概要
正式名称は『瀉下薬』(しゃげやく)。
病的要因による下痢を改善する『止瀉薬』(ししゃやく)の対極に位置し、主として便秘症の改善に用いられる薬剤。意図的に下痢に近い症状を発現することで硬化、肥大した腸内の滞留便を容易に排泄し、広義的には排泄を目的とした座薬や浣腸も含まれる。
特徴
症状や目的によって様々な薬剤が存在するが、大別すると以下の2系統に分類される。
- 機械的下剤
便秘によって硬化した滞留便に作用し、便自体に水分を含ませて軟化させる。
- 刺激性下剤
腸そのものに作用し、小腸や大腸を刺激して蠕動運動を活発にする。
中国の文化、学問に倣った日本でも古来より漢方として広く利用され、前者では塩硝(えんしょう)、後者では大黄(だいおう)、麻子仁(ましにん)、牽牛子(けんごし)、蓖麻子油(ひましゆ)が代表例に挙げられる。
ただし、生活習慣の面から便秘の改善を目的とし、自発的な排便を促す総合療法の一環である本来の用法に対し、入手が比較的容易な薬剤である上に「便秘を治す薬」「ダイエット効果がある」という曲解から誤用、乱用されるケースが多く、排泄に伴う服用が慢性化した末に薬剤依存症だけでなく腸自体に深刻な機能不全を引き起こすなど、便秘を解消するどころか返って重篤化した症例の報告が増加しつつある。
ネタとしての下剤
上記の説明に対して、漫画やアニメ、ライトノベル作品などに登場する下剤は前述のような医療目的ではなく、単純に後者の誤解を誇張した「下痢を引き起こすための薬」として用いられる場合が多い。また、その効能は総じて強力、且つ即効性と持続性を兼ね備え、本来の薬効とはかけ離れた毒物に近い劇薬として扱われている。
しかし、下剤はその効能が持つ特異性からネタとして扱われる事例が数多く存在する。
便秘を改善するという点では浣腸が双璧を成す存在ではあるが、これは注腸に用いる薬液や器材が総じて携帯性が低く、使い捨てのイチジク浣腸についても薬液を注入する特定人物との距離を密着状態にまで持ち込まなければならず、「実行者と対象者が必ず同じ場にいなければならない」という欠点が生じてしまう。
その反面、下剤の場合は浣腸で列挙した携帯性や執行に要する距離関係などの欠点を考える必要が無く、例外を除いてほぼ経口薬であるという特性上から一般誌上では浣腸よりも排泄に結び付ける経緯の描写が容易であり、少年誌の場合でも読者が理解しやすいという大きな利点が発生するためである。
用法
薬剤として服用するよりも特定人物の飲食物に混入する場合が多く、その秘密性の高さから一服盛った人物の特定が極めて困難であり、これらの事から主に仕返しや妨害工作の一環として用いられるが、病的症状を偽装する、または何らかの理由で腸内の糞便を体外へ排出するためなど、自らの意思で服用する場合もある。
相手に服用させた事例
何かと目障りである江戸城本丸との対決に際し、妨害工作として自社グループの科学力を結集した特製下剤を混入する。クラス内野球では給食に、校内マラソンでは給水所のドリンクに下剤を仕込んで本丸を窮地に追い込むものの、いずれもタルるートの助力によって失敗に終わる。
明らかなイタズラ目的で大量の牽牛子を混入したケーキを作り、「忍者食研究の一環で焼いたアサガオの種入りケーキ」と称して乱太郎、きり丸、しんべヱに手渡し、アサガオの種の意味を知らずにこれ幸いと平らげた3人を厠へ走らせる。
『北斗心軒』を切り盛りする幾松に金をせびる義理の弟とその仲間たちには炒飯に、元公儀御庭番衆の3人(韋駄天の剛、毘沙門天の修輪、広目天の松尾)にはカレーに下剤を混入し、いずれも脱糞させている。その効果は凄まじく、幾松の義弟仲間曰く「悪意を通り越して殺意すら感じる」。
- ドラゴンボール(無印):陳小拳
第22回天下一武道会までの修行風景を描いたアニメオリジナルストーリー『いざ御前試合!悟空VS天龍』で、並々ならぬ実力を見抜いた上で孫悟空の希望を汲んで手合わせに応じた陳大拳が病に伏した一件に端を発し、一宿一飯の恩義を含めて悟空が御前試合への出場を願い出る運びとなる。しかし、誰よりも尊敬の念を寄せる息子の小拳は当初から父が腕前を高く評する悟空の実力を理解できず、遂には出場の辞退まで考えていたにも関わらず「悟空さんであれば」と代理を快諾した事実に嫉妬したあまり、試合当日の朝食に下剤を混入して自身が代理に成り代わろうと画策する。
プロのハンターとして活動するための第一歩となる『ハンター試験』に10歳の頃から受験し続けているが、今では本来の目的であるはずのハンターライセンス取得よりも「試験に臨んだ脱落者を鑑賞する」という歪んた嗜好に生き甲斐を見出し、さも協力的なベテランを装って新規受験者を毒牙に掛ける陰険な性格を知る者からは「新人つぶし」の通称で知られている。一度でも合格してしまえばこの甘美な愉悦を失ってしまうために途中棄権を繰り返して何度も試験に参加し、試験の出題傾向や踏破可能範囲内に設置された罠を熟知した上で頃合いを見計らって受験者に手渡す下剤入り缶ジュースが常套手段となっている。
- 行け!稲中卓球部:立川盛夫
