YouTube SUPER GT公式chより
2024 SUPER GT公式ガイド
2005年から株式会社GTアソシエイション(GTA)が管轄する、日本を中心にアジアでも開催されるスポーツカーレースシリーズである。略称は"SGT"。
1994年に創設されたJGTC(全日本GT選手権)が改名したものであり、歴史や記録を語る上ではこちらも含まれることもある。2024年、JGTC創設から30周年を迎えた。
概要
現在市販されている車をベースに開発した、GT(グランドツーリング)カーを用いたレースである。搭載エンジンの馬力によってGT500、GT300の2クラスに分けられている。決勝は両クラスが同時に走るため、両クラスにおいて非常に熱い駆け引きを繰り広げられる。「世界最速の箱車レース」と称されることもある。
ちなみに500と300はそれぞれ馬力を指していたのだが、現在は規則の変化により形骸化しており名前だけが残っている。
SUPER GT独自の特徴として、レースで上位になったチームに付与されるポイントの合計に応じてウェイト(おもり)などを追加しなければならない「サクセスウェイト制」(旧称「ウェイトハンデ」)を採用していることである。簡潔に言えば、年間ランキングの上位に位置しているチームほど車輌重量が増やされ、その結果トップチームはトップを維持するのが難しくなる。こうすることでマシンの速さの均衡を図り、1チームの独走を防ぐシステムである。近年は一定ポイント以上はウェイトに加えて燃料流量を絞る"リストリクター"も追加されるようになり、ポイントあたりのハンデがキツくなっている。なお現在はGT500のみにこのリストリクターが採用されており、その段階は3段階に分けられている。段階が大きくなるにつれ絞る量は大きくなる。
いかにしてハンデの影響を最小限に食い止められるマシンを開発し、またハンデを計算した上でいかにして効率よくポイントを稼いで優勝するかという点もまた、SUPER GTの醍醐味である。
ただし、以前はその"計算"のせいでなりふり構わない譲り合いが起きてしまい、かえって興覚めであったので、2009年から第6戦までは獲得ポイントの2倍、最終戦直前は獲得ポイントと同じ(改定年の2009年は全9戦で争われたため、第7戦、第8戦が獲得ポイントと同じウェイト)、最終戦は全車ノーハンデによるガチンコ勝負を行う事でそうした自体を防いでいる。
また、タイヤのワンメイク化が主流になって世界的にも例の少なくなったタイヤ戦争も魅力で、ブリヂストン、ヨコハマタイヤ、ダンロップ、ミシュラン(GT300のみ)が激しく鎬を削っている。
さらに、元F1ドライバーや世界のスポーツカーレースで活躍するドライバーが多数参戦しているのも大きな特徴である。特にWEC(世界耐久選手権)のLMP1クラスには、日欧どのメーカーにもSUPER GTで長年活躍したドライバーがレギュラードライバーとして参加し、シリーズチャンピオンの獲得やル・マン総合優勝を記録するなど、国際的な知名度を高まっている。
歴史
前述の通り、全日本GT選手権(JGTC)が前身。こちらは元々JAF(日本自動車連盟)の管轄であったが、マレーシア(セパンサーキット)等での開催を決定した際にFIAの規定により「国内選手権」の定義から外れることになったため、JAFの管轄から独立し今に至る。
かねてからGT500でDTM(ドイツツーリングカー選手権)との交流戦を前提としたクラス1規定を進めており、2019年にはエキシビジョンとして交流戦が実現している。しかし同時期にDTM参戦メーカー(メルセデス、そのメルセデスの撤退後に参戦したアストンマーティン、そしてアウディ)の離脱が相次いだ結果、2021年からはGT3規定に移行。このため交流戦の話も消滅した。また新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年以降はマレーシア、タイでの海外開催が消滅し、8戦全てで日本国内での開催に切り替わり、富士と鈴鹿は年2回開催されている。しかし2025年からマレーシアのセパン・インターナショナル・サーキットで公式戦が開催されることが決定。スーパーGTの海外戦開催は2019年のタイ以来、セパンでのスーパーGTの公式戦開催は2013年以来となる。
GT500
概要
白色灯のヘッドライトに、白地に黒文字のゼッケンが目印。
現在TOYOTA、NISSAN、HONDAの3社3車種が、各4~6チームを率いて直接火花を散らしているクラスである。前身であるJGTC時代を含む90~00年代にはフェラーリやランボルギーニ、ポルシェにマクラーレンなどの外国車勢も参戦していたことがある。
