「堀越二郎と堀辰雄に敬意を表して。」
「生きねば。」
「Le vent se lève, il faut tenter de vivre.」
(風立ちぬ、いざ生きめやも)
その他曖昧さ回避
- 1936年に発表された堀辰雄の小説。映画2作、テレビドラマ4作、アニメ1作が制作された。
- 1980年にリリースされたクリストファー・クロスの楽曲『Ride like the wind』の邦題。
- 1981年にリリースされた松田聖子の7枚目のシングル(オリコン1位を獲得)。1.が曲名の由来。
概要
2013年、スタジオジブリの制作で宮崎駿が監督を務めたアニメ映画として公開。
零式艦上戦闘機等の設計者である航空機技師堀越二郎と、本作のタイトルの由来となった小説『風立ちぬ』の作者堀辰雄の経歴などをモデルとして創作された主人公が、関東大震災や第二次世界大戦の前触れなどに直面しながらも家族や周囲の人間からの支えを得て新型機の開発に全力を尽くす物語である。
ジブリ作品に実在の人物をモデルとしたキャラクターが登場するのは、『平成狸合戦ぽんぽこ』の水木しげる以来となる。
原作は宮崎氏が雑誌モデルグラフィックス(大日本絵画)にて2009年から2010年まで連載していた同名の漫画。
当時『崖の上のポニョ』の制作を終えていた宮崎氏はこの漫画を「趣味として描いていたもの」とコメントしており、登場人物の大半が擬人化された豚など動物の姿となっている。
また後のアニメ映画とでは、特定のキャラクターの登場の有無や回数などが大きく異なる部分もある。
宮崎氏の軍用機と平和への思い入れが込められた集大成的作品とされ、飛行艇のパイロット等を描いた『紅の豚』と同じく大人向けを意識して製作したとされている。
「たとえ人殺しの道具であろうと、それでも美しいもの・素晴らしいものを作りたい」と語ったともされる
同氏の、クリエイターとしてのジレンマが大きく描写されているとする意見も多い。
崖の上のポニョの作画方式を継承し、CGを使わず人工物を含めた全ての物体を生身の人間の手で描写。
「ぴったりと静止している人間は存在しない」との意図から人物のアップでは一枚絵の静止画を使わず、何度もトレスした動画で鼓動や呼吸によるわずかな震えを表現するといった実験的な表現も盛り込まれている。
音響はあえてモノラルとし、機械音などの効果音もいくつかは人間の音声で再現している。
主役の堀越二郎(風立ちぬ)役を宮崎氏の弟子に当たるアニメ監督の庵野秀明が務めたことでも話題となった。
上映時間は126分で、ジブリでの宮崎作品では『もののけ姫』に次いで二番目に長い。
あらすじ
明治生まれの少年堀越二郎は、夢の中に現れたイタリアの有名飛行機エンジニアであるカプローニ技師に導かれて同じ道を目指す。
その後東京帝国大学に進学した二郎は現在の三菱系の航空機メーカー入社し、学友で同僚となった本庄らと共にドイツに留学。
着実に航空機技師としてのキャリアを積み重ねていくが、新型機の開発に行き詰まってしまう。
そのような状況の中、休暇先のリゾートホテルで関東大震災時に知り合った里見菜穂子と約10年ぶりの再会を果たし、愛を育んでいく。
しかし菜穂子は、当時の不治の病である結核を患っていた。
主な登場人物
(CV.庵野秀明)
主人公。
実在技師と同姓同名であるが、パーソナリティについては完全な創作である。
(CV.瀧本美織)
資産家のお嬢様。
名前は、堀辰雄が自身の婚約者をモデルに書き綴った小説『菜穂子』のヒロインに由来する。
(CV.西島秀俊)
二郎の学友で同期の技師。
実在の技師本庄季郎をモデルとしている。
- 黒川
(CV.西村雅彦)
二郎や本庄らの上司となった小柄な技師。
多くの使用人や離れも擁する地元名家の主人でもあり、二郎と菜穂子の婚約と同居に協力する。
役職としては隼型試作戦闘機設計主任の仲田伸四郎技師を、名前は小説『菜穂子』のヒロインの夫である黒川圭介をモデルにしたともされている。
- 堀越加代
(CV.志田未来)
二郎の兄弟の一人である妹。
女医を目指しており、いつも兄と周囲の人たちを気にかけている。
- 里見
(CV.風間杜夫)
菜穂子の父親である資産家。
