曖昧さ回避
- 小雨大豆の妖怪漫画に登場する神妙な存在“九十九神(つくもがみ)”で、酔狂な生態や多様性からか“妖怪”などと称される事もある種族。
- 長い年月を経た道具などに神や精霊が宿って誕生する不思議な存在【付喪神】で、別表記に【九十九神】とも呼ばれる妖怪の総称。
本稿では1.について解説する。
概要
小雨大豆の妖怪漫画「九十九の満月」及び「月歌の始まり」で頻繫に登場する神妙な存在。主要人物や関連人物としての九十九神が現れる他、自然神(しぜんしん:自然の事物や現象を擬人化・神格化した存在)の如く、言葉通り物語の背景や片隅にも顕現している不思議な存在(よって小雨大豆が妖怪漫画を物語るに欠かせない者たちでもある)。
なお作中での用語は”付喪神”ではなく”九十九神”と一貫して表記される。そして後述する酔狂な生態や多様性からか“妖怪(ようかい)”“妖(あやかし)”とも称される。つまり本作「九十九の満月」及び「月歌の始まり」において“妖怪”とは、この”九十九神”を指す。
作中世界の”九十九神(妖怪)”は、人や動物などの生き物(※)が死に、その魂と他の魂が混合された【一つの魂】が器物や思いなどへ宿り誕生する存在であり、謂わば【何かの生まれ変わりかもしれない存在】みたいな異種族。
※本作の世界観では、九十九神(妖怪)に限らず生きとし生ける存在は全て「体」と「魂」で成り立っている。
上記の誕生概略から、言い換えると生殖・繁殖の行為を辿らず、突然生まれる疑似生物でもあり、簡易定義に”親をもたず無から産まれる存在 ”とも挙げられる。
この奇天烈神秘から多種多様な外見・能力・知性があり、これに加え個体差・地域固有の特徴なども併せて、より奇々怪々ながら魅力あふれる妖しい営みが築かれている(また、作者・小雨大豆が描く酔狂な造形・作品世界の持ち味を特に感じやすい制作の一つ)。
因みに類似した異形や異能を有した存在もおり、代表例として【鬼(九十九の満月)】や【禍神】が登場する。
誕生経緯
作中世界では、人や動物などの生き物が死ぬと肉体は土に返るが、魂には質量(【その28】のおしこさ(本編後にある補足説明)では21g)があり、重力に引かれ地の奥深くに潜る。
潜った魂達は地球の中心部に集まって、一つの大きな魂=混合した魂となる。
この混合した魂は龍脈(りゅうみゃく:大地にある魂の海流)の循環により再び地上へ溢れ、(生きてる)生き物に宿れば人や植物となり、(死んだ)生き物・物・思いに魂が宿る事で”九十九神(妖怪)”が誕生する(九十九神の分類については下記参照)。
ざっくり誕生の流れを説明すると、
と、こんな感じ。
ただし混ざり合う魂の数や質は均一ではない。元となった生物、魂が潜った場所や地域、龍脈の位置関係、地上に出るまで年月などで大きく異なってしまう。この偏りによって、九十九神(妖怪)の知能や力の強さなどが大きく不均衡で誕生する。
改めて”九十九神(妖怪)”を説明すると、
人や動物などの生き物が死んだ時、その魂が後に妖(あやかし)になるには、
地球の中心で一つの大きな魂になっていた年月の『年(ねん)』と、
その魂が宿る物や概念が持つ思い出や感情などの『念(ねん)』
が、積み重なって(宿って)誕生する存在が”九十九神(妖怪)”。
この事から、【親をもたず無から産まれる存在】とも言える。
作中の学術定義では「親を持たず。思いと願いが魂をもって形をなしたもの」となっている。
知能の差について
上記で少しだけ触れたが、作中世界に登場する九十九神(妖怪)の知能は各々異なる。この知能差に大きく関わるのが体を構成する魂魄内にある【人間の魂魄+物や動物の魂魄】の割合。
九十九神(妖怪)は古くなった物などに、(体を構成する)魂魄と情報(龍脈から噴き出る混在した魂)が積み上がる(宿る)ことによって誕生する。
誕生する際に、
になる。
誕生後の知識等については下記の【生態-知能】を参照。
この事から人型でも、触媒(ベース)となった物などの特徴が(触媒が持つ記憶にも引かれて?)現れる模様。
作中では、
- 触媒(ベース)が(死んだ)鶴の妖怪は、左の目元に鶴の羽が生える(泣きぼくろならぬ泣き羽)。
- 触媒(ベース)が刀と防具の妖怪は、顔面に防具のような仮面と刀の柄が生える。
などの九十九神(妖怪)が登場している。
同じ形の妖怪について
上記にある通り作中世界の妖怪は、地球の中心に集まった魂の塊が、龍脈(りゅうみゃく:大地にある魂の海流)に乗って地上へ溢れた時に誕生する。
この時、同じ形の妖怪が誕生する2つのパターンがある。
- 魂の流れである龍脈の活動が活発になって、一度にたくさんの物に魂が宿った時に、同じ形・同じ種類の妖怪が誕生。
- ありふれた物にパターン化して誕生。
作者の例えでは、『ポケットの中裏返すとねずみ色のくしゃく~しゃが出てくる』感じ。
場所や環境は違えど、条件が揃うと同じような形のモノが出来るように、上記のようにパターン化して同じ形の妖怪が誕生する。
例:よく使いこまれた釜土(かまど)と台所があると生まれる【妖怪釜(かま)かぶり】(名前は【その43】より)
あびゃはぁあ(とんがったお菓子を指に(10本)はめた子ども妖怪)
こんな妖怪が生まれるのも同じ理由。全国共通!
