曖昧さ回避
- ニコニコ動画へ投稿された、【酔狂文庫:【ショートショート】ホームにて】内のショート動画『ホームにて』
- 中島みゆきが歌う楽曲タイトルの一つ「ホームにて」
本項では1.について記載する。
概要
2010年02月25日にニコニコ動画へ投稿された、小雨大豆と酔狂倶楽部制作【酔狂文庫:【ショートショート】ホームにて】内のショート動画『ホームにて』
あの時があったからこそ忘れてはならない、あの頃、あの人との約束……。
※記事内の画像はイメージです。
ホームにて
夕陽色に染まる駅、遠くで鳴る汽笛を聞きながら列車を待つ人物がいた。
はぁ~あ、結構勉強したんだけどなぁ…。
彼の生まれ育ったこの村は、回りをぐるりと山に囲まれた、どこにでもあるような典型的な田舎村。そこは電話出来るのが奇跡だと思うような、山と田んぼしかない田舎だった。
そんな緑の中に、ちょこんと生えた駅のホーム。今彼がいる時間だとあかね色に染まったホームの光景だろうか…。
独りで列車を待っている男は大学進学を希望していたが、勉強の甲斐も虚しく紙切れ一枚で夢は終わりを告げた。
まあくよくよしていても仕方ないか…。
新天地でまた頑張り直せばいいさ。
と、遠くから響く汽笛の音を聞きながら、またも独り言を零した。目の前に広がる田んぼの海の中では、年老いた駐在さんがえっちらほっちらと自転車を漕いで進んでいる。
以前は「田舎、田舎…」と嘆いていた彼だが、ホームに立ってようやく名残惜しさが込み上げていた。
ギリギリにならないと気持ちが起きないのは試験勉強とおんなじだな…。
そんな田舎者のぼやきをブレーキ音がかき消し、目の前に列車が止まる。
" これでサヨナラなのかなぁ。 "
また故郷へ帰ってくる事を惜しみ、寂しさを飲み込み、彼が列車のドアをくぐろうとしたその時…
待って。
列車に乗ろうとする男性を引き止める声がした。
振り向くとそこには…彼女(メイン画像のおかっぱ頭で制服を着た女性)がいた。
歳は彼の二つ年上で勝ち気な性格の彼女は、わがままで、男勝りで、意地っ張りで、それなのに変に面倒見が良くて…
彼を子どもの頃から振り回すような人だった。
彼は何度……彼女の笑顔に救われただろうか。
まぶしい笑顔に見えただろうか…)
(それはこんなそして彼は、そんな彼女に救われた思い出をふりかえった。
ある晩に彼が受験勉強していると、こっそり彼女がおにぎりを作って差し入れしに来てくれた。でも、そのおにぎりはみんなバカみたいに大きかった。受験生だった彼は彼女の小さな手で、どうやったらこんな大きなおにぎりを握れるのか、不思議で、不思議で、勉強に身が入らなかった。
というのは自分への言い訳で、彼女がまた来てくれるかどうか気になって、勉強に身が入らなかったっていうのが本当だった。
そんな気になる彼女が駅のホームに立っていた。
大丈夫。また戻って来るから。
目の前の女性に子どもの頃から振り回されてきた男がそう言うと、目の前の彼女は小さな包みを彼に投げつけ…
約束だぞ。
と、涙と一緒にポツリとこぼした。
笛の音が鳴り扉が閉まる。列車は一度低い唸り声をあげると、その大きな車輪をゆっくりと回し始めた。走り出す列車とホームに伸びる長い影。そして、その影の中を置いてかれないように必死に走る……女の人の姿。
列車に乗った彼が窓から身を乗り出すと、ホームを走る彼女に向かって大きく叫んだ。
絶対、絶対戻って来るから。
私も、私も待ってる。
彼女は彼の2歳年上で―
ずっと…
勝ち気な性格の彼女に―
ずっと、
彼は子どもの頃から振り回されぱっなしだった。
ずっと、待ってるから。
わがままで、男勝りで、意地っ張りで…
だから…
だから彼は…
だから、
そんな彼女が、
だから、
……大好きだった。
昭和18年12月1日。学徒出陣(がくとしゅつじん)の赤紙は彼の村にもやってきた。
大学進学への希望は、その赤い紙切れ一枚で呆気なく散り、夢みる学生は戦地に駆り出される事となった。
この知らせを受けた時、
自身の夢が潰えたのだと知った時、
当人を差し追いて一番初めに泣いてくれたのが…
彼女だった。
(こんな場面だったのかもしれない……)
夢が破れ、戦場の中へ放り出されるのだと告げられ、男の頭の中は真っ白になった。でもそんな中、彼の代わりに泣いてくれた彼女の横顔を見ていたら…
(…………。)
夢を失った青年だったが…
その時、そんな彼でも…どうしても失いたくない守りたい者が…出来たのだ。