もともとは「原則として市販車をベースに改造」であったのだが、コスト削減を名目にパイプフレームの許可などレギュレーションが年々緩和されていき、現在はフロントマスクとキャビンの形状だけ市販車に似せて、実際は市販車の骨格すら使わない、純度100%のサーキット専用設計の規定になっている。性能もいわゆる"箱車"としては空力が先鋭化されすぎており、事実上のシルエットフォーミュラとなっている。
2014年からはDTMと車両規則を統一したクラス1規定を採用し、2012年のDTMの車両規則を元にSUPER GTの独自規定を盛り込んだ新規則による車両が使われている。なおGT500車両のエンジンは2.0L直列4気筒のターボエンジンだが、プラットフォームを共有するDTMは2018年まで4LのV8自然吸気エンジンであった(※1)。
余りにもGTマシンが速すぎてサーキットの安全性が不安視されたことから、2017年からは安全面を考慮しダウンフォースを削減する等のレギュレーション変更が提示され、さらに特例でのミッドシップ(MR)が認められていたNSXも2020年からフロントエンジン(FR)車での参戦となった。
なおエンジンの基本規格は2007年からフォーミュラ・ニッポン/スーパーフォーミュラと統一されており、これによりトヨタ・ホンダが両カテゴリーに参戦している。なお、日産だけはスーパーフォーミュラには参戦していない。
トヨタ自動車/LEXUS
6チームが参戦。2020年よりTOYOTA GAZOO RacingにGRスープラと名前を変えつつも、TOYOTAブランドとスープラが15年ぶりに復活している。これにより2009年から各エントラントが名乗った「LEXUS TEAM(メインスポンサー)」も「TGR TEAM (メインスポンサー)」へと改称された。
なお直列4気筒ターボ+FRという共通レイアウトを用いているGT500だが、規定と同じレイアウトの市販車をラインナップしているのは3メーカーの車両の中ではGRスープラのみである(SZ、SZ-Rグレード)。
GRスープラのスーパーGTデビュー戦となった2020年の第1戦富士では1〜5位をトヨタ勢で独占するという圧倒的な強さを見せた。
その後も確実にポイントを取りつつ、チャンピオン争いは最終戦の富士スピードウェイで決着することとなり圧倒的な速さでチャンピオン獲得を目指すNo.37 KeePer TOM'S GRスープラだったが、最終ラップの最終コーナーでガス欠を起こすという歴史的大逆転によりチーム国光のNSXに敗北、デビューイヤーでのチャンピオン獲得はならなかった。
翌2021年はホンダ勢が優勢であったが、最終戦でホンダ勢が同士討ちで自滅。ホンダはタイトルを逃し、これにより逆転チャンピオンを獲得したのは(auの方の)TOM'Sという、前年と勝者と敗者が真逆になるという形でホンダにリベンジを果たし、シリーズチャンピオンを獲得した。
2023年には開幕戦にau、DeloitteのTOM'Sワンツーフィニッシュをピットなどでの戦略ミスで逃したものの、トヨタ勢としてはNo.19のWeds Sports BANDOH GR Supeaが第3戦で7年ぶりの優勝を挙げたほか、No.36のau TOM'S GR Supraがポイントを重ねてシリーズチャンピオンを獲得。ドライバーの坪井翔は2021年以来2度目のチャンピオン、宮田莉朋はスーパーフォーミュラとの2冠を達成することになった。
過去の車両
レクサスブランドの車両を含めてクーペモデルが豊富であったトヨタは、3社中最も車種の切り替えが多いメーカーである。
1994年から2005年まではJZA80型スープラで参戦。2006年にレクサスブランドの国内導入に伴い、看板をトヨタからレクサスへと掛けかえて参戦。以降8年に渡って活躍したSC430(UZZ40型ソアラ)はゼロベースで開発されたが、初年度でチャンピオンを獲得するなど十分な戦闘力を示した。
2014年からは前述のSC430に代わってRC Fで参戦。車両規定の大規模刷新後において安定した成績を残す。空力の開発で日産に後れを取り、加えてハンデウェイトに敏感であったようで、シリーズ序盤にポイントを獲得しても中盤で失速が見られる車両ではあったが、RC Fの参戦最終年となる2016シーズンには見事タイトルを手にしている。
2017年からは新規定に沿って開発されたLC500で参戦。デビュー戦となった岡山ではいきなり1〜6位をLC500で独占するといった歴史的完勝を記録した。一時、GT-Rに首位を譲ったが最後は平川亮、ニック・キャシディ組のNo.37 KeePer TOM'S LC500が17年のタイトルを獲得した。またこれは「開幕戦で表彰台に登ったチームはチャンピオンになれない」というジンクスを破ったものでもあった。
