『その煙の中から、いなごが地上に出てきたが、地のさそりが持っているような力が、彼らに与えられた』
『彼らは、地の草やすべての青草、またすべての木をそこなってはならないが、人たちには害を加えてもよいと、言い渡された』
~ヨハネの黙示録・第9章の3節4節~
概要
中国雲南省の寺院のような遺跡で発見された鱗翅目の昆虫に酷似した怪獣。
学名は「タイタヌス・モスラ」
劇中で「Her」「She」と呼ばれているとおり雌の怪獣であり、怪獣の女王とも呼ばれる。
卵が置かれていた遺跡にはMONARCHによって第61前哨基地が建設され、そこで管理されていた。
Kom小説版ではインファント島なのかは不明だが、インドネシアの小さな島で女神として扱われていたらしい。
容姿
成虫
身長 | 15.8m |
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翼開長 | 244.8m |
モンスターバースシリーズにて登場した東宝怪獣の中ではオリジナルとのデザイン上の差異が最も大きい。
ぬいぐるみのような丸っこいデザインだったオリジナルに対し、本作はより昆虫然としたスマートで女性的なデザインへ変化。
ベースは蛾や蝶などの鱗翅目であることは変わらないものの、カマキリのような鋭い鎌やバッタのような長い肢、ハチを思わせる毒針、ホタルのように発光する体など、複数の昆虫の要素を掛け合わせたデザインになっている。
目立つ脚については早速モス(キート)ラというあだ名が付けられているが、一方で「モスラ(1961年)」公開時の新聞などで公開されていた身体が細く、足も長めに描かれていた初期デザインをリスペクトしたのではないか?という声がある(参照)。
また、後脚が人間の太もも、第2肢の付け根が豊満な胸を思わせる事から妖精や女体をモチーフにしたのではないかと考えられる。モスラの原作である発光妖精とも関係があるのかは不明。
後述の通り、このモスラと雄MUTOには企画段階での能力に共通しており、デザインにも似た部分がある。
翅の目玉模様は生態系の頂点たるゴジラの眼に擬態しているものとされる。
翅は東宝のモスラの目同様、モスラ自身の感情に合わせて色が変化する性質をもち、オリジナルのモスラと同じ赤を基調とした攻撃色や、予告編で印象的だったエメラルドグリーン、また『神の光』によって純白に光り輝くなど、まさに極彩色の怪獣と呼ぶに相応しい特性を持つ。
顔については「青い眼」や「左右に開く口」、「白い毛」など、オリジナルの面影を色濃く残しているが、瞼があることが異なる。
口の辺りにあった触角はL字型の外顎となっており、普段は閉じることで往年のモスラの口に見えるが、開くと左右に加えて上下の内顎が現わになるという仕組みになっている。
身長は歴代モスラの中では最小だが、翼開長は昭和モスラに次ぐ大きさを持つ。
幼虫
オリジナル同様、芋虫に近い容姿を持つが、コロネのようにデフォルメされたオリジナルのデザインに対し、本作の幼虫は現実的なシャクトリムシに似た容姿を持つ(参照)。
体表は甲殻で覆われており、感情に合わせて赤や青など体色が変わる性質を持つ。
これまでのモスラと同様に胸の部分に相当する場所には三対の足があるが、そのほかに現実の蝶や蛾の幼虫にもみられる腹脚も存在する。
額にあたる場所にも凹みがあり、よく見るとハート型に見えない事もない。
見た目はモロに芋虫ではあるものの、仕草自体は可愛らしいともっぱらの評判。
卵・蛹
色はどちらも淡い青。卵は回虫が無数に這ったような模様を持ち、歴代と同じ鳥類の卵のようなシルエットを持つ。
対して蛹は大きな変化を遂げており、現実の蛾の蛹を直立させたような姿をしている。
その形は前作の蛹MUTOにも類似しており、成虫のデザインも含めてMUTOとの関連を匂わせるが、関係性は不明。
生態
世界のバランスが崩れると卵から幼虫、蛹から成虫へと猛スピードで成長し、その原因を沈める守護神の役目を持つ。
ドハティ監督によると「記憶を引き継いで転生する」を繰り返すらしく、そのたびに死因を克服したより強力な個体が産まれ、中国の不死鳥伝説の元になったという(余談ではあるがヨーロッパの不死鳥フェニックスは聖クレメンスの記述によると生まれ変わった直後は虫であるとしている)。また、監督は「生と死のサイクルを繰り返す存在であり、完全に死ぬことは無い」としており、「生物」という概念をも超越した存在である事が語られている。
主な武器は口から発射する糸と爪による引っ掻きおよび刺突。また成虫になればベータ波の生体発光「神の光」で対象の視界を奪ったり周囲を薙ぎ払うことが出来る。
糸は旧来のスプレー状のものではなく、某クモ男のように塊を発射するようになっており、着弾すると大きく広がって対象を貼り付けてしまう。幼虫だけでなく成虫でも使用可能。
