ジェットエンジン
じぇっとえんじん
概要
エンジンの一種。
外気を吸入、燃料と混合して点火、膨張させて末端から排出、この排出した噴流(ジェット)の反作用で飛行するエンジンのこと。
重量の割に高出力な点や、構造が単純で信頼性が高いなどで現代の航空機のエンジンの花形となっている。
ジェットの反作用で推進力を得る推進機関全般を指すため、ロケットエンジンもジェットエンジンと呼ぶことは可能なのだが、外気を吸入しない、という点で基本は別物扱いされている。
また現代実用されているジェットエンジンは大半がガスタービンエンジンの一種であるためこれに限定されることも多いのだが、 タービンを用いないパルスジェットエンジンやラムジェットエンジンもジェットエンジンである。
「ジェットの反作用を使うか否か」という点が基準であるため、全く同じエンジンでも使い方によってジェットエンジンと呼べたり呼べなかったりするんだけどもご愛嬌。ここで言及する中にも厳密にはジェットエンジンではないものが含まれていることに留意されたし。
ものすごく大雑把なジェットエンジンの理屈
ターボジェットエンジンの動作をものすごく乱暴に解説する。
ジェットエンジンの特徴
利点
- 構造が単純
ジェットエンジンの構造なんぞ、「扇風機で灯油を燃やしている(序に言えばその燃焼のエネルギーで扇風機を回す)だけ」と表現されるくらいに単純である。
中にあるのは風車のお化けが何段にも連なったものと言っちゃってもいい。
さらにパルスジェットエンジンや、「ダクトエンジン」などとも表現されるラムジェットエンジンに至っては正真正銘ただの管である。
構造が単純だということは、壊れる部分が少なくて信頼性が高いということである。機械の行き着く先はシンプル・イズ・ザ・ベスト。
- とにかく大出力
ジェットエンジンの基本は「燃料と空気をガンガンぶち込んで大出力を得る」だし、先述の簡単な構造とも相まって重量あたりの出力はレシプロエンジン等の比ではない。
このため「軽くて高出力」が要求される航空業界では、相対的に重くて複雑で低出力なレシプロエンジンをあっさりと置き換えてしまった。
特にヘリコプターの場合、黎明期のレシプロエンジンを搭載したヘリは飛ぶのがやっとという有様であり、ジェットエンジン(ターボシャフトエンジン)無しでは進化は語れない程の恩恵を受けている。
- 雑食性
極論すれば、ジェットエンジンの燃料は「燃える流体」ならなんでもいい。(但し航空用は除く)
ジェット燃料としてメジャーなケロシン(精製された灯油と思えばいい)以外にも、ガソリン、軽油、アルコール、メタンガス、プロパンガス・・・とおよそなんでも使える。(Y2Kがいい例である)。
欠点
- 音がやかましい
ジェットエンジンは確かに高出力だが、それと引き換えというかなんというかとにかく騒音がでかい。
燃焼させた高温高圧ガスを噴出させる構造上、ピストンエンジンのように燃焼室を完全に密閉することはできない上に、噴出される高速のジェット自体が強烈な轟音を発生させる。
- 燃費が極悪
燃料をあまり選ばない代わりに、凄まじい大食漢である。
一般的なジェットエンジンの空燃比は空気:燃料で60:1とガソリンエンジンと比べてもはるかに希薄な混合比だがそれでもパワーを稼げる分燃費は悪い。
ピストンエンジンは運転サイクル中の燃料を燃焼タイミングの時だけ噴射、燃焼させる(多気筒になってくると、常にどこかのピストンには噴射していることになるが)が、(タービン)ジェットエンジンの運転は基本的にサイクルがなく、回り始めたら切れ目なく燃料噴射と燃焼が続くからである。
- (航空用の場合)意外と燃料を選ぶ
先ほど「雑食性」とは書いたが、航空用の場合はそうは行かない。
「僅かなトラブルが最悪の事態に発展する」の最たるものと言える航空機の世界に於いては、燃料は「低温でも凍らない」「エンジンや配管を侵さない」「酸化して異物を生じさせて配管を塞がない」等の厳しい条件が要求される。
- 設計・製造・整備に特殊な技術を要求される
ジェットエンジンの構造は確かにシンプルであるが、その代わり「高温高圧の燃焼ガスのエネルギーでタービンという精密機器を高速回転させる」という極限状況にあるエンジンであるため、設計や製造、整備には特殊な技術が要求される。特にエンジン構成部品の材質は過酷な極限環境である運転状態に耐えるため極めて重要であり、非常に高度な冶金技術を必要とする。
ジェットエンジンの種類
パルスジェットエンジン
最も原始的なジェットエンジンの一つ。
「管の途中にガスの圧力で閉まる逆止め弁と燃焼室付けただけ」という非常に単純な構造をしている。(管の形を工夫すれば逆止め弁すらなくすことが可能)
動力用としてはナチスドイツのV1ミサイルに搭載されたものが有名である。
構造は単純で生産性・信頼性は高いが、タービンやファンで空気を圧縮しない言わば「自然吸気」のため出せる出力は低い上に断続的で、(動力用としてみた場合の)効率が悪いため今では殆ど使われていない。
しかし、動力用ではなく燃焼器・つまり「熱源」として見た場合は非常に効率が高く、パルスジェットエンジンの構造が瞬間湯沸かし器やフライヤーに応用されることもある。
モータージェットエンジン
