解説
君主とは専制国家を絶対的な王権をもって統治する、いわば高貴な血統を正当なものとして独裁的な権力によって国政を総攬するものをいう。そのため個人的な人格や能力、自制心のみならず受けてきた教育、即位した年齢によって君主の治世が左右されることが多々あった。
その中でも名君とは、数多い君主の中でも特に人徳に優れたといわれる王族が、その優れた統治能力によって民心を安定させ、国に平和と安寧、繁栄をもたらすものをいう。また、名君の中でもさらに優れた人物は、他国にも名声が知れわたり、周辺国との融和的な外交によって自国を含めた諸国にも平和と安寧をもたらすことが可能である。
しかし、たとえ聡明な資質を持っていたとしても年を経ることで名君の誉れ高った君主が暴君へと変貌することがある。(名君として即位したが、いつしか暴君となったローマ帝国の皇帝・ネロ、寵姫・楊貴妃を得たことにより政治に倦み、安史の乱で国を傾かせた唐の皇帝・玄宗などが有名である)
そのため、多くの君主国では、君主に欠陥があったとしても支配が揺らがないよう法を制定し、官僚組織を整備することによって、君主は名目上君臨するにとどまるようになっていった。立憲君主制であり、
歴史上の名君
- 日本:仁徳天皇、聖徳太子、醍醐天皇、平清盛(若い頃)、源頼朝、武田信玄、上杉謙信、北条氏康、北条泰時、北条時頼、北条時宗、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康、徳川秀忠、徳川吉宗、池田光政、上杉鷹山、明治天皇、松平容保、昭和天皇など。道鏡、平将門、足利尊氏、明智光秀、石田三成、吉良上野介と言った悪人扱いされる人々も、領主や指導者として活躍した現地では名君扱いである。
- 中国:姫発、劉邦(晩年除く)、唐の太宗、趙匡胤など。暴君の代名詞である紂王は史実では殷王朝の絶頂期を築いており、悪女の汚名を着た呂后、則天武后や西太后も彼女達の代で王朝が滅ばなかったどころか長続きした理由から名君説がある。
- イギリス:イングランド王エドワード1世、エリザベス1世、ヴィクトリア女王など。エドワード1世の祖父ジョン欠地王は内政面では名君だったことが評価される。
- フランス:ルイ16世。フランス革命に伴って暴君の汚名を着せられたが、実際は民衆想いで政治面でも優れていた人物であったとされる。十字軍時代のフランスを牽引したカペー朝はフィリップ2世、ルイ8世、ルイ9世と3代に渡って賢王を輩出した。
- ギリシャ:アレクサンドロス大王。破壊者・悪の帝王イスカンダルのイメージが強いが、征服したエジプトやペルシアの文化や都市を破壊せず、敵の将兵を採用するなど寛大な政治方針で東西文化の融和を図った古代最高峰の名君。
- ローマ:オクタウィアヌス(アウグストゥス)。ローマ帝国の歴史に燦然と輝く稀代の天才ユリウス・カエサルが後継者として選んだ、初代ローマ皇帝。
- ネルウァ、トラヤヌス、ハドリアヌス、アントニヌス・ピウス、マルクス・アウレリウスの5名に尊称を奉り、五賢帝と言う。ローマ大帝国の繁栄を築いた時期に在位した皇帝。
- スペイン:カール5世。スペイン王兼神聖ローマ帝国皇帝。大航海時代にスペインに「太陽の沈まぬ国」と呼ばれる全盛期をもたらした。またラス・カサスの懇願を受けて、インディアンに対する非人道的な扱いの撤廃を目指した。
- スウェーデン:グスタフ・アドルフ(グスタフ2世アドルフ)。「北方の獅子」の異名を持つ自ら前線に立つ戦闘王であると同時に、国内の行政や教育、商工業の奨励にも務め、スウェーデンをバルト帝国と呼ばれる大国にまで仕上げた文武両道の名君。
- ペルシア:キュロス2世。アケメネス朝ペルシアの創始者。行政区画の設置と他教徒に対する寛容さで「メシア(救世主)」「解放者」と讃えられ、ペルシア帝国の礎を築いた。現在のイラン人はキュロス2世がイランの建国者であると考えており、キュロス大王とも呼ばれる。
- イスラム:アッバース朝のアル・ラシード(ハールーン・アッラシード)、アイユーブ朝のサラディン、マムルーク朝のバイバルス、オスマントルコのメフメト2世など。ホラズムのムハンマドのように他勢力に敗れたため暗君扱いされた名君候補も多い。
- ロシア:ピョートル1世、エカチェリーナ2世。両者ともロシアの近代化・大国化に大きく貢献し、「大帝」と讃えられた。ロシアでは苛烈な君主でも歓迎されやすい気風があり、イヴァン雷帝のような暴君と呼んで差し支えない君主でも評価されやすい。
説話、創作の名君
- 儒教:堯、舜など。理想化された聖帝で、日本では仁徳天皇や聖徳太子と類似性が多いことから親しまれ、さまざまな神話や文学に影響を与えた。
- 仏教:転輪聖王。
- ヒンドゥー教:マハーバリ。神々を打倒して地下地上天空の三界を支配したアスラ。神々にとっては敵だが、彼の支配する世界は喜びに溢れ、飢える者はどこにもいなかったという。後にヴィシュヌ神に退治されるが、その徳の高さに感心したヴィシュヌによって地下世界の王となり、現在でも生きて領民の安寧を願っているとされる。
…ただし、天照やオシリスは臆病な上に失敗が多く、そのくせ我儘でプライドが高かったり、部下や一族の助けで危地を脱するなど暗君のように描かれることも多く、pixiv上ではそれがネタになることもある。ゼウスに至っては敵対者に残忍な報復をしたり、女好きが高じて天界を騒がす騒動になるなど暴君全開な存在であり、現代日本人から見れば名君に見えないとする解釈もある。おや、誰か来たようだ。