ドイツ語の教養もあり、娘の体調を憂いながらも二郎との交際を認める。
- 服部
(CV.國村隼)
黒川の上の役職に当たる上司で、黒川同様二郎の私生活や警察からのマークにも気にかける。
実在の服部譲次技師をモデルにしたともされている。
- 二郎と加代の母
(CV.竹下景子)
序盤のみの登場。
- 黒川夫人
(CV.大竹しのぶ)
夫と同じく二郎夫妻の最大の理解者と支援者になる。
- 曽根
特高警察に狙われた二郎のもとに製図板を届けた社員。
名前は実在の「堀越二郎の片腕」と呼ばれた曽根嘉年技師がモデルと思われる。
- 久保
曽根らと共に二郎のもとに製図用具を届けた社員。
名前は実在の久保富夫技師がモデルと思われる。
- 平山
若手社員中心の自主研究会にて沈頭鋲の解説を行っていた工作部の技師。
名前は実在の平山広次技師がモデルと思われる
- カストルプ
(CV.スティーブン・アルパート)
二郎が長野県軽井沢町のホテルで出会ったドイツ人を名乗る白人男性。
二郎との会話で主要各国が臨戦状態にある事を匂わせるような話をしたり、二郎と菜穂子の交際を後押ししたりした。
その後何の前触れもなく自家用車に乗って二郎たちの元から去っていったが、「外国人不審者との接触」と判断されたのか直後に二郎は特高警察に一時期マークされる事になる。
名前の由来は、劇中で彼が話題に出していたトーマス・マンの結核患者を扱った小説『魔の山』の主人公ハンス・カストルプとされる。
また国際スパイと疑われるような印象としては、実際にソ連のスパイとして日本に潜り込み、発覚して死刑となったロシア系ドイツ人リヒャルト・ゾルゲがモデルと思われる。
ドイツのユンカース社を創業した航空機技師で、実在のフーゴ・ユンカースがモデル。
アニメ本編では少し遠くから次郎たちに軽く挨拶するだけの登場となった。
(CV.野村萬斎)
イタリアの飛行機設計技師で、実在のジャンニ・カプローニがモデル。
本編ではほぼ二郎の夢の中でのみ登場するため日本語で会話する。
二郎に飛行機作りの醍醐味や難しさ、人生で何かに注力できる時間の使い方などを教える。
宮崎氏は、このカプローニを結果として二郎を「夢」という修羅の道に誘うある意味で悪魔(メフィストフェレス)のような役目を担うよう設定したとしている。
登場機・登場艦船
黒川と二郎が航空母艦「鳳翔」を見学した際に登場。
2人を後席(本来は航法士席)に乗せて着艦する。
二郎が手掛けた試作機。
金属製の単葉など、新機軸を満載していたが試験飛行で空中分解(パイロットはパラシュートで脱出)する。
二郎が手掛けた試作機。
のちの九六式艦上戦闘機の原型である逆ガル翼設計。
終盤に登場する世界的にも有名となった二郎設計の艦上戦闘機。
先述の日本初の専用設計の航空母艦。
二郎らが鳳翔から内火艇で帰るシーンで、背景に登場。
史実の同時期と同じく屈曲煙突を備えた描写で描かれる。
鳳翔と艦隊を組んで登場。
いわゆる「トンボ釣り」と呼ばれるものであり、着艦に失敗した機体から搭乗員を救出する役目を担う。
その他
・ポスターパロ
「主人公が大空を見上げる」、「ヒロインが草原で絵を描いている」という非常に単純で明快なデザインから、沢山のパロディ絵が投稿されている。
ちなみに週刊少年ジャンプで掲載されていた漫画銀魂が行った本作への(下ネタ全開の)パロディは、スタジオジブリ公認である。
・たばこ騒動
当時の時代を反映してなのか作中での喫煙シーンがかなり多く、NPO法人日本禁煙学会が「映画を見る子供たちに悪影響を与える」としてスタジオジブリに対し要望書を提出した事を発表した。
(外部リンク)
さらに作中で二郎が心肺機能を痛めている結核患者の菜穂子の前で喫煙をしたり、実在の堀越技師が非喫煙者であったという遺族の証言も出たりした事から、ネットなどで一時賛否両論の議論化する事態となった。
(外部リンク)
・カストルプの声優
アルパート氏はかつてジブリの海外事業部の幹部を務めたアメリカ人の元社員で、宮崎氏の希望での配役となった。
なお公開当時のテレビでの特番で、アルバート氏は不得意であったドイツ語での歌唱シーンに苦労したとコメントしている。
関連イラスト