澁谷かのん
しぶやかのん
「世界に私の歌を届けたい!」
『ラブライブ!スーパースター!!』に登場するスクールアイドルグループ・「Liella!」のメンバー。
結ヶ丘女子高等学校普通科の1年生(新設校のため、1回生でもある)。
入学を志望していたのは音楽科だったが、実技試験に落ちて普通科に入学。
抜群の歌唱力を持ちながらも、高校1年生まで人前では緊張して全く歌えなくなるという弱点を抱えていたせいで、受験失敗の原因にもなってしまった。
スペイン人の祖母、翻訳家の父(本編では顔出し及び台詞無し)、カフェ経営の母、2歳下の妹ありあがいる他、ペットとしてコノハズクのマンマルを飼っている。
アニメ本編では実家のカフェが時折Lielia!の話し合い場所かたまり場になっておりかのん本人も店の手伝いをしている。
なお、『スーパースター!!』の舞台となる結ヶ丘は原宿・表参道・青山の狭間にあるとされるが、原宿・表参道は、かのんの名字と同じ読みの渋谷区に属する(青山は港区)。ただし本人曰く、「澁谷といっても渋谷は苦手」らしい(1期第10話『チェケラッ!!』において、ラップでそう歌っている)。
渋谷区にはスペイン坂まである。
また渋谷区の恵比寿3丁目は演者である伊達さゆり女史の苗字と同じ「伊達町」と呼ばれており、これは伊達氏庶流大條氏末裔たる演者と遠い血縁関係にあった宇和島伊達家の大名屋敷があった事に由来する。
「澁」という漢字は「渋」の俗字で、出生届でも使用可能な人名用漢字としても登録されているが、一部メディアで使用に制限がある旧字体の為、この場合は常用漢字新字体である「渋」に表記を改める場合がある。
ちなみに情報初公開時は黒タイツを履いていたデザインだったが、アニメ版では廃止されている。
部屋の中では眼鏡をかけて髪も上の方にお団子状にして結い上げている(客人が来たときは別で、外用の髪型のまま)。
寝る時は近くに眼鏡を置き、1期2話の作業終了時にヘッドフォンは外しても眼鏡は外さなかった事から視力は悪く、普段はコンタクトレンズだと思われる。
ファンから非公式に付けられた愛称は「しぶかの」。
人物像
内気で引っ込み思案気味だが、性根は心優しく繊細。理不尽な物言いには強く言い返すなど、ここぞというときの芯の強さも持ち合わせている。
何かと我が強い周りのメンバーに振り回される苦労性。
初めて出来た後輩に先輩と呼ばれた際には嬉しそうに悶えている。
ただし繊細さの裏返しというよりも物凄く気が小さく、幼少期のトラウマを1期第3話で克服する前は人前で歌えないほどのあがり症だった。
そのあがり症に伴ってか自己評価は低く、自分のことを「アイドルってガラじゃない」「普通」と謙遜し、可可にかわいい服を着させられようとした時も「可愛い服過ぎて私には無理」と泣き出している。
それ以外にも、高い所が苦手、幽霊が苦手、すみれや恋に怖い顔で詰め寄られた恐怖などで萎縮するなど、結構な怖がり。
1期第1話では(受験の失敗を引きずっていたこともあり)家の中でかなり荒れた様子を見せており、家族からも心配されていた(この時の荒れ具合から、プライベートでは口が悪いというイメージを持つファンも多い)。
…かと思えば第2話では人前で歌えたことに浮かれて家族にウザ絡みしていたあたり、口が悪いというより気分の浮き沈みが家の中では出やすい模様。
上述の通りグループ内での企画・作詞は勿論、歌唱力の非常な高さや千砂都のダンスのレッスンに一応ついていけるだけの体力もあり、更には楽器の演奏歴と作曲技術など、スクールアイドルに必要な技術を高水準で持ち合わせておりラブライブ!シリーズの主人公としてはかなりのハイスペックを誇る。
また、この技術力に比例した求心力も高く、1期第1話では歌っていたところを目撃した可可が「スバラシイコエノヒト」と心酔してスクールアイドルに誘い、第4話では歌やダンスなどによりセンターを決めるクラス内選挙では2位以下に圧倒的大差をつけて1位に輝いている。
それはつまり俗に言う歴代主人公で恒例になっている攻略体質が今作でも引き継がれているという意味でもあるが、彼女の場合は決してほったらかしにはせずちゃんと周囲への気配りも怠らないため、過去シリーズのような友情の縺れから来る大事には至っていない。その点に関しては歴代屈指の人格者、常識人と言える。
ただし、すみれがスクールアイドルに対し厳しい意見を述べている事やわざわざ言う必要のないすみれの過去まで可可に話してしまう事など若干空気が読めない所がある(後者に関して可可にせがまれて言ってしまった可能性もあるが)。
上述の引っ込み思案な性格はアニメ版の水着回にも現れており、その時来ていた水着は一応へそ出しではあるもののショートパンツ型の水着の上に長袖のラッシュガード(それも本編では一切脱がない)という主人公らしからぬ地味で超ガードの堅いものだった。
…しかしアニメ二期放送を直前に控えた2022年7月10日、スクールアイドルフェスティバルで追加された「SR 澁谷かのん【波のプールで】」では一転して、誰かに唆されたのか、赤面してピースしながらも露出度の高い大胆な真っ赤なビキニ姿で登場し一部に衝撃を与えた。両極端な子…!
