概要
GA文庫刊行のライトノベル。作者は『のうりん』などで知られる白鳥士郎。
イラストはしらび(pixivアカウント)。監修は西遊棋(関西将棋会館所属の若手・女性棋士からなるユニット、豊島将之九段などタイトル保持経験者も所属している)。
GA文庫10周年記念プロジェクトの第6弾として、文庫の発売と同時に漫画化、ドラマCD化、WEBラジオ化がされている。
既刊は、2024年6月時点で原作小説が本編19巻(全20巻予定)、外伝が「X.5巻」かつ電子書籍限定の形で3巻出ている(今後、本編第20巻が出るまでに、外伝がもう2巻出る予定が告知されている)。
漫画版の作画はこげたおこげ。原作小説の5巻までの範囲で、全10巻で完結。ガンガンONLINEでも配信されていた。
また、テレビアニメ化もされた。詳細は別途後述。
題名の「りゅうおう」とは勇者に世界の半分を与えることがお仕事(?)な竜のことではなく、成り飛車及びプロ将棋の大タイトルの一つである竜王。ライトノベルとしては珍しい将棋をテーマとした作品で、作中には現実の棋士をモデルにしたと思われるキャラクターが多数登場する。2016年には第28回将棋ペンクラブ大賞で文芸部門優秀賞、『このライトノベルがすごい』においては2017年の文庫部門一位を獲得している。
将棋の神様と現実先輩におもちゃ認定されているラノベでもある(余談に詳細)
あらすじ
16歳の若さで、棋界の二大タイトルの一つである「竜王」を奪取したものの、その後大スランプに陥っていた主人公の九頭竜八一。そんな彼が3月のある日自宅に帰ると、なぜか女子小学生の出迎えを受ける。
その小学生・雛鶴あいは内弟子としての弟子入りを希望していた。
「まあ一度対局してあげれば帰るだろう」と思い気楽に対局してみたところ、あいの将棋の才能が非常に高いことに気づき、弟子として彼女を育てようということになるのだが、周囲からはロリコン扱いされるわ、当然ながら両親があいを連れ戻しにやってくるわといったドタバタが続き、八一はその騒動に翻弄されることになる…。(Wikipediaより一部抜粋)
主な登場人物
主人公。関西の清滝一門所属。第一巻時点で16歳。物語開始時点で八段、5巻で九段に昇段。
史上4人目の中学生棋士としてプロ入り、16歳で竜王位を奪取した若き天才棋士。しかし竜王奪取後はプレッシャーから連敗を重ね、世間では「クズ竜王」などと馬鹿にされていた。その矢先にあいと出会い、紆余曲折を経て内弟子に迎えることになる。
棋士としては居飛車党であり、先手番相掛かりや後手番一手損角換わりといった力戦調の泥臭い戦型が得意。将棋に関しては天才的な閃きを発揮するが、周りの女性が寄せる好意には極めて鈍感。最近はJSと何かと縁があるせいでロリコン扱いされることもあるが、才能があるあいには厳しい英才教育を施している。
なお、アニメ第1話で竜王を奪取した対戦棋士・碓氷尊の(棋風の)モデルは長らく不明だったが、17巻の描写から藤井システムの考案者として有名な藤井猛と思われる。
ヒロイン。第1巻では9歳の小学三年生。第6巻以降はプロとして活動し、16巻で女流名跡のタイトルホルダーとなる。
実家は石川県和倉温泉の老舗旅館「ひな鶴」。竜王戦の最終局がその旅館で行われたことがきっかけで八一に憧れ、長期休暇を利用して単身八一の家に押し掛ける母親(CV:堀江美都子)のしつけで家事全般が得意。ちなみに父親を演じたのは水木一郎。
独学で、わずか3カ月の内に将棋図巧という全問解ければプロになれるレベルの詰将棋を全問解いてしまうほどの才能の持ち主。特に中盤から終盤にかけての読みの速さ、深さは現役の竜王である八一すら凌駕するほど。得意戦法は相掛かり。
八一のことは男性としても好意を寄せており、他の女性に気を向けた八一に「だら(「バカ」を意味する方言)」というのはお約束。
もう一人のヒロイン。八一の姉弟子であり10年来の幼馴染。第一巻時点で14歳。女流ながら奨励会二段に所属しており、14巻までは女王、女流玉座の二冠保持者であった。6巻で奨励会三段に昇段。9巻で女王の5期連続防衛を果たして15歳にして永世女王の資格獲得。12巻で四段に昇段し、女性初のプロ入りを果たす。居飛車党。
女流棋士との戦いでは公式戦50戦負け無しという圧倒的な強さを誇り、銀髪碧眼の美しい容姿もあって世間では『浪速の白雪姫』と呼ばれ人気がある。
