定義
ビル(屋根や壁を伴う高層建築物)を高さで分類した場合、もっとも高いものを指す。屋根や壁のない鉄塔の類は含まない。
定義は種々あり、どこからが超高層ビルと呼ばれるという一般的基準があるわけではない。
なお、広辞苑(岩波書店)では「15階以上または100m以上」としている。また、日本の建築基準法では高さ60mを超える建築物に対してはそれ以下の建築物と異なる構造基準を定めている。
英語圏では約500フィート(約150m)以上の建築物を「skyscraper(スカイスクレイパー、摩天楼)」と定義していることが多い。300m以上の超高層ビルは「スーパートール」と呼ばれている。
世界的には、かつてはアメリカ合衆国に集中し、日本や香港に超高層ビルが増えだす1970年代まで長らく独走状態にあった。1990年代以降は中国のような経済大国のほか、南アジアや東南アジアの新興国でも超高層ビルの建設が急増している。2023年現在、100m以上の超高層ビルが最も多い都市は香港が1位、2位がニューヨーク、3位が東京となっている。
日本の事情
『方丈記』には「大都会で屋根の高さを競ってる(いらかをあらそへる)」とあり、今も昔も考えることはあまり変わらないようだ。
関東大震災後の日本では、耐震性を確保するという意味もあって100尺(31m)以上のビルを禁ずる規制が敷かれていた。技術の進歩により高層ビルでも十分な耐震性が確保できるようになったとして、1962年の建築基準法の改正により31mを超えるビルの建設を解禁、1968年の霞が関ビル(147m)を皮切りに、1970年代に入ると東京では西新宿(もとは浄水場があった京王グループの土地)などで、大阪では梅田など各所で超高層ビルが立ち並ぶようになった。
100尺規制には欧州風の統一的な景観を維持するという意味もあり、建築基準法の緩和後も東京の丸の内や大阪の御堂筋のような古くからのオフィス街では独自に100尺規制が残され、綺麗に高さの揃ったビルが立ち並んでいた。特に丸の内のビル街は「皇居を見下ろす建物を建てる」ことへの反発が強かったが、1974年に竣工した東京海上日動ビルディングを皮切りに、順次超高層ビルに建て替えられ、日本の景観は米国風に移行していった。丸の内のビルなどでは、昔の面影を残すため建て替え前のデザインを模した31メートルの低層部の上に、超高層の高層部が乗ったようなものが多い。
一方大阪は御堂筋は近年まで31mの徹底的なスカイライン(軒線)を維持し、幅43.6メートルのイチョウ並木と相まって、日本では稀有な風格の景観が市民に愛されていた。しかし「再開発を促進したい」という行政の思惑から高さ制限は1995年に緩和されて50mの軒線形成を目指すことになり、その制限も2014年に撤廃されて超高層ビルが立ち始めた。御堂筋はこのほか広告規制などもあったが、これらの規制はいずれも緩和・撤廃され、梅田駅周辺は新宿・丸の内に匹敵する超高層地帯となっている。
一方、福岡市には超高層ビルが極端に少ない。これは福岡空港が街のど真ん中にあるためで、まわりの建物が低いため目の錯覚により福岡タワーが超巨大に見える。しかし、2014年から段階的に都心部の高さ制限が緩和され、2021年には適用第一弾の「天神ビジネスセンター」が開業した(それでも高さ100m未満である)。
2023年2月現在、日本で最も高い超高層ビルはあべのハルカスの300mであるが、2023年6月30日に高さ330mの麻布台ヒルズ森JPタワーが竣工する予定である。また、2027年には東京駅前に高さ390mのTorch Towerが竣工予定。
超高層ビルの建設が、日本では大都市部でも特定の場所に集中する傾向があるのは、交通アクセスやオフィス需要の関係だけでなく、電波法や航空法、容積率、日照問題その他景観保護条例(特に旧城下町)により、超高層ビルの建築が規制された地区が多いからである。現在でも景観保存地区の広い京都市では建築規制が敷かれているが、段階的に緩和されて地区によってはタワーマンションなども建設可能となっている。
海外の事情