パルスジェットエンジンの効率の悪さを改善するため、吸気部に外部動力で稼働する圧縮機を追加して圧縮空気を送り込むようにしたもの。
構造はターボジェットエンジンなどと比較して単純であるが、圧縮機駆動用に別の動力を必要とする(=エネルギー効率が悪化する、重量も増える)ため初期の試作機に用いられる程度で終わった。
ターボジェットエンジン
燃焼ガスのエネルギーをタービンで回収して稼働する圧縮機を用いて空気を圧縮し、高温高圧の燃焼ガスを生成するタイプのジェットエンジン。
「自然吸気」で効率が悪かったパルスジェットエンジンや、圧縮機を別動力で動作させていたモータージェットエンジンと違って、言わば自給自足で圧縮空気を作ることができるようになったため、効率は飛躍的に改善した。
要するに、ジェットエンジンが遂に航空機の動力源として一人前になったのである。
(パルスジェットやモータージェットと比べて)効率は改善されたものの、今度は「排気ガスの速度が速すぎて効率が悪い」という新たな弱点が生まれた。
実は、排気ガスの速度は飛行機の飛ぶ速度と同じくらい~少し速いくらいがもっとも効率がよく、あまり排気ガスの速度が速すぎると却って効率が悪化するのである。さらに騒音も非常に大きく、現代では航空機に使用されることは少なくなってきている。
ターボプロップエンジン
先述の通りターボジェットは排気の速度が速すぎて、旅客機や輸送機のような機体の低速巡行には不向きである。
そこで、排気の反作用を動力とするだけでなく、排気のエネルギーを使ってプロペラを回すことによる推力も付与したエンジンである。
タービンを使って排気のエネルギーを回収し、減速用歯車で適当な速度まで減速した上でプロペラを稼働させる。
推力の大半はプロペラ由来で、排気が推進に全く寄与していないものもある。
低速での効率はターボジェットと比較して大幅に改善されたが、プロペラは気流との相対速度が音速に近づくと効率が劇的に悪化する欠点があり、機体速度は700km/hまでが実用的な速度域とされている。
ターボプロップのくせに920km/hも出る外道も居るけど。
Tu-95「呼んだかね?」
…結局プロペラで飛ぶから最高速もあまり変わらない、じゃあレシプロ(ピストン)エンジンで良いんじゃないの?とお思いかもしれないが、ターボプロップはジェット、というかタービンエンジン由来の「シンプル構造で軽量かつ高出力」という特徴はちゃんと持っており、何よりも
主要部の構造が同じなので他のジェットエンジンと燃料を共通化できる
という大変大きなメリットが存在する。
飛ぶ原理自体は同じプロペラであるため、超高速で回転するプロペラそのものが大きな騒音を発生させるという、レシプロエンジン機と全く同じデメリットも存在する。
ターボファンエンジン
ターボジェットエンジン(以降コアエンジン)の前方に、エンジンよりも直径の大きなファンを搭載、でもってこれを丸ごとエンジンカウルで覆う。するとファンから送られた気流の一部がコアエンジンに入らず、コアエンジンとカウルの間を迂回することになる。
これがエンジン末端でコアエンジンから噴出したジェット流と混合される。すると全体の速度が平均化されて気流が程よい速度に落ち着き、所定の速度域での実質推力、燃費を増す、騒音を軽減する、等の効果が得られる。
カウル内に吸気する段階で気流が減速されるのでファンと気流の相対速度も音速に達しづらく、音速を超えてもある程度までは大丈夫。
ファンが直接吐き出す気流と、コアエンジンに送り込まれる気流の量の比率をバイパス比(Bypass:迂回)と呼ぶ。高くなるほど騒音低減、燃費向上等の効果が得られる代わりに、ターボジェット本来の速度性能は出しづらくなる。低ければその逆。
これが2:1以下のものを低バイパス比ターボファンエンジン、それ以上のものを高バイパス比ターボファンエンジンと呼ぶ。
音速を超えない航空機には、もっぱら高バイパス比ターボファンエンジンが用いられる。近年の旅客機用ターボファンエンジンは燃費の改善と騒音の低減の要求から高バイパス化の傾向が著しく、推進力のほとんど(7〜8割)をファンで発生させるようになり、「プロペラへの回帰」といわれることもある。
しかしながら、バイパス比が高いと排気ガスの速度は低下し超音速域には不向きとなるため、超高速飛行が要求される戦闘機用の場合は低バイパス比エンジンを用いる。
プロップファン(アドバンスド・ターボプロップエンジン)
ターボプロップエンジンの高速性能を改善するために研究開発されたエンジン。
名称は「ターボプロップエンジン」とあるが、分類的には外部ダクトのないターボファンエンジンとして扱われる(このため『超高バイパス比ターボファンエンジン』と呼ばれることもある)
後退角の付いた大量のブレードのあるプロペラを、タービンの軸に直結させて高速回転させることにより推進力を発生させる。
ターボファンエンジンの高速性とターボプロップエンジンの燃費性能を両立させることができるエンジンではあったが、騒音が非常に大きく実用化された例はAn-70程度である。
しかし原油価格の高騰により、研究開発が再開されたらしい。
ギヤードターボファンエンジン(GTF)
ターボファンエンジンの一種。燃費をさらに改善するために開発された。
ターボファンエンジンは、バイパス比を高くすればするほど燃費向上、騒音低減の効果が得られる.
