概要
漫画・アニメ・ゲームなどの二次元キャラクターや、製作メーカー・スポンサー(企業)などのロゴをかたどったステッカーを貼り付けたり、塗装を行った自動車のこと。実車の他、模型、ラジコンなども含む。
「俺はアニオタ(萌えオタ)だぞ」と吹聴して回っている「痛い車」という意味と、イタリア車の通称である「イタ車」を掛けて生まれた造語である。
痛車が認知され始めたのは2000年代中頃で、秋葉原(東京)、大須(名古屋)、日本橋(大阪)などのオタク街で二次元キャラを貼った車が走るようになった。やがて2010年代に突入するとカスタムの一種として認知されるほどに広がりを見せ、専門の雑誌が登場したりミーティングも盛んに行われるようになった。
本来的にはいわゆる「萌えキャラ」を描いたものを指していたと思われるが、アメコミの主人公や特撮ヒーローなどのヒーローを描いた車も痛車と呼ばれるようになってきている。しかし、男性キャラクターを押し出した図柄、「萌え」よりも「燃え」を押し出した図柄の車は痛車ではない、と認識している人もいる。
オーナーは男性が大半で、女性オーナーもいないことはないが男性オタク向けのコンテンツ(美少女ゲームや美少女アニメ)を嗜む人ばかりであり、女性向けのコンテンツと交わりを持つことはあまり無い(あっても大きいお友達にも人気のある女児向け)。
前述の通り「痛車」とは「自分のオタク趣味をひけらかす為の車」であるため、広告として作られた「ラッピング車両」とは区別される。これは同人活動における二次創作と同様に、権利者に依頼を受けたわけでも許可を得たわけでもなく個人の趣味で楽しんでいる為である。民間企業が自社のマスコットとして採用している萌えキャラをラッピングした車両や、自治体などが当該地域のゆるキャラをラッピングした車両などは、定義上は痛車に該当しない。ただし世間やメディアにおいては混同されることが非常に多く、ラッピング車両との定義分けは有って無いような状況である。
現在では海外でも日本のサブカルチャーの延長として痛車作りが活発で、海の向こう側にも多数の同志が存在する。
呼称はそのまま「Itasha」もしくは「Otaku Car」である。
特にベトナムやインドネシアなどの東南アジア諸国で活発である。
モータースポーツ
世間での痛車文化の広がりと比例し、モータースポーツでも痛車が走ることが多くなっている。
SUPERGTのGT300クラスで出走している『GOODSMILERACING初音ミク』がその代表的存在である。参戦当初こそキャラクターモノをあしらった『イロモノ枠』という評判だったが、出資額に応じた特典が進呈される「個人スポンサー制度」とチーム・ドライバーの能力の高さもあり、3度のドライバーズタイトル・2度のチームタイトルを残している事から広く認知されている。
全日本ラリー、全日本ジムカーナ、D1グランプリ、鈴鹿8耐のようなバイクのレース、更には地方戦のアマチュア競技でも痛車がちらほら見られるようになっており、モータースポーツにおいても市民権を獲得していると言えるだろう。
2019年には世界三大耐久レースの一つであるスパ・フランコルシャン24時間レースに、GOODSMILEレーシングが強豪チーム・ブラックファルコンとのタイアップで初音ミク・Fate・プロメアの3台のメルセデス・ベンツの痛車を揃えて参戦し、プロメア号が3位表彰台を獲得するという快挙を達成している。
痛車のレーシングカーになったことがある作品例
- 初音ミク
- 鏡音リン・レン
- 新世紀エヴァンゲリオン
- 侵略!イカ娘
- 涼宮ハルヒの憂鬱
- インフィニット・ストラトス
- ラブライブ!
- ばくおん!!