(それはこんな覚悟を決めた眼差しをしていたかもしれない…)
列車の中で彼女がくれた包みを開けると、中から雑穀の混じったものや真っ白なおにぎりがゴロリと出てきた。
でも、相変わらず彼女が作るおにぎりは大きくて、ぼこぼこで、
昭和18年(1943年) 12月1日。学徒出陣(がくとしゅつじん)の赤紙は彼の村にもやってきた。
そして、多くの学生が戦地へ……連れ出された。
列車の中から見る夕焼け色の空の中、零戦はキラキラと……煌めきながら飛んでいた。
関連サイト
- 彼らが体験した出来事について_その壱 - Wikipedia
- 彼らが体験した出来事について_その弐 - 大東文化大学
- 体験者の声_その壱 - 日本経済新聞
- 体験者の声_その弐 - YouTube
- 当時の教育機関の動き - 法政大学
- 当時の出来事(2-1) - YouTube
- 当時の出来事(2-2) - YouTube
関連動画
a・ホームにて 0:00~
b・ホームにて 6:58~
関連事項
▶︎「省(かえり)みる」・・・自分自身の言動や考えを振り返ってよく考えること
▶︎「顧(かえり)みる」・・・過ぎ去ってしまった物事や誰かに対して思い返しよく考えること
それは(自他の)背後を振り向いて見る、(過去のことを)もう一度かえりみる行い。
このショート動画の…〝彼らが生きた時代〟を題材にした作品などを例に振り返ってみるとー
秀才で数字の力を強く信じる酔狂な主人公(演:菅田将暉〈映画〉 / 鈴木拡樹 〈舞台〉)が活躍する史実に着想を得たフィクションで、当時の用語について監修者のチェックが入っている。「もしかしたら大型船の製造でこんなやり取りがあったのかも」と具体的な事実を交えた展開が描かれている。
🎥参考作品@当作品を鑑賞前後で見方が変わる画 - YouTube
青空の任務で飛行機に搭乗した青年(ロケット技師を夢みており、30年もあれば有人ロケットを打ち上げてみせると語っていた…。吹替:緑川光。)は決死の覚悟で操縦桿を握った。陸上では過酷な現場で会って間もないが親子のような絆を結んだ親父(できる男で酒飲みで豪快なおやじ。夢はレーサーだった…。吹替:永井一郎。)と少年(「母ちゃん…」と寝言を言う幼さもあり、単車の腕は良く仲間との約束を守る男気もみせる子どもだった…。吹替:山口勝平。)が側車付き二輪車で悪路を駆けた。そして天空では必死の部品を組み込んだ飛行機に乗りこんだ海上の大空で、地上では一夜限りのレースもあった異国の地で操縦席(コックピット)から向き合う現実(リアル)を過ごした青春時代……があったかもしれない。
ある事をきっかけに平成を生きる青年(演:三浦春馬〈映画〉 / 桐谷健太 〈テレビドラマ〉)は、祖父について調べ始める。昭和当時の彼(祖父)は、優秀な飛行機乗りで周囲から臆病者と言われても『必ず生きて帰る』を信条にしていた真面目な男(演:岡田准一〈映画〉 / 向井理 〈テレビドラマ〉)だった。彼には妻子がおり、自分の帰りを待っている命をかけても守りたい人がいたのだ。常に抱いていたその覚悟は、当時" もう一つの意味 "を持っていたが……。
🎥参考作品_♪生きる・命と向き合う_Eng.ver - YouTube
🎥参考作品@重い想いの思いが込められた言葉と繋がりの数々 - YouTube
当時の貧しくも幸せな日常が描写され、夫(吹替:細谷佳正 演:小出恵介〈日本テレビ〉 / 松坂桃李 〈TBS〉)は妻(吹替:のん / 能年玲奈 演:北川景子〈日本テレビ〉 / 松本穂香 〈TBS〉)へ自分にもしもの事や別の形で帰ってきても、この場所で普通でまともな生活をして欲しいと願う場面が描かれている。
🎥参考作品_♪何回もの「壁」があっても世界の片隅で笑おうよ - YouTube
- このショート動画で明示された年月から2年後には―
ある長い出来事が起こりながらも、日本で暑い季節の晴れた日に、あるお方のお言葉により、長かった遠征の終わりが告げられた。その後、故郷を離れていた人達は、全員ではないが、自分たちが思いを馳せた所へ帰れる事になった。
それは赴いた先で得た複雑な体験談や想いが込められた品物や重すぎる重荷を背負って…
やっと着いた場所に居る人へ、" あの言葉 "を
ようやく戻ってきたあの人へ、" この言葉 "を
送ったのかもしれない。
『おかえりなさい』