「私は運命に選ばれた者。勇者も神をも越える存在」
「さあ来るが良い。私が魔界の王たる所以を見せてやろう」
概要
魔界と人間界とを繋ぐ門を開き、人間界への進出を目論んでいる。そのため、門を開閉する力を持つ主人公の母・マーサを連れ去っている。
人物
人間界に自力での進行はせず、部下を介して徐々に侵略を進める方針をとっている。そのため、人間界でその存在について聞き及ぶことはない。作中視点で見れば「自身の存在をひた隠しにして着々と計画を進める狡猾な魔王」ともいえるが、作品評価の視点では後述の通り「影が薄い」と言われがちになってしまってもいる。
なお配下にイブールやゲマがいるが、イブール率いる「光の教団」には予言を与えるという形での関わりはあったものの、基本的に直接監督する立場にはなかったようで、リメイク版での主人公との会話で教団運営につき「必要のないくだらない努力」と切り捨てている。最も、その「必要のないくだらない努力」によって散々酷い目に遭わされ、更には最終的には父パパスだけでなく母マーサまで失った主人公側からしてみればこんな一言で片付けられては堪ったものではないだろう。
『CDシアター ドラゴンクエストⅤ』では、真の姿が闇の竜ということになっている。神であるマスタードラゴンとは対を成す存在。
ちなみにこの作品での一人称は“余”である。
『小説 ドラゴンクエストⅤ 天空の花嫁』では人間の子供が負の感情によって変異した存在となっている。誰からも救ってもらえず不幸な幼少期を過ごした結果、世界中の人々が抱く心の闇と同化してミルドラースとなり、様々な存在に変身することが可能となった。ゲマの正体も彼の肉体の一部である。
初登場時は痩せた子供の姿(ミルドラース本来の姿?)としてリュカたちの前に現れ、最後の戦いでは赤黒いドラゴンとなった。
同じく不遇な幼少期を過ごしたリュカもミルドラースのようになってしまう可能性は十分にあったと言えよう。
リメイク版では元人間という設定が追加された。究極の進化を求める邪悪な心から神の怒りを買い、魔界に封印されたという。
『ドラゴンクエストⅨ』でも歴代魔王の一人として登場するが、ミルドラースが登場する宝の地図を入手するには、レベルの高い地図でしか登場しないグレイナルや、途中出現確率5%のりゅうおうの地図の入手を経る必要があるので、すれちがい通信無しでの入手はかなり困難である。
『ドラゴンクエストモンスターズ ジョーカー』では、変身後の姿のみが登場。同じ鈍足物理型のAI2回行動持ちとしてはエスタークと比較すると、「アトラスのかなづち」で系統特効を受けない、ラリホー系耐性がより強いという優位点がある。大きいのはラリホー系耐性であり、ラリホー系の地位が高いこの作品のWi-Fi対戦では重宝した。
戦闘
2段階の形態を持つが、ラスボスだけあっていずれも相応の強さを持つ。
スーパーファミコン版の適正クリアLVは30代中盤。
これまでの作品のラスボスと同様に、両形態とも固有の専用技は持っていない。(強いて言うなら瞑想が固有技だった。)
第一形態
一段階目はナメック星人……もとい、魔道士のような風貌で、見た目通りに魔法による攻撃が主体だが、「なかまをよぶ」でキラーマシンやあくましんかんを呼び寄せることもある。加勢するキラーマシンの高火力さえしのげればそこまで苦戦する相手でもなく、ゴリ押しでも倒せる。
なおSFC版で仲間を呼ぶ際、両腕を広げるアニメーションを披露している。
「1枚絵において、腕の部分と背景だけが一瞬差し替えられる」という非常に簡素なものではあるが、SFC版で戦闘中の行動に伴いグラフィックそのものがアニメーションするモンスターはこれが唯一である(特殊なスライムや「そらたかくまいあがった」とジャンプ攻撃するモンスターも動くが、それらは表示位置がずれるだけでグラフィックの中身が変わるわけではない)。
第二形態
二段階目は、1対の巨大な翼と2対4本の腕、棘つきの長い尻尾を生やしたメタボなドラゴンとでもいうような、真っ赤な怪物になる。