八一に対して好意を持っており、12巻で交際関係に至ったが、それまでは相手の鈍感さや本人の口下手さゆえにほとんど伝わってはいなかった。あいとは恋敵同士ということもあり会えば口喧嘩する間柄。
罵倒や照れ隠しの際に「ぶち殺すぞワレ」というのが口癖。
清滝鋼介(きよたき・こうすけ)(CV:関俊彦)
八一の師匠。第一巻時点で50歳。九段の段位を持ち、名人戦にも二度挑戦経験のあるベテラン棋士(アニメOPでは月光とタイトル戦を戦っている)。
普段は常識人だが、「弟子に負けた腹いせに将棋会館の窓から放尿」「弟子の竜王奪取記念に旅館で裸踊り」など奇行も目立つ。あいのことは孫のように可愛がっている。
アニメでは奇行のシーンが全面カット、好人物であることが強調されている。
清滝鋼介の一人娘。第一巻時点で25歳。研修会C2所属。
八一と銀子にとっては姉のような存在だが、父への弟子入りが遅かったため棋士としては妹弟子にあたる。女流棋士資格取得の年齢制限が迫っていることに焦りを覚えている。
しかしメンタル面の弱さを克服し、仮免許である女流3級への昇級を果たした。
作者自ら「私の全てを背負ってもらいました」と語るほど思い入れの深いキャラ。
第2巻より登場する「もう一人のあい」。雛鶴あいとの呼び分けから「天ちゃん」というあだ名で呼ばれる。初登場時点では9歳。
実家は神戸市の豪邸。父親は元アマチュア名人、母親も元将棋部という将棋一家に育つ。両親とは幼少期に事故で死別し、祖父と暮らしていた。得意戦法は一手損角換わり。
元は日本将棋連盟会長である月光の門下だったが、当の月光から八一に預けられ、最終的に八一自ら弟子に取ることを決意する。終盤の寄せを得意とするあいとは対照的に、優れた大局観と緻密な序盤戦術による受け将棋が持ち味。
両親を早くに亡くし、祖父に甘やかされて育ったため、性格は負けず嫌いに加え、傲岸不遜で高飛車。一方で八一や清滝一門への思いやりのこもった発言も多い。
あいに若干遅れて、6巻以降はプロとして活動。9巻でタイトル挑戦を決めて一気に女流二段へ昇段。その後16巻で銀子が保持していたが休場で返上となった女王・女流玉座のタイトルを立て続けに獲得し、女流二冠に。他に複数冠者がいないため、女流棋士序列一位となる。18巻で女流帝位に挑んだが、祭神雷の体調不良(後に休場)により、第1局のみで打ち切りとなり、その白星のみでタイトル奪取、女流三冠となった。
女流タイトルの一つである山城桜花のタイトルホルダー。京都の名家出身で、はんなりした京言葉を話す和風美女。
穴熊に囲って固さで相手を受け潰すスタイルから「嬲り殺しの万智」と呼ばれる。八一、月夜見坂とは小学校からの知り合いで、特に月夜身坂とは同い年のライバル。
女流棋士としての傍ら、「鵠」のペンネームで観戦記者としても活動している。
女流玉将のタイトルホルダー。跳ねた赤髪に八重歯が特徴。一人称は「俺」で、言動は一昔前のヤンキーそのもの。
防御不要の空中戦を得意とし「攻める大天使」の異名を持つ。八一より2歳上で、供御飯万智とは同い年。同年代の八一とも昔から対戦経験があり、小学生名人戦決勝では敗北を喫した悔しさに彼を殴ったことがある。
女流六段でタイトル獲得51期(第4巻時点)を誇る女流棋士、29年にわたる女流名跡のタイトルを含む女流四タイトルの永世位を獲得し、一時は全冠独占も達成したことから「永遠の女王(エターナルクイーン)」と呼ばれている。
八一の幼少時からのライバルでB級2組、六段。18歳。師匠は釈迦堂。普段の対局からマントを着用しカラコンをオッドアイのようにつけ「ゴッドコルドレン」「貴族」を自称する中二病棋士。八一とは対照的に順位戦全勝中で、他の棋戦の成績も抜群である。
第3巻より登場するA級棋士、38歳。九段の段位を持ち「玉将」のタイトルを持つ。
振飛車党総裁。攻防一体の豪快な捌きが特徴の棋風で「捌きの巨匠(マエストロ)」と称される。将棋道場を併設した銭湯「ゴキゲンの湯」を経営している。
第3巻より登場する棋士、38歳。八段の段位を持ち、名人の研究パートナーを務める。
居飛車・振り飛車両方指す「両刀使い」。中性的な容姿と言動でオネエ疑惑がささやかれるが、努力で順位戦A級に上り詰めた。徹底的な研究に裏付けられた、粘り強い、負けない将棋に定評があり、八一はデビュー戦から彼に2連敗している。
タイトル獲得99期・永世六冠を誇り、棋士から「神」と呼ばれるほどの最強棋士。
作中では名前は明かされずただ名人とだけ表記される。
