【警告】この記事には、『劇場版 仮面ライダーゼロワン REAL×TIME』の多数のネタバレ要素、真実が記載されております。閲覧に注意して下さい。
概要
本作はエスの宣戦布告から、世界滅亡までのタイムリミット60分を描く物語となっており、宣戦布告映像に映し出された彼の顔から、その正体の調査もまたリアルタイムに展開され、徐々にその正体や目的が明かされていく仕掛けとなっている。
本名と経歴についてはすぐに特定されるが、本来ならばすでに故人のはずであり、調査とエスの隠された行動の両面から、徐々にその核心に迫っていく流れとなる。
「エス」になるまでの経歴
12年前の理人は科学者であり、ヒューマギア実験都市計画関連企業でもある医療機器メーカー「MIRAI」に所属し医療用ナノマシンを開発するチームのリーダーを務めていた。
このナノマシンはヒューマギアと同様に人工知能を搭載しており、患者に投与する事で指示された患部に薬を届ける形で治療行為を行うという、非常に高度な技術が組み込まれていた。
また、チームの一員でもある遠野朱音は彼の婚約者であり、公私共に順風満帆な日々を送っていた。
そんな中、デイブレイクが発生。
ヒューマギアが暴走を起こしたあの日、同じく人工知能を搭載していたナノマシンもまた、暴走を引き起こしてしまう。
幸いにして、ナノマシンはまだ研究段階にあったため、ヒューマギアのような大規模な暴走は起こらなかった。
しかしただ1人、病魔に侵されていたために被験者第1号として、ナノマシン投与処置を受けていた朱音は容体を急変させ、理人達チームの尽力も虚しくデイブレイク発生からの60分で命を落としてしまう。
朱音を被験者に選んだのは理人本人であり、全ては彼女の病気を治したいがためだったが、その選択が裏目に出たことで大切なものを失った彼は、深い後悔と絶望に沈む。
せめてもの償いとして、朱音の脳だけを機械に接続し、電脳世界にてその命を繋ぐ事には成功する。しかし、それはどれだけ世界を作りこもうとも、彼女1人しか存在しない孤独な世界であった。
この状況を深く憂いた彼は、世界中の人類を「楽園」へと導くべく、この世界を破壊する大規模な計画にとりかかる。
テロ開始の数年前には、自らの脳も電子化して人間としての肉体を捨て去り、ナノマシンの集合体による不死身の肉体を獲得(残された人間としての肉体は1年ほど前に警備員に発見されており、故に世間では『死亡』とみなされた)。
こうして悪魔「エス」へと生まれ変わり、楽園創造のために世界を滅ぼすという悪意を帯びた理人は、アークの器としての価値を見込んだアズからエデンドライバーとエデンゼツメライズキーを与えられる。
「楽園」の創造主
「楽園」と称する電脳世界を作り出した彼は、その世界に人々を移住させる為の行動に着手。
第一手としてシンクネットを立ち上げ、現実世界の終焉と楽園創造を望む者達を信者として集めたうえで、自らその教祖として君臨した。
また、信者の一人であるZAIAエンタープライズの幹部・野立万亀男をはじめとする人物から横流しされた情報や技術を手に入れた事で、シンクネット用にザイアスペックを違法改造し、更にテロの実行犯となる信者達に使わせるショットアバドライザー・スラッシュアバドライザーを開発。
自身のナノマシンの技術を計画用に発展させ、組織としての勢力を大きく拡大していた。
計画を開始すると、世界中での同時多発テロを信者たちに行わせ、同時に自らの演説映像を流す等、教祖としての芝居がかった行動を展開。また、計画に必要となるゼアの力を内包したゼロツープログライズキーを奪い取るべく誘き出す目的で、計画に先立ち飛電或人に対し「私を止められるか?」と挑戦的な予告映像を送り付けている。
仮面ライダーエデンに変身しての仮面ライダーゼロツーとの戦闘では、一度は敗北したかに見えたが、「悪魔」になった事で得た再生能力により復活、その後も身体を欠損する程の攻撃を受けてはその度に不死身の力を用いる長期戦に持ち込み、ついには形勢を逆転させベルトを剥ぎ取る形で変身解除に追い込む。
飛電ゼロツードライバーを奪うと、キーをサウザンドジャッカーに装填。「世界を滅ぼすキーを生み出すための祈り」を信者達に求める等、終始かつての科学者の姿とは違う、「教祖」としての悪のカリスマを感じさせる立ち振る舞いを見せていた。
真の目的とその結末
終始「教祖」として振舞っていた彼だが、ヘルライズプログライズキーが完成すると、ゼロワン・メタルクラスタホッパーとの戦闘中に予告した60分を待たずに突如キーを起動。
