概要
井上が監督・脚本を務める。アニメ映画の監督・脚本を手掛けるのは初。
2022年12月3日(※当初は2022年秋公開と告知されていた)に公開。翌2023年8月31日をもって終映となった。
2024年6月10日より、Netflixで独占配信開始。
『SLAM DUNK』のアニメシリーズとしては令和初の完全新作かつ、初の全編デジタル制作となった。過去のアニメシリーズを手掛けた東映アニメーションとCG制作会社ダンデライオンアニメーションスタジオとの共同制作であり、3DCGと、実際のバスケ選手によるモーションキャプチャーを取り入れている。
主題歌のアーティストの所属レーベルはビーイングではなくユニバーサルミュージック。
後述の通り、事前の内容公開がほとんどない『シン・ゴジラ』じみた宣伝がされており、公式情報だけだと、「湘北高校のあの5人がバスケをする」以外の情報はあらすじさえ伏せられている。
そのためこの記事も大半がネタバレになってしまうので、読む場合は注意。
主題歌
オープニング主題歌
The Birthday(UNIVERSALSIGMA)「LOVE ROCKETS」
エンディング主題歌
スタッフ
原作/脚本/監督/キャラクターデザイン:井上雄彦
演出:宮原直樹、北田勝彦、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙実彦、鎌谷悠
CGディレクター:中沢大樹
キャラクターデザイン/作画監督:江原康之
サブキャラクターデザイン:番由紀子
モデルSV:吉國計
BG/プロップSV:佐藤裕記
R&D/リグSV:西谷浩人
アニメーションSV:松井一樹
エフェクトSV:松浦太郎
ショットSV:木全俊明
美術監督:小倉一男
美術設定:須江信人
色彩設計:古性史織
撮影監督:中村俊介
編集:瀧田隆一
音響演出:笠松広司
録音:名倉靖
キャスティングプロデューサー:杉山好美
音楽プロデューサー:小池隆太
2Dプロデューサー:毛利健太郎
CGプロデューサー:小倉裕太
アニメーションプロデューサー:西川和宏
プロデューサー:松井俊之
音楽:武部聡志、TAKUMA(10-FEET)
アニメーション制作:東映アニメーション/ダンデライオンアニメーションスタジオ
以下ネタバレ
ストーリー(以降ネタバレ注意)
沖縄に住む少年宮城リョータは、幼くして父を亡くしてしまったものの、兄のソータ、妹のアンナ、母のカオルと共に元気に暮らしていた。
ソータはバスケが上手く、リョータも身長に恵まれない体格ながら、彼の背中を追うようにバスケに打ち込んでいた。
しかし、今度は海難事故でそのソータも亡くなってしまう。
喪失感に覆われる宮城一家は、彼の思い出を振り切るように神奈川県へと引っ越していった。
その数年後。
湘北高校の二年生となっていたリョータは、バスケットボール神奈川県代表として、インターハイの舞台に立っていた。
対する相手は、日本最強の秋田・山王工業高校……。
キャラクター/キャスト
湘北高校
バスケ部
- 宮城リョータ:仲村宗悟/少年期:島袋美由利
- 三井寿:笠間淳
- 流川楓:神尾晋一郎
- 桜木花道:木村昴
- 赤木剛憲:三宅健太
- 安西光義:宝亀克寿
- 木暮公延:岩崎諒太
- 彩子:瀬戸麻沙美
- 安田靖春:阿座上洋平
- 角田悟:遠藤大智
- 潮崎哲士:櫻井トオル
- 桑田登紀:村田太志
- 石井健太郎:堀井茶渡
- 佐々岡智:星野佑典
その他、桜木軍団など
宮城家
山王工業高校
解説
上記あらすじの通り、桜木が主人公だった原作およびテレビアニメ版とは異なり、主人公は宮城となっている。
原作の最終章にあたる山王戦と、宮城の幼少期からの試合前日までの物語が並行して描かれる。
原作にあったギャグシーンやデフォルメ絵などはほとんどカットされており、全編通してシリアスな雰囲気となっている。特に宮城の回想には仄暗い雰囲気も漂っている(※井上氏の作品では『リアル』や『バガボンド』に近いという意見もある)。
宮城の過去は原作では描写されておらず、今作で初めて明らかになったが、1998年に週刊少年ジャンプに掲載された読み切り作品『ピアス』の内容にある程度準じている。同作は「小学6年生の少年りょうた」が主人公であり、彼が宮城なのかどうかはあくまで匂わせにとどまっていたが、今回初めて、宮城の過去編(に近い作品)であったことが示されたことになる。
この過去編を通じて、彼の内面が初めて深掘りされたため、原作とはまた異なる印象を受けるキャラクターに見えるかもしれない。
なお『ピアス』は長らく単行本未収録の幻の作品であったが、今作の資料ムック『THE FIRST SLAM DUNK re:SOURCE』に収録された。
井上は「原作既読者も未読者も初めて見るSLAM DUNK」を目指してこの映画を監督したと語っている(タイトルが「ファースト」=「初めて」となっているのも、これを意識したものと思われる)。
