曖昧さ回避
物理的な変形は伸ばすを参照のこと。
解説
物語や企画において後から追加要素を足すなどで本来予定されていた期間や内容よりも長期のリリースを行おうとする行為のことである。
行う理由は複数あるが、特に当初の目論みより売れた商業作品は、出版社や制作会社の意向でより長く売るため、エピソードを入れ込んだりして引き延ばすこともままある。
また、原作の雑誌連載とテレビアニメが平行して展開している場合は、原作の連載にアニメが追いついてしまうことがままあるため、追い抜かないように引き延ばしが行われる。
ただし、元々想定していなかった要素を大量に追加する事になるため、本題が薄味になったり蛇足ばかりになったりと、元の原作や構想から作風が変わって客離れを起こしてしまう危険性も高い。
実際に質が落ちた場合、一部では「限られたジュースを不味くなっても水増しし続け売ろうとする」手法に例えられ、「薄めたカルピス」などと呼ばれる事も。
特にかつての雑誌掲載作アニメにはこれが多く、ジャンプ黄金期頃の年代は分割クール放映が一般的でなかったこともあり、後述のような引き延ばしが特に頻発していた。
近年は1クール〜2クールづつ放映し、2期・3期のように分割して製作するスタイルが増えた事で、露骨な引き延ばしをする作品は徐々に減ってきている。
主な引き延ばしの方法
- アニメオリジナルのエピソードを入れる。
- 定番のテクニックで日常系アニメでは特に多い。一方、数多くの敵と連戦するようなバトル物のアニメではその連戦展開が終わるまではオリジナルエピソードを入れづらいため、オリジナルエピソードを入れる場合はそのタイミング判断が重要となる。原作ファンからは批判されやすい一方、アニメから入った人は逆に原作よりも好まれることも。
- なおアニメのオリジナル要素が原作を塗りつぶすほど人気が出た顕著な例もあり、それがあの『サザエさん』と『ドラえもん』。引き伸ばしが大成功した稀有な作品。
- 後に原作のエピソードをやる場合、アニメオリジナル回のことは都合のいいところだけ忘れることも多い。
- アニメオリジナルのキャラクターを入れて、その出演シーンを増やすことでストーリーの進行を遅くする。時間稼ぎ要員とはいえ蛇足とは限らず、むしろ人気が出るキャラもいる。
- 作中でほとんどスポットの当たっていない脇役同士のエピソードを新しく書き下ろす(これは原作ファンからも評価されやすい)。
- 冒頭で「前回のあらすじ」を長めに入れることで尺を埋め、ストーリーの進行を遅くする
- バトル漫画の場合、必殺技のタメや立ち回り、気合い入れなどのシーンにじっくり時間を取る、延々睨み合い叫び合いや技の打ち合いなどをさせる。
- これの派生としてカードゲームを題材にした遊戯王デュエルモンスターズでは原作にないストーリーやデュエルを入れるだけでなく、原作で行われたデュエルの内容を改変し引き延ばしたこともある。ただこれは、原作漫画のカードがすでにOCG化(アニメに登場したカードが公式で発売される事)していてアニメ化の際にそちらに合わせる必要があったためだったり、原作のデュエル構成ミス(手札の枚数が矛盾しているなど)の修正のためであった時もある。
- 脇役が今までのストーリーを振り返り「そうだ、ヤツならきっとやってくれる」などと思い返す。
- その結果、バトルなどの実況がやたらと詳細になる。なのでここぞとばかりに脇役たちのリアクションを挟んで体よく時間稼ぎする事も多い。
- 最終手段「総集編」
引き延ばしが多いアニメ
週刊少年ジャンプ関連
- ドラゴンボール
- 特に『ドラゴンボールZ』のナメック星編はオリジナルエピソードの挿入を行える舞台設定ではなかったため、あらゆる涙ぐましい力技の引き延ばしが行われた。ナメック星以降も神回と名高い「孫悟空とピッコロの自動車講習」などのオリジナルエピソード作戦が多用されたが、パイクーハンなど後にゲームや劇場版に採用されるキャラクターも登場するなど、結果的にはただのその場凌ぎでもなくなった。というかオリジナルエピソード自体は無印の頃からあった。
- 原作の数コマを何分も引き延ばしたり、毎回猛烈に長い前回のあらすじを挿入するのは日常茶飯事であり、作中で約5分間分の描写を3ヶ月近くかけて引き延ばしたことすらあった。その間に放送自体を別の番組の時間に割いたケースもあるため後に多くのMAD・コピペのネタにもされた。後に『ドラゴンボール改』としてリメイクされたが、これはただ作り直したのではなく、Zの引き伸ばし箇所をカットしたもの。