ラブライブ!シリーズの主人公としては史上初の要素が多い。
- ツリ目(正確には前作のアニメの主人公の一人・高咲侑が初のツリ目主人公であるが、彼女はスクールアイドルではないため、スクールアイドルを兼ねた主人公となるとかのんが初)
- 内気で人からひっぱられるタイプ(これまでの主人公は周りを巻き込んでひっぱるタイプだった。又、正確には前作のアニメの主人公の一人・上原歩夢が初の内気で人からひっぱられるタイプであるが、彼女は準主人公且つ幼馴染であるため、スクールアイドルを兼ねた主人公となるとかのんが初)
- (物語開始時点で)高1
- グループ最年長
- 楽器(アコースティックギター)演奏スキルのある
- 作詞・作曲双方をこなせる
- 外国人とのミックスである
- 2000年代生まれのキャストが務める
- スクールアイドルの発起人ではない誘われる側 (正確には前作のアニメの主人公の一人・上原歩夢が初の誘われる側であるが、彼女は準主人公且つ幼馴染であるため、スクールアイドルを兼ねた主人公となるとかのんが初)
- スクールアイドルを結成した最初の相手が幼馴染ではない
- コンプレックスにより自信喪失している
- 物語開始時点で挫折を経験している(これまではスクールアイドル活動中に壁にぶち当たっていたが、今回は活動を始める前から)
- 私生活では眼鏡を着用
- やさぐれ体質
- ファーストライブを幼馴染以外の相手と披露した
- ハイスペック系(歌唱力・楽器演奏技術・体力など能力が分かりやすく描写されている)
- 劇中で現グループ名を提案した(これまでは三年生メンバーが決めていた)
- 学年が固定されていない(2期から進級)
- 生徒会副会長(2期第7話より)
また主役スクールアイドル全体でみても、実は星座が牡牛座のメンバーが登場するのも今作が初である(過去の例でもライバルポジションSaint Snowの鹿角聖良しかいない)。
Liella!には各キャラクターを表すアイコンが用意されているが、かのんのそれはヘッドホンである。
実際、劇中では序盤を中心にヘッドホンを付けている描写が多く、元々音楽好きのかのんにピッタリといえるだろう。
ちなみに、彼女が使っているヘッドホンは、ソニー製のワイヤレスヘッドホン「WH1000XM4(サイレントホワイト)」によく似ている。
この機種は、アクティブノイズキャンセリングやハイレゾ再生にも対応しており、実勢価格は30,000円前後(2021年10月末現在)。
高校生(第1話の入学時点で所持しているため正確にはそれ以前の頃に購入したものと思われる)の買い物としては高価であることからも、彼女の音に対する並々ならぬこだわりが窺えるだろう。
第1話
記念すべきラブライブ!スーパースター!!の幕開けは、中学生時代のかのんが鳴らすギターの音と、神宮の森を吹き渡る風のように澄み渡ったその歌声、次いで結ヶ丘の音楽科に進学する夢を語る姿…
そして入学をかけた実技試験で、あえなく失敗するところから始まる。
『バーーカ!歌えたら苦労しないっつーの……』
入学式の朝を迎えても、口をついて出るのはやさぐれきったそんなセリフ。
よほど失敗を引きずっているのか、母や妹にもぞんざいな態度で応じ、普通科の制服をまとって登校する表情は不本意そのもの。
もはや歌うことはないと、かのんはこの時すでに心に決めていたのである。
しかし、それでも人気のない路地裏を歩けば、自然と歌を口ずさんでしまうのが、澁谷かのんという少女であった。
その歌声を偶然耳にしてしまった唐可可に「一起做学园偶像!(一緒にスクールアイドルをやりましょう!)」などと興奮気味の中国語で迫られる。だが、中国語を知らないかのんは「你好!謝謝!小籠包!再見!」と言い放ち逃げ回るので精いっぱいだった。
のちにクラスメイトとなった可可のスクールアイドル部員勧誘に巻き込まれ、スクールアイドルを否定する葉月恋と口論になるも、「あなたもやりたいのですか?」という質問には言い返せなくなってしまう。
そして自宅で可可に、幼少期人前で合唱するイベントに参加しリーダーを任された際に緊張のあまり倒れてしまったこと、それが原因で人前だと歌うことができなくなってしまったことを明かす。
その後はクラスメイトと同級生らをスクールアイドルに勧誘するもうまくいかず、可可の説得に嫌気がさして感情を爆発させてしまう。
自分への失望にまみれながら、一人その場を去ろうとするかのん。
…だがその途上、かのんの胸をよぎる思いがあった。
『“いいの?私の歌を、大好きって言ってくれる人がいて…
一緒に歌いたいって、言ってくれる人がいて…”』
そして迫る夕暮れと舞い降りる花びらが、その心に揺さぶりをかける。
まるで「今を逃せば、“それ”は2度と掴めない」と、暗示するかのように――
『なのに、本当にいいの…?
本当に、このままでいいの……?』
気づけば、背を向けたはずの可可のもとへ、かのんは駆け出していた。
『おしまい』にしたはずの思いが、まだ名もないキモチとなって、確かにその胸に再び灯ったのである。
その情熱が赴くままに身を任せ、彼女は歌声を解き放つ。
失敗への恐怖や自分への嫌悪など、まるで最初から存在しなかったかのように。
やがてかのんは街行く人々の歓声に迎えられ――そこで気付く。
『もしかして私――歌えた…!?』
第2話
『♪カフェオレ、焼きりんご、だ・い・す・き・さ、ルルルル~
♪トマトも食べたい~
♪ハンバーグもいい~~ Fooooo!!』
人前で歌うことができた事実に、かのんはすっかりご満悦の表情。さんざん引きずっていた受験失敗の後悔はどこへやら、朝っぱらからギターを奏でて大好物への愛を歌に乗せるその有様は、家族も若干気味悪がるほどであった。
そう、かのんの目の前には、新たな道が開けていたのである。
『スクールアイドル――ここでなら私も…歌えるんだ!!』
ところが意気揚々と登校してみれば、可可から悲痛な知らせ――部活動申請が却下されてしまっていた。なんと結ヶ丘で暫定的に部活動を取り仕切っているのは、よりによってあの恋。スクールアイドルに否定的な態度の彼女を説得しない限り、活動に前途はない。
かのんは恋に直談判を試みるが、「伝統ある音楽科の価値を下げるようなことは認められない」と一蹴されてしまう。
その後もかのんと可可は様々な手に出るがうまくいかず、派手な立ち回りの末に理事長から呼び出されてしまう。
そこで下された裁可は――近々開催予定の「代々木スクールアイドルフェス」で1位を獲ることを条件に、活動を許可するというものだった。
この課題をクリアするべく、2人は千砂都にダンスコーチを依頼(このとき可可は千砂都もスクールアイドルに誘うが、かのんは『ちーちゃんは音楽科…これ以上、無理は言えないよ』と押しとどめている)。そこからは千砂都の指導の下、過酷なトレーニングを重ねつつ、並行して曲作りにも取り組む日々を送った。
『諦めないキモチ――諦めないキモチ――…諦めないキモチ!!』
ついに曲ができた朝、かのんは可可とともに自分たちの街を駆け抜ける。
そうしてこれまでの思いを語る。何もかも終わったと思った、あの実技試験の日のことを。このまま終わりが続く…そう思っていた今までのことを。だが、もはやその心に曇りはない。
『やっと始まった――次の私が――…始まった!!』
その決意に応じた可可に、「完成した曲を、今ここで歌ってほしい」と頼まれるかのん。
歩道橋の上、彼女は息を吸い込む。そして…
第3話
『……っ!?』
…だが、歌い出そうとしたかのんに異変が――
なぜか声が出ない。可可のほかには、誰も見ていないというのに…。
何ということか、かのんはまたしても歌えなくなってしまった。
どこから話を聞きつけたのか、恋にも『止めた方がいいのではないですか』と冷ややかに言われる始末。
どうにかかのんの歌声を取り戻すべく、千砂都や可可は様々な手段に出る。
人々の視線に慣れるべく、千砂都のバイト先でたこ焼きを焼いてみたり…タコ焼きbycoldcat.