2018年シーズンに入るとタイヤのコンパウンドの変更に伴い前年とは打って変わって苦戦を強いられたが、それでも第三戦終了時点で全戦で表彰台に食い込むなど、マシンの完成度の高さを見せた。この年は惜しくもチャンピオンは獲得出来なかったものの最後の最後まで優勝争いを演じた。
2019年シーズンも圧倒的な強さは健在で表彰台独占を連発。第5戦でNo.6 WAKO'S 4CR LC500の奇跡の連勝などもあり、チームルマンが2002年以来となるタイトルを獲得するなどレクサス系チームがシーズンワンツーフィニッシュを飾り、LEXUS GAZOO Racingとしての有終の美を飾った。
日産自動車
4チームが参戦。2008年から2021年まで14年もの間R35型GT-Rでエントリーしてきたが、2022年以降はビッグマイナーチェンジを受けて大きく印象の変わったRZ34型フェアレディZへと切り替えられ、2024年からはフロントマスクをNISMO仕様のものに変更して参戦している。新型Z参戦初年度となった2022年は開幕戦こそ優勝を逃したものの、TEAM IMPULが第5戦鈴鹿で最後尾からの逆転優勝を成し遂げたほか、第3戦以外全てのレースで入賞し表彰台も計4回獲得したことで、RZ34型に参戦初年度でのチャンピオンをもたらした。これは長年王座から遠ざかっていた日産にとっても2015年以来のNISMO以来のチャンピオン獲得であり、TEAM IMPULにとっても前身のJGTC時代を含めると実に27年ぶりのチャンピオンであった。加えて、この年をもってIMPULのメインスポンサーのブランド名がカルソニックからMARELLIへと変更されるため、カルソニックとしての最後の年にチャンピオンを飾ったこととなった。
100%子会社のNISMOが事実上のワークスチームとなっており、常に高い戦闘力を発揮している。また他2社はブリヂストン勢が大多数を占めているのに対し、日産はミシュラン勢の方が多いのも特徴であった。
ただ、2023年シーズンの終了をもってミシュランがGT500クラスへの供給を休止(GT300クラスへのタイヤ供給は継続)。2024年以降はZ勢は4台中3台(NISMO、NISMO NDDP、IMPUL)がブリヂストンを履くこととなり、データ量の増大によって戦闘力の増強が見込まれる。
過去の車両
スーパーGT初年度の2005~2007年からZ33型フェアレディZで参戦していたが、JGTC時代と違いドライバーズタイトルは獲得できなかった。2008年にベース車両をR35 GT-Rに切り替えていきなりチャンピオンを獲得するなど、GT-Rブランドの完全復活を宣言した。かつては「GT-Rは菅生では勝てない」というジンクスもあった(現在は克服済み)。
2014年のレギュレーションの大幅な変更、2017年規定の小規模変更後もベース車両が同じというのが他2社とは異なる。2014年規定車両では若干やや足回りの発熱トラブルが目立つところはあったが、予選で圧倒的な速さを見せつけた。また第3戦ではGT500の表彰台をGT-Rで独占し、往年のGT-R伝説復活かと騒がれた。ストレートに強いと言われており、2014年規定の車両で初めて時速300㎞を超えた車両でもある。
RC Fと比較するとウェイトハンデの影響が小さく、特にチャンピオンを取得した年(2014、15年)はハンデを背負った後も圧倒的なスピードを誇っていた。
しかし、新規定で行われた2017年の開幕戦ではそれまでの圧倒的な速さが鳴りを潜め、全車予選Q1落ちという屈辱の開幕戦となった。その後は何とかNISMOが優勝争いを演じるも、GT-R全体を見ればやはり苦戦を強いられている状況にあった。
2019年開幕戦での予選では昨シーズンの状況を跳ね返すような走りを見せたが、今ひとつマシンの性能を最大限にいかせず、NISMOが2年ぶりにチャンピオン争いに加わるも、レクサス勢には敵わずシーズン3位という結果となった。
2020年からは新エンジンのNR20Bを投入してある程度の競争力を取り戻すが、タイトル争いの最前線には復帰できず、結局2021年末でGT-Rでの参戦は終了することになった。他の2メーカーがベース車両を度々変更する中で改良を重ね続けていたため、晩年のエアロパーツを投入した量が他のメーカーよりも圧倒的に多く、いかに日産がGT-Rという車に苦労しながらも勝利を目指していたかが分かるポイントでもあった。結果として2008年から連続して実に14年もの間、日産のスーパーGT参戦のベース車両として君臨したGT-Rであったが、それ故に日産のGT500車両=GT-Rというイメージが定着。特にNISMOの1台でエースカーでもあるMOTUL AUTECH GT-Rは異常に語感が良く、これで1単語と言わんばかりの定着性を誇った。事実、ベース車両がZに変更された2022年の第5戦鈴鹿の予選において、スーパーGTの公式場内実況を担当しているピエール北川氏が本来MOTUL AUTECH Zと呼ぶところを勢い余ってモチュールオーテック GT-R!!と叫んでしまうハプニングが発生。ただその次の瞬間にはZと言い直している。
