ベレッタ92
1960年代にM1951の性能が陳腐化してしまったことが指摘され、ベレッタ社が1970年代にM1951をベースとした近代的な銃の開発を行われ、完成したのがベレッタ92である。
しかし、当初のベレッタ92は現在広く知られている92Fとは異なり、セーフティーがスライドではなくフレームにあり、マガジンキャッチボタンがグリップ下部にあった。
92Sに改良された際にセーフティー兼コッキングレバーがスライドに移行し、92SBでマガジンキャッチボタンの位置がトリガーガードの横へと変更された。
こちらをマシンピストルにしたものがベレッタ93Rで独自にブラジルのトーラス社が改良したライセンスモデルがPT92である。
開発経緯
・反動が大きい
・装弾数が少ない
・古いから新しいの欲しい
などの不満を抱いた。
開発当時はジュールが大きくて初速が速いほど対人殺傷能力も高いと思われていたからである。
また.45ACPによる反動は未熟な射手には負担が大きく、反動のより小さいNATO弾である9mmパラベラム弾を使用した拳銃が望まれ、XM9パーソナルディフェンスピストルトライアルが行われた。
それに対し、イタリアのピエトロベレッタ社が提案した拳銃がベレッタ92S-1だった。
S&W M559、SIG P226やスターム・ルガーP85、グロック17(トライアルへの参加は辞退している)等との競合の末にP226と92S-1が残った。
性能ではP226の方が上回る評価を受けていたがベレッタの方が値段が安く、性能とコスパのどちらを取るかの議論の末、92S-1がM9として正式採用を勝ち取った。
そして選ばれた92S-1にアメリカ軍の要請をもとに改良を施したモデルがベレッタ92F/M9である。
アメリカ陸軍はこの結果に不満を持ち、もう一度トライアルを行ったが結局選ばれたのはベレッタであった。
しかしながらP226も特殊部隊などで調達されている。
海兵隊は大口径主義から9mmへの転向を拒み、一部部隊を除きM1911を使用し続けた。
フランス軍ではこの92Fからセーフティ機能を無くし、デコッキングのみを残したPAMAS G1を使用している。(鍛え上げられたプロでも拳銃のセーフティを外し忘れることは普通にあるため、それなら銃の扱い方が完璧なのだからトリガーの重いダブルアクションであれば安全装置など最初からいらないという考え方である。前述のP226が特殊部隊で多く使用されているのはそういった側面もある。)
最近米海兵隊の要請でアンダーマウントとしてピカティニーレールを付ける改良のされたM9A1が採用・使用されている。
初期納入分のM9の老朽化に伴い行われた米陸軍の次期制式ピストルトライアルXM17 MHS(モジュラー・ハンドガン・システム)にはグリップパネルの交換によるグリップサイズの変更、サウンドサプレッサー取付用ネジの付いたバレルを標準搭載、装弾数17発のマガジンへと変更、セラコートによるサンドカラー塗装等を行ったM9A3を提出した。
(M9A3は根本の設計が古いという理由で評価対象外となり、代替としてAPXを提出したが2017年1月19日にXM17はSIGのP320が選定された)
MHSに採用されなくとも2012年9月に結んでいるM9の納入契約の一部をA3に変更し、M9より安価で納入する予定。
また、既存の旧型M9ピストルにA3に寄せた改良を行ったものがM9A2として扱われている模様だが、情報が少なく詳しいことはわかっていない。
2021年9月にはM9A4が米国市場向けに発表された。A4では直接スライドに小型のドットサイトを搭載できるようにマウント用にネジ穴が追加されたほかマガジンの弾数も1発増加している。
強装弾の使用・製造時の不具合により強度不足のスライドが破断、脱落する事故が起きたため、破断時に後方へ飛び出さないようになった92FS、試作のみで終わった強化スライドモデルのドルフィン、スライドを強化し強装弾にも対応したブリガディア等がある。
ちなみに強度に不安を持つヘビーユーザー向けに登場した強化スライドであるブリガディアだが、スライドだけ強化してもロッキングラグが先に壊れてしまう(強化されたロッキングラグでも寿命は5千発から2万発とまちまち)と言う問題があり、売り上げへの影響も大きくはなかったのか同スライドを採用した一部のモデルは製造終了している。(製造終了したら欲しがる人が増える...というのは92でも起きており、マーケットによっては中古価格が上昇したり、ブリガディアを再現したカスタムスライドの需要が増えたという現象が起きている)