分類
九十九神(妖怪)は物と思いの数だけ存在するが、分類としては大きく3つに分かれる。
妖怪の呼ばれ方として【触媒となった物など+妖怪】で呼ばれる。
例 魚がベースなら魚妖、人に造られた妖怪なら人造妖
概念妖(がいねんよう)
人の概念が元となった妖怪。
例:火の玉科、龍科
物化妖(ものばけよう)
自然物や人工物など、生きていない物がベースの妖怪。
例:自在蔵科、そば科
生物妖(せいぶつよう)
動物だけでなく、植物や菌類まで含む生物全般がベースの妖怪。
例:ガジュマル科、お化けくらげ科
さらにここから、どんどん細かい分類になっていくのだが、それもあくまで目安。妖怪自体いろいろな物や動物の混合体が多いので、作中世界の妖怪学では不毛な議論が今日も繰り広げられている…。
骸骨妖は生物妖?
とある妖怪「火葬した物なら無機物なので物化妖!」
満月「いや死をイメージしたものだから概念妖!」
黄太「どうでもよいの」
鬼子(おにご)
稀に人と妖怪の間で子が生まれることがあり、その半妖半人の生き物は"鬼子(おにご)"と呼ばれる。
しかし、その出生率は極めて低い。詳細はリンク先へ。
無形妖
その名の通り形が自由自在に変えられる妖怪の事。詳細はリンク先へ。
分布
Q 地上に妖怪ってどのくらいいるの?
A もさっとです。
「九十九の満月」の舞台となるおんでこ屋敷は、空を飛ぶ大きなお化け屋敷なので妖怪だらけだが、地上(人間界)にはこれほど多くはいない。とはいえネコやネズミ、大きな虫を見るくらいの割合で妖怪を見つける事が出来る。見つけようとすると結構見つかるくらいの量との事。
作者の例えでは、現代の都会で繁華街を歩いてたらネズミや青緑のでっかい蛾(オオミズアオ)を見つけた感じ。他には、天井裏でパタパタとしたら妖怪で、チュウと鳴いたらネズミかネズミもどき(妖怪?)のような感じ。
生態
身体構造
作中世界の九十九神(妖怪)は、魂魄(こんぱく:作中において万物構成を成す一つであり、汎用性へ優れた架空の元素および活動力)を変化させた“妖質(ようしつ)”という物で、骨格や臓器の他、血液やタンパク質・脂肪なども作って(そっくりに化けて)体を構成している。
九十九神(妖怪)の場合、そのほとんどが人間と同じように斬られれば血が出るし骨も折れれば、うんこもします(おしっこもする?)。
この事から作中世界の九十九神(妖怪)は、人などの有機生命体に限りなく近い、エネルギー体の生き物と言えるかもしれない。
ただしこの「妖質(ようしつ)」は不安定な物質なので、放っておくと自然と魂魄に分解され、空気中に逃げていってしまう。そのため九十九神(妖怪)は人としての習性をもって産まれるが、妖怪同士での繁殖・妊娠は不可能。
この為、人間と妖怪の間には子どもが出来づらく、鬼子(おにご:妖怪と人間の親から産まれる半妖)を身籠っても難産になる確率が高い。
なので体内の魂魄(こんぱく)が減ったり補給できなくなると、存在そのものが消滅する生き物でもある。
鬼技(おにわざ)
鬼が持つ鬼技(おにわざ:超能力)を稀に妖怪も使える能力者がいる(使用できる経緯は様々)。ただし、【“不思議な力”=“鬼技”】となって作中世界に浸透しているので、妖怪が言う鬼技は言ったもの勝ちの能力!