本田技研工業/ACURA
5チームが参戦。使用車両は2024年からFL5型シビックタイプRを、共通モノコックと2リッターの直4ターボエンジンでFR化したCIVIC Type R GT500を使用する。
GT500では初の5ドアスポーツカーをベースとした車両で、先代のNSXと比べてリア回りのスタイリングがまるっきり異なるが、前面投影面積はこちらの方が小さい。
年度初めのセパンテストでは最高速度をマークするなど、完成度の高さを見せたが、ドライバーからは先代の参戦車両であるNSXと比べて高速コーナーが苦手であるという評価が下されている。
過去の車両
2009年まではMRレイアウトのNA2型初代NSXでエントリーしていた。その次は2013年までFRスポーツカーのHSV-010でエントリー。市販車に詳しい人はHSV?と首を傾げるかもしれないが、それもそのはず、この車はアキュラブランドで市販する予定の試作車両であった事から参戦を許可された特例車で、結局2008年のリーマンショックの影響で計画は頓挫・開発中止になってしまった車なのであった。
投入当初は開幕戦のHSV同士によるアクシデントなどがあったものの、シーズンを通じて安定した速さをみせ、参戦初年度の2010年にウイダー童夢がシリーズチャンピオンを獲得した。2011年モデルでは、フロントフェンダー内にラジエターを設置するなどのモディファイが重ねられ、戦闘力の向上に努めた。
2014年のレギュレーションの大幅変更以降は、NC1型NSX(※3)を投入した。当初、NC1型はまだ市販段階ではなかったため、『NSX-CONCEPT GT』という名称で参戦している。
導入当初は他社と異なる、市販車と同じミッドシップエンジン+ハイブリッドという独自構造を、ハンデ(※4)を受けることを条件に特別に許可を受けて開発していた。しかし元々フロントエンジンの搭載を前提として作られた共通コンポーネントがミッドシップエンジンのNSXと適合していない事や、ハイブリッドシステムの不具合、さらにミッドシップ故の熱害などによるトラブルが多発し、車両の性能も他社に明らかに水を開けられ苦戦していた。中盤で前記の不具合対策のための車体の改良が認められてからはなんとか首位争いに参加できるレベルになり、第4戦菅生からは表彰台に上がれる車両に仕上がっている。
2016年シーズンは部品の供給面などで継続が困難になったことから、それまで積んでいたハイブリッドシステムを下すことになり、システムを下ろした事でモーターアシストによるストレートスピードの伸びがなくなったうえに、ウェイトバランスの変化で苦しいシーズンが続いた。
2017年からは市販モデルの販売が開始されたため、マシン名を『NSX-GT』へ変更。その際の小規模変更に伴い、最初からハイブリッドシステムの非搭載に最適化した設計に変更され、テスト段階では開幕戦に圧勝したLC500に肉薄することが期待された。しかし迎えた開幕戦ではスタート直前、直後で電子系のトラブルが連発し3台のNSXが早々に勝負権を失う珍事が発生。そのため先行きが不安視されたものの、その後は表彰台を獲得するだけでなくその中央(優勝)にもたびたび登場するなどマシンの能力を示した。
2018年はタイヤコンパウンドの変更がレクサス勢とは逆にプラスに働いたようで、鈴鹿や岡山国際などのコーナリングを重視するサーキットでは表彰台に並ぶようになり、この年からフル参戦を開始した2009年のF1王者・ジェンソン・バトンの活躍もあって、チーム国光がシリーズタイトルを獲得。ホンダ勢としては実に8年ぶりのチャンピオンを手にするに至った。
前述したように、2020年にはクラス1規定に準拠する形で駆動方式がMRからFRに変更される。シリーズ前半はこの年からデビューしたGRスープラが強さを見せる中で着実にポイントを獲得していき、最終戦富士スピードウェイでは最終ラップのホームストレートでNo.37 KeePer TOM'S GR Supraがガス欠を起こして失速、ゴール直前で逆転し、山本尚貴&牧野任祐組のチーム国光が2年ぶりに逆転チャンピオンを達成。加えて、長年チーム国光のメインスポンサーを務めたRAYBRIGがこの年を以てブランドを廃止するため、有終の美を飾る結果となった (ブランドを保有しているスタンレー電気自体は存続しており、STANLEY名義で引き続きチーム国光のメインスポンサーを務めている)。
