概要
手塚治虫の旧友がモチーフになったキャラ。プロデビュー以前の漫画にも登場しており、手塚漫画ではヒゲオヤジ、ハム・エッグに並ぶ古株。最初に登場したロストワールドの印象があまりに強いせいか、悪役としての登場が多いが、70年代あたりから善玉としての出演も目立つようになった。
たまに頭の後ろに蝋燭を立てているが、キャラのモデルにした友人の後頭部が凹んでおり、蝋燭が立つという噂を聞いた事がきっかけで生まれた特徴である。
(後日ただの噂であったことを手塚自身が語っているが、手塚自身お気に入りであるのか、インタビューや作中で良く彼のエピソードを取り上げている)
極度の近眼であり、眼鏡と目が一体化したようなビジュアルをしているが、眼鏡を外した姿で描かれることも多い。
がっちりとした長身のギャングスターとして描かれる事が多いが、父親役としての出演も多い。
銃の扱いが得意なのか、手塚作品の多くで必ずと言っていいほど銃を手にしており、ガンマンの役も少なくない。
『ベニスの商人』のシャイロック役では、銃ではないが、羽根ペンを動き回るネズミに投げて刺し殺すシーンがあることから、動体視力も良いと思われる。
手塚の『スターシステム名鑑』ではプラチナ・プレヤーズという事務所に所属しており「派手ではないが堅実な仕事をする優良事務所」らしい。
給与はハムエッグより少し上。
因みにこの事務所には後輩にロック・ホームが所属している。
手塚はランプのことを「事務所のドル箱」と称していることから、当時から多くの作品に登場させていたと思われる。
(手塚自身が管理しきれなくなったのか、後にこの事務所設定は書かれることはなくなった)
幅広い演技をしており、『地球を呑む』では青年姿、アニメ版『ふしぎなメルモ』では老人姿も披露している。
またロック・ホームに負けず劣らず女装経験があり、後述するが、ハム・エッグの妻を演じた他、アニメブラック・ジャックでも女装をしてスリ(ヒゲオヤジ)を捕まえようとして痴漢に間違われ女言葉になったり、永井豪が作画を手がけた『魔神ガロン』では女装どころか女になっている(女体化若しくは性転換)
なお、女装時は髭を剃らない主義のようである。
(但し手塚自身が手がけたランプの女装は一度だけであり、没後に作られたアニメや派生作品での女装率は高い)
また『フウムーン』ではヌードも披露しており、兎に角何かとサービスシーンが多い。
2021年7月から10月まで手塚治虫記念館で開催された企画展『手塚治虫のバイプレイヤーたち』では、ロック、ヒゲオヤジと共にキービジュアルに採用されている。
デビューは手塚氏曰く「入社は1946年、デビューは1947年の『ロストワールド』」
(ジャングル魔境がデビュー作とされているものもあるが、手塚氏は『ロストワールド』がデビューと多方面で明記してる)
しかし手塚治虫記念館で行われたスターシステム展では1948年7月30日刊行の『仮面の冒険児』がデビューとされており、デビュー作品、及びデビューした年が取り上げられるメディアによって全く違うものになっている。
手塚漫画のSF、時代劇、現代ドラマ、短編などによく顔を出しているが、ファンタジー作品には滅多に顔を出すことは無い(古典文学をテーマにしたものには出ているものもある)
手塚がアニメを作り始めてからは漫画よりもアニメーションでの活躍が増え、晩年の活躍はアニメの方が多くなっている。
漫画での最後の登場は1985年の『夜よさよなら アディオス・ノーチェス』の高校教師役。以降は全てアニメやCMでの活躍ばかりになる。
手塚死後のメディアミクス作品やリメイク作品でも多数登場しており、スターシステムキャラクターの中では比較的現在に至るまで活躍が多い役者である。
共演者達(手塚スターシステム仲間)