地区大会で優勝を重ね続ける実績から相当の実力と部員数を誇る女子卓球部でありながら、手狭な部室1つでは不服と感じた事から評判も実績も芳しくない男子卓球部の部室乗っ取りを実行に移すが、悪知恵に長けた前野による「ファラオの呪い」作戦で部室占拠を阻止されてしまう。しかし、これに怒りを燃やして数日に渡る不可解な嫌がらせを行い、最後の仕上げとして降伏の意を装った大量の下剤入り揚げパンを用意し、何も知らずに口にした部員6人全員を3日間の休校に追い込んだ隙に部室を完全占拠する。
「勝つためには手段を選ばない」とする確固たる行動理念に基づき、対戦相手となるイオリ・セイが手掛けるガンプラの秘密を探るべく素性を隠して接近し、体よく誘い出した公園で下剤入りの緑茶を飲ませる。間も無く突然の下痢に見舞われたイオリが断りを入れてトイレに駆け出した後、次戦用のガンプラを手に取って見せてもらった偶然を利用し、より有利な戦況に導くべく死角となる一部に傷を加える凶行に出る。
失踪したデリック・アーデンの行方を追うシエルが潜入先のウェストン寄宿学校で開催された伝統行事『寮対抗クリケット大会』に参加した際、ある理由から是が非でも優勝をもぎ取る手段の一つとして超強力下剤入りチキンパイを準備し、初戦の相手であるエドガー・レドモンド率いる「真紅の狐寮」(赤寮)に早くも苦戦を強いられて迎えたティータイムを見計らい、セバスチャンに牛肉のミートパイとチキンパイをすり替えさせる。宗教上の理由から牛肉を食せないソーマ・アスマン・カダールをも巻き込み、食中毒を偽装した狡猾な作戦で1回戦を勝ち抜いたが、当のソーマは異様に頑健な胃腸(本人曰く「健康神・シヴァの加護があるから大丈夫」)のために下剤の効果が微塵も現れず、パイをすり替えた実行犯のセバスチャンを感心させた。ちなみに、ソーマの言う「シヴァの加護」の正体は、密かに彼の守護を行っていたアグニの工作であることが後に明かされている。
など
自ら服用した事例
金竜飛との東洋太平洋チャンピオンタイトルマッチに臨んだ際、試合前計量で体重計に細工が施されていたためにバンタム級規定超過と見なされたが、提示された超過分の体重を落とすべく過度に熱したサウナに篭って唾液を吐き続け、血液も抜き取り、さらに近所の薬局で買い回った大量の下剤を併用するという自殺行為に等しい緊急減量で相手側の妨害工作を乗り越える。
- 1ポンドの福音:畑中耕作
プロボクサー転向当初こそフライ級だったものの、食欲旺盛な上に誘惑に負けやすい性格から徐々に体重が増加してしまい、フェザー級となった今でも日頃の減量を苦手としているため、計量の前日に大量の下剤を服用してどうにか規定体重を通過するのが恒例となっている。無論、減量に慣れていない体が下剤による急激な変化に順応できるはずもなく、負け試合の大半はこれによる著しい体力の低下や胃腸の不調が起因している。
- ゲームセンターあらし:石野あらし
ゲームが絡んでいなければ度外視の運動音痴であるために毎年の運動会で晒す数限りない失態が憂鬱でたまらず、中止の願いも虚しく晴天に恵まれた当日に最後の手段として自宅から持ち出した下剤を服用する。ところが、ある理由から模範演技として用意されたゲーム複合の特殊障害物走に出場する羽目になり、後に自ら煽った下剤が仇となる。
ある事件から両名に嫌疑を抱いた岩本虎眼の提案で真剣による二人演舞『二輪』(ふたわ)に臨む運びとなり、演舞中の斬死を想定して「内臓の臭気を消す」という作法の一環で下剤入りの葛湯を飲んでは厠に篭もるを繰り返し、およそ1日をかけて腸内を清める。
遠く離れた惑星マイクロンから地球観光に訪れた宇宙人であり、体の大きさを除けば地球人と同じ外見を持つチョビットを誤って飲み込んでしまい、駐在所の薬箱にあった水薬の下剤を一気に飲み干して茂みに駆け込み、どうにかチョビットを救出する。
- ムジナ(相原コージの漫画作品):ムジナ
厳しい掟と揺るぎない中立性を特徴とする異色の忍者集団『卍の里』から足抜けを図ったシロベ追討の厳命を受け、鉄馬(てつま)率いる見習い部隊「雲組」の一人として討伐部隊に参加する。しかし、どんな任務であっても必ずしぶとく生き残る様子から「ゴキブリ」と蔑まれ続けた末に人知れず世を去った父の教えである「どんな手を使ってでも生き延びろ」に忍者の真理を悟るに至り、里でも屈指の手練と名高いシロベとの戦闘を回避するために予め調合しておいた下剤の丸薬を服用して体調不良を偽装する。様子を怪しく思った同僚のサジに喰らった腹部の一撃の勢いで脱糞した事故が功を奏して事無きを得るが、予想以上の薬効からしばらくその場で垂れ流しの状態となった。
- ロープレ風雲録バンバラバン(計奈恵の読み切り作品):バン
冒険者を養成するロープレ学園の落ちこぼれである戦士のバンと魔術師のチュッチュが、かつて世界に名を馳せた勇者でもある校長が提示した一発合格の試練に挑戦し、数々の関門をくぐり抜けていよいよ魔王との決戦に臨む。しかし、圧倒的な力の前にチュッチュが倒れ、その姿に激昂したバンが「過剰に摂取すれば酷い下痢になる」という性質を承知の上で大風呂敷一杯の薬草を平らげ、無理矢理に回復した体力と猛烈な便意が生み出す土壇場の爆発力で魔王を討ち果たす。
など