2021年は前身のJGTC時代を含めても初となる連覇がかかっていたが、最終戦の最終盤でGT300のARTA NSX GT3がブレーキングミスで追突してきた事により、タイトルを逃した。奇しくもぶつけられたのはチーム国光で、これにより逆転チャンピオンを獲得したのは(au)TOM'sという、前年と勝者と敗者が真逆になるという結果であった。
ベースとなるNC1型が2022年末に生産を終了し、2024年からベース車両がFL5型シビックタイプRに変更される事からNC1型NSXがスーパーGTに参戦するのは2023年が最終年となり、最後までチャンピオン争いに名を連ねたものの、結果としてチャンピオン獲得は果たせず、約10年に渡るNC1型NSXのGT500への挑戦は終了した。
GT300
概要
黄色(フォグランプの色に近い)のヘッドライトに、黄色地に黒文字のゼッケン目印。
メーカーが開発したレース車両(3メーカーなので多くても3車種)を使用するGT500とは異なり車種は多様で、ワークス・プライベーター問わず多くのチームがエントリーしている。いわゆる「痛車」がエントリーするのもここである。
GT500に比べて小規模なチームでも低コストに参戦できることから、参戦台数はGT500の倍近くを集める。
過去には「市販予定」であることを名目に、ほぼ専用設計のようなスポーツカーが特認で何車種も走っていたが、現在は後述のマザーシャシーを除いて禁止されている。
現在はGTA-GT300(旧称JAF-GT)、GT3(旧称FIA-GT)という2つの異なる規格のマシンによって、選手権が争われている。
GTA-GT300は日本独自の規格。開発の自由度の高さがウリで、過去には普通のスポーツカーに混ざってプロトタイプカーも存在していた。2012年以降は市販車ベースのみであるが、代わりにハイブリッドカーが参戦できるようになっている。2015年からは運営元であるGTAの働きかけで、共通モノコック・共通V8エンジンで独自車両を低コストで開発できる『マザーシャシー』も誕生し、参入障壁が下がった。またJGTC末期から4ドア/5ドアのセダンが参戦できるのも特徴で、2012年から2023年までの10年以上に渡ってプリウスがこれを利用して参戦していた。
対するGT3は「グループGT3」という世界で主流となっているGTカーの規格で、一切開発をせずにメーカーお手製のマシンを入手出来るため、プライベーターチームには大変人気がある。なお概要で述べたこのクラスの300馬力規制が撤廃されたのは、GT3導入の際に300馬力までデチューンされることを各メーカーが嫌がったためという経緯がある。
現在のGT500との最大の違いは市販車の骨格を用いる点(マザーシャシーを除く)である。このためベース車両の骨格の剛性や空力が戦闘力を少なからず左右する。ただし骨格以外は「魔改造」と呼べるレベルで別物。さらにGTA-GT300規定で改造する場合は、キャビン(居住空間)の前後をパイプフレーム化することが可能なため、純レーシングカーに限りなく近い構造である。
エンジンについてはGTA-GT300の場合は同一のブランド内で生産されているもの(レース専用エンジンを含む)なら、例えば市販車が直列4気筒でもV型8気筒に乗せ換えることができる。
四輪駆動もマザーシャシー除くGTA車両で可能だが、2008年に優勝したSUBARUのインプレッサが厳しい規制を受けて撤退して以降、採用するチームはいない。
このようにGT300は多種多様な規格・スペックを同じ土俵で戦わせるため、ウェイトやリストリクターなどを用いる「BoP」(性能調整)で戦闘力を均衡させている。
近年は国内外でGT3を使うワークスドライバーやワークスチームの参戦が増えてレベルアップしていて、新規参戦のアマチュアドライバーやプライベーターチームにとっては敷居の高いシリーズになりつつある。
現在の参戦車両
(非常に多くのメーカー、モデルが参戦しているため、参戦車種とその製造企業を列挙する。)
メーカー | 車両名 | 規格 | 参戦年及び備考 |
---|---|---|---|
トヨタ自動車・LEXUS | LC500h | GTA-GT300 | 2023- |
RC F | FIA-GT3※ | 2015- | |
86 | マザーシャシー | 2014第7戦(スポット参戦)2015- | |
GR86 | GTA-GT300 | 2022- | |
GRスープラ | GTA-GT300 | 2020- | |
日産自動車 | GT-R | FIA-GT3 | 2012- |
フェアレディZ | GTA-GT300 | 2024- | |