ハム・エッグ、ヒゲオヤジとはほぼ同期デビューであり、特にハム・エッグとは事ある毎に共演をしている。
時にはハム・エッグに裏切られ、時には同僚、上司と部下、親友として、手塚治虫自身の作品の他、手塚他界後の派生作品でも何かと共演が多く、どの作品においても息のあった演技をする。
中でも『ザ・クレーター』の『鈴が鳴った』では、ハムエッグの妻として、女装を披露したりと身体を張った演技もこなす。
ヒゲオヤジとも共演が多く、彼との共演の際は人情味を感じる役が多い(『大洪水時代』、『ブラック・ジャック』の『山手線の哲』、『鉄腕アトム』の『十字架島』等)
事務所後輩のロックとも度々共演しており、『がちゃぼい一代記』で肩を組んで歩いている事から、仲は良い様子。
OVA『ブラック・ジャック』、『ヤングブラック・ジャック』でも共演を果たしている
他のメンバーともつるむようではあるが、手塚自身が描いた集合絵や手塚プロのイラストでは、大抵誰かしらと大喧嘩や乱闘をしている事が多い。
作者の手塚治虫とも作中何度か絡むことがある(初期作品では監督の手塚治虫に敬語を使うシーンもある)
作中、一度給料の120円(当時の価格でおそらく30万円程)を請求しに手塚を脅しに行ったが、自分の出生の秘密(モデルが友人であること)を知らされ、やる気を削がれ、金三角に「威張ってるが、お前のモデルは時計屋のIだとよ!ザマーミロ!」と悪態を付きながら一緒にヤケ酒をかっくらったりしている所を見ると人付き合いは悪くないようである。
なお『手塚治虫アカデミー大賞』ではハムエッグの胸倉を掴んで喧嘩しているシーンが確認されているが、残念ながら映像が残されていない為、他のメンバーとの関係性は明確になっていない。
主な活躍
ロストワールド
「青いものが食いたい! 野菜が食いたい! 果物が食いたい!!」
地球に接近した遊星・ママンゴ星の秘密を探るために探検隊のロケットに密航した新聞記者として登場。保身のためなら何でもする悪辣な男であり、餓えに狂って人間の姿をした植物人間・あやめを殺害してその死体を貪り食う、国際陰謀団との乱戦にて弾薬の補給を懇願する探検隊員に「じゃあすぐやるよ」と言って射殺する、その後寝返って味方に付いた陰謀団もサッサと見限って暗殺するなどといった悪の大盤振る舞いを見せたが、その最後は私家版(原作)にしろ単行本版にしろ、その悪行の報いを受けるかのような悲惨なものだった。
鉄腕アトム
「悪人というものは最後には滅びてしまうものなんですね」(アトム)
何度か登場しているが、『冷凍人間の巻』ではウラン鉱石を強奪して車で逃走しようとしたあげく、横を飛んでいたアトムに気を取られてハンドルを切り損ねて事故死してしまい、アトムに冒頭の台詞を吐かれている。
しかし『十字架島』では脱獄犯でありながら、改心してヒゲオヤジと協力し、敵に銃を向けられているにもかかわらずにアトムを治し、直後に背後から射殺されるが、満足げな笑みを浮かべた最期を迎えるなど単なる悪役として終わらない役もある。
3作目のアニメである『ASTROBOY 鉄腕アトム』では、過去のトラウマからロボット排斥を唱える人間至上主義者(政治家)として全編を通じて登場。最後はアトムに敗れて逮捕されてしまう。ゲーム版『アトムハートの秘密』ではアトムと和解する。
ジャングル大帝
「ルネをよこせ」
元ナチス軍人だったハム・エッグに収容所で暴行されていたというユダヤ人、という設定(どこかで聞いたような設定だ)。そのことを理由にハム・エッグを脅迫するなどやはり悪党。その後ダンディ・アダムが二重スパイであることを突き止めてルネを奪おうとアダムを脅迫するもアダムは断固として拒否し対立。アダムのサーカスが火事になった際も揉み合っており、結果2人まとめて逃げ惑う象の軍団に踏みつぶされて死亡する。
落盤