他に詳細は不明だがラドンとの戦闘では鱗粉も使っている。
また、緊急時の奥の手としてお尻に巨大生物の体をも貫く必殺の毒針を備えている。
また、電子機器などを破壊する電磁波との照射と思わしき描写も、成虫と幼虫の両方で見られた。
モスラと言えば人間に友好的な怪獣として有名だが、今作ではゴジラに近い自身の住処である地球環境の守護者であり、人間との関係もそれほど深いものではない。
ラドンやギドラほどあからさまに攻撃的ではないにしても脅威と見れば(あくまで無力化に主眼を置いてはいるが)相応の攻撃は返してくる。
実はゴジラと共生関係にある怪獣であり、「王であるゴジラの旗を掲げる存在」でもあるという。
劇中での活躍
キング・オブ・モンスターズ
卵の発見以来、MONARCHの管理下に置かれていたが2019年に入って卵から孵化。
誕生直後は職員の敵意を感じて暴れ出すも、すぐにエマが起動した「オルカ」で大人しくなる。
基地がアラン・ジョナ率いる部隊に襲われた後は基地から脱走し、近くの滝に移動するとそこで蛹になり、またしばらくの眠りに就く。
ゴジラがギドラとの戦いの中で受けたODで窮地に陥った頃、蛹から羽化して成虫となって飛翔、ゴジラの縄張りだったバミューダ海に現れてゴジラとの交信を試みる。これによりMONARCHはゴジラの生存とその現在位置を確認、組織を上げてのゴジラ復活計画を実行に移すことになる。
再起したゴジラとギドラの最終決戦の場にも現れ、ギドラの軍門に下ったラドンと死闘を繰り広げる。体質的に相性の悪いラドンの猛攻に苦しめられるが、一瞬の隙を突いてラドンを撃退。
追い詰められていたゴジラを守るために傷ついた身体でギドラに挑むも、ギドラの引力光線をまともに浴びて爆散してしまう。
しかし、その際に飛び散った粒子がゴジラが取り込まれたことでゴジラは体内のエネルギーの制御が可能になり、その力で遂にギドラを撃破した。
新たなる帝国
2024年3月27日に日本版の特報で正式にモスラが再登場することが発表されていたが、それ以前の予告映像でもジアの瞳に顔が映る場面が少し明かされていた。
地下空洞世界で暮らしていたイーウィス族から、守護神として崇められていたことが判明。そして太古に起きた邪悪な大猿と星を呑み込む怪物の戦いが再び始まる時、髑髏島から来たイーウィス族によって覚醒するという伝説が言い伝えられていた。
髑髏島のイーウィス族ただ一人の生存者・ジアは、スカーキングの地上侵略を止めるために宿敵だったゴジラと共闘することを決めたコングを助けるため、モスラを召喚する儀式を行うことを決意。祭壇の上に舞う金色の粒子に願いを込めながら手をかざした瞬間、モスラは成虫の姿で復活。地上でゴジラを呼ぶコングの元へジアと共に地上へ向かった。
そのコングはエジプトのピラミッドの側で協力を求めようとゴジラをその場に呼び寄せていたが、新たなエネルギーを吸収して進化を果たしたゴジラはコングの呼び声を自身への挑戦状と見なし、容赦無い猛攻でコングを追い詰めていた。そしてゴジラがトドメの一撃として放射熱線をコングに放とうとした瞬間、間一髪でその場に到着したモスラは神の光と思われる光の衝撃波でゴジラを吹き飛ばす形で地面に倒れさせて止めた。そして共に来ていたジアもゴジラに向き合い、ゴジラ・コングの双方にとって大切な存在が駆け付けて説得したことで、ようやく共闘を決意したゴジラ・コングと共に地下空洞世界へ戻った。
地下空洞での決戦では、ゴジラを凍り付かせようとフロストバイトブラストを吐いていたシーモに対して小規模ながら至近距離で神の光を撃ち放って阻止したり(この時何気に短時間とはいえフロストバイトブラストが掠めていたが、特に問題なく行動している)、スカーキングの先兵・グレイトエイプの動きを糸で封じてゴジラたちを援護し、重力の急変に巻き込まれて空中から墜落しかけた調査部隊のヒーヴを助ける活躍をした。戦いが終わった後はジアをイーウィス族の集落に送り届けて彼女の選択を見届けた後に、集落を覆うカモフラージュの膜を糸で直し、地下世界の何処かへと飛び去っていった。
余談
- コンセプトアートでは、電撃を発射している(参照)。
- モスラの名を冠した怪獣が銀幕に姿を表すのは実に15年ぶり。アニメの『星を喰う者』にも一応登場しているが、こちらはシルエットのみで、またモスラではなく「フツアの神」としての登場だった。
- 第一弾トレーラーにおいて羽化するシーンが登場。他の怪獣たちが荒々しい面を見せつける中、幻想的で美しいこのシーンは評価が高く、印象に残った人は多い。
- ドハティ監督はモスラを母なる大地から飛翔した、大地の化身と譬えている。