その力がもたらした大爆発により或人のみならず、祈りをささげていたはずの信者達をも巻き込み周囲一帯を壊滅させてしまう。
その真の目的は、自らの恋人を奪う原因となった『アークを生み出し、それを利用するような、悪意のある人間』の排除であった。
この世界を滅ぼし、恋人のために楽園を作る計画において、その楽園に悪人を住ませるわけにはいかない。それではこの世界と同じになってしまうからである。
そこで彼が採った方法は、自らが悪意を束ねる「教祖」となる事で悪意のある人間を信者として集め、そうではない(更に言えばシンクネット信者が、より優先的に攻撃対象に選ぶであろう)善良な市民から楽園へと移住させ、信者達には現実世界で死んでもらうという物であった。
計画は着実に進行し、あとは現実世界を破壊するのみという段階にこぎつけたが、土壇場で駆けつけた或人がキーを停止させるためにこれを強奪し、ヘルライジングホッパーに変身。自らを攻撃する事でプログライズキーを破壊しようとするゼロワンに対し、血相を変えて止めようとする(このときノータイムかつ変身音も無しにエデンに変身した)も一方的に振り払われ、最終的には自爆同然の必殺技の余波で変身解除に追い込まれる。
その後、ゼロツーに変身して乱入してきたイズによって、ヘルライジングホッパーの変身も解除され、弾き飛ばされたヘルライズプログライズキーを再び手にする。
しかし、最初の交戦直後に電脳世界にダイブして朱音と接触しその真意を聞かされていた或人に説得され、自身の行いが朱音を却って苦しめていた事を知り戦意を喪失。
その直後、生き残って教祖の裏切りに気付き暴徒と化した信者達が乱入、ベルの急襲を受け、エデンドライバーとエデンゼツメライズキーを奪われてしまった。
窮地に立たされるが、或人や事情を共有された他の仮面ライダー達に背中を押され、彼は朱音に自分で向き合うべく、楽園のサーバーが置かれているシンクネットのアジトを目指す。
辿り着いた電脳世界の教会にて、台座に残された指輪を前に自らの過ちを後悔する理人の許に歩み寄ったのは、ウェディングドレスに身を包んだ朱音であった。
二人は現実世界で遂げる事が叶わなかった結婚式を挙げ、ついに結ばれる。
その後、彼は楽園のサーバーを自ら破壊し、シンクネットのシステムや電脳世界、そして朱音ともども消滅する道を選び、一連の事件に終止符を打った。
一色理人と悪意の関係
アズによってアークの継承者の1人としてその力を与えられた彼だが、その根底にあるのは「愛」すなわち善意の究極形である。
更に、「悪意の力を利用して、悪意に憑かれた人間を集めまとめて消し去る」という形で、悪に反抗する行動をとっている。
言うなれば「悪の力を以って善を為す」、ある意味では、仮面ライダーの原点に立ち返った存在とも言えよう。
一方で、彼の掲げる愛の行き着く先は、『恋人を孤独にさせない為に全人類を電子化する』という極めて独善的なもので、現実世界に生きる多くの人にとっては、その手段は紛れもなく悪である。
また、悪意に憑かれた人間に絞っての事とは言え、自らを信仰させて集めた人々を虐殺せんとする行動も、それ自体が凶悪なものである点は否めない。
その為、動機そのものは善意だが、手段を誤ったが故に悪になってしまった存在と言える。
その意味では彼もまた、「悪意に対する悪意を持っていた」=アズ曰くの「悪意の連鎖」に飲み込まれた「アークの継承者」であったことに間違いはない。
悪意の伝道師となったアズが理人に目を付けたのは、その「結論」が実質的な人類の滅亡=絶対視の対象であるアークの結論に従う事だったのが理由であろう。
また、アズが彼の真意に気付いていたかは不明であるが、もし気付いていたとしても特に支障は出なかったものと思われる。
彼の計画が成功すれば人類滅亡の目的は果たされるうえ、仮に失敗してもその計画で信者が集まれば、信者達が潜在的にアークの力を継承する資質を備えていることになる以上、その中からより優れた次のアーク継承者を選別することに利用できるためである。
事実、アズからではなくエス用を強奪する形であるが、仮面ライダールシファーが誕生している。
よって、アズにとっては計画がどう転んでも都合が良い存在であったと考えられる。
キャラクターとしての立ち位置
本編ではワンシーンの顔見せのみの劇場版ゲストであるが、様々な面で重要な立ち位置や対比となっている。
また、仮面ライダーエデン関連の宣材や商品から、本来は夏映画=本編放送中の登場であったと考えられるが、最終回後の冬映画となった事で、よりその側面が強くなった要素が存在する。