経歴や棋風(アニメでは風貌も)などから羽生善治永世七冠がモデルと誰からも思われていたが、2018年8月に作者が羽生がモデルであると公式に認めた。
日本将棋連盟会長、50歳。病により失明しながら九段の段位をもつ。竜王戦1組以上22期、名人戦挑戦者リーグA級在位32期、タイトル獲得総数27を誇る天才棋士。
八一に2人目の内弟子(天衣)を取ることを勧めた張本人。
成績と将棋連盟会長という経歴から谷川浩司十七世名人がモデルであることが示唆されている。
椚創多(くぬぎ・そうた)
若干11歳で奨励会三段の天才少年。八一に懐いてる(?)。おそらくモデルはこの人物。
岳滅鬼翼(がくめき・つばさ)
「不滅の翼」の異名を持つ大分県出身の女性棋士。
かつては女性初の小学生名人となり、奨励金に入会するも、21歳の時に年齢制限で2級で退会。その後、女流棋士に2級で編入する。
TVアニメ
2017年7月11日に、アニメ化決定を発表。と同時に、公式サイトも開設された。
キャストはドラマCDからの続投。
制作会社は「ロウきゅーぶ!」や「天使の3P!」といった『男子高校生の師匠と女子小学生の弟子』を描くことに定評のある『projectNo.9』が担当。
2018年1月期作品として放送された(放送時期については2017年10月14日に発表)。全12話。
放送局はTOKYOMX、三重テレビ、KBS京都、サンテレビ、AT-XおよびBSフジ。なお、放送曜日は全て月曜日に合わせている。
本編の放送終了後、5分枠の番組として「かんそうせん」がTOKYOMXとAT-Xで放送された。なお、AT-Xではリピート放送のおまけという形での放送だった。
制作スタッフ
監督 | 柳伸亮 |
---|---|
シリーズ構成 | 志茂文彦 |
キャラクターデザイン | 矢野茜 |
音楽 | 川井憲次 |
制作会社 | projectNo.9 |
主題歌
OP:Machico 「コレカラ」
ED:伊藤美来「守りたいもののために」・「あの日の夢」
余談
作品自体は言うまでもなくフィクションであるが、実際のプロ将棋界の人物や出来事などをモデルにして、それを誇張する形でストーリーにしている形である。プロ棋士達からなる西遊棋が監修に参加していることで、作品内で出てくる棋譜などにもリアリティがあったりする。
……はずだったのだが、近年の実際の将棋界は作者等が想定していた以上のドラマチックな出来事が続出しており、「ぼくがかんがえた、さいきょうのしょうぎラノベ」の設定を現実が上回っている、と作者自身が嘆いている状況である。
いわく、以前は「16歳で竜王などあり得ない」とリアリティーの無さを糾弾されたが、昨今は逆に現実に追いつけてないことを(当然ネタとして)糾弾され、一方で予言者扱いされたこともあって作者曰く「イエス・キリストも真っ青の手のひら返しをされた」とのこと。
ほとんどが名前を出してはいけない人物達のせいではあるが、原作ではそれまでの公式戦最長手数(389手)を上回る402手で終局としたシーンを入れたところ、その後実際の公式戦で420手で終局(しかも持将棋で引き分け再対局)した事例や、順位戦A級リーグで4人による名人戦挑戦プレーオフ(77期終了時点で過去3回発生している)を新刊の構想として書き入れようとした矢先に、2018年3月の76期順位戦A級リーグ最終戦の結果、前代未聞の6人プレーオフが成立してしまい、この構想を没にする羽目になっている。しかもこの2例、両方共アニメ放映中だったうえ、後者は名人のモデルであるあのお方が名人戦の挑戦者に勝ち上がってしまうというおまけまでついた。つまり、作中状況と逆の「竜王がタイトル100期をかけて名人に挑戦する」となってしまったのである。作者はこの現実に某有名漫画に登場するフランス人のようになってしまった(証拠ツイート)。ただし奪取は成らずであった。
なお、作者は後に名前を出せないかの人物へのインタビューをすることになり、その記事の序盤でこう述べている。
「もう『りゅうおうのおしごと!』どころではない」
「完全にラノベを超えてしまった」
そして13巻の帯でも
「現実に、負けるな。」
「いま一番、現実に追い抜かれそうな将棋ラノベ最新刊!」
2021年9月13日には、15巻が14日に発売されるタイミングで藤井三冠が誕生。これは電子書籍版の配信6時間前の出来事であった。作者曰く「フィクションを殺しにかかるとか…」と。ここまでくると、もはや神がかっているというレベルは超えているのかもしれない。
そしてついに。