世界的な超高層ビル建築ラッシュの嚆矢はアメリカ合衆国のシカゴに遡ることができる。シカゴは大火によって市街地の半分以上を失ってしまい、以後は火に強い建築として鉄筋コンクリートが推奨されたためである。シカゴのダウンタウン建設は世界に影響を与え、ニューヨークはシカゴに倣ってマンハッタンを開発した。マンハッタンの摩天楼は1920年代の建築ラッシュ以降もなお盛んに建てられ、古い超高層ビルを解体してより高い超高層ビルに建て替えられることもある。
アメリカ合衆国では超高層ビルは都市景観の生成、市のランドマークとして盛んに建設が進められ、シカゴ、ニューヨークをはじめ、マイアミ、ヒューストン、ダラス、ロサンゼルス、サンフランシスコ、サンディエゴ、シアトル、ボストン、フィラデルフィア、アトランタ、デンバー、デトロイト、ミネアポリス、ピッツバーグ、シンシナティなどがあり、アイオワ州デモインのように、人口20万人の都市に超高層ビルが5本というような地方都市まである。一方、カナダでは超高層ビルの多い都市は限られ、主にトロントとバンクーバーに集中しているが、2010年代からはカルガリーやエドモントにも超高層ビルが建ち出した。かつての北米の超高層ビルは軒並み商業・ビジネス目的かホテルであり、超高層住宅は少なかったが、近年はニューヨークのセントラルパーク・タワーやバンクーバーのバンクーバー・ハウスなど居住用の超高層レジデンスが次々と登場している。
中国では1997年に返還された香港、経済の中心地上海、広州、新興都市の旗頭である深圳だけでなく北京、天津、重慶といった一線都市、直轄市をはじめ武漢、成都、杭州、瀋陽、大連、長沙、南昌、アモイなど国内のめぼしい省都や副省級市はだいたい超高層ビル群が際立つ近代都市となっている。かつてはアメリカや香港に倣い、大都市化を進めていたが、今は新たな都市の格付けである新一線都市を目指して、国内同士で開発を競わせている部分もある。また中国の場合は超高層住宅が多いが、都市間競争や開発バブルのせいで入居者のない鬼城も増えている。東南アジアでもシンガポールに続き、バンコク、クアラルンプール、ジャカルタ、マニラやハノイ、ホーチミン市に至っても超高層ビル群が際立つ大都市となっている。
そのほか地震の心配が少ない国、都市が新しい(あるいは戦災で破壊された)ために旧市街との軋轢が少ない国、例を挙げれば韓国、オーストラリア、ブラジル、アラブ首長国連邦などの国々も超高層ビル建設が盛んである。
一方、古い街並みが多く残るヨーロッパの国々は伝統的景観の保護を重視しており、超高層建築物は少ない。欧州で超高層ビルが林立するのはロンドンのドックランズ周辺やパリ近郊のラ・デファンス、戦災で焦土と化したフランクフルト・アム・マイン、ユーロポートを持つオランダのロッテルダムなどごく限られた都市のみである。
いわゆる「超高層ビル」の例
東京都
霞ヶ関ビル(霞が関、36階建て、高さ147m)
コクーンタワー(新宿、54階、203m)
東急歌舞伎町タワー(歌舞伎町、48階、225m)
渋谷スクランブルスクエア・東棟(渋谷、47階、229m)
キャロットタワー(太子堂、27階、124m)
神奈川県
横浜ランドマークタワー(みなとみらい、70階、296.33m)
静岡県
アクトタワー(浜松市、45階、212.77m)
愛知県
JRセントラルタワーズ(名駅、53階、245.1m)
ミッドランドスクエア(名駅、47階、247m)
大阪府
大阪府咲洲庁舎(住之江、55階、256m)
りんくうゲートタワービル(りんくう、56階、256.1m)
スーパートールの例
1WTC(ニューヨーク・マンハッタン、104階、541.3m 2014年竣工)
エンパイアステートビル(ニューヨーク・マンハッタン、102階、443.2m 1931年竣工)
クライスラービル(ニューヨーク・マンハッタン、77階、319m 1930年竣工)
ウィリスタワー(シカゴ、110階、527.3m 1973年竣工)
あべのハルカス(大阪・天王寺、60階、300m)
ブルジュ・ハリファ(ドバイ、160階、829.8mで世界一)
2001年のテロ事件で崩落したツインタワーもスーパートールのひとつである。