- 「神の光」だが、太陽のように光り輝くモスラの描写がアニメゴジラの小説版にて存在する。
- また、前作の2012年版のプロットには雄のMUTO「Hokmuto (北海道のMUTO)」が「蛹化を経て四本の翼を備える」「オーロラのような発光現象を起こす雷のような衝撃波のようなものを発射する能力がある」とされており、今回のモスラと似た設定を持っている。
- モスラとゴジラが共闘する展開は本作が初ではなく、古くは「三大怪獣地球最大の決戦」「怪獣総進撃」、平成以降であれば「ゴジラファイナルウォーズ」があるが、モスラと共生関係にあるという設定が明確に描かれたのは本作が初。またそれらいずれも敵怪獣がキングギドラやその派生種であるというのも因縁めいたものがある。ちなみに成虫のモスラがゴジラと本格的に共闘したのは本作が初である。
- 本作含むモンスターバースシリーズが金子修介による平成ガメラとGMKの影響を受けている指摘は国内外から数多くあり、「GODZILLA」と「KOM」を視聴した金子自身もキネマ旬報(2014年7号)と映画秘宝(2019年6月号)にて類似点を認めている。
- モスラに関しては金子自身の指摘を含めると「インファント島や小美人と無関係」「小美人をイメージした人間が登場する」「神話の生物や幻獣に影響を与えた」「覚醒直後に意図的に人間を殺害している」「成虫時代に、針を含む歴代になかった攻撃方法をいくつか持つ一方で”あの”能力を披露しない」「毛のない細長い脚」「歴代の成虫よりも険しさを感じる表情」「実在の蜂の要素を汲み、ゴジラと比較して(翼を除くと)胴体がかなり小さい」、「水に関係する環境で羽化した」、その他劇中での行動や末路などGMKの最珠羅をイメージしたと思しき設定や描写が多く、また他の金子作品であれば「遺跡に卵があり、オーロラか虹のような発光をしながら雨の中降下してくる、飛行の際に後部が蒼く発光する」「聖書の一説が引用される」なども類似点としてあげられる。
- 尚、上述のように最終決戦時には窮地のゴジラを救うため単身ギドラに立ち向かい、敗れた後は自身の成分でゴジラを再起させているが、GMKでは逆にゴジラを倒すため同じ護国三聖獣である魏怒羅と共闘し、やはり敗北後は自分のエネルギーを成長途上だった魏怒羅に分け与えて千年竜王キングギドラに覚醒させている。
- インファント島との関連は濁されているが、作中でチェン博士が自身の家系を紹介するシーンにて『INFANT ISLAND』と書かれた写真が登場している。
- エンディングにてモスラのものと思しき巨大な卵が発見された旨の新聞記事が登場するが、この記事を書いた記者の名前は『Steve Martin』となっている。Steve Martinというのは初代ゴジラの海外版『Godzilla:King of monsters!』で付け加えられたアメリカ人の登場人物と同名。
- 前述の通りあくまで自衛のためであるが、今作でモスラが人間に暴力を振るうシーンがある。過去のシリーズでもモスラが人的被害を発生させたシーンはいくらかあったが、今作では噛みついて放り投げる、糸を吐きつけて壁に磔にするなど描写が直接的であったため、少なからぬファンがショックを受けた様子。
- しかしよく見ると叩き殺すことも出来たろうにわざわざ壁に張られたネットに向かって投げつけたり、巨体で踏み潰せばいいものをわざわざ糸を吐いて拘束しようとするなど、殺傷することよりも無力化することを優先しており、「怯えている」というエマの発言も含めて考えると、少なくとも殺意があっての暴力ではない可能性が高い。対人戦ではオーバーキルとも言える電撃を乱発するギドラや、脱出しようとしたパイロットをも見逃さずに丸呑みにしたラドン、そもそも人間を殆ど意識しないゴジラに比べると対照的である。
- これについてドハティ監督は、「当初の案ではモスラが兵士を四散するまで壁に叩きつける予定だった」、「東宝からモスラは誰も殺さないと良い指摘を受けてその描写に同意した」という旨の発言をしている。
- 『新たなる帝国』においては当初モスラの権利を得られるか不透明だったため、得られなかった時のためにオリジナルの鳥型怪獣が用意されていたが、どうにかモスラの権利を獲得できたため鳥型怪獣は没になった。なお、これについてネットの一部では「当初はモスラの再登場の予定は無かったが、試写の際に鳥型怪獣が不評だったため、アダム・ウィンガード監督がモスラを再登場させようと高い権利料を支払って実現した」という噂があるが、アダム監督自身はインタビューで「脚本の時点からモスラを前提としていた」と語っており、モスラが出る予定は無かったという話はデマであると反論している。
- ウィンガード監督曰く『新たなる帝国』に登場したモスラは『KOM』モスラの母親にあたるという。