しかしながら、ファン末端の速度は回転数×直径×円周率であるから、直径を大きくすると、回転数に変化がなくともファン末端の速度が上がってしまう。ファンもプロペラ同様、気流との相対速度が音速になると効率がグンと下がってしまうので、ファン末端の速度は低く保ちたい。
そうすると回転数を下げればいいということになり、実際ファンというのは大直径のものをゆっくり回した方が効率がいい。しかしながらターボファンエンジンのファンはコアエンジンの軸に直結しているわけだから、ファンの回転数を落とすとコアエンジンの回転数、も下げねばならない。
すると今度はコアエンジンの、特にコンプレッサーの効率が低下してしまう。コンプレッサーはファンとは逆に小型のものをガンガン回転させた方がいい。
大口径で低速回転のファンと、小径で高速回転のコアエンジン(の、特にコンプレッサー)。これを同居させるには、ターボプロップと同じく、減速機(ギヤ)を噛ませればいい。
というわけで、ファンの部分に減速機(遊星歯車減速機が主に使われる)を仕込み、ファンだけを低速で回転させられるようにしたのがギヤードターボファンエンジンである。
現在実用化されている機体ではリージョナルジェットBAe146(ハネウェルALF502)やボンバルディアチャレンジャー(同)などが採用している ほか、三菱航空機の小型旅客機MRJ(プラット・アンド・ホイットニーPW1000G)が採用を予定している。
ただし途中にファン駆動用の減速用歯車を仕込んでいるという特徴から、現段階ではあまりにも高出力のものを製造することは難しい。
コア分離型超高バイパス比ターボファンエンジン
コアエンジンで生成した高圧空気を使って分離したファンを駆動し、離着陸や推進に使用するタイプのエンジン。
ジェットエンジンとガスタービンエンジンを合わせたような性格を持つエンジンである。
現在JAXAがVTOL機用のリフトエンジンとして開発を進めている。
ただしこの発想自体は今になって生まれたものではなく、デファイアントでお馴染みのイギリスの航空機メーカー、ボールトンポールが(アイデアだけなら)先に発想している。
よーするに、「発想としてはまったくもって間違っちゃあいないけど当時の技術的限界で出来なかった、しかし技術が進んでもうすぐ実用化できそうなところに来ている」とも言える。
発想そのものは間違ってはいないものの、周辺技術が追い付いていないために「変態」や「失敗」呼ばわりされてしまうのもイギリスではよくあることである。
ターボシャフトエンジン
俗に「ガスタービンエンジン」と言われるのは、要するにこいつである。
基本的な理屈はターボプロップエンジンと同じく「排気のエネルギーをタービンで回収して何かを動かすエンジン」であるが、ターボプロップエンジンと違って排気のエネルギーは殆ど、もしくは全く推進力とならず、出力軸を回転させるためのエネルギーに変わっている。
現代のヘリコプターに無くてはならないエンジンであり、戦車、艦船にも利用されている。
また、「それが可能だからです」の一言でターボシャフトエンジンを動力源に採用しちゃったトンデモバイクもある。
ターボプロップ~ターボシャフトまでのエンジンは、出力される噴流、回転の各エネルギーの使い方、バランス、ギアの有無など細かい点に違いはあれど、基本的な構造は概ね同じガスタービンエンジンである。前述した通りジェット(噴流)を推進に使用するのが本来のジェットエンジンであるため、厳密には誤りであるがこれらを一括りにして広義のジェットエンジンとされる場面も多い。
ラムジェットエンジン
空気吸入部の形状を工夫して、吸入するだけで空気が圧縮される構造としたエンジン。
基本構造はタービンすら無い単なる管なので「ダクトエンジン」と呼ばれることもある。
タービンすら無いのでターボジェットエンジンよりもさらに高速域を狙えるが、反面かなり速度が出ていないと起動することすらできない(マッハ0.5以上でようやく起動できると言われている)ため発進時にはターボジェットやターボファン、あるいはロケットエンジンなどを使用する必要がある。