旧アニメとも直接的なストーリーの繋がりはない。
ちなみに、TV版と原作スラムダンク時と現在ではバスケのルールがかなり変わっているが、(現在は試合時間は4クォーター制40分、1&1スローの廃止、インテンショナルファウル→アンスポーツマンライク・ファウルなど)作中は連載時の1994年時のルールで描いているようだ。
制作までの経緯
TVアニメ版では描かれなかった山王戦の映像化を希望する声は以前から多く、2003年にテレビアニメ版のDVDが好セールスを記録したのをきっかけに映画化の企画が浮上するもこの時は井上サイドが難色を示し頓挫。
2010年にパイロット版(アニメーション制作:ポリゴン・ピクチュアズ)が制作されたが、井上が「自分の思うものとは違う」と断る。
それでも新作を望むファンの声は止まることを知らず、2014年に作られたパイロット版に制作者の魂を感じた井上はようやく新作制作を承諾。同時に井上はやるからには自分も関わろうと決意、気付けば全てに関わっていたとのこと。
3DCGとモーションキャプチャーの取り入れ
今作ではキャラクターは基本的に3DCGで描写されており、モーションキャプチャーで動作がつけられている。
特にバスケのプレイ描写に当たっては、3x3(3on3)の日本代表である齊藤洋介選手など、実際のストリートバスケ選手(それも日本のトッププレイヤー)10人をモーションアクターとして採用し、現実さながらのリアルな挙動を実現している。
しかし井上によれば、ただモーションを取り入れただけでは今度は迫力がなくなってしまったらしく、ある程度大げさな動きを取り入れる必要もあったため、これらのモーションを少しずつ手作業で修正していったとのこと。誇張しすぎるとあざとくなるため、ちょうどいい動きを探りながらの途方もない作業になったようだ。
斎藤氏によれば、モーション収録は公開の4年前。井上は「(修正のための指示書を)描いても描いても終わらない」「今回の映画が量的にも期間的にも今までで一番きつい挑戦だった」と回顧しており、相当な手間と時間をかけたことがわかる。
炎上・賛否両論
原作が社会現象を起こすほどの人気であった点や完全新作アニメーションということで期待も大きかったものの、上映前からそのプロモーションや制作側の姿勢について疑問視する声もあった。
以下に炎上が広まった、賛否両論が大きく分かれた事例について簡単に述べる。
1.声優交代について
公開1ヶ月前の2022年11月4日に、東映アニメーションの公式YouTubeチャンネルで特別番組が配信。
予告編が公開され、同時にオリジナル版から湘北の5人の声優が一新されることが発表された。
テレビアニメ版放送開始から既に約30年が経過していることもあり、オリジナルキャストが高齢化しているという事情はあったものの、おおむね現役で活動中であるため多くのテレビアニメ版のファンから「なぜ変わらず仕事を続けているような人たちを外すのか」と批判の声が上がった。
また、放映を控えた2022年8月〜11月まで東映アニメーションのYouTubeチャンネルでテレビアニメ版が全話配信されていたこともあり「テレビアニメ版の声に慣れさせたあとに声優を入れ替えを発表するのはいかがなものか」という声もあった。
交代に至った理由については、公開後に井上のインタビューで「全く別の作品として制作する関係上、オリジナルキャストが続投すると、彼らにこれまで培った芝居をいったん捨ててもらわないといけなくなるから」という趣旨の内容が語られている(→原文)。
2.声優交代の発表の時期について
声優一新が発表されたのは特典つき前売り券(ムビチケ)が発売された後であり、購入した中には声優陣が引き継がれることを期待していた、という人も少なからずいたようである。
声優交代については「世代交代」、「リメイクや続編ではなく『完全新作』を謳っているため新しいキャストを選ぶのは仕方がない」という意見もあり、またキャスティングそのものについてもそこまで否定的な声は大きくなかったが「声優交代は許せても、その事実を伏せてチケットを売るやり方は不誠実である」という批判が上がった。
また、メイン5人以外のキャストは公開まで非公開となっており、こちらについては一新されるのかどうかすらわかっていなかったというのも批判が強まった要因の一つと言える。
3.あらすじの非公開について
キャスト情報だけではなく、詳しいあらすじやメイン5人以外のキャラクターについても公開までほとんど伏せられており、数ある映画作品の中でも公開前の情報公開が極端に少なかった。
予告版なども原作における大きな売りの一つである試合シーンや、声優が一新されたというキャラクターが台詞を発するシーンの分量が少なく、作品そのもののイメージが掴みにくい状態であり、試写会が行われなかったことから、報道関係者に対しても情報統制が徹底されていた。