- ガールズ&パンツァー
- 冴えない彼女の育てかた
- ミライアカリ
- プロメア
- Fateシリーズ
- ホロライブ
オリジナルキャラクター/ご当地キャラクター
- 高崎くす子/佐藤りあ:CUSCO(ラリーカーコンストラクター・パーツメーカー)
- 山口美羽:INGING(山口カローラを母体とするレーシングチーム)
- 諏訪姫:PLUM(ホビーメーカー)
- ニパ子:ゴッドハンド(ホビーメーカー)
- めろんちゃん:メロンブックス(同人誌販売)
- 桜織:富士吉田市(自治体PRキャラ)
ゲーム
Xbox360の「Forza」シリーズは車体に図形のパターンやレイヤーの組み合わせによるペイント機能があり、これを最大限に活用した、さまざまなキャラの痛車が登場している。
また、オンラインゲーム「ドリフトシティ」内にも痛車が多数存在する。
後者に関しては制作するためにステッカーをゲーム内通貨で購入した上で、さらに「ステッカーコーティング剤」なる高額な使い捨てアイテムを購入しなければならない(しかも、かつては有効期限1ヶ月で500円以上もする課金アイテムだった)
最初に痛車を作った人は痛車がこんな形で商売に利用されることになろうとは思ってもいなかったであろう。
ネタの作り方
時に見られるネタの作り方にはこんなモノがある。
- キャラと車両のネタの掛け合わせ
実際にあった例としては、Carina同士(トヨタ・カリーナとカリーナ・ベルリッティ)の引っかけがある。
また、ボカロ痛車を作る際にYAMAHAを強く意識するのもこれに当てはまると言えよう。
先述のようにベースがイタリア車であった場合、"イタ車で痛車"などと言われてしまうこともある。
ゲーム開発会社アクアプラスとスバル車チューンを行っていたカーショップAQUAとの関係からベース車両にインプレッサを選ぶというひねった掛け合わせもあった。
- 擬人化キャラを作ってしまう
その車に思い入れがあるあまり擬人化キャラを作り、それで装飾した結果どう見ても痛車にしか見えないような様相を呈するケースがある。これを痛車と言うかどうかは、オーナーの自己申告に委ねるしかない。
モータースポーツにおける例として、2014年の4月1日にエイプリルフールに、SUPERGTの500クラスの「LEXUS KeePerTOM'S RCF」にメインスポンサーのKeePer(カーコーティング)を擬人化したととれる『キパ子』を車体全面にあしらったカラーリングシートを公開した例がある。当時、チーム関係者すら事前情報を持っておらず、レース関係者やファンを驚愕させた。
もちろん実際にプリントが施工される事は無かったが、ワンポイントでキパ子のステッカーが貼られた状態で走った実績がある。
- 早苗
SUPERGTのGT500で活躍しているカルソニックチームインパルのGT-Rは、一部から早苗の愛称で親しまれている。
これは2011年の第2戦富士(実質的な開幕戦)にて、カルソニックGT-RがGT300クラスのイカ娘フェラーリを抜く際にスピン、そのままフェラーリと激しく接触したことが、『侵略!イカ娘』に登場した長月早苗のイカ娘に対する過剰なスキンシップにたとえられた結果である。
商標として
痛車という言葉は、模型メーカー青島文化教材社の登録商標(商標登録番号:第5145997号)でもあり、同社は痛車のプラモデルを発売している。
フジミ模型も痛車のプラモデルを発売しているが、シリーズ名は「きゃら de CAR~る!!」である。
これは商標権の制約で「痛車」を商品名に使うことができない為である。
なお、2024年時点では痛車の商標登録は消滅している模様。
注意点
先述の通り、広告目的でない痛車の存在は同人活動に近く、版権絵を使用する場合でも権利者に許可を取らない。「公認するとトラブルが起こった時に責任を負う羽目になる」という理由で、権利者側があえて避けているのも同人と同じである。
今のところ権利者から訴えられたなどの話は無く、暗黙の了解で成り立っていることが分かる。
但し、二次創作の絵を無断で使用したら二次創作の作者からクレームが付き、剥がす羽目になった事例は存在する。
また、痛車は非常に目立つ存在であるため、事故や事件に巻き込まれると、当事者に過失が無くてもTwitterなどで槍玉に上がりやすい。
過失がある場合は貼っている作品に泥を塗る事にもなりかねないため、悪評を買うような行動は慎むべきである。
その他
痛車のホビー展開(プラモ・ミニカーなど)が活発だったころ、各自動車メーカーの車種がこぞってリリースされていたが、日産自動車の車両についてメーカーからの許可が下りなかったためか一切の発売がなかった。
関連イラスト
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