気分を盛り上げるべく、可可主導で衣装の試着をしてみたり…
しかし、それらはいずれも功を奏せず終わった。かのんは落ち込むが、可可に「いざとなれば自分が一人でボーカルを執るので、かのんはパフォーマンスに徹すればよい」と励まされ、とりあえず練習を続けることに。
『私じゃなかったら、可可ちゃん――もっと楽だったろうなぁ……』
かのんがそう言ってため息をついたとき、驚くべき情報が飛び込んでくる。
それは自分たちの出演するフェスに、とあるスクールアイドルが、急遽追加出場するというもの。
その名はSunny Passion(サニーパッション)。昨年のラブライブ!では、激戦区・東京地区の代表として決勝に進出した超強豪である。
突如として立ちはだかる高い壁を前に、1位獲得は絶望的としか思えなかった。
このままでは、可可の夢まで潰えさせてしまう。自分にもう一度歌を歌わせてくれた彼女にさえ、報いることもできないなんて。
ただどうすることもできない自分を嘆き、涙にくれるかのん。しかし、あくまでも優しい可可の後押しに応じて、かのんはステージに立つことを決心する。
迎えたフェス当日。可可は本番前まで相変わらず気丈にかのんを支え、ふたりはついにスクールアイドルとしてのデビューステージに立つ。
ステージ上で未曽有の緊張に襲われるかのん。彼女は相方の手を取ろうとして――
『大丈夫…だいじょうぶ、ダイジョウブ…大丈夫…ダイジョウブ――』
…そこで聞いてしまう。「超強豪をはねのけて1位を獲らなければ、夢見ていたスクールアイドル活動はそこで終了」という、デビュー戦で背負うにはあまりに厳しすぎるプレッシャーに潰されそうな可可の呟きを……。
そこへ追い打ちをかけるように、ステージの照明がまさかのダウン。もはや万事休すかと思われたそのとき……
――『かのん!見テ!!』
可可に促され目を開いたかのんが目にしたのは…客席を照らす光の海。家族が、千砂都が、クラスメイト達が、光るブレードを手に、自分たちを応援してくれているのだ。
思わず目を細める。今、自分たちは多くの視線を浴びている――なのに、なぜかこれまでとはまったく違って見えるその光景。そう、やっと気づくことができた―—「見られている」のではない。「見てくれている」んだ、と……。
客席から寄せられる視線を、期待を、かのんは今度こそまっすぐに受け止める。
もう二度と、迷わないように―—
『歌える――ひとりじゃないから!!』
迷いを振り切り、二人のユニット「クーカー」のステージが始まる。
曲は『Tiny Stars』。小さな流れ星に託す希望、始まりの純真な予感を見事に導くリリックと、溢れ出る喜びのエネルギーでそれに寄り添うドラマティックなメロディーは、客席に感動を巻き起こし、新人特別賞を獲得するに至った。
1位はサニーパッションの手中に渡った。したがってこれからの活動は何も保証されない結果ではある。だがかのんの心には一点の後悔もない。可可と約束した、最高のライブができたのだから……
第4話
そうして最初のライブをやり遂げた彼女達は、学園から『同好会』という形でスクールアイドル活動の続行を認められた。
恋の態度は相変わらずだが、それでも部室の鍵(なぜか2種類でひと組)を渡してくれた。
かのん、可可、千砂都は旧校舎の部室にたどり着くが、なぜかそこには先客が。彼女の名は平安名すみれ。1話でかのんの勧誘を強く突っぱねた通行人である。
千砂都の指導によるステップ練習も難なくこなす彼女は“ショウビジネスの世界”にいたという。『即戦力』の出現に皆が色めき立つ中、すみれの提案、
『それで――センターなのだけれど……』
確かに、3人グループになるならば、センター決めが必要。その場ではかのんが推されたが、すみれは何故か机上に身を乗り出し(というか投げ出し)つつ、実力をもって決めることを提案。
そこでクラスメイトからの投票で決めることにしたが、結果はやはりかのん支持が圧倒的であり――
『納得、できないわ――
納得できないったらできないの!!』
すみれは強烈な不満を表明、スクールアイドルをやめると言い放ち部室を去ってしまう。
直後に雨が降り出したため、この日の活動はお開きとなったが、すみれが気がかりなかのんは、帰り道で偶然見つけた彼女の後を尾行することに。
竹下通りでスカウト待ちらしき行為を行った後、すみれが辿り着いたのはとある神社。境内で彼女はスマートフォンを覗いている。
そこに映されたのは、妙なる音楽とキモカワなグソクムシの着ぐるみで歌う幼少期のすみれ。
独特な愛らしさのあるその姿に感銘を覚えたかのんは、思わず『可愛い!これがショウビジネス?』と後ろから声をかけるが――
『見ィ~~~~~~たァ~~~~~~なァァァ~~~~~~~~~ッッッ!!!』
残念ながらそれはすみれの黒歴史であった。
気づけばかのんは社殿内に捕らわれ、すみれのサバトめいた儀式により記憶を消されそうになる。
だが、かのんはあくまでも純粋に彼女を気遣ってここまでついてきた。そうを告げたところ、すみれにもどうにか気持ちが通じたのか、かのんは九死に一生を得た。
すみれは彼女の持つコンプレックス、主役に選ばれない平凡さへの嫌気を明かした。
かのんはすみれの本心と過去を知ることは出来たが、それで一件落着とはいかなかった。この顛末をかのんに聞かされた可可は激おことなり、屋上へすみれを呼びつける。一触即発の状況だったが、降り始めた雨のために決着はつかず中断。
屋上で遣る方なくたたずむかのんたち。今、すみれは「あの日」の自分と同じ場所で動けずにいるのだと――かのんには、その気持ちが痛いほどわかる。
どうすれば、まだ道は閉ざされていないと気付いてもらえるのか……?