そのことについても「情報を小出しにしすぎではないか」と批判の対象となった。
4.スタッフインタビューについて
スタッフインタビュー「COURT SIDE」の#13にて、「青春おバカな感じ」「こんなんで少年の心、掴めるのかよ」などと原作を評したスタッフの発言に注目が集まり、旧アニメに特に愛着がない原作勢からも批判の声が上がった。
ただし、これは発言の一部を切り取ったものであり、全体としてはそれほど的外れで原作を小馬鹿にしたような内容ではない。
あらすじが全く公開されない中、スタッフインタビューだけが更新されていくのにフラストレーションが溜まっていた人も多かったようだ。
情報公開に対する結果と公式の反応
これらの炎上はSNSや掲示板などでも大きく広がり、東映アニメーションや井上をはじめとする製作陣の姿勢を「テレビアニメ版のスタッフ・ファンを蔑ろにしているのではないか?」と疑問視する意見も目立った。
11月10日、映画公式Twitterが「特番をご視聴いただいたみなさま、ありがとうございます。また、たくさんのご意見やご感想をお寄せいただきありがとうございます。たくさんの反響をいただいている中で、作品を楽しみにしてくださってる方々のさまざまな思いを受け止めております」とツイートを投稿。続けて「私たちは、スラムダンクを昔から愛してくださってる方も、はじめて見る方も、とにかく楽しんでもらいたい、という思いで制作を続けてきました」、「映画はまもなく完成します。みなさまに楽しんでいただける作品になるよう、監督・スタッフ一同、最後まで心を込めて制作してまいります」と綴った。→元ツイート
当然ながらこのツイート自体にも賛否両論があり、リプライや引用リツイートでは「新作やその製作、新キャストに不満があるわけではなく、プロモーションの方向性に問題があると感じている。そのことを公式は認識しているのか?」というような意見が寄せられていた。
また公開の約2週間前に、テレビアニメ版で赤木剛憲を演じていた梁田清之氏の死去が発表されたが、本作の製作陣や新キャストからは一切の反応が無かったことも、「テレビアニメ版を蔑ろにしている」と受け取られる一因となった。ただしこれについては「公開前に下手に反応すると、死去を宣伝に利用する形になってしまうことを慮ったのではないか」と理解を示す声もあった。
これらの結果から、同じく東映が制作に関わった「ONE PIECE FILM RED」と比べ、徹底的な情報統制を行ったことが明らかとなっている。
興行収入
以上の通り、旧作を知るファンを中心に数々の騒動が巻き起こった本作だが、公開後は大ヒットを飛ばしている。
記録的ヒット作の続編である『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』とほぼ丸被りの封切な上、新海誠作品『すずめの戸締り』も絶賛公開中など、正月興行という激戦区での公開となったが、ふたを開けてみれば、これらを押しのけて見事週末興収ランキング1位でデビュー。
公開初週土日2日間での興収は12.9億円で、これは『すずめの戸締り』(初週土日2日間13.8億円)に肉薄する勢いであった。
そしてその後も勢いは止まらず、なんと翌年1月の半ばまで週間興行収入ランキング7週連続1位を達成。累計興行収入は1月20日時点で82億円にのぼり、そして公開67日間で興行収入100億を突破。観客動員数は約687万人を記録する大ヒットとなっている。
最終的に興行収入は157.3億円を記録し、動員数も1088万人に達した。また上映期間の後期には、主人公の宮城の誕生日である7月31日に興行収入が150億円を突破したこと、作中の山王戦当日である8月3日には全国同時刻上映が行われたことも話題となった。
また、ちょうど本作が公開された2022年冬にNBAで活躍していた渡邊雄太選手はTwitter等で本作を観たいという旨の発言を何度かしていたが、大ヒットの結果本作はこのように翌年の夏までのロングラン上映となったため、翌年夏にNBAのシーズンを終えて帰国してから無事に映画館で見ることが叶ったとのこと。
この件は2023年のバスケW杯を前に企画された渡邉選手と井上氏の対談でも触れられている。
スラムダンクはアジア圏での人気が非常に高い漫画だが、これらの国でも熱狂を持って受け入れられている。
台湾では、日本語版と、アニメ旧作の現地放送時の声優陣が一部続投した吹き替え版の二種類が公開され、公開6日で興収1億新台湾ドルの大台を突破した。これは『ONEPIECE FILM RED』や『呪術廻戦0』を上回るペースで、既に日本映画作品の歴代興収ランキング第4位に到達している。
韓国では、直撃世代の30~40代男性が劇場に詰めかけ、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に肉薄する動員を記録。公開後2週間で動員100万人を突破した。なお、2023年の公開作品として初めての動員100万人となった。