ホンダ・ACURA | NSX | FIA-GT3 | 2018- |
スバル | BRZ | GTA-GT300 | 2012- |
フェラーリ | 296GTB | FIA-GT3 | 2024― |
BMW | M4 | FIA-GT3 | 2022- |
メルセデス・ベンツ | AMG GT | FIA-GT3 | 2016- |
ランボルギーニ | ウラカン | FIA-GT3 | 2016- |
アストンマーチン | ヴァンテージ | FIA-GT3 | 2024- |
※正確には開発車両で、2016年シーズン終了時まではFIAの正式なホモロゲーションを取得していなかった
過去の参戦車両
トヨタ・LEXUS | プリウス | JAF-GT | 2012-2018(プリウスPHV GR SPORTに変更) |
---|---|---|---|
MARK X | マザーシャシー | 2017-2019(GRスープラにスイッチ) | |
カローラアクシオ | JAF-GT | 2009-2011(プリウスへ変更) | |
IS350 | JAF-GT | 2008第3戦-2012 | |
MR-S | JAF-GT | 2005-2008(カローラアクシオに変更) | |
セリカ | JAF-GT | 2005-2008(IS350に変更) | |
日産自動車 | フェアレディZ | JAF-GT | 2005-2010(撤退) |
マツダ | RX-7 | JAF-GT | 2005-2011(撤退) |
スバル | レガシィB4 | JAF-GT | 2009第6戦―2011(BRZに変更) |
インプレッサ | JAF-GT | 2005-2008 | |
BMW | Z4 Mクーペ | JAF-GT | 2008第9戦-2009 |
Z4 | FIA-GT3 | 2011-2015 | |
M6 | FIA-GT3 | 2016-2018,2020-2021 | |
メルセデス・ベンツ | SLS AMG | FIA-GT3 | 2012-2017 |
ポルシェ | 911シリーズ | FIA-GT2 | 2005-2011(GT3に変更) |
JAF-GT | 2005-2011(GT3に変更) | ||
ボクスター | JAF-GT | 2005-2010 | |
968 | JAF-GT | 2005 | |
アウディ | R8 LMS(旧) | FIA-GT3 | 2012(ultraに変更) |
R8 LMS ultra | FIA-GT3 | 2012-2016(開幕戦のみ) | |
R8(2代目) | FIA-GT3 | 2016-2023 | |
フェラーリ | 488GTB | FIA-GT3 | 2016-2017,2021-2022 |
360モデナ | JAF-GT | 2005-2007,2009 | |
F430GTC | FIA-GT2 | 2009-2012(規定変更に伴い参戦不可に) | |
458GTC | LM-GTE | 2011(2012以降使用チームなし、区分上はJAF-GT) | |
458イタリア | GT3 | 2012-2013,2015(488に変更) | |
ランボルギーニ | ムルシエラゴRG-1 | JAF-GT | 2005-2009 |
ガヤルドRG-3 | FIA-GT3 | 2007-2012(引退、区分上はJAF-GT) | |
ガヤルドLP600+ | FIA-GT3 | 2012-2013(使用チームが全車LF2に変更) | |
ガヤルドLF2 | FIA-GT3 | 2013-2015(ウラカンに変更) | |
アストンマーチン | V8ヴァンテージ | FIA-GT2 | 2010-2012開幕戦(v12ヴァンテージに変更) |
V12ヴァンテージ | FIA-GT3 | 2012-2014(2015シーズンは使用チームなし) | |
ヴァンテージ | FIA-GT3 | 2019-2020 | |
ヴィーマック | RDシリーズ | JAF-GT | 2005-2012(撤退) |
ムーンクラフト | 紫電 | JAF-GT | 2006-2012(規定変更に伴い引退) |
オートバックス・スポーツカー研究所 | ガライヤ | JAF-GT | 2005,2007-2012(規定変更に伴い参戦休止) |
ホンダ・ACURA | CR-Z | JAF-GT | 2012-2015(撤退) |
NSX | JAF-GT | 2005-2006 | |
モスラー | MT900M | JAF-GT | 2010-2011、2012第3戦(撤退) |