『じゃあ、伝えないといけないんじゃない?
今、一番すみれちゃんを理解してあげられるのは……』
逡巡するかのんの背中を押したのは、千砂都の言葉だった。
そうして、かのんは行動に出る。あの竹下通りの一角で、自分たちのダンスを真似しているすみれを見つけ、
『すみれさん――あなたをスカウトに来ました!』
恭しく差し出すその紙片には、『結ヶ丘女子高等学校スクールアイドル同好会 澁谷かのん』の文字が。
相変わらずセンターにこだわって意地を張るすみれに対し、かのんは一緒にセンターを競い合いたいと宣言する。
追い詰められたすみれの契約金要求には、彼女の実家である神社のお守りで応えた。
後日、快晴の空のもとに繰り出すスクールアイドル同好会には、新メンバーの平安名すみれの姿があった。
第5話
新たな仲間を迎え、ますます練習に熱が入るスクールアイドル同好会――と言いたいところだったが、季節は夏真っ盛り。外の気温もまた凄まじく暑かった。
その灼灼たる炎熱により、学園から屋外練習の自粛告知までされる有様。ひとまず涼しいところを求めて、一同はかのんの実家でもある喫茶店で一休みする。
だがそこに――思いもかけぬ来訪者が。
現れたのはあの「サニパ」ことSunny Passion。話を聞けば、彼女たちのホームランドである神津島でライブが開かれるという。その出演依頼をするため、2人はかのんたちのもとを訪れたのであった。
もちろんかのんたちはこれを快諾し、しばし摩央や悠奈との交流を深める。
だがその後日、千砂都の口から衝撃的な言葉が告げられる。
彼女はダンスの都大会に学校代表として出場するため、島でのライブはもちろん、本番が終わるまでは同好会の活動に帯同しないというのである。
一同は驚くが、千砂都の決断を受け止めたうえで、ほかのメンバーたちは一路神津島へ渡った。
そこで一行は南国リゾート気分を満喫するが、かのんはライブで披露する曲の歌詞が思い浮かばず苦戦する。いつもは歌詞の閃きをもたらしてくれるヨガのポーズ(立位による半弓のポーズ、木のポーズ、戦士のポーズなど)をとってみるが、やはり思いつかない。
そんなかのんが今回歌詞のテーマにしようとしているのは、皆や千砂都のことだという。可可はそれを聞いて、やはり千砂都をメンバーに誘わないかと問うが、かのんの答えはノーだった。
実は幼いころ、いつもかのんに助けられていた千砂都は、「かのんができないことを、できるようになる」ことを宣言し、それを成し遂げるためにダンスを始めたのだという。その約束を守るために、今はそれぞれのできることをやり遂げるべきだというのが、かのんの気持ちだった。
かのんは再び思いを馳せる。またも半弓のポーズをとり、今は遠い場所から、あの日の誓いを今も忘れず、同じ気持ちでいてくれるはずの幼馴染に……。
だが、海の果てにいるかのんには、まったく知る由もない。
今も懸命にレッスンを重ねる千砂都のカバンに、ある一枚の書類が入っていることを。
ましてやそれに、「退学届」の文字が記されていることなど――。
第6話
神津島でのライブに向けて、着々と準備を重ねる同好会のメンバーたち。
サニパとのかかわりを通じて、行き詰まり気味だったかのんの作詞も少しずつ形になり始め、ついに「みんなの力になりたい、誰かのために歌いたい」という気持ちを込めた歌詞が完成する。
その夜、二人は電話で久しぶりの会話を交わし、それぞれに控えるライブと大会に向かって励ましあうが――その会話はどこか「煮え切らない」。お互いに言いたいことがあるはずなのに、それをうまく言葉にできないまま、電話は終わってしまった。
そして、かのんは一つのことを決める。そう、外ならぬ千砂都のために行動することを……。
一方、都大会の当日。千砂都は「退学届」をうっかり見てしまった恋に、自分の思いを打ち明ける。
なんと千砂都は、大会で結果を出せなければ結ヶ丘を退学しようと考えていた。
ほとんど大げさにも思えるその決意に、恋は思わず理由を尋ねる。
千砂都の答えは――『かのんちゃんの力になれないから』であった。
そう、かのんの存在は、千砂都の中でとてつもなく大きいものだったのである。
よくいじめられていた幼いころの自分をいつも助け、寄り添って傍で励ましてくれたかのん。
だからこそ千砂都は、かのんにできないことを、「一人で」できるようになって、自分に自信を持てるようになりたいと思っていた……支えられているばかりの自分であることを、善しとすることができなかったのである。
それが、これまで熱心にダンスに取り組みながらも、スクールアイドルに加入しなかった理由だった。
大きすぎるほどの決意を背負い、千砂都は大会の会場で窓から曇った空を見上げる。
今は遠く離れた場所で、誓いを立てたあの日から変わらず、輝いているはずの幼馴染に……。
だがその時、千砂都のスマートフォンに、“彼女”からメッセージが。
『ごめんね』
『気がつかなくて』
思わず虚を突かれた千砂都。だが、さらに信じがたいことが起こる。
会場の廊下を、息を切らせながら、誰かがこちらに向かって走ってくる、その姿は間違いなくかのんで――島にいるはずの彼女が、なぜ今ここに?