なぜなら大抵の妖怪は、鬼技とは別の不思議な力を持っているから…。
妖質変化(ようしつへんか)
妖質(ようしつ:作中で汎用性に優れた架空の万物構成要素を変化させた物質および体組成)の身体構造を持つ妖怪は、その体質のおかげで自身の体をある程度変形させる事ができる(上記の不思議な力の事)。この変形で一線を画す技を「化型(ばけがた)」という。詳細は化型へ。
知能
九十九神(妖怪)の元となった魂は地に潜る際に、生前の記憶をある程度持ったまま潜る。すると中心部では情報が平均化されて「思い出」などの固有の知識などは薄れ、反面「言語」や「常識」と言った全体的な知識だけが残る。
そういった理由で九十九神(妖怪)は、生前の「記憶」は持っておらず、生まれながらにして「基本的な人の知識」を持って(偏りは大きく)誕生する。なので人語を話せる九十九神(妖怪)ならば習わずして言葉を話し、物の数え方等の常識も人間文化に合わせたものになる。
上記にある通り九十九神(妖怪)は、"人としての知識"を持っていても"個人としての思い出"までは持ち合わせていない存在。だが、年を経て触媒となった物や動物に宿った魂の思いと記憶を持って生まれてくる事がままある。
病気
他の生き物の大きな相違点は、体が魂魄(こんぱく:作中において万物構成を成す一つであり、汎用性へ優れた架空の元素および活動力)からなる妖質(ようしつ:作中で汎用性に優れた架空の万物構成要素を変化させた物質および体組成)で出来ているので修復しやすく、姿・形も変えやすい所。反面安定しない身体構造なので、細胞のバグ・癌の発生率が高い生き物。
大病の例(【その94】より)として、“オニグマ”という妖怪でその説明がされている。
妖怪オニグマは力も強く、動きも疾(は)やく、気性も荒い。何よりもやっかいなのは、その打たれ強さ。
撃っても、斬っても、燃やしてもあっという間に元通り。禍神(まがつがみ:強い思いを持って死んだ生物が化けた異形の存在)と間違われるほど再生力が強い妖怪だった。
そんなオニグマの最後は「癌」による病死。
再生を繰り返すうちに、体の複製暴走(ふくせいミス)から妖質の変異体が、あっという間に体中に広がり…
最後には、はじけてバラバラになって死んでしまったそうな。
軽い風邪は滅多にかからないが、反面大病は多い体質。特に一点物の九十九神(例:薬箱の九十九神“片倉五郎箱(かたくらごろうばこ)”)は、一度大病を患うと治し方の見当がつかず、手遅れになる事がある(五郎箱の名前は【その100】より)。
寿命
妖怪も人間と同じく歳を取り、いつかは土に還る。
理由は、生まれながらに(魂の)生命としての(老いて死ぬ)記憶に引かれてしまうから。
ただ中には違ネエのように、老いの記憶を持たずに産まれる妖怪もごくごくたまにおり、木の記憶を持って産まれる神木妖達には長寿の妖怪が多い。
「死ぬと何も形が残らない」と言うとそうではなく、骨や甲羅などガッチリと妖質(ようしつ:作中で汎用性に優れた架空の万物構成要素を変化させた物質および体組成)が組まれたものは、その後数十年、中には数千年単位で残る物がある。その中でも有名なのが、おんでこ屋敷が作る(生み出す?)柱や床!
本物の木よりも耐久性が高く、龍の娘のダッシュにも耐える頑丈さから、おんでこ屋敷の重要な輸出品となっている。
文化
数える時のマナー
Q 妖怪なのに一人二人って「人」で数えるの変じゃない?
A 変じゃない!変じゃない?
妖怪は人の記憶を持って誕生するので、(たとえどんな姿・形でも)人の言葉を喋れる妖怪を数える時は、「一人、二人」と「人」で数える。
鬼の場合は「一鬼、二鬼」と「鬼」で数えるが、「人」と数えても大きなマナー違反にはならない。
また作中によく妖怪の強さを「怪談級」や「民話級」と呼ぶ時があるが、これはマナー違反!