- また『GT』でも一度だけ一話の大半が『Z』の頃のベジータの回想に充てられ、本筋の戦闘がほぼ進まないケースがあった。
- もちろん「良い引き延ばし」とも言えるシーンも幾つか存在し、セルジュニアとの戦闘や魔人ブウ編がそれに該当する。セルジュニア戦はピッコロが天津飯とヤムチャに悟空を援護する様にと指示して、原作では活躍が少なかった二人が活躍し、セルとの最終決戦の際も原作ではベジータのみの援護だけだったが、アニメではピッコロ、クリリン、天津飯、ヤムチャも総勢で悟飯を援護しているなど、主に物語後半からインフレの波に飲まれた地球人組の活躍が多く描かれたのは高く評価されている。
- 魔人ブウ編も原作ではあのベジットが相手だった事もあって、そこまでの活躍はなかった悟飯吸収ブウだが、アニメではベジットになるまで悟空とベジータとの戦闘が描かれており、原作では目立たなかった強敵感を出している。ベジットの方も原作ではすぐに超ベジットへ変身したが、アニメでは通常形態で暫く戦っており、原作にはなかった戦闘シーンが描かれた。
- クライマックスに迫った純粋ブウとの決戦では、元気玉の元気を集める為に悟空やサタンが全ての地球人に協力を求めた際、原作ではいつの間にかフェードアウトしていたランチが元気を与える為に再登場し、天津飯と餃子、ヤジロベーとカリン様も協力する描写が追加され、更に少年編に登場した懐かしいキャラクター達が増加しており、古参ファンから評価された。そして満身創痍のベジータを救出したサタンだが、アニメでは善ブウが捨て身で純粋ブウを抑え込んだ隙にサタンにベジータの救出を促すという描写が追加され、一度はベジータを葬った善ブウが今度はサタンを通じてベジータの命を救うという感慨深い展開となった。
- その傍らで2015年から始まったドラゴンボール超の破壊神ビルス編、フリーザ復活編は劇場版の焼き直しなのだが話数に対しての内容の少なさによる露骨な引き延ばしが酷く、この二つのシリーズの評判はかなり悪い。作画崩壊はもちろん、孫悟飯の顔芸、フリーザの攻撃から悟飯を庇い、何の言葉も残さず死んだピッコロに対しての批判が多く、筋金入りのDB好きである「ドラゴンボール芸人」でさえこの内容に苦言を呈していた程だった(ただ作画崩壊自体はどの作品にも起こりうることだが)。
- 因みにとよたろう氏の漫画ではこの二章は大幅に縮小されている(フリーザ復活編に至ってはナレーションで語られるのみ)。アニメオリジナル展開や後の伏線等まったく見る価値がないわけではないが、それでも批判は根強い。この二章の終了後の破壊神シャンパ編から作画も評価も回復してゆく。一方で神回と評される「ヤムチャが野球回」も登場したのはこの頃。
- 元々、ドラゴンボールは作者としてはピッコロ大魔王編が終わった後に、孫悟空が孫悟飯を連れてカメハウスに行って紹介するだけの、ただの後日談を連載して締めたかったと語っていて、引き延ばされた後もフリーザ編で終わらせたいとも語っていたが当時のジャンプ編集長だった鳥嶋和彦を含め商業作品として大成功していたドラゴンボールを少しでも売ろうとするジャンプの方針で作者の意向で簡単に終わらせる事ができなくなったのがアニメの引き延ばしをする要因になったと思われる。なお、時代の変化と共にジャンプ編集も考えを改め現在は人気作品でも無理な引き延ばしを行う事はしなくなっている。
- キン肉マン 1期
- 事あるごとに尺稼ぎの寸劇を挟む。本編がシリアスメインになった為、原作者サイドからは「ギャグを増やしてくれ」との要求があった為このような事になった。
- 原作は話がシリアスになるにつれて残虐描写が増えたせいか、それらの表現規制もあって技がどんどん長くなっていった。(アニメ版で多用された風林火山は実は原作ではあまり行っていない)
- 第1期終盤夢の超人タッグ編では原作ストック数に余裕も出なくなった事により原作者サイドからオリジナル展開への許可をアニメ版製作スタッフに伝えるもシナリオ担当の嶋田氏の腰痛による長期休載も祟り夢の超人タッグ編は中盤で一旦放送を中断し総集編を挟む事になった。再開後はオリジナル展開を含めた夢の超人タッグ編パート2、ザ・サイコー超人の挑戦編と地獄の極悪超人編と続くも王位争奪編へと進まず打ち切りが決まってしまった。
- 北斗の拳のテレビ版(無印)