ロータス | エキシージ | JAF-GT | 2005第3戦スポット参戦 |
エヴォーラ | マザーシャシー | 2015-2021 | |
シボレー | コルベット | JAF-GT | 2005,2008(c6型) |
コルベット | FIA-GT3 | 2011-2013(c6型) | |
フォード | GT | JAF-GT | 2005-2006 |
マクラーレン | MP4-12C | FIA-GT3 | 2013-2015 |
720S | FIA-GT3 | 2019 | |
ベントレー | コンチネンタルGT | FIA-GT3 | 2017-2018 |
問題点
このように日本のレースシーンでも人気を誇っているSUPER GTでもいくつかの問題を抱えている。
そのうちの代表的な例を紹介する。
参戦コスト高騰
前述した通り、GT500は凄まじい空力性能とエンジン技術(排気量わずか2.0Lで600馬力)を兼ね備えた結果、下手したら並のミドルフォーミュラよりも速く走ることができる。車両開発はメーカーが担当するとはいえ、かなり高性能なマシンなので当然購入・運用コストは高く、ほとんど参加チーム数の増減は起きないという状況にある。
GT500に比べれば安価なGT300でも世界的なグループGT3の過激な開発競争の波にさらされ、車両一台当たりの価格高騰が止まらない。そして元々開発費のかかるGTA-GT300も、GT3に対抗するべく相当な努力と資金が必要となっている。
ただし参戦コスト高騰の問題はSUPER GTに限った話ではなく、WECやIMSA、DTMなど古今東西、世界各国のスポーツカーレースで起きたことでもある。先述の通り、DTMはこれが原因でSUPER GTとの交流戦が流れる結果となった。
特にWECの華であるLMP1クラスが1社(トヨタ)のみになってしまった点を鑑みると、GTAでは依然としてGT500に3社を共存させたり、GT300の方では、上述した2つの規定より安価に開発できるマザーシャシーを供給するなどの努力により、上記で述べたシリーズよりはエントラントの減少を防いでいる方ではないだろうか。
タイヤ戦争の弊害
SUPER GTの大きな魅力であるタイヤ戦争だが、開発力の差により特定のタイヤメーカーを遣っているチームはほぼチャンピオン争いに加われなかったり、逆に1つのタイヤメーカーしか勝てないような状態が続くこともある。また日産のように4チームで3タイヤメーカーを使い分けるメーカーより、6チーム中5チームが同じタイヤ(ブリヂストン)のトヨタのほうが、タイヤに合わせこんだ開発ができるから有利という見方もある(前述で述べた通り、2024年から日産もkondo Racing以外はブリヂストンタイヤを履く)。
またDTMとの交流戦において、ワンメイクタイヤのDTMとの性能調整にはかなり苦吟したようであった。
しかしタイヤメーカーとの関係の強いチーム・ドライバーは多く、運営母体であるGTAとしてもSUPER GTの大きなウリにしたい部分でもあるため、現実的にワンメイク化は難しいように思われる。
BoPに対する不満
GT300で毎年のように不満の声が聞かれるのがBoPの問題である。車両やエンジンの大きさが全く異なる各車両を、たとえウェイトやリストリクターを用いようとも100%戦闘力を同一にすることは不可能なのは周知の事実であるが、それを差し引いても差が大きすぎる、という声が聞かれるのは日常茶飯事である。
特に規定として全く異なるGTA-GT300とGT3の勢力の不均衡は毎年槍玉に挙げられている。ただし「BoPが不利だ!」と騒がれているチームと同じマシンがチャンピオンになっているケースも散見されるため、主観も多分に含まれている批判が多いことは考慮すべきである。
「GT400」クラスを作って両規定を分けるべきでは、という声もあるが、実現には至っていない。
ガラパゴス化
以前は日本独自のマシンレギュレーションによりガラパゴス化が進むことが危惧されていたが、何度も触れている通り海外規定の導入によって心配されることは大幅に減った。その結果、海外でもSUPER GTドライバーに一定の評価が与えられ、WECのLMP1やブランパンGTなどのビッグスポーツカーレースに参戦する例も増えている。
だが、毎年同じサーキットでしか走らないため、セッティングの仕方やドライビングテクニックが各チーム・ドライバーとも習熟を極めてしまい、重箱の隅をつつくようなセッティングの詰め方になってしまうと言われており、こうした日本のやり方に慣れてしまうと、様々なサーキットで走る欧州では通用しないとされている。これはSUPER GTのみならず、日本のレース界自体が抱える慢性的な問題で、解決策はほぼ存在しないと思われる。