「これで石井もくたばるだろう、かわいそうだが・・・」
前橋(ランプ)は大村と名乗る少年とともに20年前に落盤事故があった炭鉱を訪れる。前橋はその際同僚だった石井が自分をかばって殉職したと話すが、大村はその発言の矛盾を次々と指摘する。実は大村は石井の息子で、父を殺害した前橋に復讐しに現れたのであった。
証言の再現画像は信憑性が高まるごとに写実的になるという独特の演出も見どころ。
キャプテンKen
「その辺で辞めときなさい、このマンガの質が下がる」
江戸弁(沖田総悟とかカモ君みたいなアレ)を話す、隻眼の殺し屋・ランプとして登場。
火星の戦争で孤児となり、知事に拾われ育てられた事に恩義を感じており、知事の命令なら何でも聞く。
また金のためなら何でも行う悪党、といった感じだが「ロストワールド」「アトム」「ジャングル大帝」あたりに比べれば「ライバルキャラ」としてまだマシな描かれ方をしている。
ブラック・ジャック
「だけど実際に救ってるんでしょうが! 人の命を!」
数えきれないほど登場している。主な活躍としては『獅子面病』『山手線の哲』に登場する友引警部役が有名。事実アニメ版ではほぼ友引警部役でしか出演していない。
他にも『閉ざされた記憶』ではヘック・ベンと組んでヒゲオヤジの握る大量のガソリンの在処を探る悪漢として登場するが、この話のラストではとんでもないことになる。
OVAシリーズにも刑事役として登場するが、名前が「高杉警部」となっており、友引警部とは別人である可能性は高いが、ポジションはアニメにおける友引警部と似ている。
因みに派生作品『ヤングブラック・ジャック』にも金貸しの立入灯郎として登場。ブラックジャック(間黒男)の父とも知り合いであり、幼い黒男に金を貸して以来、無理難題な手術を依頼する事も度々ある。
またヤングブラックジャックでは、若い頃に空襲を経験している事が描かれている。
前述した友引警部、高杉警部とは何の縁もない。
刑事役や悪役としての出演も多いが、セリフのないモブとしての登場も多く、また手塚スターシステムの中では最も多くBJに手術されたキャラクターである。
(撃たれて壊死した腕を不衛生な環境で切除したり、爆弾で爆死後に脳以外の全身の部位を他の患者に移植されたりと、患者役として登場すると何かと不遇な目にあっている。珍しいところでは死体役で出演しておきながら退場時に生き返って扱いに文句を垂れるというギャグシーンさえある)
アドルフに告ぐ
「残念ですが総統、あんたはここでシマイだ」
おそらく歴代で最もランプが活躍した作品。
ナチスのゲシュタポ極東諜報部長として登場し、主人公の峠草平らと対立する。超人的な打たれ強さを持ち、ムチの腕は超一流。そしてラストでは、『閉ざされた記憶』の比ではないほどとんでもない行為を行う。
W3
A国のエージェント。秘密諜報機関「フェニックス」のメンバーF7号こと星光一とは因縁があり、何度も対峙した末最後は光一を助けに来た弟の主人公星真一を人質に一騎打ちを申し込み、果てる。
待ち合わせ場所に先回りし光一が来る前に仲間を皆殺しにするなど狡猾で冷酷な反面、反陽子爆弾が掘り進めた穴に殴り合いの末共々間違って落ちてしまいながら、自身を見捨てず連れて脱出した光一に奪っていた彼の多機能腕時計を返す律義さや、近眼で顔を描いた足を見抜けなかったり、酔っていたとはいえ光一がパートナーのエリゼに香水の匂いを消すために渡したトイレの消臭剤が落ちたのを見つけ、拾って口にしてしまうなど、コミカルなギャグシーンも多くみられた。
声優
主な声優
石井康嗣…アストロボーイ・鉄腕アトム、トヨタ プリウスCM
内海賢二…海底超特急マリンエクスプレス、フウムーン、ブラック・ジャック (テレビアニメ、劇場版『2人の黒い医者』)、手塚治虫物語~ぼくは孫悟空~(作中、教官役として手塚少年に折檻する)