- 話を引き延ばす為にシン率いるKINGの一員としてアニメオリジナルの悪役が多数登場。しかし次第になんでもアリ感が増していき、人間砲弾にヘリコプターや戦車、列車砲などの滅茶苦茶な攻撃手段が目立つようになっていった。尚この展開に対し原作サイドや出版社サイドからは「原作通りに進めてほしい」とクレームがつき担当していた脚本家はそれでもオリジナル展開をするも納得しない脚本家は辞退し第二部風雲龍虎編からはオリジナル展開は減っていった。
- 第三部乱世覇道編ではトキの死からの翌週は第四部へと移行せず南斗六聖拳のシンからサウザーまでの5人をメインとした総集編を入れ約1か月間はストーリーが進まなかった。
- 力こそ物を言う作中世界である為、「とにかく勝てばいい」という世紀末の殺伐とした雰囲気を演出しようとしたのかもしれないが、それで原作の世界観から逸れるようでは違う意味で世界崩壊していたとも取れてしまうだろう。
- 聖闘士星矢のテレビ版(無印)
- キャプテン翼のテレビ版(初代)
- 「試合終了まで残りあと1分!」などと実況しつつ、原作の数コマを引き伸ばしまくり、1本のシュートを打つのに週をまたいだりするのが当然だった。
- スラムダンク
- ファンだけでなく原作者さえイマイチだと評価しているこのアニメ版。上述のドラゴンボール同様テンポの悪さやバスケの描写に関しては「コート広すぎる」、「滞空時間長すぎ」等バスケ経験者からみればおかしなところが多いと言った点が悪目立ち。ただし本作品で使われたバスケの効果音は後の東映作品で使われる程完成度が高く、こちらは評価が高いようだ。
- 日常回に至っては原作をそのままアニメ化してたら尺が足りないことから水増しされることが多かった。この他にも桜木軍団が花道の応援のための旅費を稼ぐために海の家でアルバイトする回や桜木花道と赤木晴子が練習の息抜きの為に縁日に行く話等が作られた。
- 全国大会編は描かれず、ラストでは湘北の体育館で湘北が陵南、翔陽の混成チームと試合をして勝利するという形で締めくくられた。
- ONEPIECE
- 初期の頃から引き延ばしはあったが、当時は「章と章の間にアニオリのエピソードが数話分挿入される(千年竜編や海軍要塞編、アイスハンター編など)」事が多かったため、結果としてそれなりに充実したものになっていた。しかし新世界編では各章が長丁場(特にWCI編以降はより顕著)な上にそうしたものを入れる余裕が無いためか、ドラゴンボールのような強引なオリジナルシーンが多くなった。
- OPテーマや「前回のあらすじ」を長くする・ことあるごとに回想・アニオリの追加シーンを挿入&セリフの前後などに間を持たせる(バトルシーンならにらみ合いも)・場面描写を「丁寧に」行う(モブキャラのリアクション、回想など)、場面転換による同時進行など。ただし場面転換による同時進行や回想シーンは原作でも増えつつある点には留意すべき。
- 勿論原作で浅く済まされた所を掘り下げて補完する「良い引き延ばし」も各所見受けられるのだが、いずれにせよテンポの良さは擁護できるものではなく、その回のタイトルになっている事をBパート後半~終盤くらいに軽くやって「TO BE CONTINUED」というのがお約束になりつつある。
- 例を挙げるなら、WCI編の章ボスシャーロット・カタクリとの戦いは外せないだろう。魚人島編のホーディやドレスローザ編のドフラミンゴなど「長丁場のボス戦」は前例があったが、カタクリとのバトルはとりわけ長引いて戦闘開始~決着まで5ヶ月かかった。いつもの同時進行(この時点では「ルフィvsカタクリ」「ケーキを求めて暴れるビッグ・マム」「サンジとプリン&シェフ達のケーキ作り」)に加え、ギア4の反動で覇気が使えなくなり、たまたま近くにいたブリュレを連行して鏡世界を脱出→逃げ回って時間稼ぎ(これも数話程跨いだ)、しばしば挿入されるレイリーとの修行の回想。しかし決まり手になった「ゴムゴムの王蛇(キング・コブラ)」を始め、キャラクターの大技の演出はアニメの特権を存分に活かしており、とても評価が高い。
- ワノ国編以降では以前のシリーズより作画が劇場版に匹敵する程のクオリティになったが、その分1話の制作に時間がかかる様になり、総集編が挿入される回数が増えている。