攻撃方法はこれまでの歴代ラスボスの使用してこなかった『しゃくねつほのお』をシリーズで初めて吐いてきたり、「イオナズン」や「メラゾーマ」などの強力な呪文を使ってきたりと強力。
特に初見で厄介なのが、最初から魔法反射呪文の「マホカンタ」がかかっていることと、一定間隔でステータス増強効果を無効化する「いてつくはどう」を使ってくることである。
スーパーファミコン版での戦闘
激しい攻撃に対する回復が頻繁に必要なうえ、HPは4500とこれまでの歴代ラスボスに比べ一気に増えた上に、行動6回ごとに1回「めいそう」でHPを500回復ずつさせる。
長期戦になりがちで、しっかりとダメージを蓄積させていかないと次第にジリ貧になっていく。
…と書くといかにも強そうだが、行動が完全ループな上に完全2回行動ではないこと、攻撃呪文への耐性がないこと、厄介なブレス攻撃に対しスライムナイトをはじめ頻用される仲間モンスターが耐性を有する場合が多いことなど、実は穴が多くある。
パーティが適正に育っていれば体感的には前々作、前作と同じか下回るぐらいで、特徴さえわかってしまえばシリーズでもそこまで強い部類ではない。
ストーリーの雰囲気や思い入れから人間キャラクターのみで挑むと苦戦するが、強力な仲間モンスターを積極的に登用すると途端に難易度が緩和されるという、ある意味で作品の色が強く反映されたラスボスともいえる。
もっとも、これらは攻略法やデータの蓄積された後世だから言える面も大きいが。
行動とパラメータのパターンが3種類用意されており、戦闘開始時にランダムで選ばれる。強さに明らかに差があることから強中弱パターンと呼ばれる。
- 強・中型は2回行動を行う場合があり、「しゃくねつのほのお」の後に「いてつくはどう」を行う点が共通。
- 強型は「いてつくはどう」でマホカンタ状態を解除しても、再度張り直す行動がある。
- 中型はマホカンタの再発動はなく、また素早さがかなり低くほぼ先手で行動できるため次の行動に備えやすい。
- 弱型は素早さが一番高く先手を取られる場合もあり、通常攻撃が必ず「つうこんのいちげき」になったり、攻撃行動が4つあるなど個々の行動は強めだが、1ターンに1回行動で固定なので安定させやすい。
この仕様は発売からしばらく経ち、インターネットが普及しデータが蓄積されて初めて認識されるようになったもの。よって、ネットのない時代に1回しか戦わなかった場合、各プレイヤーごとに強さに対する初見時の感想は大きく変わるだろう。
発売当時からミルドラースの強弱は議論の的になりがちだったが、実質異なる3種の相手と戦っていた人同士が会話していたら全く違った感想の言い合いになるのは当然である。
リメイク版での戦闘
リメイクではオリジナルよりもHPが2500増えており、残りHPに応じて行動が変化する形へ変更。
大きな変更点は回復技の「めいそう」、完全1回行動が無くなったことだろう。その分、「いてつくはどう」の頻度もアップしており、残りHPが大きく減ってきた時の通常攻撃が必ず「つうこんのいちげき」に変化するようになり、脅威度が上がっている。代わりに実質的に意味が無い(攻撃が必ず「つうこんのいちげき」となる為)のに「ルカナン」を使い、この時はラッキー行動となる(※)。
ニンテンドーDS版以降は「めいそう」が第2段階で行動することがあるものの、基本的にPlayStation 2版のリメイクと同じ。
※:「つうこんのいちげき」「しゃくねつのほのお」「メラゾーマ」「イオナズン」が守備力の影響を受けないのは勿論だが、「ルカナン」で下げた守備力を「いてつくはどう」で元に戻してしまうこともあるというのも大きな理由。そのため上記の通常攻撃が必ず「つうこんのいちげき」に変化した残りHPが少ない状態の行動パターンでは完全に無駄行動となっている。もしも補助系の呪文を用いずに戦う場合は「いてつくはどう」すらも無駄行動となるため、運が良ければそのふたつと合わせて1周のローテ中2つの行動が無駄行動というラッキーな状態になる(しかしルカナンは他の行動と二者択一のランダム行動であるため、運が悪ければ全くルカナンを使ってこないこともある)。