大塚周夫…ブレーメン4 地獄の中の天使たち
大友龍三郎…鉄腕アトム 〜青騎士の巻〜
田口計…鉄腕アトム (アニメ第1作)
納谷悟朗…どろろ(1969年)ジャングル大帝 進め!レオ(1965?))ふしぎなメルモ(旧吹き替え※クレジットなし)
羽佐間道夫…ブラック・ジャック (OVA「葬列遊戯」「人面瘡」)
八奈見乗児…銀河探査2100年 ボーダープラネット
山路和弘…どろろ(2019)
声優不明(エンドロール記載なし/映像資料なし)
ジャングル大帝(1997/サーカスのモブとしてワンシーンのみ登場)
手塚治虫アカデミー大賞(1999/ランプ本人としてアカデミー大賞の会場に来場している)
声なし
手塚治虫が消えた!?20世紀最後の怪事件(ガヤとして登場)
エピソード・余談
・手塚治虫自身が書いた「スターシステム名鑑」によると、「スター人気投票1位」となっており、ハムエッグとも良いライバルとされている。公式サイトでもハムエッグの項目に典型的ギャングスターであるランプとは好一対の悪役である、ハムエッグとランプのコンビを見ることが手塚漫画を読む醍醐味と思うファンもいるのではないかと言われている。
手塚自身もこの2人を気に入っていたのか、何かとこの2人をセットで描いてる事が多く、インタビューやTVの特番でも必ずと言っていいほどランプの誕生エピソードを語っている。
・手塚治虫自身曰く「ランプは貧乏で服もあのスーツ一着しかないため、たまに上等な服を着せても似合わない男」と言われている
・OVAブラックジャックで高杉警部として『葬列遊戯』で初登場したランプだが、当初シリーズ続編に続投する予定はなかった。
しかし彼の声を担当した羽佐間道夫氏の名演技により、ブラックジャックとピノコ以外で唯一シリーズに同一人物として『人面瘡』に登場。ちなみに『葬列遊戯』の時と『人面瘡』の間に異動になったのか、所属は変わっている。また、作中人物で唯一自宅の住所が明らかになっている。高杉警部の時のランプは既婚者で娘がいる設定になっている。
・TVアニメシリーズ版ブラックジャックで友引警部として登場した際の声優、内海賢二氏は『海底超特急マリンエクスプレス』が初のアセチレン・ランプ役であった。しかしそれから15年以上にわたり、他の手塚作品においてもアセチレン・ランプ役として声を担当し、手塚キャラの同一キャラの声を最も多く担当した声優であった。
また、2022年に公開された内海の生涯を追ったドキュメンタリー映画『その声のあなたへ』では、内海がBJの中でランプの息子を「息子の事を『息子よ』なんて呼ぶ親はいない」と、アドリブで自分の息子の名前を呼んだエピソードが取り上げられ、該当のランプのシーンが使用されている。
(因みにこの回で共演した大塚周夫も同様の理由で作中の息子の名前に、自身の息子でブラック・ジャックの声優である大塚明夫の名前を呼んでいる)
・手塚作品において、手塚治虫がキャラクターとしてアニメに登場することもあるが、手塚が最期に手がけた『ぼくは孫悟空』は当初は孫悟空をテーマにした壮大なSFストーリーになる筈であった。しかし、製作途中に手塚が他界し、未完成部分に『紙の砦』の要素を加えた手塚の自伝的ストーリーにした事で、この作品はある意味ではランプの最後の手塚作品への出演、並びに最後の手塚治虫との共演でもあり、手塚没後の最初の登場作品となった。
・手塚が晩年過ごした埼玉県新座市にある仕事場では、ランプとハムエッグのフィギュアが仕事机の傍にケースに一緒に入れられた状態で置かれていることから、手塚自身この2人をとても気に入っていた事が窺える。ランプは仕事机に向きあう形で配置され、手塚の没後30年が過ぎた現在も、生前の時のまま手塚の仕事場を見守っている