評価
内容面の評価についても、Filmarksなど評価サイトでのスコアは軒並み高く、かなり好意的に受け入れられていると言ってよい。
中でも、やはり3DCGを用いた試合描写を評価する声は大きい。上述の通り4年もの期間をかけただけあって、その迫力とスピードに圧倒された観客は多く、「井上雄彦の絵がそのまま動いている」「本当にバスケの試合を見ているような迫力」と絶賛が集まっている。
また、原作をなぞったり旧アニメからの続編として作るのではなく、宮城の過去編を軸に据えたストーリーテリングについても、「単体の映画作品として見やすい出来になった」「今の井上らしい作風で、新しい視点からのスラムダンクが描かれている」と評価されている。
なおエンディングで宮城が渡米しているシーンについて「低身長かつ外のシュートが弱い宮城が渡米しても通用するはずがない」と批判する声もあるが、現実にも宮城の設定身長よりさらに1cm低い富樫勇樹選手が日本人史上2人目のNBA契約選手となっている(出場はなし)ほか、山王戦から相当の期間が経過している=技術面も練習によって改善されていると解釈できることから、そこまで説得力の薄いシーンとは言い切れない。
更にスラムダンク連載終了から1年後、NBAにおいて登録身長がわずか160cmのマグジー・ボークス選手がNBAデビューを果たし、キャリアハイでは平均35分の出場時間で10.1得点、10.8アシストのシーズン平均ダブルダブルを残し、14シーズンのキャリアで通算2318リバウンド、39ブロックを記録している。
更にマグジーの少し後には165cmのアール・ボイキンス選手がデビューを果たしキャリアハイでは平均15得点を記録する名シックスマンとして13年シーズン在籍しており、映画上映半年を迎えた2023年6月のNBAドラフトで指名漏れとなった170cmマーキス・ノウェル選手が大学の活躍を評価されトロント・ラプターズと育成契約に当たる2way契約を勝ち取っており、スラムダンク連載当時も上映当時も小さな選手というのは少なからずアメリカで活躍しているのである。
今後の展開について
本作の『FIRST』は「はじめて見るスラムダンク」であると同時に切り込み隊長であり1番(ポイントガード)である宮城のことも指しており、他の4人をそれぞれ主役とした5部作として制作されるのでは(『FIRST』→『SECOND』とナンバリングが続いていくのでは)推測するファンも多い。
仮に続編が公開された場合、別の試合を描くのではなく山王戦を別のキャラクターの視点から回想を交えて描くような作品になるのではないかという意見もある。本作で印象深い名シーンが描かれなかったり、宮城以外のキャラクターの掘り下げが少なかったりといった点も、続編を前提としているのであれば筋が通るともいえる。
余談:そして現実のバスケへ…
2022年末から2023年前半にかけて本作が大いに話題を呼び、それも記憶に新しい時期の2023年の8〜9月にかけて、日本・インドネシア・フィリピンの3国共催によるバスケットボールW杯が開催。その日本における会場は沖縄。そう、宮城の故郷である。沖縄ではこのW杯の開催を見据えて国内最大級の沖縄アリーナが建設された。(Bリーグの琉球ゴールデンキングスが屈指の人気チームなので今後も十分な需要が見込めるというのもある。)
その沖縄アリーナで日本代表はフィンランド相手に欧州勢からの史上初の勝利を挙げるとグループ突破こそ果たせなかったものの敗者チームによる順位決定戦にも全勝。アジア勢で最上位となり、48年ぶりの五輪自力出場を成し遂げた。
最終戦で勝利し五輪出場が確定した際の場内には本作の主題歌である「第ゼロ感」が流れ始め、日本のファンが合唱して大いに盛り上がるという光景が繰り広げられた。
かつて井上氏はスラムダンク原作の9巻にて「次は日本チームの五輪出場が見たい。『スラムダンクを読んでバスケを始めた。』という子供たちが、大きくなってやってくれたら…………オレは泣くぞ」と記していた。
だがその後約30年もの長きにわたり日本代表は世界で勝てず、それどころか国内の連盟が混乱しプロリーグなどのシステムの構築すらままならなず、挙句の果てにはFIBAから一時国際試合参加停止の処分が出るなど冬の時代が続いた。
しかし2016年にようやく本格的なプロリーグであるBリーグが発足し、それ以来日本バスケ界は少しずつ力をつけてきた。そして2023年。奇しくもスラムダンクの新作の公開と同時期に、ついに大きな成果が表れたのである。
この年は本作のヒットと日本代表の活躍により、国内のバスケ界がこれまでに無いような大きな活況を見せた一年となった。
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