そう、あの電話の夜、かのんにはわかってしまっていた。大切な幼馴染の決意だけではなく、そこに隠れた不安も。
そして、それを黙って見過ごすことなど、かのんに出来るはずがない。
そんな彼女だからこそ、千砂都の中で大きな存在になりえたのだから――
だが、今もこうして「支えられて」いる自分がいることを、千砂都は嘆かずにはいられない。
思わず握ってくれた手を放してしまう千砂都。そうして、涙ながらにもう一度決意を表明する。
「かのんに頼らないでいられる自分になる、かのんが出来ないことを出来るようになる」……と。
しかし、かのんの答えは明快であった。
『じゃあ、二人一緒だね』
あの日誓いを立てた千砂都の姿は、かのんにとっても忘れられないものであった。そして間違いなく、今までの自分を作ってきた原動力でもある。心が折れそうなときも、辛いときも、その姿に励まされ……こうして今、歌うことができているのだから。
大きく膨らんだ思いで、前が見えなくなっていたのかもしれない。
けれど、思いが重なった今、もう一人だけで悩んだり、立ちすくんだりする必要なんてない。
最後に一度だけ、二人はそのことを確かめ合う。幼い日からの、あの合言葉で……。
『ういっす!』
『ういっす!』
『ういっすー!!』
――いつの間にか、窓の向こうから差し込み始めた陽の光の下、千砂都は大会本番に向かっていった。
大会の結果はもちろん、千砂都の優勝。決意を十分に果たした今、かのんの傍で踊らない理由はもうない。
神津島でのライブに望むかのんたち。その中には、千砂都の姿もあった。
大切なメモリアルに南の島で刻む曲は、『常夏☆サンシャイン』。
曇りない日差しのように、熱いエネルギーに溢れるナンバーでライブを盛り上げ、こちらも見事に成功を飾る。
ついに4人になったスクールアイドル同好会。幾多の思いを乗せながら、彼女たちの歩みは、まだ留まることはないのだ。
第7話
夏休み明けの結ヶ丘には、二つのビッグニュースが巻き起こっていた。
一つは千砂都の転科である。ダンスの都大会で優勝を果たしたばかりの千砂都が、なんとスクールアイドル活動に専念するため音楽科から普通科に転科。
千砂都はこのことを内緒にしていたため、かのんと可可は朝の登校時にはじめてこの事実を知ることとなり、猛烈に仰天していた。
そしてもう一つは、生徒会長選挙の実施であった。結ヶ丘の初代生徒会長を正式に決めるべく、これまで延期になっていた選挙を執り行うというのである。
今のところ明らかになっている立候補者は、あの葉月恋だけ。スクールアイドル同好会を冷遇する彼女が正式な生徒会長になってしまった日には、活動が立ち行かなくなっても不思議ではない――そう考えた可可は、同好会からかのんを立候補させ、この危機に対処しようと奮い立つが、もちろん当のかのんは断固拒否の構え。
そこで自ら名乗りを上げたのはすみれ。そう、誰よりも脚光への執念に燃える女、平安名すみれである。
「人数で音楽科の約3倍にのぼる普通科の票を獲得できれば、チャンスはある」と意気込むすみれ。
だが、もちろん対抗馬の恋もそんなことは承知のうえだったのだろう。「音楽科と普通科の協調に取り組み、秋の学園祭も成功させたい」と融和路線を公約に掲げ、普通科の票田を崩しにかかる。
先手を打たれた格好のすみれは、とある秘策に打って出て逆転を図る――それは学校の前で、千砂都のバイト先であるタコ焼きの移動販売屋台を営業、タコ焼きを配りながら選挙運動を展開するというものであった。
だがタコ焼きを焼く千砂都と可可は訝しんだ。果たしてこの買収じみたやり方は許容されるのか……?
理事長『(タコ焼きを頬張りつつ)アウトです』アウトであった。
結果としてすみれは惨敗。それも票の買収工作に対するペナルティーとして票数を差っ引かれ、「マイナス20票」というありえない数字での敗戦を記録した。
もともとすみれの勝利を期待していたメンバーはいなかったが、結果的にスクールアイドル同好会の行く末は不安なまま。
かのんはまたしても恋への直談判に臨むが、すみれの時のように事が運ぶことはなく、何も聞きだすことはできなかった。
だが後日行われた恋の生徒会長就任演説で、事態は急変する。
なんと恋は檀上で、「秋の学園祭は音楽科がメインとなって行う」と宣言。いきなり公約を反故にしたことで、普通科からの激しい反発を招き、抗議の署名運動まで巻き起こる結果に。
しかし、こんなときに「何か理由があるはずだ」と思わずにいられないのが、澁谷かのんという少女であった。
理由を探るべく、かのんたちは総出で恋への尾行を敢行。途中何度かハプニングに見舞われつつも、彼女の邸宅に上がり込むことに成功する。
そこはメイドさんもいる立派なお屋敷。通された客間でその威容に気圧され気味の一同だったが、そこにたたずんでいた大型犬をぬいぐるみか剥製だと思い込み、不用意に近づいてしまう。そしてかのんたちは、大型犬にお屋敷中を追い回される羽目になった。
どうにか追いかけっこを終わらせた彼女たちだったが、一つ不思議な点があった。こんなに大きな家なのに、どうしてほとんど人気がないのか……?
だが、そんな時、もう一つのひと悶着が起こっていた。
なんと恋が、先ほどのメイドさんに暇を出そうとしているではないか。それも、「来月からは、貴女を雇えるお金もないのだから」と、最後のお給金を渡しながら――。
挙句の果てには、もうここに恋の父はおらず、母も亡くなり、メイドさんもいなくなれば、ここには恋一人と飼い犬のチビしかいなくなるという。
かのんたちは物陰からそれを聞いていたが、チビに発見され、そのまま恋にも見つかってしまう。
信じがたい事実に驚愕したかのんは恋に事を問いただす。だが、恋の答えは――
『……そのままの意味です。
この家に残っているのは私(わたくし)ひとり――お金もありません。
このままでは、学校を運営していくことも……
母が遺した学校を続けるためには――私が頑張るしかないのです』
――思わずして、かのんは言葉を失う。いったい、何が起こっているというのか……?
第8話
恋の母は、母校である神宮音楽学校と同じ場所に、再び学校を創建するべく奔走していた。
何とか学園創立までは果たしたが、その無理がたたって2年前に他界。
恋の父はといえば、海外での仕事が決まっていたため学園創設には反対しており、既に家を出て行ってしまったという。
恋は海外で一緒に暮らそうという父の誘いも断り、母の夢であった学校を守るべく、ただ一人格闘することを選んだのだった。
だが、それが明らかになったところで、現状がよくなるわけではない。
学園祭の実施をめぐって音楽科と普通科は激しく対立。かのんも両科の生徒に和解を呼びかけてみるが、何の成果も得られなかった。
今後を思い悩む同好会のメンバーたちの前に、再び恋が現れる。
すでに事態は理事長にも伝わっており、明日行われる全校集会で話し合いがまとまらなければ、今年の学園祭は中止するという。
「今からでも方針を改めれば、ほかの生徒たちも理解してくれる」とかのんたちは訴えるが、どうしても恋には譲れないことがあった。
恋は、俄かにかのんの面前に繰り出してこう告げた。
『スクールアイドルだけは、やめてほしいのです!