評価
登場するのは物語の最後だけで、ストーリー中では部下であるゲマの方が明らかに目立っている、作品全体ではドラクエシリーズ初の裏ボスであるエスタークが圧倒的に強く話題の中心になった、などの理由からキャラが立っていた前作までの魔王達に比べて、またその後の作品の魔王達と比較しても印象の薄い魔王と評されることが多い。
実際は主人公の母との間に強い因縁を抱えており、ラスボス本体が家族と直接的な因縁を有するのはシリーズ全体でも希有なケースである。
しかし、ストーリーの大枠が「主人公の宿敵=ゲマ」という構図であるためか、母との因縁は最終盤まであまり強調されていない(実際はゲマはミルドラースの部下なので、ゲマとの因縁はゲマに指示し、操る立場にあるミルドラースとの因縁とも言えなくはないのだが、ほとんど名前が出てこないので……)。
ミルドラースの存在が一般人から本格的に聞けるようになるのも、勇者である主人公の息子が生まれ、更にストーリーが進んで終盤になってからのことである。
主人公が勇者ではない(勇者誕生後の主人公はパパスのポジションにおさまる)以上、主人公の視点からは魔王=宿敵という図式が成立するとは限らない。
以上のような作品全体の構造上、ミルドラースの印象が薄くなるのも無理はない話である。
物語の終盤まで存在感が薄い存在繋がりとしては直後の後続作品のラスボスであるデスタムーアがいるが、デスタムーアの場合は意図的に自身の存在を隠しているため、印象が薄いとは言われづらく、寧ろ仮に印象が薄いと思ったならばそれはデスタムーア自身の策略通りと言えてしまう。
しかしミルドラースにはデスタムーアのように自身の存在を隠そうという意図があったことは特に語られていないため、プレイヤーからは単に印象が薄いだけと言われやすい。
物語最後の最後にいきなり現れるラスボスという意味ではシドーもそうではあるが、こちらはパッケージに堂々と姿が写っていたり、ある意味禁忌のベホマのように戦闘面でも相当のキャラクターが立っており、外伝作でシドーそのものへの掘り下げが大々的に行われたりしている為、ミルドラースほど取り沙汰されることはない。
リメイク版ではレヌール城にある本に名前が載っていたり、ゲマとの第二戦目後に名前が出たりするなど、存在の発覚が少しだけ早くなっている。
ただし「宿敵=ゲマ」の構図がスーパーファミコン版以上に強調されているため、ゲマと比べた相対的な存在感が濃くなったとはお世辞にも言えない。
余談だが、ミルドラースがいたことによる功績として主人公達が冒険して強くなったことで、復活したブオーンを主人公が撃退できたことを挙げる人もいる(ゲマ達部下の行動はともかく、ブオーンの復活自体はミルドラース達とは一切関係が無い件であるため、しかし150年前には封印に成功しているためある程度の犠牲は出したかもしれないが再封印できた可能性はある)。
リメイク版ではブオーンに強力な封印が施されたり、一部のメディアミックスでは最終的にブオーンが味方サイドに付く事もあり、余計に後年への功績が増した。
漫画ドラゴンクエスト ダイの大冒険 クロスブレイド
5巻に敵として登場。超越大魔王ロムドラドによって別世界から呼び出された魔王。時空転移の際にパワーを喪ったため弱体化している(劇中では咳き込む描写がある)。
最初は老人形態で主人公ユウキたちの前に現れ、邪悪な笑みを浮かべながら「抵抗して苦しんで死ぬか」「諦めて楽に死ぬか」の二択を突き付ける。主人公ユウキからは「仲間になろう」という第三の選択肢を選ばれるが、「勇者と言う奴はどこの世界でも気に喰わん!」と激昂して“かがやくいき”で攻撃を仕掛けて来る。
しかしポップによって抑えられ、ユウキとダイの同時攻撃によって倒された……わけがなく、起き上がって第二形態に変身する。
第二形態はブオーンを思わせるような巨体となっており、“しゃくねつのほのお”でユウキたちを防戦一方に追い詰める。このままミルドラースが押し切るかと思われたが、メイロによって召喚されていたマァムの閃華裂光拳で阻止される。