- なお、本作は「定休日」として月一程度で休載するようになった=その分ストックが減る→丸々アニオリは無理がある、ということで必然的に引き伸ばしをせざるを得ない状況になっている(さらに近年はCOVID-19の影響でアニメの製作が滞ったり、作者が万全の状態で執筆するため1ヶ月休載などやむを得ない事情もあるが)。
- しかし、これらの引き延ばし策を実施してもこれ以上は限界であることから、エッグヘッド編は2024年10月13日を最後に、充電期間として一時休止となる。その後は翌2025年4月の放送枠移動&エッグヘッド編再開まで、魚人島編の再編集版で繋ぐことになった。
- NARUTO
- 「舞台設定の問題でオリジナルエピソードが挿入できない」という難点を打ち破ったアニメ。本編の物語が特定の敵との戦いの真っ最中という状況であろうがクール改変期になると本編の物語を打ち切り突然にNARUTOの外伝やifストーリーが1〜2クール挿入。それが終わるとまた「本編の戦いの続き」が始まる。
- 海外配信も強いアニメなので海外ドラマのようなシーズン制の手法というべきだろうが、このタイプはまだまだ日本人には馴染みが薄く、視聴体験がブツ切りになると批判がある。
- BLEACH
- 原作のエピソードとエピソードの間にアニメオリジナルエピソードを挿入させており、それ単体での評価は人それぞれで改悪というほどではない。しかしアニメ終了後の原作がアニメオリジナルエピソードと根本的に矛盾する流れになってしまったため、今から見直すと違和感が強い。
- ただ、同作品に関しては原作の方も引き延ばしの影響でストーリーの後半に差し掛かってからは進展が牛歩の如く遅くなってしまい、リアルタイムで追っていた読者を辟易させてしまった感は拭えなかった。
- 最終章の千年血戦篇では既に完結していることもあり、話の流れがとてもスムーズになるよう構築され最もテンポのよい章になった。スムーズなだけでなく作者総監督の元、原作で描かれなかった戦闘や設定を補完するという「良い引き延ばし」も見られ、総じてファンからはかなり高い評価を得ている。
- トリコ
- 「アニメオリジナルのキャラクターを入れてその出演シーンを増やすことでストーリーの進行を遅くする」の典型例だが、逆にそのキャラクターを活かしたエピソードがなかった。「ストーリーは原作に忠実だった」とも言えるが、オリジナルキャラがストーリーをだだなぞっただけであり、「存在意義が薄い」、「悪目立ちしている」という意見も。
他原作
- 名探偵コナン
- 作者いわく「探偵ものなんてよくて半年程度だろう」と思っていたらしいが、半年どころか30年近くも続く奇跡のロングヒット。その結果なのか、黒の組織関係は原作時点でも猛烈に引き延ばされているというなんだかすごい事になっている。
- アニメ版の方は2010年に入ってからアニオリの単発ストーリーや過去作のデジタルリマスターの放送で原作のストックを温存しており、黒の組織関係の展開が気になる人たちはさぞもどかしいだろう(一方でリマスター版は古参ファンから高評価)。
- また、いくら事件を解決しようがそのほとんどは物語の本筋には関係していないので、「無関係な小話ばかりでストーリーの本題がちっとも進まない」現象をコナン化と呼ぶこともある様子。なにしろコナンの作中時間はあれでも数ヵ月程度なのだから…。
- 福本伸行の長期連載作品(近年の「カイジ」や「アカギ」が顕著)
- アニメ版ではテンポの悪い原作を引き延ばすのはさすがに無理と割り切って、どちらも原作に追いつく前にキリの良いところで放映を終わらせている。むしろアニメ版ではテンポが良くなってまともに見れるようになっているという珍しい例。
- 金色のガッシュベル!!
- 魔境編、異世界編、千年前の魔物との戦いに突入する前にガッシュとゾフィスが戦う話が該当。
- ファウード編の途中で作者と編集の間でトラブルが起こり、その際勢い余って作者が怪我をしてしまう事態に。アニメの方が漫画に追いつき、完全にアニメオリジナル展開となった。
- 原作とは違い、殆どの魔物が小物のまま出番が終わった、ガッシュとゼオンが和解していない、バオウ・ザケルガやアンサートーカーの秘密が軒並み全カットといった要素が関わり合い、クリア編へのフラグも消滅したため、ファンからの評価は低い。また同時期にガッシュの声優を務めた大谷育江が途中降板してしまったことも評価に関わっている。
- しかし、恋愛描写に関しては原作より多めに増加されていたりティオと大海恵の出会いが細かく描かれたりしているなど悪いことばかりとは言えない部分もある。