運用
アメリカ軍の正式採用、イタリアの老舗ベレッタ社という事もありその人気は高い。
各国の警察機関や軍で採用されており、ライセンス製造されたモデルもある。
近年のレイル化も取り入れており、各種アタッチメントを必要に応じて搭載できるものもある。
更に前後アイアンサイトの交換も可能となったモデルもあり、必要に応じて高さの違うものに変える、引っ掛かりの少ないノバックサイト等に変える、トリチウムチューブや集光ファイバー等でドットが発光するものに交換する等が出来るようになった。
また、イラク戦争においてはM16の取り回しが室内戦では悪かった為に海兵隊員はベレッタを使用する機会がかなり多かったとのこと。
性能
口径 | 9mm |
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使用弾薬 | 9mmパラベラム(9mmx19) |
装弾数 | 15+1 |
全長 | 217mm |
重量 | 975g |
有効射程 | 約50m |
高初速で小口径である9mmパラベラムを用い、低反動・多弾数化を実現している。
また、大きく肉抜きされバレルがむき出しになっている独特の設計は、後退するスライドの重量を落として反動をより小さくする事に貢献している。
作動機構にはワルサーP38と同じプロップアップ式ショートリコイルを採用しており、命中精度が高い。これはブローニング式のショートリコイル等の一般的なティルトバレル方式と違い、銃身は前後に動くのみで上下動がないためである。
バリエーションに.40S&W弾仕様の96、9×21mm IWI弾を使用する98、7.61mm×21mmパラベラム弾を使用する99が存在する。
また、銃身を短くしたセンチュリオンモデルやグリップのサイズも短くしたコンパクトモデルも販売されているがこちらは米軍では採用されていない。
最近でもあまり見られない内部のパーツをいじるだけで左射手にも対応できるという設計がなされており(最初から両対応にするか、構造の簡略化や引っ掛かりを減らすといった理由から)、エアソフトガンなどこの機構が再現されたモデルが存在するほど。
.45ACPに対し単純な貫通力とスピードに勝り、弾丸そのものが安価でもあるため個人での所持も人気である。しかし、実際は使用する弾薬は射手の好みによるところが大きいのであしからず。
上記の通り、アメリカ軍の一部では92FではなくM1911A1を未だに使用している部隊もあり、最近では再び.45ACP弾を使用する拳銃を採用するという動きが出ている。
Mk23が作られ、再びM1911A1が採用されている。が、HK.45、グロック21 ベレッタPx4(.45ACPモデル)等が参加するトライアルは白紙化となっている。
陸軍のHMSではM9の後継拳銃として9mm口径のP320がM17及びM18として採用されており、新型のホローポイント弾と共に運用されている。
また、無名戦士の墓の衛兵が所持している無名戦士の墓銃もM17がベースの物へと更新された。
遊戯銃
様々な会社から販売されているが、正式なライセンスに基づいているのはウェスタンアームズ社の製品であり、グリップやスライドの刻印がリアルでバリエーションモデルも幅広く出されているが非常に値段が高く、通常モデルながら限定生産に近いため欲しいと思ったモデルがないという事もしばしば。(現在はライセンス契約は終了している)
こちらはイタリアのベレッタ本社のミュージアムでも展示されている。
ただし、常にハンマーがハーフコック状態でファイアリングピンが再現されていないという欠点がある。また、独自のホップアップ機構は癖がある上に固定の為に弾を選ぶ上にちょっとしたことで弾が落ちると扱いにくい、マグナブローバックが特徴であるが管理を怠ると壊れやすい、外見の再現が甘い部分がある、ライセンスモデルは実銃にない刻印が追加されたりMADE IN JAPAN BY WESTANARMS. ASGKという刻印がスライドの刻印の2行目として入っておりリアルではない、といった欠点もある。
東京マルイはガスブローバックから始まり、10禁のエアコッキングガンや電動ブローバックガンが販売されており、クロームステンレスモデルやM9A1といったバリエーション展開もなされている。