2021年11月13日、藤井聡太三冠が豊島将之竜王に4連勝とし、ストレートで竜王奪取を決めた。
リアル「りゅうおう(四冠)のおしごと!」がここに成就した。
更に、2022年2月12日に藤井聡太竜王(四冠)が渡辺明王将(名人・棋王)に4連勝、竜王戦と同じくストレートで王将奪取達成。
前代未聞、史上初の10代での五冠達成に作者は「ここまで強すぎると将棋は本当にフィクションの題材にしづらくなるのでは…」と頭を抱えていた。
なお、四番手直りに改められて以降は3例目となる、名人在位者に指し込みが記録されるという珍事も発生した。
2023年1月8日には王将戦第1局初日に羽生善治王将が藤井聡太王将に出した「一手損角換わり」の戦型が「再現の一手出た」「予言書」と主催紙のスポニチに掲載された。作者がインタビューを受けるも、オロオロしちゃいましたよと苦笑いで返している。
同年3月19日、午前中に藤井五冠が一般棋戦グランドスラムの達成を果たす。この件がニュースで報じられた数時間後には、棋王戦で史上最年少となる藤井六冠が誕生。これに関して作者は「誤植って言われるよ???」とコメントを残している。
同年6月1日、藤井六冠が名人戦を制し史上最年少、20歳10ヶ月での竜王名人(七冠)が誕生。テレビアニメ版が5周年を迎えた別の意味でもメモリアルイヤーとなった2023年に、現実がフィクションを超えるような事態が発生する。
同年10月11日、藤井竜王名人(七冠)が王座戦も制して史上初の八冠独占を達成。丁度その頃、りゅうおうのおしごと!でも八一の『八』にちなんだ記念フェアを実施中の最中の出来事で、まさか八にちなんだキャンペーン中に『八』冠が誕生することになろうとは……。
これに関して作者は「現実さん、ラノベ作家に厳しすぎる」とXで述べている。
また、「ここから先現実に追いつこうとしたら一年毎にタイトル手に入れて失冠もしないという葛藤も挫折もない山だけのご都合展開にしないとならない。現実はプロットの書き方がおかしい」と弱音を吐いている。
そして2024年1月1日、九頭竜八一役の内田雄馬と、雛鶴あい役の日高里菜が結婚を発表。違う方向から現実が原作超えをまたもやされてしまった。
これには作者も「藤井聡太八冠の存在を予言するとともに声優さんのご結婚も予言してしまう『りゅうおうのおしごと!』というラノベ、本物の予言書なのでは…」「声優同士の結婚という力技で現実から既成事実を作ろうとするあいちゃん怖い。俺はこの先の展開をどうすれば…?」と更に困惑することに。
同年6月20日には藤井八冠と伊藤匠七段が叡王戦で対局。最終局までもつれ合う展開になり、最終的に伊藤七段が遂に藤井八冠からタイトルを奪取することに成功。
藤井八冠と伊藤七段の対局が同年代かつ長年負け続けてきた相手からのタイトル奪取について八一と歩夢の関係と2人のストーリー内での対局に似ている… どころか想定以上に上回った事態について「エモ増しで現実にする藤井聡太と伊藤匠が憎い…」とコメント。
さらに同年7月1日、遂に藤井七冠が棋聖戦を5連覇し永世棋聖の称号を獲得。
53年ぶりかつこれまでの記録を大幅に上回る、史上最年少(21歳11ヶ月)での永世称号獲得でこれには作者も
「フィクションである『りゅうおうのおしごと!』は主人公(九頭竜八一)がタイトル初失冠してから立ち直るまで1冊まるまる450ページかけて書いたのに現実(藤井聡太)は初失冠してからたった10日かそこらで立ち直り永世棋聖を獲得してるとか…53年ぶりに記録更新とか… もう少し、こう…何というか… 手心というか…」と現実離れしていることに困惑している状態に。
ちなみにファンから一番のフィクション扱いを受けているのは姉弟子(現実の将棋界に男女制限はないが、女性の棋力が男性と比較して低いため「女流」という特別枠を作らないとプロとして最低限の四段にすら到達できていないのが現状。その上で初の女性プロに成人前に到達している)その次にあい(まだJSなのに、解ければプロ確実な問題集を三ヶ月で解き切っている。とある理由から八一との師匠関係を解消し単身上京、八一自身も(もう一人の弟子に巻き込まれて)大阪から引っ越さざるを得なくなった)と主人公よりヒロインたちの方が余程現実離れしている。
流れ的に次の将棋の神様の一手は「少女が初の女性棋士総合プロ出陣」だと思われる(囲碁ではかつて存在していた。)
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