この学校で、活動しないでほしい……』
実は、スクールアイドルという言葉が生まれるずっと以前に、恋の母は神宮音楽学校に「学校アイドル部」を設立し、廃校の危機を免れるべく活動していた。
そしてなんと恋は本来、その遺志を受け継ぎ、自らもスクールアイドル活動に身を投じるつもりであったという。
しかし、そんな恋をかたくなに思いとどまらせる、一つの事実があった。
『何も残っていないのです!
いくら探しても、スクールアイドル活動の記録だけ……残っていないのです!
ほかの学校生活の記録は、残っているのに――』
母にとって、「学校アイドル部」の活動は、形に残しておきたくないほどの辛い思い出だった――恋には、そうとしか思えなかった。
だが、葉月家の邸宅にあった写真で恋の母を見たかのんは、どうしてもそう思えなかった。
微笑む彼女の姿に、そのような後悔の影は見当たらなかったからである。
全校集会の時間が迫る中、かのんは理事長に許しを得て、神宮音楽学校の記録調査に取り掛かる。
同好会のメンバーたちとともに、結ヶ丘に保管された資料を必死に捜索するが、やはり「学校アイドル部」の記録だけが見当たらない。
手がかりらしきものは、「同じ場所で、思いが繋がっていてほしい」という、恋の母の言葉だけ。
やがて全校集会の時間となるが、そのとき、かのんは突如として思い出した。
恋から手渡されたとき、何故か2種類でひと組だった部室の鍵――話を聞けば、それは当初学校ではなく、恋の自宅の机にしまわれていたという。
かのんは部室に駆け込み、奥の物置じみた場所で、ついに「それ」を見つけ出す。
ひっそりと置かれた、小さな木箱。かのんはその鍵穴に、もう一本の鍵を差し込み――
一方恋は、火の粉を浴びる覚悟で全校集会に臨む。
どうにか壇上で謝罪の言葉を述べるが、やはり轟々たる非難の嵐にさらされ、およそ立つ瀬がない。
万事休すかと思われたそのとき、かのんたちが姿を現した。
壇上に導かれたかのんが抱えるのは、一冊のノート。その表紙には――「神宮音楽学校 アイドル部Diary」の文字が。
どこにもないはずだった、恋の母たちによる「学校アイドル部」の記録に他ならなかった。
かのんはノートに刻まれた言葉を読み上げた。
大切にしまわれていた思い出が、ようやく恋の前でその姿を見せる。
「私たちは何一つ後悔していない。学校がひとつになれたから。
この活動を通じて、音楽を通じて、みんなが結ばれたから。
最高の学校を、作り上げることができたから――」
「だから私は、みんなと約束した。
“結ぶ”と文字を冠した学校を、必ずここにもう一度造る!
音楽で結ばれる学校を、もう一度ここに造る……
それが私の夢、どうしてもかなえたい夢――」
そうして、ついに最後の鍵が開かれる。それは恋の記憶にかかっていた鍵――
かつての母の言葉が、今はっきりと恋の脳裏に蘇った。
『スクールアイドルは……お母さんの、最高の思い出――』
思い出は花となってひそやかに咲き、色づくころを終えても……それでもなお、再び咲き誇るための種を残していた。
恋の心に、ようやく陽の光が差し込む。芽吹いた思いが育つことを、遮るものはもうない。
ノートと一緒にしまってあった母の衣装を胸に抱き、恋は一人の少女に戻る。姿なくともなお、その心を抱きしめる母の存在を、確かに感じながら。
その日から学園祭に向け、結ヶ丘の生徒たちは準備を急ぐ。
もはや、そこに音楽科と普通科の垣根はない。
一つに結ばれた学校の姿をお披露目するまで、あと少しとなった。
かのんは何度も彼女と向き合ったその場所で、恋に手を差し出す。
『葉月さん……ううん、恋ちゃん。
一緒にスクールアイドル、始めませんか?』
そのとき、ためらう恋の背中を押すように吹いた風は、何かの意思であったのか。
その手が結ばれる。開かれた扉の先へ、今はただ進むために。
また一人、新たな自分を叶えるために、一人の少女が道を踏み出したのである。
学園祭当日。「スクールアイドル“部”」は、新たな掛け声とともに円陣を組む。
『結ヶ丘女子高校スクールアイドル部――Song for Me! Song for You!
――Song for ALL!!』
繰り出したステージで披露する新曲は「Wish Song」。
センターはもちろん、新メンバーの恋である。
この場所を、「音楽」が一つにしてきた――その歴史を象徴するように、彼女たちは伸びやかな「歌声の力」を輝かせる。
歓声を受けた彼女たちは、互いに手を結びあい――かのんは高らかに宣言した。
この場所で輝いていた、これまでの日々と……これから結ばれていくはずの、輝かしい未来に向かって。
『私たちは、結ヶ丘女子高等学校のスクールアイドルです!』
第9話
季節は夏を過ぎ、ついに「その時」がやってくる。
スクールアイドルの頂点を決める大会、ラブライブ!のエントリーが開始されたのだ。
世間のスクールアイドルに対する熱狂はとどまるところを知らず、今年の決勝はついに「神宮競技場」で行われることに。
当然のことながら、8万人以上も収容できそうなこのヴェニューでパフォーマンスできるのは、ほんの一握りである。
不安はないわけではないが、それでも5人の力を合わせれば可能性はゼロではない――そう覚悟を決め、スクールアイドル部はWeb上からエントリーを決行……しようとしたが、ここでハプニングが。
なんと、エントリーには「グループ名」を決める必要があったのである。
これまで特にグループ名なしでも特に活動に支障のなかった彼女たちは、急遽グループ名決めを迫られることに。
メンバーたちもどうにかアイデアをひねり出そうとするが、良いグループ名は思い当たらない。
ほかの生徒たちに候補を募ってみても、投票箱は空っぽのまま。
そこでかのんはSunny Passionの2人にヒントを得て、ファンの意見を集めるべく、動画配信の実施を提案。
明くる日、さっそく配信に挑んだはいいものの、ぶっつけ本番に近かったこともあり、カオスなことになっただけで終了。
おまけにエントリー用の新曲づくりも、今回作曲を担当する恋は「かのんが歌詞を先に作る」手はずだと思っていたが、作詞担当のかのんは「恋が曲を先に作る」ものと思い込んでいたため、何も進んでいないことが発覚してしまう。
かのんはどうにかして作詞とグループ名決めを進めようとするが、すっかり行き詰まっていた。
これといって共通点のないスクールアイドル部の5人を、どういうコンセプトで表現すればよいのか、思い当たらないのである。
エントリー期限が迫る中、可可の提案で葉月邸にカンヅメにされたりもしたが、やはり何も思いつかなかった。
翌日、かのんはクラスメイトのナナミ、ヤエ、ココノ相手に愚痴をこぼす。
だがそんな中、『あなたたちって、始まったばかりというか、まだ真っ白っていうのかな…』という彼女たちの言葉が、かのんにひとつのインスピレーションをもたらした。
『やっと見つかった気がする!』
放課後、そう宣言するかのんの瞳に嘘がないことを、千砂都はすぐに確信できた。
ほかのメンバーたちが練習に励む中、かのんは父の書斎から本を引っ張り出しつつ、ラストスパートをかける。
そうして翌日、ついに完成した歌詞とともに、かのんはグループ名のアイデアを披露した。