旧型ではセーフティ機能のみでデコッキング機能がオミットされていたが、現行モデルではライブで動くようになっている。
性能も安定しており、本体も予備マガジンも入手に困らないため初心者が買う最初の一丁としてかなり安定している。また、カスタムパーツの市場はマルイ用が殆どを占めている事からカスタムパーツで一艇組めるほどにパーツが出そろっているので手を加えやすい。
こちらは刻印は割り切ってなんちゃって刻印で実銃そのものを再現はしていないが、雰囲気は崩さないようになっている。
マルシン工業ではPFC方式のカートリッジによるブローバック発火が可能なモデルガンや固定スライドガスガンが販売されており、フルオート対応のバリエーションであるドルフィンモデルや旧型の92SB、ブラジル・タウルス社によるライセンス生産モデルのPT92も商品化されている。
'90年代~'00年代初頭まではウエスタンアームズ社よりライセンスを借り受け、グリッブやスライドの刻印にベレッタ社のロゴマークが用いられたが、現在はマルシン独自の表記となっている。
発火性能は安定していて、構造を学べる組み立てキットもラインナップされていることからモデルガンの入門用としても勧められるが、予備マガジンの入手が厳しく、エアソフトガンの方はサバイバルゲームの用途ではあまり勧められない性能である。
KSC社ではグリップの刻印こそ違えど全社の中で最も再現度が高く、グリップといった一部の実銃のパーツとも互換性のあるが値段はマルイより高めとなっており、一度の生産数が少ない事から予備マガジンの在庫がなくなりやすい点が挙げられる。
また、バリエーションとしてM9A3も販売されているが実銃よりも落ち着いた色であるものの最初期の明るいデザートカラーや金アルマイトが使用されたものがモデルの為、黄金銃といったカラーリングでやや不評である。
コラボレーションモデルとしてソードカトラスもモデルアップしている。
刻印は可能な限り再現しており、M9のコードナンバーの再現も行っている。KSCの刻印はテイクダウンレバーで隠れる位置に入れており、ASGKやJASGといった加盟団体の刻印も目立たない位置になっている。
フロンガスモデルはマガジンが93Rとの互換性があるが、内部機構が同じもの同士のみの互換のため、購入の際は注意が必要。CO2モデル(システム0)は内部機構が異なるものをそれぞれCO2化したため、旧型カトラスは独自仕様のため、互換性はなし。
SIISからはシルバーモデルとM9、タクティカル・エリート(黒とシルバー)が固定ガスガンとして販売されている。リアルさには欠けてしまうが、価格は5,000〜6,000円代と安価な商品となっている。また固定ガスガンであるためサイレンサーを装着した時の静音性は高く、固定ガスガンの中でも連射し易いモデルである。
BATON社ではマルイの旧型92Fの構造を基としてCO2ガスガンのM9A3が販売されており、こちらは配色がKSCよりもリアルであるが、ややメーカー対応が杜撰であることとスライドがCO2の衝撃で破損しやすいこと、デコッキング機能が再現されていない欠点がある。
タナカワークスからは旧MGCの金型を引き継いだモデルガンが販売されており、エボリューションカートリッジ(その構造はMGCのCP方式に近い)によるブローバック発火が可能となっている。値段は先発のマルシンより若干高いけど、元々が発火性能の高かった旧MGC製の金型を引き継いでいることから、優れた発火性能も引き継がれている。
登場作品
スライドが大きく肉抜きされた特徴的、かつ美しい曲線美から画面にも映え、様々な作品で初期装備・メインキャラのヴィジュアルとして登場する。
映画
- 男たちの挽歌シリーズ
スクリーンで最も早くベレッタ92Fを登場させ、サングラスにロングコートを靡かせながら二挺の銃を乱射するというビジュアル的インパクトから現代映画でも多用される二挺拳銃の始祖となった作品。
一作目ではブローニングハイパワーとの二挺撃ちだったが、二作目ではベレッタのみの二挺拳銃となった。
- リーサル・ウェポンシリーズ
主人公の一人マーティン・リッグスが使用している。一作目のプロップはグリップのベレッタのロゴが金で塗られている。四作目ではレーザーサイトがグリップ内に内蔵されたものが使用されている。
1作目の特殊な弾で自殺を図ろうとするシーンや4のスライド外しのシーンは有名。