彼の原点となったのはデイブレイクでの恋人の喪失であるが、これは飛電其雄の死や不破諫の過去のように、限定的な被害の描かれ方が中心であった本作において、彼もまた明確なデイブレイクの被害者の1人である事を示している。
しかし、ヒューマギアと異なり実用化前の技術、犠牲者も被験者1名のみであった為、朱音の犠牲については世間でも重く扱われていない。(メタ的に言えば劇場用の後付け新設定なので、仕方ない事ではあるが)
そうした意味で、彼の存在は作中の世界において、ヒューマギア以外にも高度な科学技術が存在する事の明示と同時に、ヒューマギア騒動の影に埋もれ語られぬ、名も無き犠牲者達の存在を示唆するものとなっている。
また、その動機である恋人の喪失であるが、本編終盤において或人もまた初代のイズを喪っている。
このため、或人に止められるかと問いかけ、或人が止めようと説得する構図は、はからずも大切な人を目の前で喪う絶望を経験した者同士と言う、鏡写しとなっている。
だが朱音が脳の電子化に成功して生き永らえているのに対し、イズはバックアップを残せない仕様で復元が不可能であった為、事実上、或人の方が二度と会えない重さがあるとさえ言える。或人が自分の口から全てを伝えるのではなく、理人自身が朱音に会いに行くように促した事も、電脳世界とはいえ理人にはまだ会う時間が残されているという一因もあったものと思われる。
また、善意・悪意の面でも或人と対照的であり、或人は【「人間とヒューマギアの『真の共存』を望み、人間やヒューマギアの『夢』を守る正義のヒーロー」であるにも拘らず、大切な存在を失ったことにより悪意に呑まれ、一時的とはいえ闇堕ちしてしまった。】のに対し、理人は【「未曾有のテロを引き起こした組織のトップ」であるにもかかわらず、その根底には「最愛の人を救う」という善意があった。】という点で正反対と言える。
アークとの関係の面では、本編終盤以降のアークは通信衛星アークや仮面ライダーアークゼロのような物質的な個体・実体に縛られず、悪意の持ち主を受け皿に見つければ、何度でも何回でも継承者を生み出し続ける不滅の概念と化し、倒す事が事実上不可能な存在となっている。
そのアークに対する理人の真の結論である、アークの力を求め利用する(しようとする)人間を一人残らず滅ぼせばいいと言うのは、極めて過激な方法ではあるが、ある意味で「新たなアーク」を生み出さないための解決方法の1つである。
当然ながら、主人公がこのような大量虐殺という手段に出る行為は子どもたちのヒーローであるため不可能であり、また、規模を誤れば本編終盤のような、全面戦争の危機を招きかねない。その為、彼の悪人を集めんと芝居がかった役作りや、思想は善であっても悪人として描かれる役回りは、その真相で見方が覆る映画の仕掛けともども、ゲストだからこそできた役回りと言えよう。
信者であるシンクネットと仮面ライダーアバドン達も、当初こそ『教祖と信者』と言う上下関係、つまり彼の部下として描かれるが、真の目的が判明するや否や、生き残りはそろって反旗を翻している。
これは、本質的に彼らにとっては楽園もエスも特別な存在ではなく、ただ自分の利己的で反社会的な願望を叶えてくれる都合の良い存在としての崇拝、言い換えるならば、利益欲しさにすがっているだけの形式上の崇拝でしかなかった為である。
つまり『恋人の為、楽園の治安の為』と言う強い信念のあった理人に対し、信者達はそうした信念も何も存在せず『自己の目先の損得』だけで動く愚者の群れとして描かれている。気に入らない世の中を壊し、自分達に良い想いをさせてくれるなら取り入る相手は別に誰でも良く、楽園やエスの事などどうでも良い、いわば人間のクズの集まり。それこそが信者達の本質であり実態だった訳である。
これにより、終盤になって真相が判明し、その情報が仮面ライダー達で共有されて以降、理人は敵である事に変わりはないものの、倒すべき悪ではなく救うべき存在として一連の事態に終止符を打つために或人達から背を押される一方、信者達は同情の余地のない悪として嫌悪されており、明確にその扱いが分かれている。
また、宗教組織としての枠組みで考えた時、その教祖よりも信者の方が醜悪であるという構図は、信者達のリアル姿の描写ともども、巨悪よりも身近な小さな悪意の方が恐ろしいという、現代社会やインターネット社会の縮図にもなっている。
余談
- 仮面ライダーエデンへの変身シーンは、人間の女性のような形をした特徴的なライダモデルの抱擁という、蠱惑的な演出となっている。この悪役としてはやや禍々しさの薄い演出の意味も、理人と朱音のラストシーンにて意図が分かるようになっている。