スクラムジェットエンジン
ラムジェットエンジンの一種。
通常のラムジェットエンジンとの違いは、燃焼室の中でも超音速で空気が流れている(超音速燃焼)という点である。
そもそも空気を減速しないので、ジェットエンジンの上限と言われるマッハ15までを狙うこともできると言われるものの、超音速燃焼を行うために燃料には水素(燃焼速度が非常に速い)を使ったり、点火装置にもプラズマトーチを使うなどの工夫が必要とされる。
インテグラル・ロケット・ラムジェットエンジン
ラムジェットエンジンの一種で、固体燃料ロケットエンジンと一体となっている。
初期はロケットエンジンで加速し、燃焼終了までにラムジェットエンジンが起動可能な速度まで加速する。
その後、固体燃料の入っていたスペースをラムジェットエンジンの燃焼室として使用する。
高性能だが運転させるために自身の高速度を必要とするラムジェットエンジンの燃焼室を固体燃料スペースとして転用することで、別途必要だったロケットエンジンを一体化し(燃料は別個に持つ必要があるが)、2種のエンジンを1基にまとめてデッドウェイトを大幅に減らした所にアイデアの妙があるエンジンである。
ただし、ラムジェットエンジンの燃焼室もロケットエンジンの燃料スペースも性能に大変大きく関わる部分であり、言うのは容易いが設計難度は高いため、現在でも使用例は限られる。
原子力ジェットエンジン
燃焼熱でなく核反応で発生する熱で取り込んだ空気を膨張させる(高圧ガスを発生させる)エンジン。
勘のいい方なら恐らく気づいただろうが、こいつは外燃機関の部類に属するジェットエンジンである。
そもそもジェットエンジンは高温高圧ガスのエネルギーを利用するエンジンであり、ガスを発生させるための「熱源」は別に燃焼熱でなくてもいいのである。
このため、熱機関としても独立した扱いをされるジャンルのエンジンともなっている。
核反応の熱で気体を膨張させ、高温高圧ガスを生成する・・・。どういうことかもう気づいただろう。
構造によっては原子炉内を通過して放射能を帯びたガスをそのまま吐き出すという結果になる、物騒ってレベルを通り越したジェットエンジンである。
一応、一次冷却材を介して気体に熱を伝える(排気ガスの放射能汚染を低減できる)という手法もあるが、一次冷却系の分だけ重量が増えてしまう。
はっきり言って、少なくとも現実では地球上で実用化してはいけないエンジンである。
しかし、ガンダム世界ではミノフスキー粒子などにより、ヘリウム3を使った「熱核融合炉」が実用化されているため、熱核ジェットエンジンが普遍的に使われる技術となっている。原子力(核分裂エネルギー)と違い放射性物質を生成せず、中性子線も少ない。
主な製品エンジン
ターボジェット
ターボプロップ
低バイパス比ターボファン
高バイパス比ターボファン
- ロールス・ロイス RB.211(ボーイング747、ボーイング767、DC-10、トライスターなど)
- プラット・アンド・ホイットニー JT9D(ボーイング747、ボーイング767、DC-10、トライスターなど)
- プラット・アンド・ホイットニー PW2000(ボーイング757など)
- ゼネラル・エレクトリック CF6(ボーイング747、ボーイング767、エアバスA300、川崎C-2など)
- ゼネラル・エレクトリック CF34(A-10、S-3、エンブラエルE-Jetなど)
- ゼネラル・エレクトリック GE90ボーイング777)
- CFMインターナショナル CFM56(ボーイング737、エアバスA320、エアバスA340など)
- IAE V2500(エアバスA320、MD-90など)
- IHI F7(P-1)
- ロールス·ロイスTrentXWB(エアバスA350専用)
- ロールス·ロイスTrent1000(ボーイング787 日本ではANAのみ)
- ゼネラル·エレクトリックGEnx-1B(ボーイング787 またボーイング747向けにファンを小型化し、コアを再設計した2Bも存在)
プロップファン
- イブチェンコ・プログレス D-27(An-70)