- ダイ・ハードシリーズ
主人公のジョン・マクレーンが3まで愛用しており、映画の大ヒットと共に爆発的に92Fの知名度を上げた作品。
3にて爆発に巻き込まれて紛失してしまい、4作目以降はP220Rといった銃に変更されているが、射撃場のシーンで使用している。
一作目のモデルのみスライドリリースが延長されている。
ちなみにマクレーンの所属するNYPDは現実では1993年までセミオート銃器の所持が許可されていなかったりする。
主人公のグッドスピードやNavySEALsの隊員がSurefire 333Rを装着した物を使用している他、Inoxのセンチュリオンモデルや素の92Fがハメル准将率いる海兵隊フォースリーコンに使用されている。
近接用のストライクガン兼マシンピストルにカスタムされた「クラリックガン」としてジョン・プレストンらクラリックが使用。
ジョン・メイトリックスが武器庫から持ち出すが発砲することは無かった。
モンスターバースシリーズで92FSが登場しているほか、平成ゴジラシリーズでもGフォースや特殊部隊SUMPの装備として92Fが登場している。
護衛艦「いそかぜ」を占拠した工作員たちが所持・使用。仙石恒史と如月行が工作員から奪って使用する。
原作では使用している描写があるのはホ・ヨンファのみで、仙石たちはブローニングハイパワーを使用していた。逆に映画でのヨンファは92ではなくUSPを使用している。
ゲーム
- バイオハザードシリーズ
ラクーンシティ警察の特殊部隊『S.T.A.R.S.』のメンバーが使用している、特注のカスタムモデル「サムライエッジ」が登場する。
初期の1作目や5では素のベレッタ92Fが登場している。
- MGSシリーズ
MGS2でこの銃を改造した簡易麻酔銃として登場、名称は愛称の「M9」である。
モデリングはXM9に基づいており、オタコンの説明では誤ってM92Fと呼称される。
アニメ・漫画
主人公の一人レヴィの愛銃としてロングスライドカスタムモデルソードカトラスが登場する。当該記事参照。
トリッシュと体が入れ替わったミスタが破損したリボルバーの代わりに倒れていた警官から拝借したものを使用する。
予備マガジンまでは取れなかったのかピストルズに「カートリッジの補充に時間がかかる!」と指摘されている。
また、回想シーンでは警官時代のアバッキオとその同僚が使用している。
遠山キンジが三点バースト/フルオート仕様に違法改造された「ベレッタ・キンジモデル」を使用する。
こちらはウェスタンアームズによってエアソフトガンとして商品化されている。
暁美ほむらが第8話で使用する。
こちらもウェスタンアームズによってエアソフトガンとして商品化されているが、劇中で使用するものはノーマルモデルという事もあって痛グリップに交換したオリジナルモデルとなっている。
余談
ダイ・ハードとリーサルウェポンとデモリッションマンで登場した92Fは同じ銃で、現在は全米ライフル協会の博物館で展示されており、左利きのブルース・ウィリスの為に延長されたスライドストップは元のスライドストップに戻されている。
日本ではM92Fという「Modello 92F」の略、もしくは軍用の「M9」+「92F」で作られた名称が慣例的に広く用いられているが、これは当時はベレッタのトイガンの製品化権をWA社が独占していた為、東京マルイを始めとした多くのエアガンメーカーが版権避けの為に作った造語であり公式の呼称ではない。
92に限らず加えて多くのメーカーのカタログでは数字のみの名の製品にはモデル何々と書かれている事もあり、略称としてMが付くと勘違いされやすい。(他製品の例としてはS&Wの39。カタログではModel 39と書かれているので独占とは関係なくM39と勘違いされている)
ピクシブでもこの名前でのタグ登録、作品投稿が多い。
関連画像
関連タグ
M1951:92Fのベースとなったベレッタ社の拳銃。
96,98,99:口径違い
93R:92をベースとしたマシンピストル。
Px4:ベレッタ社が他メーカーに一足遅れ、フレームに特殊ポリマーを採用した拳銃。クーガーがベース。
90-Two:2006年に発売された92Fの発展型。
PT92:タウルス社がライセンス製造する初期型92の改良モデル。
APX:2015年に登場したストライカー式ポリマーフレーム拳銃。MHSに代替として提出されたが、構造の共通性は皆無。