ儲けし、成金となった。ちょうどいい所で『とんち』を終わらせようとする二人であったが、『スピリッツ』編集部は「おわり」の文字を無理やり修正液で消して第2部を開始させる。
「主人公が死んでも連載を続けさせられる」という窮地に追い込まれた弘治と健太郎は、無理矢理にとんち番長の息子を主役とした第2部を執筆。しかし、人気に胡坐をかいていた『とんち』第2部は、見る見るうちに人気が急落していく…。
サルまん21
『とんち』の大失敗後、鳴かず飛ばずの「消えたマンガ家」扱いを受けていた弘治と健太郎。気が付けば不惑を超え、後がなくなった2人は『灼眼のシャナ』片手に、売れりゃ何だっていいの精神で萌え漫画を描こうとする…。
サルまん2.0
萌え業界からも放逐され、気づけば44と46のオッサンになっていた弘治と健太郎。いつの間にやら『とんち』の元アシの方が国民的ヒットを飛ばし、かたやその師匠である自分たちは漫画界のお荷物状態。こうなりゃ石に噛り付いてでも、漫画で食ってやる。そう決意した2人はリバイバルブームへの便乗、弟子の作品の二次創作やおい同人、はたまたキモカワキャラクター商品等で儲けようとする…のだが、唐突に原作者である竹熊が登場して「もうムリだ面白くならん」と言い出して急遽連載が中断し、なぜこのマンガが低空飛行を続けたかの釈明が始まるのであった…。
用語解説
少年スピリッツ
架空の出版社支配社から発売されている900万部を売り上げる少年誌。
第1号の表紙は卵焼き。これは『週刊少年サンデー』が巨人の長島、『週刊少年マガジン』が大鵬(※史実では朝潮)を第1号の表紙にしたので泣く泣く3番手の卵焼きを選んだからである。
なお某雑誌との関係は無い。この作品はフィクションです。
作品内で発見された漫画論
少年漫画における欠かせないサイクル。
原理など無視し、ケレン味に全振りした「特訓」を繰り返すことで、主人公は果てしなく強化されていくが、出てくる敵もその都度強くなっていき、最終的に全宇宙の悪意の集合体とかと戦うことになる。
パンを加えて走る遅刻少女(食パンダッシュ)
少女漫画論。読んで字のごとく。
導入として最も自然な形である(と、本作内では提唱されているが、実はこれを全て満たす例は非常に少ない)。
本作が初出の単語。
「ラブコメ」から一歩踏み込んで「エッチ」な描写を増やした男性向け漫画の事。少年誌のお色気漫画に近いが対象年齢層の違いで区別される。
ギャグ漫画論。本作が初出の単語。
まったく本来の話の流れに関係ない唐突な定番ギャグのこと。
エスパー漫画論。本作が初出の単語。
ヒロインが窮地に陥って「いやー!」と叫んだら「ボーン!」と悪がぶっ飛ぶ、という安易な展開に関する法則。
この回で弘治は少年の頃に白土三平の作品を夢中になって読んでいたことを語り「忍者漫画を描きたい」と提案したところ、健太郎が「忍者漫画は現代受けしない」と却下し代替案として提示したのがエスパー(今風に言えば異能バトルもの)漫画だった。しかし、相原コージは諦めきれなかったのか本作の連載終了後に『ムジナ』を描いている。ジャンルとしての忍者漫画は本作の終了から10年近く後に『NARUTO』が世界的なヒットとなり、第2次ブームとも言える隆盛が起こった。
本作が初出の単語。いわゆる「まんが的表現」におけるありがちな誇張表現・記号のこと。
登場する漫画作品
とんち番長
劇中でメインとなる弘治・健太郎による作中作。
言ってしまえばとんち問答を番長漫画に例えた頭脳戦バトル漫画であり、主人公のとんち番長が、ハゲの一休、西郷どんのような外見の彦一、インテリ眼鏡の吉四六(後付け設定で女に変更される)の3人と共に、様々なとんち合戦に挑む物語。
序盤でマンネリ化が指摘され、急遽黒とんち教団と失敗したら死ぬ命がけのとんち勝負に挑むデスゲームものに変更され、人気を博しアニメ化・ゲーム化もされた。
しかし、作者がネタ切れになってちょうどいい所で主人公とラスボスを相打ちにさせて「完」としたにもかかわらず、無理矢理第2部が開始され、見るも無残な引き延ばしが行われることとなる。
イヤ~ン♡エッチの助
特別付録として掲載された1年間全52話分の著作権フリーのプロット。
下ネタだらけのギャグマンガというテイであり、あまりにひどい内容のため作者によるメモ(という名のセルフツッコミ)も掲載された。
なお、2008年には竹熊が編集長を務めるWEBコミック『コミックマヴォ』において金子デメリン作画でコミカライズされた。
デスの音
『サルまん2.0』で企画される予定だった作中作。
内容は「人の魂を奪うトライアングルを手にした巨乳ゴスロリ少女・魔心トラ美と、トライアングルの奪取を目論むメガネっ子・蟇目似似子のバカエロサスペンスギャグ」という、まあそれなりに現代の読者層にはウケそうな内容ではあったが、『デスの音』のメディアミックス化を本気で推し進めて「こんなまんがにまじになっちゃってどうするの」というネタをやりたかった竹熊と、そこまでムチャな冒険を臨んでいなかった相原や編集部との亀裂が生じ、結局空中分解してしまうこととなる。
最終回にてその全貌を語ると称して没設定資料集を並べ、この企画がとん挫した経緯を反省文として記す、という形となった。
余談
- アニメ監督庵野秀明は本作のファンである、と竹熊が「本人から聞いた」と語っている。
- カナダの漫画「スコット・ピルグリム」は本作に影響を受けている。
- アニメ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』334話では、本作を殆どそのまんまパロディした「両津式漫画塾」というコーナーがある。
- 漫画『風雲児たち』31巻では高杉晋作と桂小五郎のコンビで本作のパロディを行っている。
- 2021年には舞台化された。