「結ぶ」を意味するフランス語から着想されたその名は――「Liella!」
かつてこの地にあった学校が、一つに結ばれたように――様々な色の“光”で、結ばれていく自分たちになるために。
『それはまだ何色でもない、私たちだから出来ること……
始まったばかりの、この学校だから出来ること!』
開け放たれた部室の窓に舞い込む風は、まるで誰かの頷きのように、その名を祝福する。
「スクールアイドル部」が、ついに新たな第一歩を踏み出した瞬間だった。
目指すは神宮競技場。“近くて、はるか遠いその場所”へ、辿り着くために。
決意とともに、ついにエントリーボタンが押される。
何もなくてもいい、むしろゼロから――今はただひとつ、高らかに、新たな名だけを宣言して。
『私たちの名は――Liella!』
第10話
「ラブライブ!」にエントリーを果たしたLiella!
優勝のためには、まず地区予選を突破しなければならない。
しかもエントリー数の増加がとどまることを知らないため、今回から披露する歌について、各地区ごとに「課題」を設けるという。
結ヶ丘を擁する東京南西地区の課題は「ラップ」。
試しに各メンバーがラップに挑戦してみたところ、前回の配信同様カオスな状況となってしまう。
そんな中、すみれが頭角を現したため、満を持してセンターに推戴されることとなった。
さぞや喜ぶかと思ったのもつかの間、プレッシャーのためか、逃げ腰になるすみれ。
可可は幾分不満そうだが、かのんはすみれの心情を理解している。
『たぶん、自信がないんだろうな……。今までのことがあるから』
かのんにすみれを信じてほしいと促された可可は、言葉ではなく行動でそれに答えた。
すみれのために、見事な衣装を作り上げたのである。
だが、早速着用して動画を作成し、ファンの反応をうかがったところ、今一つ色よい答えがない。
なんでも「曲はいいが、センターはかのんや恋のほうが良いのではないか」というのである。
センターの役目を負うすみれが、「気負いすぎているように見える」という意見もあった。
それを知ってしまったすみれは、『私の出番は、決勝に取っておくわ!』と言ってセンター交代を申し出る。
だが、それが強がりに過ぎないことは、かのんたちの目にも明らかだった。
可可も思いとどまらせようとするが、心が限界に達していたすみれはその場から逃げ出してしまう。
明くる日、すみれは遅れて練習場所に姿を見せたが、その心はいまだ晴れていなかった。
それどころか、同情で任されるセンターなど、受け入れられないと声を上げる。
可可に詰め寄られると、すみれは今まで見せたこともないくしゃくしゃの表情でこう泣き叫んだ。
『――アンタ、絶対勝たなきゃいけないんでしょ!?』
そういって屋上から走り去ったすみれを、かのんたちは追いかける。
追いついた学校の玄関前で、可可はすみれに精魂込めて作ったティアラを差し出していた。
センターの責任を負わせるために。いや、すみれ自身を、そしてすみれを選んだ自分を、仲間たちを信じさせるために――。
すみれは意を決してそれを手に取ろうとするが、突風が可可の手からティアラを吹き飛ばしてしまう。
それを追いかけ、すみれは植え込みに頭から突っ込みながらも、見事なダイビングキャッチで、それを握りしめる。
センターへ至る証を“己の手で”掴み取ったその表情は、いつもの不敵さを取り戻していた。
ラブライブへの第一歩となる地区予選、すみれセンターで披露するナンバーは「ノンフィクション!!」
ラップを乗せるのは、ブラックミュージックのルーツともいえるジャズ・ビート。
新しさと伝統を共に取り入れ、まさに「音楽でつながる」というコンセプトを体現した、結ヶ丘のスクールアイドルにふさわしい一曲を、大人の魅力とともにドロップする。
パフォーマンスを終え、一斉にすみれを囲み讃えるLiella!のメンバーたち。
届かなかった輝きを、この手に取り戻したい……ワガママだと思われても、それがいつか、みんなを照らせるなら――
それならば、決して悪いことではないはずだ。なぜなら彼女もまた、間違いなく「私を叶える物語」の主役なのだから。
第11話
無事に地区予選を突破し、東京大会に駒を進めたLiella!のもとに、かのんと千砂都の母校でもある小学校から、出演依頼が来る。
出演を受けはしたが、千砂都は心配でならなかった。
かのんが歌えなくなったのは、まさにその小学校に通っていたころ、合唱コンクールで緊張のあまり倒れてしまったことが原因だったからである。
メンバーは心配のし過ぎではないかというが、念のため下見として小学校を訪問し、そこでかのんの様子を見ることにした。
かのんは特に不安そうではなかったが、講堂のステージに立ち歌おうとすると、やはりためらってしまう。
それでも、メンバーと手をつなげば、何の恐れもなく歌うことができたのだった。
後日、東京大会の課題が「独唱」と発表され、ソロパートを曲に取り入れることが条件とされた。
満場一致でかのんが担当することになったが、千砂都は「今のままではいけない」と感じていた。
結局のところ、一人で歌うことに不安を残したままではダメだというのである。
そして、誰かを元気にできるあの頃の笑顔を、もう一度かのんが取り戻せば、もう誰にも負けないはずだと……。
ついに一計を案じた千砂都は、ほかのメンバーとともに、「当日の都合がつかなくなった」と言って、小学校での公演にかのん一人だけを参加させることにした。
ステージ裏で、かのんはかつてのことを思い出す。
歌うことの楽しさ、喜び、そういったものを純粋に信じていた、あの日々のことを――。
かのんは「あの日」の自分に語り掛ける。
気づかないうちに、突然差し込んできた不安の影におびえ……それでも気づかないフリをして、暗闇に迷い込んでしまった自分に。
でも今なら、あの日の私さえも、導く星になれる気がする。
『――大丈夫。大好きなんでしょう? 歌……』
かのんはステージに立つ。あの日見失ったものは、もうすぐそこにある――あとはただ、掴むだけ。
ピアノ伴奏だけをバックに歌うのは「私のSymphony」。
不安げなく見事に歌い切るその笑顔は、疑いなく千砂都が願ったとおりのものであった。
こっそり見に来ていた千砂都は、たちまちステージ上のかのんに駆け寄り、ともに喜びを爆発させた。
一人じゃない――その言葉が今、本当の意味で、ようやく現実のものになったのだ。
もう一度、5人はステージで手を取り合う。願いが叶う予感が、一層高まるのを感じながら……。
『私たちの歌――聴いてください!』
第12話
東京大会の決勝に向けて、ますます練習に精が出るLiella!の面々。入学希望者も増えているというグッドニュースも、彼女たちの背中を後押しした。
そして東京大会の決勝はクリスマスの当日、リモートライブでの中継形式により行われることが発表されると、結ヶ丘の生徒も一丸となって、ステージにふさわしい場所を求め動き始める。
だが、東京大会と、その先の全国大会での優勝をも夢見て、周囲が盛り上がり熱に浮かされる中、かのんはどうにもきまりの悪さを抱えていた。
もちろん、歌うからには最高のステージにしたい――でも、ずっと歌えなかったこれまでのことを思えば、もう十分すぎるほどなのではないか……?