とはいえこれは欧米をスタンダードとして考えた場合の話であるため、それならいっそSUPER GT自体をアジアの最高峰レースと認知させよう、という声は内外から強い。
運営自体の問題
Youtubeのサムネイル等を作っていない、おかしなグラフを投稿したりするなど、広報にはあまり力が入っていない。
2023年シーズンには車検違反が多発したり、レース中の疑惑の部分をオンボード映像からカットするなど、レース方面でも怪しい部分がある。
その他GTAの代表の息子が代表を務めるチームが存在し、それに忖度したと言われる裁定を行うなど公平性には疑問が呈されている。
痛車の参戦
創作物やそのキャラクターとのタイアップカラーリングを纏う、いわゆる痛車のレーシングカーが多数存在する日本のレースだが、それはGTも例外ではない。ただし、GT500で禁止されているわけではないにもかかわらず、参戦事例は全てGT300のみとなっている(GT500は2007年のKRAFTの機動戦士ガンダム00が唯一)。
アニメ・キャラクター | チーム | マシン | 活動年 | 備考 |
---|---|---|---|---|
マッハGoGoGo | チームマッハ | ※1 | 2002年~ | タツノコプロ40周年のプロジェクトとして発足。最古にして最長の歴史を持つ。 |
トイ・ストーリー | apr | MR-S | 2007年 | Teamラナおよびウォルト・ディズニー・ピクチャーズとの共同事業。チャンピオンを獲得 |
機動戦士ガンダム00 | KRAFT | SC430 | 2007年 | 放送開始に先駆け第5戦からガンダムカラーに変更(車種名もバンダイ00ダンロップSC430に改められた)。ちなみにバンダイはメインスポンサーである。 |
カーズ | apr | MR-S | 2008年 | 前年のトイ・ストーリーに続く共同事業。第3戦富士で優勝。 |
初音ミク | Team Studie→Team UKYO | Z4→SLS AMG→AMG GT | 2008年~ | グッドスマイルレーシングとの共同事業。3度チャンピオンを獲得した最強の痛車。 |
鏡音リン・レン | MOLA | フェアレディZ | 2008年 | 最終戦の1レースのみのラッピングだが、このレースでモーラは歴史に残る大逆転でチャンピオンを獲得した。 |
エヴァンゲリオン | ※2 | ※3 | 2010年~ | Teamラナが既存チームと共同で行うプロジェクトであり、年によって母体チーム・マシンは全く異なる |
イカ娘 | LMP×PACIFIC | 430GTC | 2011~2012年 | J SPORTS実況の下田恒幸の「ここで行っちゃったんじゃなイカ?イカ娘!」の実況で知られる。 |
涼宮ハルヒ | DIJON | 911 | 2011年 | 第1、2、5、6戦のスポット参戦。第6戦でラッピングが刷新されている。 |
音々 | DIJON | コルベット | 2012年 | 涼宮ハルヒ、灼眼のシャナなどのキャラデザインを手掛けたいとうのいぢ氏のキャラクター。 |
インフィニット・ストラトス | DIJON | GT-R | 2013年 | スーパー耐久も同アニメのラッピングで参戦 |
攻殻機動隊 | PACIFIC | 911 | 2013年 | |
ラブライブ! | PACIFIC | 911→MP4-12C | 2014~2015年 | |
ミライアカリ | PACIFIC | 911 | 2019年 | 初のVtuber痛車 |
ホロライブ | PACIFIC | 488 | 2022年 | |
ぶいすぽっ! | PACIFIC | AMG GT | 2023年~ |
※1 モスラー、ヴィーマック、430GTC、GT-R、86など
※2 apr、カーズ東海、Rn SPORT、JOLC、X worksなど
関連タグ
スーパーフォーミュラ スーパー耐久…日本国内を代表するサーキットレースシリーズ。SuperGTはグランドツーリングカー(GTカー)に分類。
脚注
(※1)2013/5/7付 オートスポーツweb DTM、16年からSGTとエンジン統一か。代表認める
(※2)2014/1/14付 オートスポーツweb レクサスの新GT500車のベース車両名称は『RC-F』に
(※3)本来はアキュラブランドの車種である。
(※4)具体的にはウェイト(重り)である。またトヨタ・日産・ホンダ3社でフロントセクションの空力において性能が均衡するような措置が取られていたが、これもNSXがミッドシップであることに起因する。
外部リンク
SUPER GTプラス(テレビ東京)