- また、同じアイテムながら、まるで演出の違う仮面ライダールシファーの変身シーンやデザインが骨を意識している点と比較すると、エデンは血管の表現、言い換えれば空っぽのルシファーと異なり、まだ血の通った存在であると見る事もできる。
- 劇場版キャッチコピーの一つ「アナタは最期を共にする。」には、観客が「仮面ライダーゼロワンという物語の終わり」、そして「理人と朱音の楽園への旅立ち」を見届ける、更に「理人が朱音と共に逝く」等の、複数の意味が込められていると思われる。
- 仮面ライダーゼロツーは本編では無敗であった為、程度や手段はさておきエデンは初めてゼロツーに明確なダメージを与え、勝利したライダーとなった。
- しかし、戦闘時にはむしろエデンのほうが本来ならば致命傷であるはずのダメージを何度も受けており、ゼロツーに必殺技を当てても変身解除に至るダメージを与えることは出来なかった事から、もしもエデンに変身していたのが、実態のある人間やヒューマギアであればほぼ確実に敗北していると言われることが多い。変身者である理人の身体が、ナノマシンの集合体で不死身の再生能力を持っていたこと、更には不死身の元であるシンクネットのサーバーでもある楽園ガーディアの装置そのものをどうにかしないと不死身の身体を攻略したところで完全に倒すことは不可能なことが、勝利できた最大の理由である。いわば初見殺しの戦法だが、それ自体は自身の身体的な特徴とライダーの力を存分に発揮した非常に秀逸な戦いかたであり、エデンがただの初見殺しで終わらない強さを持っているのは紛れもない事実である(むしろ敗北したゼロツーは『そんな相手とよく優勢に戦えた』と高い評価を得ている)。
- とは言えエデン及びルシファーはこの戦法を活かせなければ単純にスペックが高いだけのライダーである事も事実である。実際、スペック上エデンの上位互換であるルシファーは、相応の実力とエデン同様のナノマシンによる再生能力を備えていたものの、エスの様なナノマシンの有効活用までは出来ず、さらに再生能力の仕組みを見破られた挙句それを封じられたためにエスほどうまく戦えぬままゼロツーやゼロワンに力負けしており、エデンの強さがエス自身の身体能力と周到な用意による部分が大きいという事を証明してしまっている。
- シンクネットのサーバーには朱音の生体脳が接続されていたが、これが格納されているハードウェアが第一世代ヒューマギア素体の上半身に酷似している(飛電インテリジェンスのロゴも確認できるため、少なくとも飛電製であることは間違いない)。しかし飛電はこれまで(企業秘密たるゼロワンドライバー、及びZAIA買収時期を除けば)生体脳は勿論人体に直接関わる業務を行った形跡はない。このことを考慮すると、エス=理人は当初、何らかの方法で入手したヒューマギアの素体を改造して朱音の脳を宿し、いわばサイボーグとして彼女を蘇生させようとしたが、何らかの事情で失敗し、やむを得ず電脳世界に彼女の意識を移した可能性がある。
- 仮にこの説が正しければ、電脳世界は「朱音を現実世界に戻せなかった無念から作られた世界」とも解釈できるうえ、世界を滅ぼさんとした一連の行動も「彼女を現実世界に戻せないのなら逆に人々のほうを電脳世界に送り込めば良い」という発想の転換の産物として説明できてしまう。
- 「ヒューマギアによる人間の蘇生」は1年4ヶ月後にかなりイレギュラーなケースであるが実現している。
- 理人と言う名はドイツ語で「光」を意味する「リヒト(Licht)」から来ていると思われる。そして彼が犯行声明で言及した「神が6日で世界を創造」と言うくだりも旧約聖書の創世記からの引用。また、その世界創造において、最初の1日目に神が行ったのは昼夜の創造だが、その際に神が発した言葉も「光あれ」である。
- また、一色理人及び自称のエスという名前のもう1つの由来として、イエス・キリストも含まれていると思われる。
- 一色という名字は、理人を演じた伊藤英明氏が大河ドラマ・麒麟がくるで演じた斎藤高政が長良川の戦いの後、義龍に改名した際に当時の室町幕府将軍・足利義輝に授けられた名字でもある。(ただし、ドラマの作中では名字は斎藤のまま義龍に改名している)
関連タグ
哀しき悪役 ダークヒーロー:やり方がやり方だったとはいえ、彼なりの方法で「人間の悪意」を倒そうとしていた為、こちら側の人物とも解釈できる。
リオン=アークランド:スピンオフの続編で登場したアークの生みの親であり、ある意味理人とは正反対な人物。彼自身も理人に言及するシーンがある。