それでも大してダメージを受けた様子がなく襲い掛かって来たが、最後はダイ、ポップ、マァムの同時攻撃によって胴体を真っ二つにされて敗死した。
担当声優
余談
裏ボスであるエスタークは最初からミルドラース第二形態の戦法を多用する。それに加え、エスタークは通常攻撃そのものがかなり強いため、余計に手ごわく感じしてしまう。実際、エスタークの方が攻撃の効率は非常にいい。
しかし、そもそも本編のボスと裏ボスを比べること事態ナンセンスであり、しかもリメイク版ではストーリーの中でエスタークが「ミルドラースでさえ手を出せない大物」と言われていたことから、こういう力関係になるのはごく自然である。
唯一救いと言えるのは、ラスボスが裏ボスに蹂躙されてしまうネタがこちらで適用されなかったことだろうか。
一部のタイトルでは第一形態はただ単に「ミルドラース」、第二形態は「魔王ミルドラース」になっていたりして、公式で大魔王扱いさせてもらえていない。不憫。
一応『戦え!ドラゴンクエスト スキャンバトラーズ』等の派生作品では二つ名として「魔界の王」という相応の二つ名を貰っている。まあその魔界でどう王だったのかがわからないんですが。
ムドーとの関係
ミルドラース第二形態のデザインは、体全体の構造や模様、トゲの場所、顔つきに至るまで意匠のほとんどが『ドラゴンクエストⅥ』の魔王ムドーに酷似している。
さらにムドーの色違いである「ブースカ」というザコモンスター(といってもラスダン最強クラスの強い敵だが)の行動がミルドラース第一形態に酷似していること、『ドラゴンクエストⅥ』→『ドラゴンクエストⅣ』→『ドラゴンクエストⅤ』という作品時系列が確定したことなどから「一匹のブースカが特殊な進化をとげたなれの果てがミルドラース」といった俗説が流れたことがある。
その後リメイクで先述の通り「ミルドラースは元人間」と明言されたことで、この説自体は公式に否定される形となった。
しかし2016年に発売された公式設定資料集にて「ミルドラース第一形態の没デザインの流用がブースカで、ブースカの色を変えたのがムドー」である旨が記載されており、ミルドラース第二形態とムドーのデザインの共通性はやはり単なる偶然ではなかったことが明らかになっている。
Dr.スランプ関連
鳥山画伯繋がりと言えば、スーパーファミコン版『ドラゴンクエストⅤ』の発売当時、Vジャンプに連載されていた漫画『ちょっとだけかえってきた Dr.SLUMP』にゲスト出演した事もある。
劇中ではネタバレ回避の為、名前の一部が伏字にされ「ミ〇〇〇ース」表記になっていた。そして則巻アラレに伏字部分に悪戯書きをされて「ミートソース」となってしまい、その事に酷く激怒して第二形態になって『かがやくいき』を吐いてアラレを氷漬けにするものの(残り2ページという尺の都合とはいえ)ガッちゃんたちの光線一発で沈むという、魔王としてはあまりに情けない有り様であった。流石に相手が悪かったが。
関連イラスト
関連タグ
ドラゴンクエストⅤ 魔王系 ラスボス ラスボス(笑) 青森県
エスターク:ミルドラースより格上の存在と作中で表現された、『ドラゴンクエストⅤ』の隠しボス。
???:『ドラゴンクエスト ユア・ストーリー』でのミルドラースについてはこちらを参照。ただし、ネタバレかつセンシティブな内容であるため注意。
ナメック星人:『ドラゴンボール』で登場したミルドラースに似た色をした種族。ピッコロ大魔王もナメック星人だった。
大魔王バーン:『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』のラスボス。ゾーマをモデルにしているのが窺えるが、初期形態が老人である。第二形態以降は余一人いれば十分という存在であり、性格でもだった。大魔王バーンの魔王軍はお遊びだったが、ミルドラースは自分一人いれば十分と自称した上での光の教団の組織そのものに無関心だった。