決勝の準備で島からやって来ていたSunny Passionの2人に、かのんはその気持ちを打ち明けるが……摩央の答えはシンプルであった。
『ラブライブ!で歌えば、すぐ気づくはずよ。
何故、みんな勝ちたいか――
いや……“勝たなきゃ”って思うのか――』
やがて時は流れ、東京大会決勝の朝を迎える。
ホワイトクリスマスとなったその日、かのんはもう登校時にヘッドフォンを必要としなくなっていた。
一通り練習をこなしてから、体育館に作られているはずのステージをこっそり覗きに行くが……なんとそこには何もない。
かのんは『あんまりなんじゃない……!?』と一瞬グレそうになるが、実はこれは粋なサプライズ。
結ヶ丘の生徒が用意したステージは、なんと彼女たちのホームグラウンドの象徴とも言うべき原宿・表参道の坂道下に作られていた。
イメージ通りの星の輝きを施した舞台と、壮大なイルミネーションが埋め尽くすその光景をバックに、Liella!は運命の東京大会決勝に挑む。
『このステージに立って、この景色を見て、私は胸を張って言えます――
結ヶ丘の生徒になれて、よかったって……この学校がいちばんだって!
――私たちの歌を、聴いてください!』
ドロップするナンバーは『Starlight Prologue』。
あの日始まった予感を、少しずつ形にして、願いを結んで――
光ある未来に向かって、あの日始まった「私」を叶えるために、彼女たちはこの一曲にすべてを懸ける。
『結ヶ丘女子高校スクールアイドル部――
Song for Me! Song for You!
――Song for ALL!!』
しかし、Liella!はSunny Passionの前に屈し、神宮競技場への栄光をつかみ取れず、敗北。
彼女たちの流す涙は、悔しさだった。
そしてかのんが、あの日摩央に聞かされた言葉の意味とは……?
……すべての運命と決意は、2期生とともに、次なるステージのために――
ラブライブ!スーパースター!! Liella! CatChu! グレかのん かのキチ メスガキ澁谷かのん かのんちゃん無自覚攻撃シリーズ かのパイ 私生活かのん
高坂穂乃果/高海千歌/高咲侑/上原歩夢…ラブライブ!シリーズ作品の主人公繋がり。前者2名はかのんと同じく、オレンジ系統の髪色と、飲食物を取り扱う業者を家族に持つ。ちなみに父親らはかのんの父と同じく、顔出しと台詞が無い。
宮下愛…オレンジ系のイメージカラー持ち、実家が飲食店、だが残念ながら主人公にはなれなかった。
絢瀬絵里…外国人の祖母を持つクォーターのスクールアイドル。妹がおり、自身が過去に味わった挫折が原因でスクールアイドルに否定的になっていた時期があったという共通点がある。又、担当声優の身長がグループで最も低い点も共通している。
東條希、黒澤ダイヤ…アニメ版におけるラブライブ!シリーズ作品のグループの名付け親繋がり。更にダイヤは妹持ちな点やツリ目な点、希は副会長を務めている点やグループ最年長な点も共通している。
桜内梨子…根本的な部分は違えどこちらは転校前にトラウマを負い、一時期ピアノを弾けなくなった。それでも夢(大好きなこと)を諦められずもがき続けた経験をしている。
ミア・テイラー…かのんと同じように幼少期の際にトラウマを負い、一時期歌えなくなった。
小泉花陽(眼鏡かよちん)、渡辺曜(眼鏡曜ちゃん)、国木田花丸、優木せつ菜(中川菜々):同シリーズで彼女たちも同じく眼鏡をかけている。中でも花陽は物事の善し悪し問わず想定外の事態に非常に弱く、極度のアガリ症も共通している。
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3期1話めちゃくちゃよかったですね。マルガレーテちゃん大好きなので大満足でした。 トマカノーテも楽しみすぎます。推しキャラの3人なので。 久しぶりに書いたので文章が変なところがあるかもしれませんが、よかったら読んでください。2,432文字pixiv小説作品お留守番を任された猫は外方を向いて、
報・連・相、大事! 皆さん、一昨日ぶりです! 今回も同棲ネタだよ! そう!この前のこれ(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17257179)は今回の為の準備運動だったりもしたのです! どうだろう…ちゃんと甘々になったかな?なってないかな? この話だけだとまぁまぁかなぁ…。 この話だけだと……。 やっぱり、これが(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17496578)ないとね!7,066文字pixiv小説作品- ふらっとShibuya・首都圏ガイコク飯シリーズ
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