級数は禍神(まがつがみ:強い思いを持って死んだ生物が化けた異形の存在)に対して使う言葉なので、妖怪に使うのは大変失礼な事に当たる。だが力の強い妖怪に対しては、その限りではない。
作者が言うには、『超大型の台風級に強い、みたいな感じなんじゃない?』との事。
戦国万妖の呼び方も「一人、二人」だが、
戦国万妖違(ピクッ)の場合は「一かわいい、二かわいい」と、数えれば襲われることはない。
たぶん…ガオン。あれ…モンスターのような顔で襲ってくる違(ゴゴゴッ)…かわいい(ピタッ)。
食文化
妖怪によって、食べる物は異なる。
大抵の妖怪が食べる主な目的は、食べ物の栄養ではなく、物に宿った魂魄(こんぱく)を食べている。
理由は、妖怪の体を構成している「妖質(ようしつ:作中で汎用性に優れた架空の万物構成要素を変化させた物質および体組成)」のため。これは不安定な物質なので、放っておくと自然と元になった魂魄(こんぱく)へ分解され、空気中に逃げていってしまう(例外あり、上記の寿命の項目を参照)。だから妖怪はなるべく「妖質(ようしつ)」の要となる魂魄(こんぱく)の高い物や妖怪料理を食べて補給している。
鬼子(おにご:妖怪と人間の親から産まれる半妖)は人間と同様、食べ物からの栄養も必要となるので、人と妖怪両方の食料を食べている。
違ネエのような戦国万妖(せんごくばんよう:約600年前に誕生した最強の人造妖怪)は、存在そのものを食べている(だから、おしっこはしない)。
下級な物化妖(ものばけよう)のほとんどは食事する事なく、生命・「妖質(ようしつ)」の維持が出来る模様。
だが、物化妖でも食事をする者もいる。妖怪の多くは前世の記憶に縛られるので、その縁(えにし)に準じた捕食行動をする。
【その3】では、元が砂糖瓶だった【見ため通りの甘いやつ “みつつぼ”】が、お砂糖の匂いにゴウッと寄ってきて、雪鷹が放った金平糖を食べる場面がある。
【その94】で妖怪も魂魄(こんぱく:作中において万物構成を成す一つであり、汎用性へ優れた架空の元素および活動力)の少ない食料を食べる事が明らかになった。
「米喰い者の大往生」(意:自然由来の食物「米」を食べて、最後は少しの苦しみもなく安らかに天寿を全うする事?)と言って、妖怪料理以外の自然由来の成分で、妖質(ようしつ:作中で汎用性に優れた架空の万物構成要素を変化させた物質および体組成)を安定させる必要がある。故に、頑丈で強いがとっても繊細な九十九神達のささやかな知恵として、「治療」より「予防の食生活」を心掛けている。
綱親(つなおや)
古くから九十九神(妖怪)にある自主的な(必ずではない)習慣であり伝統。
親を持たず、つたない知識だけ持ってこの世に産まれる幼い九十九神達に、生きる知恵を授け、人生の指針となって世話をする者を指す言葉。
それは大した見返りも、血の繋がりすら無くとも、綱親とその子どもは愛情のみで繋がった家族となる。
この為作中世界の妖怪達には、人間界にある男尊女卑があまり見られない。
余談
- 妖怪の誕生経緯はガイア理論を参考にしていると思われる。ガイア理論とは、地球と生物が相互に関係し合い環境を作り上げていることを、ある種の「巨大な生命体」と見なす仮説である。ガイア仮説ともいう。
- 魂の21gとは、ダンカン・マクドゥーガル(Duncan MacDougall、1866年-1920年)というアメリカ合衆国マサチューセッツ州の医師が「人間の魂の重さは21グラムである」と提唱した説が元ネタと思われる。
- 【その70】では、妖怪のじっちゃんが満月達にモニター画面を使いながら、九十九神(妖怪)の誕生経緯を説明してくれる。その講義内容では、誕生に関する事を"生地一体説(せいちいったいせつ)"と言い、「魂(たましい)」と「塊(かたまり)」の二つの文字が似ていることや、生まれ変わりに他の惑星の生き物がいないことなど全てはこのためと語っている。
満月「ご老公!!やはり地球外生命体はいるのですか!!」
妖怪のじっちゃん「まあ、確率的にはおらん方がおかしいんじゃが…。ちと、今はその話は置いとこうかの?」
関連タグ
魂魄(九十九の満月) 妖怪料理(九十九の満月) 鬼技 式神(九十九の満月)